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損得執着ニルヴァーナ

あの子のが俺よりも優れてて、あの子のが俺よりも人生が楽しそうだ。そんな感情で俺の人生はつまらなくなるんだから、人生ってほんと気分次第だ。俺が羨む奴がどーかいつか自動車事故に遭うだとか、結婚詐欺に遭うだとか、明石家サンタに不幸話をしたはいいが鐘を鳴らして貰えなくてただ全国に黒歴史を暴露する羽目になるだとか、そういうことが起きて欲しい。俺は俺自身を磨く努力もせずに神頼みとは笑っちゃうけど、神が不公平に作ったんだから醜い俺の意見の一つも聞いて欲しい。俺は何の才能を持って産まれてきたんですか?他人を貶す才能なんて持っていても意味ないのでやり直させてもらっていいですか?


「ホストやってて、向いてないから辞めるとか稼げないから辞めるとか何度も何度も聞いてきたけど、それはお前らが全てを賭けて努力してない証拠だから。俺からしたら単なる努力不足だよ。それで他人に嫉妬する売れてないホスト、そろそろ辞めた方がいいんじゃないですか?よいしょ〜!」


と奏さんがマイクパフォーマンスで周りのホストを煽った。全くもって、俺が煽られてるんだと思った。グラスに入った酒を一気飲みした。


「奏さん、まじで顔綺麗やんな〜!男の俺でも見蕩れてまうもん」


奏さんのヘルプでついた卓。姫が全然、話してくれない。奏さん目当てだもんな。スマホばっか弄って俺になんて興味ないって態度ですか。いいね、気に入った。煙草を一本吸ってから、


「ねぇ、姫。奏さんの性癖知っとる?」


とこっそり囁いてみた。これには姫も少し興味を持ったように、こちらに視線を向けてきた。


「俺さあ、酒飲むと泣き上戸になってまうんやけど……あ、奏さん、おかえりなさい!」


タイミング良く、奏さんが帰ってきた。


「はやくここに戻ってきたかった。遅くなってごめんね」


「ううん。奏くん、あのさ、奏くんの性癖って何?」


単刀直入ストレートに姫が奏さんに聞くので、奏さんは俺の方を見つめて恨みのこもった声で、


「京……お前な……」


と微笑みながらも怒っている様子で言ってきた。


「あははっ、姫に喜んでもらいたくて……!」


「だからって、はあ……」


と深いため息をつかれた。俺とセックスしてんだからわかるでしょ?と言いたげな顔をしてる。姫はそんな奏さんを見て、


「あ、何飲む〜?」


と話題を変えた。


「俺より売れてない底辺ホスト、辞めんじゃねぇよ。ほら、グイ!」


ひでぇよ、奏さん。俺が性癖教えようとしたからって、テキーラで報復するなんて。


「あ"ぁ、喉焼ける!」


カンッとグラスをテーブルに置いた。


「ふふっ、美味しかった?」


「美味しいわけないやん!酷いわあ、奏さん!」


酔って彼の腕を掴んで無意味に左右へ揺らす。奏さんは満更でもなさそうな顔して、


「京、アフターくる?」


と誘ってきた。


「え?奏さんの奢り??」


「うん、全部俺が払うよ」


「ほな行くわ。回らない寿司で頼んますぅ」


手のひらを立てて、ニコニコと胡散臭い顔で笑った。


「図々しい奴だね。姫はどこ行きたい?」


「別にどこでもいーよ」


と興味なさげにスマホ片手にそう言った。


「じゃあ、回らない寿司でもいい?」


「その後、ホテル行ってくれるならね」


「ふふっ、気持ちよくするよ」


と照れながらに笑っている奏さん。俺はちょっぴりムカついてきて、


「奏さん、俺いたら邪魔なんじゃん?」


と不貞腐れて行かないという選択肢を作った。


「京、ちょっと耳貸して」


手招きされて、素直に彼の元に寄っていくと、俺の耳元で彼は


「俺、あの人のこと抱きたくないからさ、アフターに京が来ないと困るんだよね」


と囁いた。ふぁーーー、なるほど。人柱にされるのか俺は。


「え!?一貫一万円の寿司!??食べたい食べたい!超楽しみー!」


わざとらしく奏さんの腕に抱きついて、これぐらいは貰わないとという最低条件を出した。


「京……」


彼はぐるりと目を回して、うんざりとした顔を見せた。


「あははっ、そんい睨まんといて〜!俺行かへんくなるで?」


「あ、それはダメ。絶対」


手を握られて離してくれない。


「薬物防止ポスターかて」


「ふふっ、絶対だからね!」


と指を絡めて微笑んできた。


「あーはいはい、わかったから逃がして〜。卓移動せなあかんねん」


「そっか、またあとでね」


絡めていた指を解いて、俺に手を振る。今夜は一万円の寿司だと思うとテンションがあがった。


「京くん、なんか機嫌良いね」


「そんなん姫といるからに決まってるやん。せやから、愛情ちょーだい?」


と空いたグラスを持って、酒をねだった。しょうがないなあ、と甘やかされて、俺はどんどん酔ってくる。


「京、喫煙所で寝るな」


「寝とらんし、煙草やし。味わってんの、わかる?」


目を瞑ったまま左右に揺れて、ぐだぐだと愚痴を言っていた。


「わかったよ。ほら、手貸して」


と手を差し出された。上目遣いでそれを見る。


「嫌やあ、座り煙草がええんやあ」


「ガキか」


「ガキは煙草吸えへんよアホか」


アホって言う方がアホやし、なんて言い返されると思ったら、


「ふふっ、京はそういうところが可愛いよね」


って微笑まれた。何やこいつ。


「あーーー、寿司!」


煙草吸わなきゃ良かった。味落ちる……。


「ん?好き??」


とかがんで俺の目線に合わせて、頬杖ついて微笑みながら聞いてきた。


「寿司食いてぇ、つってんの!」


と強く言い放って立ち上がり、煙草を雑に捨てた。


「おっと。よろけてんじゃん」


ってよろけたところを肩持って支えられる。


「あれ〜?酔ってんのかにゃあ??」


身体の力が抜けて、全体重を奏さんにかける。後ろから抱きしめてくれる奏さんがいないと立っていられないくらい。


「京、ずっと抱きしめちゃうけどいーの?」


大きな手が俺を支えてくれる。力強く抱きしめてくれるその手が俺のシャツをまくる。


「だーめっ♡金取るよ?」


「じゃあ、ちゃんとして」


と両脇を持って、上へと持ち上げられ立たせられる。


「んーーー、無理ぃ」


俺は奏さんの支えなしで仁王立ちできた、次の瞬間にはまた座り込んでいた。


「あーあー、京、寿司食べなくていいの?」


「寿司?食べるぅ」


動かない身体が憎くなってきた。いつもこんな感じだ。鬱で動けない。


「無理しないでいいんだよ。また今度行けばいいじゃん」


「あの女は?抱くの??」


「え、京がそれ気にするの?」


って顔を見上げると得意げなにやけ面。


「……抱くの?抱かないの?」


「抱くかもね。しょうがなく」


その一音一音がねちっこくてうざったい。


「じゃあ、行くよ。寿司食べに行く」


「何で?俺が女抱くのが嫌だから?」


「腹減った。ただそれだけ。高い寿司は何回食べてもいいでしょ?」


とスッと立ち上がって、スタスタと歩き喫煙所から出ていった。


「ちょっと京!?」


追いかけてきた奏さんに手を掴まれる。


「おえええええ……」


歩き出すとヤニクラで吐き気がした。


「あぁ、京。寿司行かなくていいよ。俺は何処にも行かないから」


「俺の傍にいてくれるの?」


吐き気で涙目になりながら、そんなことを聞いていた。


「うん。いるよ。京の傍にいる」


そう言って抱きしめてくれて、背中を撫でてくれたけど、


「それされると、吐きそう……」


「あっ、ごめん!一旦、トイレ行こっか」



トイレで全て吐き出して、俺は清々しい顔をしてトイレを後にした。


「はあ、スッキリしたあ!」


「めっちゃ笑顔じゃん……」


「ねぇ、奏さん?寿司食いに行かね??」


と奏さんの腕に抱きついて、奏さんの顔を覗き込んだ。


「……わかった。行くよ」


「やったあ!そいでアフターの子は?」


「京が潰れた看病しなきゃって断った」


「初めからそれ使えばええやん」


「証拠写真、ないとヒスって面倒だから」


と見せられたその女の子とのトーク履歴には、俺がトイレで吐いてる写真が送信されていた。


「これ、いつ撮ったん?」


「京がトイレ入った直後」


「ほな、俺は役目を果たしたっちゅーことで!」


グイッと飲む素振りを見せる。


「もう京には一滴も飲ませねぇ」



寿司食いねぇ、寿司食いねぇ、が永遠ループする店の玄関。嘘、普通の寿司屋の玄関。幻聴が聴こえてた。


「すぅし!すぅし!すしすしすぅし!」


変な歌を口ずさんで扉を開けた。あがりが出されるやいなや


「こぼれいくらと大トロを五貫ずつ、お願いします」


と奏さんは大将に注文をしている。俺は回転寿司以外には馴染みがないのでしどろもどろしていた。


「京、俺が頼むからいいよ。何食べたい?」


「……ねぇ、恋していい?」


とてもスマートに聞いてきてくれたので、とても感銘を受けて、うっかり恋に落ちそうになってしまった。


「いいよ。俺に惚れて」


ぶんぶんと首を横に振り、


「じゃあ、つぶ貝と帆立」


と淡々と言った。


「お兄さん、イケメンだね〜!」


寿司を握った大将が奏さんに向けて言った。


「ふふっ、俺、そんな金ないですよ」


「いやいや!決まり文句じゃないって!なんなら、サービスするよ?」


「え、いいんですか?」


「いいよいいよ、いっぱい食べていきな」


「ありがとうございます!」


腹いっぱいに寿司を食い終わると女の子二人組が駆け寄ってきて、


「お兄さん、これからどこ行くんですか?」


と奏さんに声をかけている。あーあ、うんざりした。

俺はいつも求められる側じゃない。誰にも見向きされない。俺って需要ない?そんなの知ってる。誰も俺のことなんか覚えてない。俺がいることなんか見えてないみたいに扱う。真っ白い光に包まれて電車に轢かれ、無惨にもグロく散っていく。そんなことしたって、誰も俺のことなんか覚えてない。映画の中のジョーカーだって、楽しそうに狂って笑ってる。俺だけだよ、泣いてるのは。死にたくて泣いてるのはこの消えそうな俺だけだよ。誰も認識すらしようとしない俺。生きている価値ないように思える。


「あ、ガルバの子?朝まで大変だよね。ワンタイだけいようか?」


俺だったら舌打ちかましてるところ、奏さんは優しく余裕ある顔して、そんなことをほざいている。こいつ、善人ぶって何がいいんだろ。自分が損するだけなのに。と醜い俺はそんなことを隣りで思っていた。


「え、ありがとうございます!いらっしゃいませ〜!」


まんまと店内に案内された。白を基調とした綺麗な内装。まあ、そんなのはどうでもいい。酒飲みながら煙草吸えればそれでいい。


「京はソフドリね」


「え〜!奏さん、俺もうシラフやで?酒飲みたいんやけど」


「じゃあ、この子のは薄めのウーハイで!」


「しゃーないな。奏さん、何飲むん?」


「俺はハイボールかな」


「自分だけずるいわあ」


「京の肝臓が悲鳴あげてるよ?大人しくこれ飲んで」


とウーロンハイを目の前に置かれた。煙草の火を付ける。灰皿が出される。


「女の子も何か飲んだ方がええんとちゃいます?」


ここの会計もきっと奏さん持ちだから、俺は奏さんに向かってそんなことを提案した。


「京の好きなもの頼んでいいよ」


「え、ほな、テキーラ観覧車で」


と飲みたくもないテキーラの名前を出してふざけると、


「……本当ですか?」


と純粋そうな女の子が真に受けている。


「嘘々、好きなの一杯飲んでええよ」


「ありがとうございます!」


女の子二人が口を揃えて言う。奏さん、俺に格好付けさせてくれた。


「乾杯〜!」


と言って一口飲む。ただの烏龍茶の味しかしない。


「お兄さん達めっちゃ格好良いですね!」


なんて奏さんの方を向いて言う。取ってつけたようなお兄さん達の達の部分。


「お仕事何されてるんですか?」


「ホストです」


と照れたように言う、奏さんと同列に並べなくて、比べられたくなくて、


「俺はペットボトルキャップを飛ばす競技のプロをしてます」


と縁もゆかりも無い仕事(?)を適当に答えた。


「え、すごーい!」


また純粋そうな子が真に受けた。


「自分いつか詐欺に引っかかるで?」


「え?何でですか?」


きゅるんとした目で聴いてくる。


「他人を疑うことを知らないからや」


「私もちゃんと疑いますよ〜!占いは信じないですもん!」


なんてしょうもない返答聞いて、へえ、何座なの?ってくだらない質問をした。


「え〜!じゃあ、めっちゃお金持ちでしょ?奏さん」


俺がくだらない星座占いをしている横で奏さんがペタ褒めされてる。そりゃそうだよな。格好良いのも金持ってんのも性格良いのも、全部向こう。俺なんかが勝てるわけない。不貞腐れてスマホを取りだして、女の子に向かってこう言った。


「俺には接客しなくていいよ。奏さん楽しませたげて」


「何でですか?一緒に楽しみましょうよ!」


そういうの鬱陶しい。俺は俺で楽しくやってるからそっちはそっちで楽しんでればいいじゃん。こんなことを考える俺のが協調性なくて面倒くさい奴なんだろうけど。


「ごめんな。俺もう話す気分じゃないねん」


「じゃあ、ゲームしよ!」


とトランプやUNOを出してきた。


「負けテキーラ?」


「はい!負けテキーラです!」


そう言って始まったババ抜き。俺はジョーカーを引いてしまったので、女の子に引かせたくて、ジョーカーのカードだけを少し飛び出させた。


「これめちゃくちゃ怪しい!」


「ジョーカーじゃないよ」


わっかりやすい嘘。


「本当にジョーカーじゃない?」


「うん!引いてよ。お願い♡」


「わかったよぉ」


まんまと騙された。


「わ!ジョーカーじゃん!」


律儀にリアクションまで取っちゃって、落ち込んでるオーバーアクト。


「ふふっ、可哀想に」


と笑うと


「もう、誰のせいで!」


って怒られた。


「怒ってんのも可愛いね♡」


「うわ、ホストだから褒め上手だ。騙されないようにしよ……」


「えー俺は本気で思ってんねやけど。俺に絆されんのは嫌だ?」


酔ったフリして口説いた。別に口説いたところで何もないけど。


「ううん。嬉しい」


と照れたようにはにかんだ。その彼女の表情を見ると、こんな俺にも少しは価値があるんじゃないかと思えてくる。


「ジョーカーどれ?」


「心理戦?私得意じゃないんだけど」


と一枚、飛び出させる。


「これ、ほんまにジョーカー?」


「ふふっ、うん」


半笑いで答えられたので少し怪しくなって、きっとジョーカーじゃないんだろうから、その飛び出ているやつを引いた。


「やっぱちゃうかったな」


「えー!なんでわかるの?」


驚いて悔しがるフリ。カウンターに寄りかかって、俺との距離が近くなる。


「単純。顔に全部書いてあるし」


「え〜?書いてないけどぉ」


と自分の顔を覆って、不貞腐れた表情。


「あーあと、俺のこと好きって書いてあんなぁ」


ふざけてそんな冗談言って、否定されるのを待っていると、


「なっ、何でわかるのぉ?」


って、がちで照れたように弱った声出して、頬を真っ赤に染めた彼女。やば、俺の方が騙されちゃいそう。


「……冗談のつもりやったんやけど」


「お兄さん格好良いから、一目惚れしちゃって、それで、」


「りなさーん交代お願いしまーす」


内勤が丁度いいタイミングで交代を呼びかけた。


「やば、俺この子指名したい。奏さん助けて?」


「指名すればいいじゃん。何迷ってんの?」


この子の色恋営業に引っかかるなんて、なんかホストとして負けた気がする。なんてちっぽけなプライドを守りたい気持ちは、奏さんのその言葉によってかき消された。


「……そやな。指名するわ」


「え!嬉しい!ありがと〜!」


「ほらグラス空いてんよ。もっと飲みな?」


って気を遣える男を演じて、


「わあ、本当、お兄さんのこと大好きぃ♡」


という言葉を欲しがってる自分はきっともう落ちている。


「俺、ダメだ。もう君のこと好きかもしれん」


「えー、何がダメなの?もっと好きになっちゃいなよ!」


と手を握られる。じゃあ、俺とホテル行けんの?なんて痛い質問が頭に浮かんで、でもキモ客にはなりたくないから口にはせずに、ただ微笑んでいた。


「ねぇ、ジョーカーどれ?」


「えーとね、これ!」


今度は嘘はついてなさそうだから、そのジョーカーを引いた。本当にジョーカーだった。手元には残り二枚。シャッフルせずにそのままカードを持った。


「さあ、引いてよ」


「え?私勝っちゃうよ??いいの??」


「いいよ。もっと酔いたいから」


「え、ずる!私も酔いたーい!」


とジョーカーを取られた。


「あはっ、もう罰ゲームちゃうやん」


「テキーラ乾杯する?」


「うん、満テキでちょーだい」


というとグラスに波々に入ったテキーラを渡された。それをかんぱーいってグイッと一気に飲み干す。


「あぁ、チェイサー欲しい!」


空いたグラスを見せられてねだられた。


「いいよ、いっぱい飲みな」


他人の金で格好付けて、俺はテキーラを薄い酒で流し込んだ。


「京くん、お酒強い?」


「ううん、弱いよ。可愛い子の前では特にね」


「なにそれー?」


「ふふっ、もう酔っちゃったみたい。りなちゃーん」


と彼女の手を握って指を絡める。


「なぁに?京くん」


「りなちゃんはどんな男がタイプなん?」


「えーとね、面白くて、関西弁使ってて、痩せてて、格好良くて、優しい人かなぁ」


「誰やそいつぅ」


「えー!全部京くんのことだよ!気づかなかった?」


「だって俺、格好良くも優しくもないで?」


「京くんは格好良いし、優しいよ!すごいタイプ!」


「ほんまにぃ?」


「本当だよ!」


あー俺ダメだ。こーゆー純粋そうな子からの言葉が一番弱い。


「ふふっ、俺りなちゃんのこと大好きやわ」


「ちょっと待って、両想いってこと!?嬉しすぎる!!」


って繋いでる手を揺らして可愛く喜んでる。


「あーあ、こない可愛い子と付き合えたらなあ」


「え、私もう京くんと付き合ってると思ってた!だって、両想いでしょ?」


「ふふっ、両想いやんね」


「だから、京くんは私の彼氏ね!」


にこにこしながらそう言った。初対面でここまで言っちゃって大丈夫なの?ってくらいぐいぐいくる。


「えー、幸せ!」


「付き合えた記念にシャンパン飲みたいなぁ」


うまいなぁ、本当に。シャンパンを入れたくなってる自分がいるのが怖い。


「奏さーん、シャンパン飲みたいって」


「安いのなら入れていいよ」


安いってどれだ?一万からしかシャンパンないんだけど。


「ポンパいれても捨てるやろ?」


「捨てないって〜!」


俺なら捨てるけどな。美味くないし。


「モエロゼでも飲む?」


「え、良いの?」


「奏さん、モエロゼ頼んでいい?」


とメニュー表を見せながら交渉した。


「いいよ。もっと高いのじゃなくていいの?」


「安いのって言ったやん」


「ふふっ、あの子のこと気に入った?」


「別に。ただおもろいなってだけ」


「そっか。京が楽しそうで良かった」


って綺麗な笑顔。それが何だか憎くて、


「酒のせいだよ」


と虚しく笑った。モエロゼを持ってきたあの子が、


「ありがとうございます!それでは、332211、ぽん!」


とシャンパンを開けた。シャンパングラスで乾杯した。


「嬉しい?」


「嬉しいに決まってんじゃん!ありがとう」


とまた手を握られた。


「良かった。飲み終わんなかったら捨てていいからね」


「ううん、全部飲む!このボトル、家に飾りたいもん」


と嬉しそうにボトルをずっと眺めている。


「え、捨てないん?」


「捨てるわけないじゃん。京くんとの大切な思い出だよ?」


むしろ俺が間違いのようにそう聞き返してきた。


「はあ、もっといいボトル下ろせば良かったわ」


「いやいや、これがいいの!京くんが選んでくれたから」


「ほな、また今度な。いいボトル下ろしたるわ」


「嬉しい!京くんの彼女で良かったあ!」


「俺も!こんな可愛い子が彼女で幸せ!」


なんて嘘を吐き笑っていた。

ワンタイで店から出ると、もう日が昇っていて、眩しかった。


「京、通うの?」


「は?通うわけないやん。ただ色恋かけてただけやで」


「夜に染まったね、京も」


「まあ、コスパ悪ぃから二度せぇへんけどな」


と煙草に火をつけようとすると、


「路上喫煙やめな?」


って咥えてた煙草を奪われ、不敵な笑みを見せられた。


「別にええやろ。返せ」


「嫌だよ。てか、吸いすぎ。さっきも吸ってたじゃん」


「俺の肺と腹はもう真っ黒なんですぅ。手遅れなんですぅ」


猫じゃらしで遊ぶ猫のように掴めそうで掴めないところで煙草を持たれて、奏さんに遊ばれてる。


「何で煙草なんか吸ってんの?」


「奏さんも吸ってんじゃん。人のこと言えんやろ」


「俺はただのストレス発散。ストレスを感じた時にしか吸わない。京は?」


「俺は、はやく肺がんになんねぇかなって……」


「早死したいから吸ってんだ」


「ダメ?」


「だーめっ♡京は俺のために生きて?」


と首に腕を回されて、今にもキスしそうな顔してる。


「奏さん、酔ってんの?」


「酔ってないよ。ただ、口説いてんの」


「何で俺なんかに……趣味悪すぎ……」


とそっぽ向くと、顎を掴まれて戻されて、また目の前に奏さんの顔がくる。顔近っ!イケメンすぎて眉をしかめた。


「俺、結構優良物件だと思うんだけど?」


その余裕そうな表情、ムカつく。


「そんな優良物件な貴方とは釣り合わないほどの劣悪物件なので、お断りさせていただきます」


奏さんの胸を押して、腕の中から逃げ出した。この劣等感がある限り、俺は誰ともうまく付き合えない。


「ちょっと待って、優良物件って京のことを言ったんだよ」


「自分じゃなくて?」


「俺はそんな自惚れてない」


「じゃあ、何?そんな顔面持ってて、自分のことをブスだって思ってもないのに言って、承認欲求満たしてるタイプ?」


って早口で捲し立てて、嘲笑った。


「違う。そうじゃない。京は容姿に囚われすぎだよ……」


「あーはいはい、ごめんなさい。ブスの僻みですさようなら」


あー自分でも自分にイライラする。こんな僻みを聞かされて奏さんが可哀想だ。何でこんな、つまんないこと言っちゃうんだろう。


「待って!京!!」


手を掴まれる。振り払うようにして勢いよく振り返った。


「何!?まだなんか用?」


「……抱きしめてもいいかな?」


自信なさそうにそう聞いてくる。意味がわかんなかった。こんな状況で言うことじゃない。


「嫌です!これ以上、奏さんと一緒にいると傷付けちゃうんで、今日は帰ります」


とまた振り返って、奏さんに背を向けた。


「傷付いてもいいよ。俺はまだ京と一緒にいたい」


奏さんは俺の指先を弱々しく掴んで、引き止めてきた。


「奏さんはさあ、そんなに俺のどこがええの?すぐヤレそうなブスで馬鹿で貧乏人の障害者だから?」


指を四本立ててケラケラ笑うと、後ろから、京!っとうんざりした怒気がこもった声が聞こえた。


「確かに初めは性欲だった。京にキスされた時、その可愛さに一目惚れした。だけど、京が悩んで苦しんでる姿を見て、それを何とかしてあげたいって気持ちのが大きいんだ。今までたくさんのメンヘラと会ってきたけど、こんな気持ちになったのは初めてだよ。これが恋じゃないならば、俺は恋が何だかわからないね」


「じゃあ、アンタは俺に見返りなしの金を百万くれんのかよ」


兄貴の愛情を思い出してそう言った。


「あげられるよ」


「じゃあじゃあ、俺のために殺人はできんの?」


次は、ルイルイの愛情を思い出してそう言った。


「殺人は無理だけど、京のことを傷つける奴は容赦しないね」


「……奏さんは俺と一緒に死んでくれんの?」


最後に、湊のことを思い出してそう言った。


「俺が京を死なせないようにする」


俺の欲しい言葉はそれじゃなかった。最期は一緒に死のうねって言えば喜んでくれるようなあの子が、俺は恋しい。


「わかりました。ありがとうございます。選考は以上です。結果は後日ご報告致します」


「それ、答えわかりきってんじゃん」


と突っ込まれた。


「……後日ご報告しますから」


「やっぱ今の彼女がいいの?」


悔しさの色も見せずに何気なく微笑みながらそう聞いてきた。


「うん。奏さんはとっても優しいけど、きっと俺といると疲れちゃうよ。だって、頭が正常だもん」


「何か悔しいのか悔しくないのかよくわかんないや」


って笑われた。


「奏さんはモテるから大丈夫だよ」


「あーあ、可愛い京を俺の手で汚してみたかった」


「は?そんなこと考えてたん?」


「そりゃあ、事前に好きな子とのセックスを妄想するのは当然でしょ」


「危ねぇ……毎日泣かされるところだった……」

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