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動物園の動物って鏡越しに自分を見てるみたいで可愛く思える。

酩酊していた俺はどうにかして帰ってきたらしく、目が覚めると、ルイと自宅にいた。


「京ちゃん、おはよ」


ルイはちょっぴり顔色が悪くて、俺はというと人殺ししたみたいに青ざめた酷い顔をしていた。いまだに吐き気が止まらない。


「ルイ、昨日俺らどうやって帰ったっけ?」


「俺がタクシー捕まえて、京ちゃんの部屋まで送ったんやけど、そっからまじで記憶が無い」


部屋は相変わらず汚くて、いつ何したかもわからないくらい酷い有様だった。ルイはそんな汚い部屋の床でクッションを枕に寝ていたらしく、「腰が痛てぇ」と文句言っていた。


「ルイにはいつも迷惑かけてばかりだな」


綺麗に布団で寝ていた俺は、昨日の記憶がところどころしか無く、ある記憶が現実か夢かどうかもわからない。


「いいや、昨日はさすがに俺も酔ったわ。200万入れてた財布の中身がすっからかんや」


とちょっとした笑い事のように穏やかに笑っている。


「何でそない持ってんねん」


「そんくらいないと不安じゃん?」


「金銭感覚合わへんわあ」


けれど、俺が着ていたスーツのポケットからはその内の70万近くの札束が何故か入っていて、盗んだのかと一瞬怖くなった。ルイに返そうとしたら、「あぁ、それは京ちゃんへのチップだけど」とあっけらかんに答えられて、「こんなんいらんよ」と言ったんだけど、「良いからもらっとけ!」と押し付けられるのを嫌がる顔を見せた。


「京ちゃんには昨日楽しませてもらったんやから」


「そのことでさあ、聞きたいことあんだけど……」


「何?」


「俺、ルイにキスしてへんかった?」


「あぁ、したなぁ」


別に何ともないように答えるルイ。俺的にはできれば夢であって欲しかった。調子乗って酔っ払って、全人類にキスしたいくらい気分が良くなって、ルイに甘えて、キスをした気がする。夢であって欲しかった。俺が気持ち悪いからだ。


「やっぱしとった?ごめんなぁ。ルイだからってのもあって、あんな甘えてしもうてん……」


「何謝ってんの?俺もしたから痛み分けやで」


ルイは少し微笑んで煙草を吸い始めた。


「は?」


「俺も京ちゃんにキスしたんよ。覚えとらんの?」


「あー頭痛くて思い出せへん」


二日酔い特有の頭の痛さで、もう何も考えたくなかった。思い出したくもない。


「残念やなぁ、濃厚なキッスしてやったんに」


ルイは意地悪そうに笑う。


「その時、俺どんな感じだった??」


「ん?『ルイもっとぉ、もっとぉ……』ってせがんできてん。せやけど、それ以上は理性飛んでまうって思うて『堪忍なぁ』ってなだめたんよ」


ルイは俺の猿真似をして、ケラケラ笑う。


「超恥ずいんだけど……!?」


「酔った京ちゃん可愛かったあ。もう一回やってくれへん?」


「やるかボケ!」


赤面しながら、ルイに怒鳴った。ルイは怒鳴られて何故か嬉しそうに笑ってた。


「あははっ……京ちゃん、やっぱ俺と付き合わん?俺、京ちゃんのこと幸せにできる気ぃするんだけど」


煙を吐いて、絵空事のように告白してきた。


「ルイ、お前は俺に恋愛感情ないだろ」


「けどさあ、京ちゃんとずっと一緒にいたいんよね。俺、もう仕事しなくていいし。好きなことだけしてたくて」


「そうなんだ。そっかぁ……そうなんだね」


「京ちゃん、断る理由探してるん?」


彼は少し目を細めて、潤んだ目でこちらを見て、少し口角を上げた。


「俺にはもう湊がいるからなぁ。ルイのことはもちろん嫌いじゃないし、たぶん俺がフリーなら付き合ってたと思うし、ルイが俺のこと大切にしてくれるのもよく分かってる。だから、ちょっぴり揺らいでる俺がいて、そんな俺は最低だなって自己嫌悪しちゃってる」


「ははっ、京ちゃんは真面目やなぁ。別に京ちゃんとキスしたいセックスしたい言ってるわけじゃないんよ。ただ、あぁ、こんなんはすげぇ我儘だけど、京ちゃんから求められてぇっていう俺の愚痴だから。聴き流してくれてかまへんよ」


ルイは煙草を吸って、ため息のように煙を吐いた。


「ルイ、告んのが遅せぇんだよ」


俺はどうしようもない感情を八つ当たりのようにルイにぶつけた。


「は?京ちゃんが恋人できんなんて思わんじゃん。しかも男で」


喧嘩腰でルイも反論してきた。


「ふふっ、確かにな」


「俺の気持ちだって、ちょっとはわかれよ。バーカ」


「ルイっていつも余裕たっぷりな表情してんじゃん。だから、俺のことそんなにも好きだとは思わんかったわ」


「ちっ。あぁ、もうええわ。京ちゃんが思っとる以上に京ちゃんのこと好きだったけど、もう好きになるのやめるわ。ただの嫉妬だしな。見苦しくてしんどいわ」


煙草の火を消して、立ち上がって、鏡で髪型を整えている。どこかに行く準備をしてるみたいに。


「何処行くの?」


「もう帰るわ。京ちゃんといてもしんどいだけだから」


それを言われた瞬間、心にグサッと何かが刺さった。


「ごめん、ルイ。ルイのこと傷付けるつもりじゃなかったんだけど、その……どうか、俺のことを嫌いにならないで。お願いします……」


ルイの手を軽く掴んで、目を泳がせて、下を向いたまま引き止めた。


「ちっ、京ちゃんそれはずるいわぁ」


賭けで不正をした時のように、ルイは笑って、でもちょっぴり怒りの色を見せていた。


「だ、ダメ……?」


ルイの顔を見つめて、苦笑いして許しを乞う。


「あぁ、もう、京ちゃん離れろ!!どっか行け!!」


と突き飛ばされて、ルイは洗面所に引きこもった。


「ルイ?俺、どうすればいい?どうしたら許してくれるの?ねぇ、ルイ?聞いてるの??」


ルイからは返事がなかった。それがとっても不安になって、精神的におかしくなっちゃいそうで、精神を安定させるため、酒へと逃げた。

しばらくして、ルイが洗面所から出てくると、「ルイ、やっと出てきてくれたんだね!」とできあがった満面の笑みで迎えることができた。


「京ちゃん、酒飲んだん?」


「うん!美味しいよ?ルイも飲む??」


「俺はいらんわ。それよりもさ、さっきはごめんな。その、京ちゃんのこと……」


ルイがいきなり謝罪するから、俺は可笑しくなってしまって、


「え〜?ルイなんも悪いことしてなくなーい?」


と聞き返してしまった。


「あぁ、傷付いてないんならそれでええわ」


ルイは苦笑いして、俺の頭を撫でた。俺は何故、撫でられているのかわからなかった。


「ルイ、俺の前からいなくならないでね」


最後な気がした。最後の別れだから、そんな愛おしそうな目で俺を見つめて、頭を撫でてくれるんだと思った。それが、俺には怖かった。


「京ちゃんの方だよ。俺が知らん内に死のうとすな」


ルイは俺の左手首の傷を憎いような目をして見つめる。


「はぁー、俺もルイルイとずーっと一緒にいたーい」


俺はルイに抱きついて、離れないようにと言葉をかけた。


「京ちゃん、ホストしてから二枚舌に磨きがかかったなぁ」


ルイは笑いながらちょっぴり寂しそうにそう言った。


「ルイひどーい!俺は本気で思ってんのに!!」


「じゃあ、今の彼氏と別れて俺と一緒にいてくれるか?……ふふっ、無理って顔してんなぁ」


とその顔を片手でぐっと掴まれて、にんまりとした顔を見せられた。


「し、してなくもなくもないけどぉ!ルイと一緒にいたいってのは本音だよ?」


と言うと、ルイからもぎゅっと抱きしめ返されて、


「あぁ、京ちゃんってほんま可愛ええなぁ」


とふと漏れだした独り言のように呟いた。


「ルーイ、昨日みたいにちゅーしよっか?」


「何や?俺とのキスが気に入ったんか??」


とふざけたことを冗談っぽく言われた。


「別に、そんなことないしぃ!ただして欲しそうな顔してるから『しよっか?』って優しさで言ってやっただけだしぃ」


俺が強がって本心にないことを口にしていると、


「そっか、それならいいや」


とルイは俺から興味がなくなったみたいに抱きしめるのをやめた。


「いや!あの、違うの!ルイが好きだから、キスしたいの!ごめんね、変なこと言って……」


「へぇ、浮気になるけどええの?」


ルイが俺を試すようにそう言った。その口元はにんまりと笑っていた。俺は簡単な罠に引っかかってしまったみたいだ。


「うーん、うーーーん、うーーーーーん……」


永遠に答えは出なかった。出したくなかった。俺は八方美人でありたいから。

すると、ルイの方からキスをしてきた。俺の脳内をかき乱すような濃厚なキス。その気持ち良さで悩みなんかどうでも良くなってしまった。


「俺からのキスは浮気じゃないやろ?京ちゃんは無理やりされてんだから」


ルイは頭良さげなことを言っていて、「あぁ、その手があったか」と感心してしまった。


「じゃあ、もう一回……」


「だからって、よがってキスせがむなや」


ルイはご満悦そうに笑っていた。もう一回のキスはしてくれなかった。俺は唇を尖らせたままだった。


その後のルイはかなり上機嫌で、「京ちゃん味噌汁飲むか?」って味噌汁を作ってくれたり、「京ちゃんお風呂入らなね〜」って身体を洗ってくれたり、いつもの湊みたいに手厚くお世話をしてくれた。


「ルイ、ありがとう」


「ふふっ、その言葉でかなり満たされんなぁ」


ルイは洗いたてのふわふわ髪を優しく撫でてくれた。


「ルイって意外と生活能力あるんやな」


「京ちゃんのためだからできたんよ」


そんなストレートに好意を伝えられるとさすがに照れてしまって、そっぽを向きながら、


「お礼に、珈琲でも入れるよ」


と照れながらに言った。


「嬉しい。ありがとう」


ルイは大人っぽくそう言って、軽く俺を抱きしめた。二人分の珈琲を入れて、お気に入りの映画を紹介する。ルイは興味津々にその話を聞いてくれて、その映画を見てくれて、とっても嬉しかった。


「このシーン、お気に入りなんだ」


ゾンビに喰われてしまった女性が最期に最愛の人とキスするシーン。


「へぇ、ロマンチストだね」


「俺も死ぬ直前に最愛の人とキスがしたいなぁ」


なんてぼそっと夢見がちなことを口走ると、


「それ、俺に言わんといて。たぶん相手は俺じゃないから」


と冷たく言われ、珈琲を啜られた。


「俺が死んだ時に泣いてくれる奴が俺の最愛の人、じゃダメかなぁ?」


ルイの手に手を重ねて、そう聞いてみた。


「そんなんいっぱいおるやろ。ダメダメ」


「だって……ふふっ、一人に決めたくないんだもん」


なんて調子いいこと言うと、


「この八方美人の二枚舌腹黒野郎が……!」


と軽くどつかれた。


「俺ってきっと、最低だよね」


ルイの気持ちを弄んで、俺から離れられないように言葉で呪いをかけて。


「最低でいいんちゃう?京ちゃんに聖人君子になられても、俺が困るわぁ」


「そうなん?」


「せやで。京ちゃんが最低だからこそ、俺は居心地がいいんよ」


そんなこと言わないで。そんなこと言われたら、自己嫌悪してる俺を認められたら、俺はどうにかなっちゃいそうだ。


「あぁ、ルイの色に染まりそうだ」


「ふふっ、そうなると俺は嬉しいんやけど」


とそんな会話していると、湊が帰ってきた。


「おかえり、湊」


「ふふっ、おかえりなさい」


ルイは笑顔で出迎えたが、湊はルイがいることをあまりよろしく思ってないようで、


「今までルイさんと一緒にいたんですか?昨日の夜からずーっと!」


と俺に詰めてきた。


「そうだけど、何?」


惚けて何も問題ないようなフリをしていた。


「あぁ、もういいですよ。僕の存在なんて、もうどうでもいいんですよね」


「そんなことないよ!いつ俺がそんなこと言った?」


「言ってはないですけど、態度に出てますって。京一さんはもう僕がいなくても大丈夫そうですね!」


嫌味たっぷりで言われた。


「はあ、本当にウザいんだけど。何でそういう解釈するかな?」


「誤解されるようなことばっかする貴方が悪いと思いますけどね。お邪魔してすみませんでした。僕はもう帰りますから……」


「待ってよ、湊くん」


湊を引き止めたのは俺ではなくてルイだった。俺は湊に腹を立たせていて、引き止める気力もなかったのだ。


「何ですか?ルイさん」


「そんなん言われたら京ちゃんが可哀想や。昨日から京ちゃんの傍にいたけど、湊くんのこと大切にしてるってすごい伝わってきてん。せやから、そないして京ちゃんのこと傷付けんのなら、俺が京ちゃんのこと貰った方がええんとちゃう?」


ルイはちょっぴり冗談っぽく笑って、湊に提案した。


「そうですね。それも一理ありますね。けど、京一さんは僕のことを一番に愛しています。それが覆らない限りは不可能です」


湊は数学の証明をするみたいに機械的に話した。


「京ちゃんはそんなお前さんをほんまに愛してくれるんかいな」


「はい?」


「京ちゃんを疑って責めることしかできないお前さんを、京ちゃんがほんまに愛してると思うか?」


「は?愛してるの言葉さえ言って貰えない貴方に言われたくないんですけど」


「あぁ、綺麗な顔してんのに、残念やねぇ。色々と」


「貴方は京一さんから最も信頼できる親友だと聞いていたのに、こんな人だとは思ってもいませんでした」


二人が喧嘩をし始めたので、慌ててなだめた。


「湊、本当に愛してるから、俺の親友と喧嘩しないでくれ」


「何でルイさんの肩を持つんですか?京一さん」


「別に肩を持つわけじゃないけど、ルイのが俺の気持ちをわかってくれてる、から……」


「じゃあ、愛してるって言葉は嘘なんですか?」


「嘘じゃないけど、嘘になりそうだよ。このままじゃ」


「……疑ってしまう僕が悪いんですよね。わかりました。少し頭を冷やしてきます」


湊が出ていった瞬間、俺はどうしたらいいかわからんくなって、包丁を手にした。けれど、


「それはちゃう」


ってルイに包丁を持ってを掴まれて、動かなくされた。


「じゃあ、ルイどうしたらいいの?わかんないよ??……俺、湊もルイもどっちも大切なのに」


包丁を持っている手が震えた。自傷行為でもして精神を落ち着けないと耐えられない。


「京ちゃんごめんな。俺が仲直りさせたげよ思ったんに、俺まで湊くんと喧嘩になってもうた」


そんな不安定な俺をルイは抱きしめて背中を撫でてくれた。そのルイの匂いと優しさで俺は少しずつ落ち着きを取り戻してきた。


「ルイは偉いよ。あの状況で仲直りさせようなんて。もし俺がルイだったら、俺にキスして湊に見せつけてたところやわ」


「京ちゃんの大事な人を傷つける訳にはいかんよ」


「昔から思っとったけど、ルイって大人びてるよな。俺よりも年下なくせに」


「京ちゃんに格好良くみられたいからやっとるんやで」


きっと大人びなきゃいけない状況が今までたくさんあったのにも違いないのに、そうやって弱さを隠して冗談みたいなことを言って誤魔化すんだ。


「そっか。ルイってほんと格好良いよ。昔の俺よりもね」


「ふふっ、赤眼の烏には敵わんわぁ!」


「それ恥ずいからやめろよ」


「俺は何遍でも言い続けるよ?あの時代の京ちゃんはみんなの憧れやったからなぁ」


「ルイ、赤眼の烏ならこの状況をどう切り抜けると思う?」


「えーと、一旦まずは俺にキスするやろ?それで『愛してんで』って言うてから……いや、それは『ふふっ、全部嘘だよバーカ』って俺を弄ぶためで、ケラケラ笑って煙草を吸って、『あぁ、湊のとこ、行かんといけんよなぁ』って俺に相談してから、『俺が最低なのはわかるから、謝るも何もこのまま別れた方がええんとちゃうか?』って弱気になって、『京ちゃんさあ、そない言って逃げて、大事な人と会えなくなってもええんか?』って俺が京ちゃんを鼓舞するんよ。そしたら、『嫌やあ、湊とまだ一緒にいたい!』って京ちゃんは泣きそうになりながら俺に訴えてきて、『それ本人に言えや!!』って俺はそれにツッコんで、京ちゃんは家から出ていくんよ」


という長々とした妄想を言われたが、そんな長々としためんどくさい下りをしそうだと妙に納得してしまって、笑ってしまった。


「ルイ、愛してんで」


俺はルイにキスをしてからそう言った。


「でもそれは、全部嘘なんやろ?」


「ルイがそう思いたきゃそれでいいよ。ルイが信じたい方でいい」


「赤眼の烏はやっぱ、ずる賢いなぁ!」


感心するように笑われた。


「じゃなきゃ異名は付かへんよ。それじゃあ、湊に会ってくるね。ありがとう、鼓舞してくれて」


「いーえ。今度また一緒に飲んでくれれば、礼はええよ」


「もちろん、また飲もうね!ルイ」


というとルイはちょっぴり目を見開いて、


「あぁ、その前に死んだら許さんからなぁ」


とそっぽを向いてぼそっと言った。


「それはお互い様や」


なんて冗談言って、手を振った。見送ってくれたルイは大人っぽく笑ってた。



僕は京一さんと喧嘩をすると何も手が付けられなくなる。勉強しなきゃいけないのに、スマホを見て、何も連絡することがないのに、京一さんとのトーク画面を見る。最近、全然トークしてなかったな。京一さんからの連絡もないし、僕から連絡することもなくて、スマホで連絡を取り合ってたのは今から二週間も前だった。


「ああああああああああああああ!!!!!!!!!!死にたいかもーーー!!」


と叫んでみても、この部屋には誰もいなくて、もうすぐ家庭教師の先生が来るのに宿題すら終わってない。やばいやばいやばい、宿題はやんなきゃ。とノートとワークを広げるけど、イライラしすぎてしまって文字すら読めなかった。


「ああ、クソッ!!もう死んでやろうかな」


京一さんが悲しんでくれるかどうかももうわからないけど、何だか京一さんがイラつきそうだから、やってみる価値はあった。首絞めロープをドアノブに引っ掛けて、ドアの反対に紐を回して、首を縊る部分を作った。この結び方、もやい結びって言うらしい!自殺企図あるのに初めて知った!首を実際に絞めてみると、かなり苦しくて呼吸できなくて、脳内に血液が回っていかなくて、あぁ、死にそう!って嬉しくなった。その瞬間、ブーーッブーーッ!!って僕のスマホのバイブレーションが懸命になった。だけど、スマホは手の届かない位置にあるし、首吊った瞬間、乗ってた台を蹴り飛ばして、遠くに倒してしまったため、足が床に付かない。


「やばい、まじで死ぬかも……京一さんと喧嘩したまま……」


僕は何も考えられなくなって虚空を見つめていた。その途中で何かが視界を遮ったけど、それが何か分からなかった。身体を誰かに抱き抱えられた。


「湊……!!湊……!!!」


その声がはっきりと聞こえてきて、僕は目を覚ました。


「……京一さん?」


「湊、あぁ、生きてるね。生きてて良かったあ」


京一さんにさらに強く抱きしめられる。


「どうして、僕の部屋に?」


「前に澪さんに合鍵を貰ってたんだよ。『湊が引きこもった時に会えるように』って」


京一さんは僕の頭を愛おしそうに撫でる。僕はそんな彼の惚れているような目が好きだ。


「……全部、貴方のせいじゃないですか。会いに来られても嬉しくないです」


僕は貴方に甘えたくて思ってもないことを口にした。まだ喧嘩してたくて構ってもらってたい。


「そうだね。全部俺のせいだよ。俺が湊からの信頼を裏切ったせいだ」


「どうやって信頼を回復してくれますか?」


「湊がやりたいように俺のことを束縛していいよ。GPSでも盗聴器でも何でも付けるから。それに連絡は一分以内にすぐ返すし、誰と遊ぶかも写真で撮るよ」


京一さん……!!もうGPSも盗聴器も付けたことあるけど、僕が落ち込むだけだから見るのも聴くのもやめてただけなんだよねー。だけど、そうやって公認で付けてくれるってなったらちょっとは言動を気をつけてくれるのかな?そうなったら、すっごく嬉しい。


「わかりました。じゃあ、まずは貴方にこれをあげます」


と僕は貴方の首に腕を回して、仲直りのキスをした。貴方は若干戸惑っている様子で可愛かった。


「湊、許してくれるの?」


「はい、これは仲直りのキスですから」


「ありがとう」


貴方は全て万事解決したみたいに、微笑むけど、僕はまだ物足りなくて、


「もう一つあります。ちょっと服脱いでください」


と貴方に指示した。貴方は何もわかっていない様子で服を脱ぎ、上裸になっていて可愛かった。僕は前に京一さんに噛み跡を付けたのを思い出して、それを上書きするようにもう一度、力強く噛んだ。


「あっ、あぁっ、痛ってぇ……!!」


喘ぐ京一さんの首筋から血が垂れていて、もう一生消えない跡を付けられた気がする。


「京一さんは僕のものです。それを忘れないでください。他人に愛を囁かないでくださいね」


僕は京一さんを僕の手元に戻すことができたみたいで、とっても興奮して、京一さんをぎゅっと抱きしめながら、泣いてしまった。


「わかってるよ。湊だけを愛すよ」


と京一さんも僕を抱き締め返してくれた。


「ふふっ、可愛い貴方を僕という檻から抜け出せなくさせたいです。今日は一日中、僕の目が届く範囲、監視下にいてください。わかりましたか?」


「わかった。ずうっと一緒にいよーね!」


図々しい僕の我儘も貴方は幼児のような可愛らしい笑顔で受け止めてくれる。僕は貴方がいないと本当にダメみたいだ。

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