束縛される環境も悪くないけど、我慢の限界はどこかにある
俺と湊とルイでカフェに来ていた。なんて用は無いけれど、ただ話がしたい。それだけで集まっていた。
「俺、来る途中にさ、サンリオの一番くじ引いたんよ。別に欲しくもなかったんやけど、京ちゃん達いるか?」
と五回分のくじで得た景品を見せられた。
「何これ、お受験合格祈願セット。普通にステーショナリーセットでええやん」
「でもほら、ハチマキとかお守りとか入ってますよ。この時期だからこういうものの方が需要あるんじゃないですか?」
「へぇ、時代だね。これは?社不更生セット??」
「ただのタオルセットですよ」
そんなの見りゃわかるよ。
「ふふっ、京ちゃん不発やな」
俺のボケがマジレスされて、すべってんのを見て、ルイが笑った。
「あぁ、いつものことだよ」
と微笑んでいると周りが騒がしくなってきた。
「何ですかね、あれ」
大勢の人が集まっている。その中心にはたくさんのカメラがあった。
「何かの撮影なんじゃん?」
「それなら僕も出演したいです」
「きっとモブとして、カメラの端に写ってるよ」
俺が興味なさげに話を終わらせようとして、そう言い珈琲を啜ると、
「湊くんはモブじゃあ嫌なんやろ?」
とルイのが湊の心をわかってるように不敵に笑う。
「だとしても、今からキャスト変更は無理やろ」
と煙草片手に語っているが、目の前の撮影風景から目が離せない。
キャーーッ!!という叫び声。その演者は赤いパーカーを着た白塗りの少年を恐れているようだった。
「ホラー映画なんかな?」
「こんな真っ昼間に?」
「京ちゃんにとってはまだ昼間かもしんないけど、もう夕方やで?」
時刻は16時を指していた。いつも起きるのが12時だから、感覚が狂っていた。
「台詞がないなら、僕でもできそうですね」
「まだ言うのかよそれ」
俺はうんざりして目を回した。
「だって僕も一応、俳優の卵ですよ?」
「湊はずっと、俺の彼氏でいればいいよ」
面倒くさいから、そう彼が喜びそうなことを言って、話を有耶無耶にした。
「京ちゃん、それはないんちゃう?」
とルイに言われた。湊は少し暗い顔をしていた。なんで?ってその時はわからなかった。
「京一さんは僕の夢を応援できないんですか?」
湊にそう言われるまでは。
「応援してるよ。だけど、湊が俺以外の奴とキスするのとか無理だから」
感情のままに話すと、湊は難しい顔をした。場が沈黙に包まれる。ルイがそっぽを向いて、何かを発見したかのように指さす。
「あれ……」
指さす方向にはあの赤いパーカーを着た、白塗りの少年が観賞用植物の裏に立っていた。
「あんなとこで何してんやろ」
待機するにしても、こんなところにいる意味がわからなかった。三人でその少年を凝視していると、その少年はパッと姿を消した。
「え……?」
「え、消えたよね……?」
「何かのトリック??」
と三人で困惑していると、四人がけテーブルの余った椅子にその少年がパッと座っていた。
「うわあああああ!!」
俺は驚いて、珈琲を投げつけてしまった。珈琲カップが割れた。
「どしたん?京ちゃん」
「え?」
「京一さん、暴れないでください」
二人とも、俺が異常みたいに振る舞う。
「だって……え?見えなかった??」
「何が?」
見えていない方が俺にとっては異常だった。店員さんが「どうされましたか?」と駆け寄ってきた。俺がその顔をパッと見ると、その顔はあの赤いパーカーを着た少年の顔をしていた。
「うわああああ!!!」
俺は思わず逃げ出してしまった。何処がゴールかもわからず走った。道中、細い路地で写真を撮っている人がいて、その写真を撮る人と被写体の間を抜けるのは若干気が引けて、写真を撮り終わるまでその横で足踏みしてしまった。逃げているのに何とも滑稽だった。
疲れるまで走って、何にもないところに辿り着いて、俺はあることに気が付いた。
────カメラに写されていたのは、俺だったと。
そんな滑稽な俺を見て、テレビの向こう側のマネキンは笑って、あるマネキンはもう一人のマネキンにキスをしてセックスしようとしている。俺は、トゥルーマン症候群になった。
「うわあああ!!!」
「どうしたんですか?京一さん。大声出して」
いつもの六畳一間で目覚めた。
「あ、いや、何でもない。ちょっと怖い夢を見たんだ」
「どんな夢でした?」
俺が監視される夢。なんて言えない。実際に俺は湊に監視されてる。この部屋にも防犯カメラや盗聴器が付いているし、俺の位置情報も連絡先も全部管理されている。
「ありがちなホラーだよ。パッと目をそらした隙に目の前にいるみたいな」
「うわ!!……ふふっ、こんな感じですか?」
湊はいきなり大声を出して俺を吃驚させた。その俺のリアクションを見てご満悦な様子だ。
「もう、吃驚させんなよ」
「すみません、ちょっとからかいたくなっちゃって」
って不敵な笑みを見せる。その顔が可愛いから、まあ、許せちゃうんだけど。
「はぁ、自由って何かねー?」
俺はバイトをしながら、あかりにそんなことを愚痴った。
「哲学的な質問やめてください。強いて言えば、この拘束が終われば自由ですよ」
「俺はずっと……いや、何でもない」
湊に監視されている。なんて被害者ぶった言い方したら、湊が怒るに違いなくて言えなかった。
「何ですか?」
「よし、仕事しよ」
と張り切って仕事をしようにも、手元にする仕事がなかった。
「なんか変なの。湊くんとなんかあったんですか?」
「湊とぉ?んー、いつもラブラブだよぉ??」
湊に聞いて欲しい言葉だけを発する。盗聴器を付けるって言ったんだから、それくらいしなきゃ。でも、これはすげー不自然。
「……氷野さん、熱あります?大丈夫ですか??」
「は?何でそうなんの??俺は普通だけど」
「なんか、いつもと違うから」
「俺だって、人間。変わることだってあんだよ」
なんて言い訳しては、心の中で何処か助けを求めている。言論の自由を欲している。察して欲しい。
「そうですか。あ、そうだ。この前、暇な時に絵しりとりしてたんですよ。そしたら、美優ちゃんの絵がすっごい画伯で、全然わかんないの!氷野さんにも見て欲しいくらい」
「え、どんなの?」
「これ、何に見える?」
ホラー映画に出てくる子供の落書きみたいな絵を見せられた。
「……ホコリ?」
「ウサギですって〜!」
「この黒いもじゃもじゃが?」
「ウサギってふわふわしてるから、らしい。私もよくわかんない」
「怖っ!なんか、美優ちゃんにはウサギがこう見えてそうで怖いわ」
ただのぐるぐる描いたみたいなそのぐちゃぐちゃな絵にちょっぴり美優ちゃんの精神的な闇を見てしまったみたいで、怖くなった。
「氷野さんは絵上手いですか?」
「人並みだよ」
って言って、俺がウサギをレシートの裏側にサッと描いてあかりに見せると、あかりは、おぉ!と少し感嘆の声を漏らした。
「案外、可愛い絵を描くんですね!」
保育士が描くようなデフォルメされたウサギを描いたから、あかりからそんなことを言われてしまった。
「リアル調でも描けるけどね」
「へぇ、それも見てみたいかも」
と言われ、今度はリアル調でウサギを描いたら、また、おぉ!という感嘆の声を漏らされた。
「ピーターラビットみたい!」
「可愛いでしょ?」
「可愛い!そうだ、名札の裏に入れちゃお!」
そんなレシートの裏に描いた俺の落書きを名札の裏に入れて嬉しそうにする君のが可愛いけどね。
「えーいいな!俺もそれやりたい!あかり絵描いて?」
「え〜、私絵下手くそですよ?」
「ふふっ、それはそれでおもろいじゃん」
「あー、そういう人だった。貴方は」
と愚痴を言いながらもあかりは俺の似顔絵を描いてくれた。
「見てこれ〜!氷野さん」
と見せてくれたそれは、俺にしては何とも可愛らしいデフォルメされたイラストだった。
「わっ!めっちゃ可愛いね。みんなに見て欲しいくらい」
「恥ずかしいですよ〜」
「てか、絵めっちゃ上手いんだね。吃驚した」
イラストレーターみたいな構図。二頭身で可愛い顔面に煙草を持つ手もちゃんと狂いなく描かれてる。
「趣味で絵描いてるんですよ。フリーターって暇だから」
「へぇ、ここに"ひのきょういちろう"って書いて」
その絵の空白にあかりに自分の名前を書いてもらった。あかりは何故こんなことをさせるのか不思議な様子だったが、構わず書かせた。
「こうすれば、ほら!可愛い名札になった!」
名札ケースにそのイラストを一番前になるように入れて、俺は誇らしげな顔をした。
「あ!ダメですよ〜!店長に怒られますって!!」
「別に名札って名前わかれば良くない?」
「良くないです!私の絵がみんなに見られて恥ずかしいです!!」
と俺に向かって反論してくる彼女に
「これは俺が譲り受けた絵だから所有権は俺にありますぅ。これを見せびらかそうが何しようがそれは俺の自由ですぅ」
とウザったらしく言い返した。
「うっざ!!全然変わってないじゃないですか……」
「ふふっ、飾らない俺がいいでしょ?」
なんて冗談で自分でも笑いながら、彼女に聞いてみた。
「氷野さんはそのままで良いですよ。もうそれで慣れてるんで」
彼女はうんざりしたような顔で、もうやけくそみたくそのままでいいと俺のことを言ってくれた。少し心が軽くなった。
「あっ、そう。あかりの前だと気楽でいいね」
それを言った瞬間、湊のためと思って繕っていた俺がとっくにあかりの手で絆されて死んでいたと分かった。俺はなんて意思が弱いんだと諦念しつつも、このままが何だかんだ居心地が良すぎて動けなくなっている。
「ホストのやりすぎで、気遣いでも覚えたんですか?」
「あれはもう辞めたよ。その気遣いが面倒くさくて、俺には向いてなかった」
「氷野さんがホストやるって言った時、正直笑っちゃいましたもん。全然似合わないって思ったから」
とあの時を思い出してはまたケラケラと笑ってる。
「だからもう、気が合う奴としか俺は話さないよ」
「だいぶモテたんですか?」
「モテたっていうか、んー、金に踊らされた。あの商売は怖いよ。倫理観がバグるね!」
相手に合わせて京を演じて、本当の俺がどれかわからなくなって、お金が貰える方が喜んでもらえる方が良いとばかり思って、普段の俺だったらやらないことをやってしまったりする。
「ふふっ、それで湊くんにはバレなかったんですか?」
「結局、バレちゃってさあ……。あの時ばかりは冷や汗が止まらなかったよ。湊、急アルになって死のうとしてた」
「え、やばくないですか?酒雑魚の湊くんが……」
「そうだよ。酒雑魚の湊が俺の四十度のウイスキーをがぶ飲みしてた。あぁ、何だか思い出すだけで、」
自己嫌悪で俺を殺してしまいそう。
「……とりあえず、湊くんが生きてて良かったです」
「でも、アイツ……」
と湊の悪口を言いそうになってとどまった。
「何ですか?」
いきなり話をするのをやめた俺を不審がって、あかりは首を傾げた。俺はレシートの裏側に、湊に盗聴器を仕掛けられてる。と殴り書きした。
「あー、あははっ、そーゆーことね!」
「だからさぁ、湊の悪口言えないんだよ」
と小声で、あかりの耳元で囁いた。
「でもさぁ、氷野さんのそれは惚気じゃん」
「惚気〜?してる気せぇへんけど」
「試しに一個、湊くんに聞かせてみてくださいよ」
というあかりの提案に、確かに、と頷けてちょっと思っていることを吐き出してみた。
「湊さぁ、俺がホストしたから、俺に懐疑的になっちゃって、まあ、それは俺が100悪いし文句も言えないんだけど、それで、盗聴器つけていいよ、って俺が言ったんよ。で、付けることになったんだけど、湊は忙しいからさ、こんなの付けるって口だけで、本当は聞いてない気がすんだよね〜!なのに、俺がこんな気ぃ使って話さないといけないのめんどくせぇな。とか。それこそ、これ聞いたら教えて欲しいわ。そしたら、愛情めっちゃ感じんのになぁ。とか。馬鹿だから思っちゃってる」
「確かに。何十時間も盗聴してなきゃですもんね」
「だろ?だから、ここで『湊、愛してるよ』とか言っても、どーせ効いてないんだ。あーあ、もったいねぇ。せっかく俺がシラフで言ってやったのにぃ」
って冗談混じりで笑った。
「じゃあ、もっとがっかりするように、超絶あまーい言葉を入れときましょうよ!」
「あはっ、あかりも性悪だね〜!」
「湊くんが泣きながら録音を巻き戻してるところが目に浮かびます」
「それ、超絶可愛いじゃん!やってやろ〜!何にしよっかな?」
「着飾った言葉より氷野さんのそのままの言葉が一番効くんじゃないですか?」
「そうだね、それじゃあ……」
と湊に言い聞かせるように俺の中で最大限の甘さの言葉を俺の身体に向かって呟いた。何処に盗聴器が仕掛けられてるかわからないからだ。ちょっぴり滑稽だなというのと照れが相まって、言い終わった後は顔が真っ赤になってしまった。
「うっわ!!めっちゃくちゃ甘い!!!氷野さんって湊くんの前ではそんな甘いこと言えんだぁ。かっこいい〜!」
「お前、まじやめろ。ほんまに、恥ずいから揶揄うな……」
「ふふっ、湊くんの反応が楽しみですね!」
と不敵に笑うあかりにニコッと笑顔を返した。ちょっぴり自由を手にした気がした。
授業中、片耳にイヤホンを付けてそれを髪で隠しながら、授業を真面目に受けているフリをしていた。ずっと、盗聴器の音を聞いている。雑音ばっかで嫌になるけど、それも京一さんの生活音と思えば愛おしく思えた。最近、盗聴しといて良かった〜!と思ったことは、京一さんがAVを見ながら自慰をし終わった後に「あー、湊とやりてぇ。湊のが可愛いし」と呟いてたことだ。僕はそれを聴いてからずっとムラついてしまってその日一日中は大変だった。帰って速攻で京一さんを襲ってしまった。
「でもさぁ、氷野さんのそれは惚気じゃん」
吉岡さんの声が聞こえる。惚気……?僕の惚気、してるの??
「惚気〜?してる気せぇへんけど」
たまに関西弁混ざる京一さん可愛い。方言最高!
「試しに一個、湊くんに聞かせて見てくださいよ」
え、聞かせてくれんの?惚気(?)を??
「湊さぁ、俺がホストしたから、俺に懐疑的になっちゃって、まあ、それは俺が100悪いし文句も言えないんだけど、それで、盗聴器つけていいよ、って俺が言ったんよ。で、付けることになったんだけど、湊は忙しいからさ、こんなの付けるって口だけで、本当は聞いてない気がすんだよね〜!なのに、俺がこんな気ぃ使って話さないといけないのめんどくせぇな。とか。それこそ、これ聞いたら教えて欲しいわ。そしたら、愛情めっちゃ感じんのになぁ。とか。馬鹿だから思っちゃってる」
馬鹿だから思っちゃってる!??これ、最高に可愛い。愚痴っぽいの言ってるけど、崇高なところまで思考が足りてない馬鹿な俺が全部悪いんだよ。みたいに自責的になるのが本当に京一さんらしい。自分以外誰も傷付けない言葉選びが本当に優しくて泣ける。京一さん、そりゃ気ぃ使うよね。ごめんね、けどそうやって気を使ってくれるのも、やっぱずっと僕のことを意識してくれてるみたいで嬉しいよ。帰ったら、教えてあげなきゃ。ちゃんと全部聴いてますよって。
「確かに。何十時間も盗聴してなきゃですもんね」
「だろ?だから、ここで『湊、愛してるよ』とか言っても、どーせ効いてないんだ。あーあ、もったいねぇ。せっかく俺がシラフで言ってやったのにぃ」
「……うっ!!」
サラッと言った「湊、愛してるよ」の言葉を僕は聞き逃さなかった。そんな自分を褒めたいと思う。そしてまんまとその言葉が効いてしまった。一瞬、身体が強ばった。拗ねてる京一さんがち可愛い。
「じゃあ、もっとがっかりするように、超絶あまーい言葉を入れときましょうよ!」
え、嘘……?
「あはっ、あかりも性悪だね〜!」
は??待って!??これよりももっとやばいの??超絶あまーい言葉!??そんなの聴きたいに決まってる。
「湊くんが泣きながら録音を巻き戻してるところが目に浮かびます」
「それ、超絶可愛いじゃん!やってやろ〜!何にしよっかな?」
やってやろ〜!って、まじか!!?そんなの、聴かせて頂いて良いんですか!??神展開すぎ……!!
「着飾った言葉より氷野さんのそのままの言葉が一番効くんじゃないですか?」
「そうだね、それじゃあ……」
「湊、たぶん聴いてないだろうから言うね。湊がいないと、俺、何にもできないダメ人間で、湊のためじゃないと、今もバイト頑張れてない」
あわわわ!!始まっちゃった……!!「僕のためじゃないと、頑張れない」もうこれ可愛い!!!!
「俺さ、湊とだから最高に楽しかったり、飾らないそのままの俺で過ごせたり、ふとした瞬間に幸せを感じたりするんだって、やっと気付いたんだ」
はあはあはあ、呼吸が乱れる。心臓が痛い。息が苦しい。目がチカチカする。
「あっ……やっ、んんっ……!!」
声が自然と漏れ出てしまった。勿論、顔は真っ赤。
(青柳、喘いでる……?)
なんて思われて当然な声だ。超絶恥ずかしい。でも、このイヤホンは外せない。なんて思われようが、京一さんの超絶あまーい言葉が欲しい。
「青柳、具合でも──」
と割り込んでくる教師の声。僕は京一さんの声、しかも、超絶あまーい言葉を聴き逃すと思うと気が気じゃなくて、
「ちょっと黙って!!」
と血走った目で睨みつけ、癇癪を起こすように怒鳴った。教室内は静寂に包まれた。そこで
「死ぬまで一緒にいようね。一緒に生きていこう。愛してる」
という京一さんの優しい声が脳内をぶち抜くみたいに強く届いた。
「はぁっ!!!んん〜〜〜っ!!!!」
僕は椅子から崩れ落ちて、その場にしゃがみこんで、悶え苦しんでいた。僕の異常行動に教室内がまたざわめきを取り戻した。そして、僕は高橋に腕を掴まれ、「保健室行くぞ」と連行された。その道中も、イヤホンを耳から外せずにいた。
「うっわ!!めっちゃくちゃ甘い!!!氷野さんって湊くんの前ではそんな甘いこと言えんだぁ。かっこいい〜!」
と吉岡さんから揶揄われて、
「お前、まじやめろ。ほんまに、恥ずいから揶揄うな……」
なんて恥ずかしがって弱ってる京一さん、可愛い〜!と思ってニヤつきが止まらなかった。
「青柳、ほらトイレで抜いてこい。……青柳?」
「はっ!何?高橋」
と高橋の呼び掛けで急に現実に戻された。
「何してんの?まじで」
「……えっと、」
「まあ、いいや。早く抜いてこい」
とトイレの個室に押し込まれた。
「高橋、」
「何?」
「僕、教室戻れないかも……」
「一応聞くけど、何で?」
「また、やっちゃった。また、いじめられる」
こんな目立つことしちゃったんだ。いじめられるに違いない。僕はトイレの個室の中で一人、手が震えた。
「はぁ、そんなの気にしなくていいよ。俺らが友達でいるから」
「そしたら、高橋にも真城さんにも迷惑かける。僕だけでいいよ。いじめられんのは」
「青柳って何で普通でいられないのかなー?」
ちょっぴり諦めたような、でも悩んでいる高橋の声。
「え、そんなこと言われても……僕だってわかんないよ……」
「今日は?何でフル勃起しちゃったの??」
「僕の、彼氏のせい……」
「変態プレイでもしてんの?嫌だねー!!」
と煽られる。
「そんなんじゃない!京一さんは悪くないの!!」
「じゃあ、自業自得??」
「それはそうなんだけど、僕、彼氏のこと盗聴してて……」
「え〜っ!?犯罪者じゃん!!」
「まあ、同意の上だから犯罪じゃないんだけど、それで彼氏がいきなり僕に惚気けてくるからあ……!!」
「あー、そゆことね。うん。何もかも普通じゃないから何から変えていけばいいのかわからないわ」
高橋は冷静さを取り戻した上で、僕は普通になれないと言っているようだった。
「高橋ぃ」
「もう、無理だ!青柳は異常だ!!」
と匙を投げられた。酷い言われようだ。
「カズくん、ひどーい!」
「じゃあ、授業中に盗聴なんか聞くな」
「でも、盗聴したおかげで超絶あまーい言葉を聴けたんだよ?」
「もう本当に、彼氏が世界の中心なんだから……」
「うん。そうじゃなきゃ、僕は生きていけない」
僕は改めて自分に言い聞かせるように言って、京一さんの超絶あまーい言葉でイッた。
教室のドアを開ける手が震える。また睨まれたり無視されたり机に落書きされたり悪口言われたりの日々が始まるんだと思うとため息が出る。もう、僕の方がみんなを無視してやろうという気概で教室にズカズカ入っていくと、
「青柳くん、体調大丈夫?」「青柳、なんか温かい飲み物買ってこようか?」
と心配の声を次々とかけられた。高橋の方に目をやると意味ありげにニヤッと口角をあげられた。
「ごめん、僕は大丈夫だけど……みんな、何でそんな優しいの??」
「だって、青柳くん受験のストレスで幻聴が聴こえるようになっちゃったんでしょ?」
本気で心配している目で真城さんが僕を見つめる。
「え、違っ……!!」
と否定しようとした瞬間に、高橋に口を覆われる。
「青柳、ごめんな。みんなには黙っててって言われたはずなのに。みんな、青柳のこと心配してたから、つい……」
高橋がみんなに上手い嘘をついたんだ。こういう頭の回転が早いところ、京一さんにそっくりだなっていつも思う。
「……ごめんね、迷惑かけて。吃驚させちゃって」
僕はそれしか言えなかった。高橋のせっかくの優しさを無駄にはできなかったから。
「ううん、青柳くんこそ大変だね。私立大附属高校を目指してるのに……」
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だから、あまり心配しないでね!」
「わかった。受験終わったらまたみんなで遊ぼうね!」
「うん!」
僕が思うより、僕の友達は優しかった。




