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イマジナリーキョウイチロウ

受験勉強の真っ最中、僕はゲームにハマった。友達を作って遊べるゲームだ。きっかけはメアちゃんと昼休みに話している時、メアちゃんがゲーム機を取り出して、推しカプを見せてくれたところから始まった。


「青柳氏、このゲームは最高の二次創作ですぞ!!」


その推しカプはゲーム内で親友同士になっていて、いつも二人で楽しそうに遊んでいるみたいだ。僕もゲーム内くらいでは京一さんと楽しく遊んでいたい。早速、京一さんと僕をキャラメイキングした。


「京一さんはもっと格好良い……あー、この鋭い目つき良いかも……」


僕のキャラメイクは五分で終わったが、京一さんのキャラメイクは一時間以上かかった。その甲斐あってか、その子は京一さんそっくりのメロ男になって、僕は自分で作ったその京一さんをずーっと眺めながらニヤニヤしていた。


「みなとのそっくりさん、おなかがすきました」


僕はゲーム内の京一さんに"みなとのそっくりさん"と言われる。要望通りにご飯をあげると、もぐもぐ食べていて本当に可愛い。


「京一さんの好物は何かな〜?お酒と煙草はこの世界にはないからね」


健全な京一さんを可愛がる。時にはメイド服を着せ、時にはセーラー服を着せ、着せ替え人形のように小さな京一さんで遊ぶ。


「俺の口癖を教えてください」


ある日、小さな京一さんにそう言われた。口癖かぁ、「なんで?」とか「は?」とか「あーもう、いいよ」とかキレてる時の京一さんしか出てこなくて、僕は僕が言って欲しい言葉を入力した。


「最期は一緒に死のうね、でいいですか?」


なんか、罪悪感を感じる。でも、これは本物の京一さんから貰った言葉だから、と「はい」のボタンを押した。


「最期は一緒に死のうね」


その日から、小さな京一さんはことあるごとにこの言葉を使うようになった。もはや洗脳みたいに。僕に言ってくれるだけならまだ良かった。京一さんに親友ができたんだ。ルイという親友が。

最初は僕と京一さん二人だけにしようと思ったんだけど、そうするとゲーム内の島が発展しないみたいで、僕が関わったことがある人(嫌いな人は除く)を作りまくったんだ。そうしたら、僕と京一さんは最初こそは友達になって仲良くしていたが、京一さんはルイさんが来て友達になってからというもの、僕よりもルイさんを優先に遊ぶようになっていた。そして、あの言葉を言うんだ。


「最期は一緒に死のうね」


と。僕は嫉妬で狂いそうになった。僕以外の人にそんなこと言わないで欲しいと。ゲームの仕様だから仕方がないけど、僕は僕だけの京一さんが取られたみたいで悲しかった。僕はそれから、そのゲームをやらなくなった。


酒鬱の京一さんが床に寝そべっている。


「あーーー、何やっても楽しくない。つまんない。世の中全部クソだあ!!」


そんなになるくらいなら、飲まなきゃいいのに。そんなことを口にしてしまいそうで、でも彼のために言えなかった。


「そんなことないですよ。京一さんが生きているこの世の中は素晴らしいです」


「気持ち悪いよぉ、湊」


これは僕に向かってなのか、普通に体調不良なのかわからなくて固まってしまった。


「……水、飲みますか?」


「うん、いーっぱい飲みたい!」


ほぼ開いてないような目で僕をちらりと見て、幼児返り。僕を引き寄せるように片手で一瞬手招きした。


はい、どうぞ。とコップに水を入れて持っていくと、そのおぼつかない手でコップを持とうとして、失敗。水を床にぶちまけた。


「あーあ、京一さん大丈夫ですか?」


「んー、俺の水があ」


と床にできた水溜まりを手でバシャバシャして遊んでる。


「もう一杯持ってきますね」


再度、京一さんに水を渡すと、今度は意図的にコップを斜めにして、水をこぼした。


「え、ちょっ、何してんですか?」


「あはは、たのしーね!」


京一さんは虚しく笑いながらその水溜まりを叩き続けた。


「もう、貴方って人は……」


「はぁ、もうつまんない。嫌だ。気持ち悪い」


僕がうんざりした次の瞬間、貴方はもう水溜まり遊びをやめて、また床に寝転がっていた。


「あぁ、そこに寝ると濡れますから!」


僕は慌ててバスタオルを持ってきて、床にできた水溜まりを急いで拭いた。貴方はそんな僕を横目に、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


「湊、枕」


それだけ。貴方は話すのもだるいようで、単語だけで会話をする。これはきっと、湊、枕を持ってこい。という意味だから、枕を京一さんの頭の下に置いた。


「これでいいですか?」


「んーんっ、これじゃなぁい!!」


せっかく敷いた枕を癇癪に任せて貴方は壁へと投げ飛ばす。あぁ、枕が可哀想。


「じゃあ、どれですか?」


「みにゃと」


京一さんは甘えたような声を出して、僕の名前を呼んだ。


「何ですか?」


「だからぁ、枕!」


と貴方は床を感情に任せて叩く。


「さっき枕あげたじゃないですか?それじゃダメなんですか?」


と放り投げられた枕をまた持ってくると


「だめなの。みにゃとじゃないとだーめっ!」


と甘えた可愛らしい声を出された。


「え、それって僕の膝枕ってこと!?」


「そーだよ!はやくぅ」


我儘な彼は僕の膝枕をご所望だった。京一さんは不機嫌な理由を察して欲しいってタイプだから、僕はいっつも辟易してる。


「はいはい。どーぞ、僕の膝枕ですよ」


「んーーー」


正座をした僕の太ももの上に貴方は頭を乗せる。膝枕のが枕よりも固くて寝にくいでしょ。と思いつつも、京一さんの満足気な顔を見られて、この人やっぱ可愛いなってなった。


「京一さん、ゆっくり寝てくださいね」


「んーーー」


と寝ぼけ眼で言いつつ、彼の手は僕のズボンのバックルを掴んで、ガチャガチャと音を立てた。


「何ですか?」


「生がいい」


……え、こんな泥酔状態でセックス求めてきた!??


「できるんですか……?」


「んー?」


よくわかってないような適当な返事。僕はとりあえず、ズボンを脱いだ。すると、


「枕!して!!」


と駄々こねるように強請られた。あ、生って、生脚のこと!??


「はいはい、わかったよ」


とさっきと同じように正座した僕の太ももの上に頭を乗せる貴方。でも、さっきと違うのは、貴方が僕の太ももに甘噛みするようにキスをしてくれるところだ。


「京一さん、くすぐったいですよ」


「んあー?」


貴方は自分の欲望に忠実で、僕のくすぐったさを他所に太ももを舐める。別にいいだろ、って顔してる。京一さんは徐々に際どいところまで舐め始めて僕は、呼吸を乱しながら浅い快楽に悶え苦しんでいた。


「京一、さん、んっ……そこは、ダメ……!!」


「にゃーんでぇ?」


呂律の回ってない甘えた声で、虚ろな目をしながら聞いてきた。貴方には性的意図はないのだろうけど、僕は性的に感じてしまうんだ。


「くすぐったいから……!!」


「でも、ここ、やらかいよ?」


内ももが柔らかくて気に入ったらしい。頻繁に舐めて甘噛みしてくる。でも股に近い部分で感じちゃうから、そんなことしないで欲しい。


「だとしても、ダメです」


「いーじゃん!!ねぇ、みにゃとぉ」


上目遣いでまた僕の内ももを舐めようとしてくる。その扇情的な表情に僕はまんまと興奮してしまう。


「あぁ、もう、勃っちゃったじゃん!」


と僕が文句を言うと、


「ふふっ、かあいーね!」


って上機嫌になる。そして、貴方はまた内ももへと顔を埋める。貴方の吐息が皮膚にあたり、僕はその刺激でさらに自分のを固くする。何だこの生殺し地獄は。


「京一さん?……京一さん??」


返事がない。京一さんは僕の内ももに顔を埋めたまま、寝てしまったようだ。貴方がやっと寝られたのに、僕が動いて起こすわけにはいかない。だけど、貴方の寝息が刺激となって、僕のソレはもう爆発寸前だ。もはや、痛い。

僕は貴方に気づかれないように、そっとパンツの中に手を入れた。そして、ゆっくりと手を動かしていく。やばい、このバレてはいけないという制限がある状況で抜いているのがカリギュラ効果なのか、余計に気持ちいい。


「んっ……」


貴方が寝返りを打つように頭の位置をずらした。その瞬間、起こしてしまったのかと思って、吃驚して誤射してしまった。パンツの中がぐしょぐしょなのは別にいいけど、貴方の髪にちょっぴりかかってしまって、僕は慌ててこの状況をどうバレずに処理するか考えていた。けれど、僕は動けなくて手の届く範囲にティッシュもない。しかも、なんか中途半端にイッちゃったから、すごいもったいないことした。僕は変な後悔をするくらい追い詰められていた。


「……詰んだ」


いくら考えても、この状況をどうにもできなかった。ただ、僕の精液がかかっている京一さんを変態的にニヤニヤと「可愛いなあ」とずっと見つめるしかなかった。


「んーーー……」


一時間ほどが経過した頃、寝返りを打って仰向けになった貴方は目をパチッと開いた。そしてしばらく虚空を見つめていた。


「……おはようございます。京一さん」


僕は罪悪感からいつもより声のトーンが低い、おはようの挨拶を貴方にかけた。


「何?この匂い、なんか変な匂いする」


異変に気付いた貴方は僕に純粋な疑問をぶつけてきた。言えない。これは僕の精液の匂いだなんて。


「そうですか?僕にはわからないです」


なんて嘘をついて誤魔化した。


「そう?なんかモワッとした……んー、何の匂いだろう??」


頭の回っていない貴方はこれがすぐ精液の匂いだと気付かない。匂いの元を探そうと、上体を起こしてクンクンと周囲の匂いを嗅いでいる。


「それよりも、京一さん。お風呂入りましょう」


「なんでー?めんどくさーい」


僕が精液をかけちゃったからですよ。


「そんなこと言わずに入りましょう」


「ん?」


貴方はいきなり僕の股間に顔を近づけてきて、匂いを入念に嗅いでいる。


「な、何してんですか?」


「あはっ、湊の匂いだったんだあ!」


貴方は謎が解けてスッキリした様子で、満面の笑みを見せてきた。


「……すみません。我慢できなくて」


僕は貴方の顔も見れずに謝罪した。


「湊だけずるーい!俺も気持ちよくなりたぁい!!」


貴方は僕の謝罪なんて聞いてないようで、僕の頭を抱きしめるように掴んで、舌を絡めたキスをしてきた。貴方の体温は酒のせいか既に高かった。蕩けるようなキスで僕の体温は高まっていく。


「んっ、気持ちいい」


「みにゃと、俺の触って?」


と大胆に誘ってくる京一さん、大好きだ。一時間前に抜いたはずなのに、僕のアレはもう準備万端だ。


「気持ちいいですか?」


「ぅん……みにゃとのは俺がさわりゅ……」


とろんとした目で、僕のを優しく掴む京一さん。えろ可愛い。触り合いをしながら、キスをして、最後は京一さんのと僕のとを合わせながらイッた。イッた瞬間、京一さんは疲れ果てたのか、僕の肩へと頭を乗せてきた。


「京一さん、大丈夫ですか?」


「んーん、だいじょばない。動けない」


そっかあ、動けないかあ。じゃあ、僕が介抱してあげるね!って言って甘やかしてあげたいけど、僕の手のひらの上には京一さんと僕の精液が混ざり合ったものが乗っている。


「京一さん、ちょっとだけ横になれますか?」


と言った瞬間、僕の肩に当たっていた京一さんの額がズレていき、そのまま横にドンッと死体のように倒れ込んだ。頭を床に打ったみたいな大きな音がした。


「……おえっ」


京一さんが吐いた。僕は急いで手を洗って、京一さんの介抱を始めた。


「なぁ、脳みそって膨らむんだぜ」


京一さんは突然そんなことを言い出した。僕は訳分からずに「はぁ、?」と気の抜けた返事をしてしまった。


「ちゃんと、看護師さんから聞いたんだ。人間は頭を強打すると脳みそが膨らむらしい」


「そうなんですか……」


「そしたらぁ、頭蓋骨ん中がぎゅうぎゅうになって、動けなくなっちゃうんだってさあ……」


ちょっぴり曇りがかった眼差し。僕は彼の手をぎゅっと握った。


「怖いんですね。病院へ行って診てもらいましょう」


「やーだ!病院きらい!!」


彼は僕の手を振りほどくように乱雑に動いた。


「京一さん、大人しくしててください!!」


「だって、だってさ、やっと死ねるかもしんないんだよ??」


正気じゃない、京一さんが目をかっぴらいて笑ってる。僕はそんな京一さんに恐怖を感じる。この世からいなくなってしまいそうで。


「ダメです。僕と一緒に生きるって言ったじゃないですか」


なんて微笑みかける。


「俺は『一緒に死のうね』って言った覚えしかない」


「確かにそれも言ってたけど、」


「お願い、湊。俺が死ぬのを許して」


そう言って、僕のことを抱きしめてくる。こうやって、死を口にする時だけ、特段に甘えるんだから。狡い人、つい許したくなっちゃうじゃん……。


「許しませんよ。一緒に生きていきます」


「ちぇっ、けーち!けち湊!!」


子供っぽ。そんな貴方も可愛いな。


「何とでも言ってください。貴方が生きていればそれで良いですから」


そう僕が言って、貴方の背中を撫でていると貴方は僕の肩に吐いた。ツンとする匂いがダイレクトに鼻奥まできて、僕も吐きそうだ。


「湊、ごめんなしゃい。ごめんな、おえっ……」


「大丈夫です。救急車呼びましょうか」


とスマホで救急車を呼んで、京一さんを介抱してもらった。検査の結果、脳に異常はなくて、吐いていたのはただの飲みすぎからだった。ふふっ、杞憂でよかった。


「京一さん、大丈夫ですか?」


「湊、ほんとにごめんね。迷惑かけて」


貴方は点滴をされながら、白いベッドに横たわってる。


「迷惑かけられてもゲロかけられても嬉しいですよ。最近、こんなこともなかったじゃないですか」


「そうだね。湊に構ってあげられてなかった」


「そうやって、僕をペットみたいに……」


「ふふっ、だって湊はもう、家族よりも大切な存在なんだもん」


貴方は虚ろな目で優しく微笑んだ。吐いて苦しいだろうに、笑ってみせてくれた。それが僕の心を動かした。


「大好きです……。もう死ぬなんて言わないでください。悲しくなります」


僕はベッドに横たわっている京一さんに覆い被さるようにして、顔を近づけ愛を伝えた。


「ごめんね。甘えちゃってるだけなんだ……湊の優しさにどうしても甘えたくて……」


僕の頬を弱々しく撫でて、貴方は情けない自分が許せないって表情を見せる。僕はその表情にめっぽう弱いんだ。


「じゃあ、めいっぱい甘えたい時は、赤ちゃん言葉か猫語にしましょう。あれ可愛くて好きなんです」


「え、やだよ。恥ずかしい」


「え、今更何を恥ずかしがってるんですか?今まで散々、恥ずかしいことしてきたじゃないですか」


「……あぁ、死にてぇ」


と貴方は額に手をやって、ため息をついていた。



12月24日。湊と迎える三年目のクリスマスイブ。

俺はサンタ帽をかぶり、コンビニでケーキを売っていた。


「あれ、氷野さん。今年はお休み取らないんですか?」


「湊も受験で忙しいし、金ねぇから」


とシフトを入れた。来る客来る客にメリークリスマスと言っていた。


「あ!サンタさんだ〜!」


小さい子が俺を指さして、サンタさんだと嬉しそうに駆け寄ってきた。


「ふふっ、メリークリスマス。どうぞ、チョコあげるね!」


店長に言われていた。小さい子にはチョコか飴をあげろと。そう言われて、持たされたチョコを俺は暇な時につまんでいた。


「ありがとー!サンタさん!」


小さい子は無垢で可愛いなぁ、と思っていたのもつかの間、下校してきた湊がコンビニに寄ってきた。


「京一さん、お疲れ様です」


「湊もお疲れ。はい、チョコやるよ」


「あっ、ありがとうございます!」


にっこりした湊がチョコを受け取る。こうして見ると、湊もまだまだ子供だなと思った。けれど、二言目には、


「今日何時あがりですか?」


と俺のシフトを確認してきた。


「22時。湊もカテキョあるでしょ?」


「はい。京一さん、今夜は楽しみにしてます♡」


なんてそっと耳打ちされた。煩悩まみれなその脳みそで、まともに勉強できてるんでしょーか?


「ねぇ、ケーキ何がいい?買って帰るから」


「僕、ショートケーキがいいです」


「わかった。じゃあね」


と湊を追い払い、レジへと戻った。


「氷野さん、湊くんに冷たくないですか?」


あかりが俺らの会話を盗み聞きしていたのか、そんなことを言ってきた。


「え?そう??普通だと思うけど、」


「とても恋人同士の会話とは思えなかったですけどね。湊くんがいるのが当たり前で恋人っぽいことできてないんじゃないですか?」


「ヤッてることはヤッてるけど、それじゃダメなん?」


「ダメってわけじゃないけど、今日ぐらいは恋人っぽいことしてあげたらどうですか?」


恋人っぽいことねぇ……。恋人っぽいことって何だよ!なんて途中でキレそうになったが、湊の為だと思い直し、バイト中は湊にどんな恋人っぽいことをしてやろうかと考えていた。そして、22時。


「ショートケーキ、二つ買わせて」


とあかりにレジを通して貰って、購入したショートケーキを手に、湊の元へと向かおうと思うけど、何だか物足りない。というか、勇気が出ない。


「お酒は買わないんですね」


「あ、それは……」


普段なら買ってる。今日みたいに湊に甘えたい日は特に。けれど、お酒に逃げたら、俺の愛情が霞む気がする。


「湊にちゃんと恋人っぽいことしてあげたくて、」


「偉いじゃん。頑張ってくださいね!」


「うん!」


あかりに背中を押してもらって、やっと決心ができた。今日だけでも、湊に俺と付き合ってて良かったって思って貰えるように。


家に帰ると、湊が一生懸命に勉強をしていた。でも、俺が帰ってきたのを察すると、顔を上げて、パァーっと明るい笑顔で


「おかえりなさい」


って言ってくれるんだ。その笑顔を見ていると、俺も自然と笑顔になって、


「ただいま」


と微笑んで、湊を抱きしめた。湊を抱きしめていると、バイトでの疲れなんて癒されていき、湊に脳内シュミレーションしていた恋人っぽいことをしていく。


「買ってきたよ。ショートケーキ」


「わぁ、ありがとうございます!」


「お皿とフォーク持ってくるね」


そう言って立ち上がろうとすると、湊は「あぁ、僕がやりますよ」と自分が率先してやろうとする。いつもならここで湊に任せちゃうんだけど、今日は湊に尽くしてあげたくて、


「だーめっ!湊は座ってて?」


と湊の頭を撫でた。湊は普段と違う俺に戸惑いながら「あっ……はい」と返事した。


「はい、どうぞ。メリークリスマス」


湊の前にショートケーキを差し出す。バイトでやったサンタクロースのおかげで自然にメリークリスマスなんて言えた。


「メリークリスマスですね」


湊は天使のような微笑みを見せてから、いただきますと言って、フォークを手に取った。


「湊、いちご好き?」


「はい、好きです」


「じゃあ、あーん♡」


俺は自分のショートケーキに乗っている大きないちごをフォークで刺してから、湊の口元に差し出した。


「京一さんの、貰えるわけないじゃないですか」


遠慮がちなその顔。俺は喜んでもらいたくて差し出したのに。


「湊にあげるよ。湊にあげたいの」


そう言うと、軽く齧るように一口。そして、満たされたような笑顔で


「美味しいです!ありがとうございます!」


と言ってくれた。それがとても嬉しくて、


「湊、もっと食べていいよ」


と食べさせようとしたが、


「ダメです。京一さんの分が無くなっちゃうじゃないですかあ。京一さんにも美味しい苺食べて欲しいです!」


と可愛らしい理由で断られた。


「そっか、湊は優しいね」


そう湊の頭を撫でると、湊は自分の苺が無くなったショートケーキを見つめ、生クリームたっぷりの部分をフォークですくう。


「京一さん、あーん」


俺の方にフォークを差し出してきた。俺は遠慮なんか知らないから、「あーん」と言いながら、湊の持つフォークからケーキを食べた。


「ふふっ、美味しいね!」


「喜んでる京一さん、可愛いです」


ちょっぴり、ドキッとした。口説いてるようなギラついた視線を一瞬感じた。


「あはっ、湊には負けるよ……」


なんて意味わからないこと言って、笑って流そうとするいつもの癖。


「京一さんはとっても魅力的ですよ。いつかわかってくださいね」


と湊はケーキを一口。自信のない俺は、その言葉に動揺して、ケーキに手がつけられないでいる。


「湊……好きだよ」


湊の方見て、ちゃんとシラフで、言えた。


「え?」


「俺なんかに言われても嬉しくないかもだけど、伝えておきたくて、」


俺、今どんな顔してる?めっちゃ顔が熱い。目を逸らしてから、湊のこと見られない。


「貴方って、本当に馬鹿ですね……」


「うん……」


情けなく笑いながら返事した。


「嬉しくないわけないじゃないですか!!」


湊が俺の両肩を勢いよく両手で持って、俺の視線を奪った。湊は目が潤んでいて、そのまま包み込むように抱きしめられた。


「……嬉しい、の?」


「もちろんですよ!どれだけ自信ないんですか!!」


「ごめん。湊のこと酷く傷付けてから、湊の気持ちわかんなくなってて……」


胸が痛む。凄惨な現場がフラッシュバックするように脳裏に浮かぶ。俺は湊に好かれない。なんて幻聴が俺を嘲笑ってた。不安で不安でしょうがなかった。だけど、今、湊の腕の中にいる。


「僕は何されても貴方のことが大好きですよ!」


湊はそう言って、何故かわんわん泣いていた。俺と一緒にいると、きっとつらいことのが多いんだろうな。なんて悪い方に察してしまって、でも、俺は湊がいないと生きていけなくて、その背中を優しくさすってしまった。


「湊、愛しているよ」


「ふふっ、素敵なクリスマスプレゼントですね!」


そう言って、湊は俺にキスしてくれた。ちょっぴりしょっぱいキスの味。でも、アルコールの苦味はしなくて、湊は驚いた様子で口付けをし終わった後に、「シラフ、なんですか?」と目を丸くした。


「ちゃんと、俺の気持ちを伝えたかったから……」


それを聞いた湊は、口角を上げて、


「ちゃんと、伝わりましたよ」


と優しく先生のように教えてくれた。


「ありがとう、湊。今日だけは湊に俺と付き合ってて良かったって思わせるから」


自分を追い込むように湊に宣言した。すると、湊は神妙な面持ちで俺の名前を呼んだ。


「京一さん……」


「何?」


もう、俺と付き合ってて良かった、なんて今更思えないよ。とか、貴方にそんな期待してませんよ。とか、言われるんじゃないかと、身構えてたら、


「僕、今日、えろい下着を着てきたんですけど……どうしますか……?」


と真っ赤な顔を手で半分隠しながら誘われた。


「は?」


俺は脳内での情報処理が追いついてなくて、鳩が豆鉄砲食らったような感情が先に表に出てしまった。


「あっ、嫌なら別に良いんです!京一さんが身体の関係を迫られるの、あんまり好きじゃないってわかってますから……」


俺は生唾を飲み込んだ。やっと湊が言っていることがわかってしまった俺は、えろい下着ってどんなのだ……?ってことで頭がいっぱいになってしまった。


「えろい下着ってどんなの?」


俺は馬鹿になったのか。思っていることがそのまま口に出てしまった。しかも、湊の腰やお尻付近をまさぐりながら。


「あっ……じゃ、じゃあ……!!」


学ランの第一ボタンからゆっくりと湊は脱ぎ始めていく。俺は期待で胸をふくらませながら、その行為を凝視していた。湊がワイシャツの第三ボタンまで外した時、チラッとフリルが見えた。フリルたっぷりのランジェリーだ!!!ピンク色の可愛らしいランジェリーが全貌を露わにすると、俺の体温はおかしいくらい熱くなってて、パーカーを脱いで上裸になった。


「めっちゃ、可愛い♡♡」


「京一さん好みでしたか?」


「うん、今すぐにでも抱きたい」


てか、こんなことしてくれる湊が可愛い。湊がズボンも脱ぐと、俺の目の前に現れたのはフリフリの紐パン。横のリボンを解いたら簡単に脱げちゃうやつ。……何これ、男のロマンじゃん!!!


「どう、ですか……?」


下着姿の湊は照れながら俺に聞いてきた。


「あぁ、可愛すぎて無理ぃ♡♡」


と俺はつい両手で顔を覆ってしまった。


「え〜っ!京一さんに見て欲しくて買ったのにぃ。ちゃんと見てくださいよぉ」


前かがみで俺の顔を覗き込んでくる、そんな湊も可愛い。


「わかった、わかったから!ちょっと待って!」


こんな可愛さの暴力を受けて、生きてる方が不思議なくらいだ。俺は指の隙間から、湊を見た。何これ、初夜みたい。


「京一さん、どうですか?」


「可愛いね。すごい可愛い。俺が抱いていいのかわかんなくなる……」


と手遊びして自信喪失中。


「いつも抱いてるじゃないですか、」


「ふふっ、確かに!だけどさぁ、いつも可愛い湊を穢してる気分なんだ!」


湊の両頬を掴んでニコって口角をあげさせる。


「にゃんですか?」


「湊はさ、高級な外車みたいだよ。あったら嬉しいけど、身の丈に合わなくて乗れないみたいな」


「前言ってた、女は駐車場みたいなジョークですか?」


「ジョークなのかな?だけど、こんな俺を許してよ。湊が欲しいの」


そう言って俺は湊を抱きしめた。湊は俺を抱き締め返してくれて、


「僕は京一さんのものですよ」


とキスをしてくれた。

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