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ヘミングウェイ

世の中が提示してくるものに首を傾げて、斜めの角度から「良いんじゃん」と適当にあしらうのが、京一さんという人だ。

今日、美術展に来ている。京一さんは興味があるのかないのか分からないけど、作品の前でじっと止まって難しい顔をしたり、かと思えば、見てこれ、と笑いかけてきたり、素通りしたり、最後までよく分からなかった。

けれども、僕にとっては美術展はただの写真スポットであり、好きな作家も何もないため、一眼レフを首に下げていられるだけで良かったのだ。

ちょっと装いきな服で頑張ってくれた京一さんには度々深く感謝申し上げたい。

ソフトクリームを買って、暑くなったテラス席で食べる。

この暑さにさえ慣れてしまえば、快適になるのだから人間は変温動物なのかと疑ってしまう。


「どうしたか?美術展は?」


「楽しかったよ」


それだけ言うと、僕のソフトクリームを一口奪われた。


「湊は?」


驚いた、ソフトクリームを喉に通したあとに聞き返された。


「僕は良い写真が撮れたので満足です」


「結局、写真かよ」


と笑われた。


「それじゃあ、京一さんは何が楽しかったですか?」


「んー作品の良いところ探しかな?」


「楽しいんですか、それ」


「粗探しよりは楽しいよ」


その笑顔に鳥肌が立った。またもや恋に落とされた。この人を好きでよかった。


「京一さんは美しいですね」


「美術展に並べたい?」


「いいや、僕の手元に置いておきたい」


「こっわ」


「あははっ、僕だけで良いじゃないですかあ、京一さんの魅力を知る人は」


「冗談?」


「本気です」


と上機嫌で返した。



美術展で作品と並んで写真を撮られた。

俺がピンぼけして見えなくなればいいのに、と願っていた。きっとそうならないだろう。カメラは現実を写す。

創造を超える美しさはない。

俺にはそれに並ぶ価値はない。引き立て役に回るしか術はない。けれど、湊に俺の冗談は通用しない。こっわ。


「湊はインスタとかやんないの?」


「やりませんね」


「写真好きならやればいいのに」


「楽しみは自分だけで楽しみたいじゃないですか」


ああ、なるほど。と思うと同時に、やっぱり、エゴイスト。とも思った。


美術展では「俺もこれなら描けそう」なんて思う作品があった。けれども俺なんかには到底描けなくて、俺では理解できない良さがそこにあるんだと思うことにした。結局、俺とは違う人間。

美術展は勿論楽しめた。俺も作品の良さは感じることはできる。だが、世間一般の良さとは違う良さが見えているんだろうなと思った。

例えば、展望台で夜景を楽しむのではなく、飛び降りてみたいと高揚する気持ちによく似ている。


「世の中に正当に評価されてる人って絶対にいないですよね」


ソフトクリームのコーンを齧りながら、中学生らしからぬ、発言。


「お前の評価基準が間違ってんじゃね?」


と冗談で言う。俺も正しいとは言えないから。


「ああ、そっか」


と一瞬納得しかけて、逆説で始まる。


「けど、それなら評価基準を発表すべきですよ。絵画でも文学でも何でも。そうじゃなきゃ、何でこんなのが評価されてんだって思っちゃわないですか?」


「確かに」


「正直、僕の写真って一般受け悪いんですよ」


とスマホ画面を見せられた。


「インスタ、やってたんだ」


スマホ画面には街中の風景写真、花、空、ゴミ。笑っちゃう、湊っぽい。


「ずっとやってても、いいねもフォロワーも全然増えないから、飽きちゃいました」


「本当だ、全然更新されてない」


「やっぱり、顔なんですよね」


美男美女にしかフォロワーもいいねもついてこないって。分かる気がする。


「俺は好きだよ、この写真とか」


「ああ、そういうのはやめてください」


と謎に照れて


「僕の好きは僕だけの好きで良いですよ」


と俺の手からスマホを奪った。


「俺も好き、じゃダメなの?」


「…京一さんになら、良いかも、です」


「ふふっ、照れた?」


からかい混じりに笑ってやると


「そりゃあ、照れるに決まってるじゃないですか。意地悪ですね」


と笑い返された。

汗をかくのは暑さのせいだけじゃないと知った。



「ヘミングウェイって知ってますか?」


「知らない」


と興味の無さが伺える単語返しを無視して話したいことを続ける。


「え、知らないんですか?そんなの、ノーウェイ、ヘミングウェイですよ」


「なんだよそれ」


「それは眼目さんに聞いてください」


「…言いたかっただけ?」


「ふふっ、正解です」


けれど、読書感想文用に「老人と海」を借りた。京一さんに読んであげて、と言われて。

巨大カジキを釣る老人の話らしい。

少年漫画みたいなところが眼目さんのおすすめポイント。


「その本、何?」


「老人と海、読みますか?」


本を受け取ると、寝っ転がって読み始めた。

暫くすると、


「ああ」


と唸って、本を床に置いた。


「つらい」


僕の方を見て、何か言いたげにしてる。


「どうしたんですか?」


その様子を見て、僕はにやけてしまった。


「つらいよお、湊」


とゾンビのように這って笑いながら近づいてくる。


「あはっ、何なんですかあ?」


「ふふふっ、言いたいだけ」


僕の手を握って、揺らして遊んでる。


「湊はどうして頑張ってるの?」


「京一さんと心置きなく遊ぶためです」


宿題をすべて終わらせれば、夏休みの残りの期間は楽しく遊んでいられる。


「可愛い、俺も手伝う」


という京一さんの方が僕にとっては可愛い。

読書感想文の方眼用紙を取り出して、老人と海を読んで、青柳湊と書き込んでいる。


「筆跡が違いますね」


綺麗で整っている字。僕の解読不能と呼ばれる字とは大違い。


「代筆、氷野京一郎。これでいい?」


と方眼用紙に京一さんの名前が書かれた。


「ふふっ、最高ですね」


真剣に本と方眼用紙に向き合う京一さんはいつもと違って見えた。より一層、魅力が溢れている。


「失ったものに目を向けると人間は孤独や虚しさを感じると思った」


「愛ゆえにカジキを殺した老人にはカジキへの所有欲を感じた。けれども、この寂寥感から逃れるには、所有ではなく絶対的信頼が重要だとカジキと少年の対比から読み取った」


「作中で眼の描写は生命力の表れであり、最終的に眼を閉じて夢を見た老人は死んでしまったと考察できないだろうか」


「老人とカジキの命を懸けた戦いでは、両者の強靭な気高さを見て、大いに感動した」


方眼用紙には僕では思い付かないような大人びた文が並んだ。


「僕はこの老人のような人間になりたい」


という最後の一文には、上から線が引かれている。これがあると本当に俺の感想文になっちゃうから、と言って京一さんは悩んでいるが、その文があってもなくてもこれは京一さんの感想文じゃないのか、と僕は疑問に思った。


「この少年、湊に似てるよね」


と言いながら、感想文を書いていた京一さん。この老人と少年は相思相愛と言っても過言ではないと思う。


京一さんの読書感想文に感銘を受け、僕のレベルに合わせる気はないのだろうと悟った。


「僕ではこんな素敵な文章は書けませんよ、わざとですか?」


「若干…?」


といたずらっぽく笑う彼はやっぱり大学生に見えた。



世の中は今日も平行線。

角張った部屋で息をしている。

天変地異を願っても、寝っ転がっても、起きやしない。

幸せの量が足りてないのなら、罪を犯して補充してみれば。

あーあ、地に背中がくっつきそうだ。

罪も金も地位も幸福も全部、間違いであれ。


「僕の母に京一さんのことを話したら、今度お会いしてみたいって伝えて、と言われました」


「無理、合わせる顔を持ってない」


「あるじゃないですか」


と湊は不思議そうに俺の顔の輪郭を手で確かめている。


「まあ、顔はあるけど。合わせる顔はないの」


「合わせる顔ってどんな顔なんですか?」


「ああ、わかんねえ。少し考えさせて」


合わせる顔がないっていう言葉は面目なくて会いたくないって意味で、俺の何が面目ないかというと、窶れ腐ったゴミであることだから、、、


「まともな人間の顔、が俺の合わせる顔かな」


「大丈夫ですよ、そのままでも」


「何処が?」


湊のお母さんは話を聞くかぎり優しい人だ。けれども、湊がこんな堕落した大人と関わっていると知ったら、もう湊と会えなくなるかもしれない。


「顔良いじゃないですか」


「ああ、意味わからん」


会話が噛み合ってない気がする。


「会ってみませんか?」


「嫌だ、無理、ゴミだから」


「じゃあ、そう伝えておきます」


「待って、変な風に伝えないでよ?俺に不備があるから会えないだけで、会いたくないわけじゃないから」


「わかりました、ちゃんと伝えますね」


「めっちゃ不安だわあ。でも、そもそも湊って俺のこと、どういう風に伝えてるの?」


「近所の構ってくれるお兄ちゃん、って感じですかね?」


「薬中なことは?ダメ人間なことは?」


「伝えてませんよ、それに今は違うじゃないですか」


「いや、そんな俺を美化しないでよ」


「でも、寝てばっかでぐうたらしてて食事もろくに取らないとは伝えてあります」


「ああ、うん、十分だわ。それで、それを聞いて、お母さんは?」


「笑ってました」


「どんな感じで?」


「えへへ、みたいな感じ?」


と再現されると苦笑いに見えて不安が浮かぶ。


「うわあ、駄目だあ」


「加えて、湊が気に入った人なら良い人なんだろうねって言ってくれましたよ」


「どうしよう、湊」


「僕の立場からしたら、会って欲しいです」


「どうして?」


「そしたら、僕の部屋も使って遊べるじゃないですか」


「そっか」



今日、京一さんが僕の部屋に来る。というか、京一さんを連れて行く。が正しい表現。


「大丈夫ですか?」


「一応」


なんて言ってはいるが、いつもよりも口数がかなり少ないし、周囲への警戒心が強い。

それに、お洒落な服装してるし、髪にワックスも付けている。


「ただいまあ」


と僕が家に入ると、ママが小走りで駆け寄ってきて、おかえりと言ってくれる。


「こんにちは、氷野です」


と大人びた京一さんが挨拶していて、少しおかしかった。


「いつもお世話になってます」


なんてママも大人同士の会話を始めるから、普通にすればいいのに、よく分からない。


テーブルの上には見慣れない和菓子と緑茶が置いてある。

京一さんも高そうな包装をされたクッキーを買っていた。「もっとたくさん食べれるお菓子」が良いというリクエストは却下された。

結局、食べるのは僕なのに。

二人とも無理してて、笑えた。大人の世界は窮屈そう。

僕は子供らしく、ソファに座り映画を見た。


自己紹介を終えた二人の話し声から聞こえるのは僕の話題ばかりでよく飽きないなあ、と思いながら、主人公の危機を笑っていた。

僕が過去にしたことから今日に至るまでを話尽くさないと、お喋りが尽きないのかもと心配になるくらいお喋り好きな二人だ。


「湊のお芝居見る?」


と僕のママが京一さんに勧めていて、ああ、そんなこともあったと思い出した。過去の記憶はだいぶ忘れたいものばかりだったから。


「見たいです」


と期待している表情の京一さんが可愛くて、その反面、その期待を裏切ってしまう不安が大きくて、元々、あまり見て欲しいものじゃないのもあって、


「恥ずかしいよ」


なんて少しだけ否定の意味を込めて笑った。


「良いじゃない、見てもらいなさいよ」


と僕のママはこれをネタにまだ話しを盛り上げるつもりなんだろう。

見てもつまらないですよ、と京一さんにせめてもの期待値を下げた。


私立小学校に通う子供の役。電車バス通学のため、放課後に遊び相手がいなくて、厳しい母親に従い勉強ばかりの日々。ひょんなことから地元の小学校に通う子と友達になって、一緒に時間を忘れて遊んでしまい、母親に怒られてしまう。そして、抑圧されていた気持ちを爆発させて、衝動的に家出をする。そこを警察に保護をされて、説得、心を動かされ、涙の仲直り。みたいな話。


「僕、このシーンあんまり好きじゃない」


母親と言い合いをするシーン。

画面の中の僕は「僕が何しようと僕の自由じゃん」って母親に怒鳴るんだ。


「ふふっ、笑っちゃってるね」


下手くそな演技を京一さんに指摘されてしまった。

泣く演技と笑う演技はどちらもよく似ているから。

騙せたのは、監督と僕の父親ぐらい?


「このシーン、大変だったのよ。湊が笑っちゃって」


ちょうどいいタイミングでキッチンにいる僕のママが思い出話を持ち出してくる。

京一さんの言う通り、あの時の僕は笑いこらえるので必死だった。


「京一さん、もっと良い演技の僕を見てください」


リモコンで一時停止すると、同じシーンの違う映像を流した。ボツにされたやつ。


その中の僕は台詞を無視して、「ごめんなさい、ママ」と泣きながら笑っている。


「けれど、どうしても何か苦しいんだ」


俯いて胸の辺りを握って、最後、ママに笑顔を見せてから、家を逃げるように飛び出した。

カットがかかる。良い演技なのにボツにされてどうも不満だって顔してる僕が映った。


「ああ、湊だ」


隣りに座っている京一さんが呟く。


「そうですよ」


「演技じゃないね」


「……確かに」


ボツにされた理由がやっと分かった。


「俺は好きだけど」


それって僕にそのまま好きって言ってるのと変わらない。隣りで打ちのめされてしまって、テレビを真っ黒のままにした。


「湊も京一郎くんも、お昼どうぞ」


キッチンから美味しそうな匂いがしていた。

一区切りついた僕達はソファーから立ち上がる。

テーブルに置かれた料理を見て、京一さんが戸惑った顔をしている。炒飯なんて油っこいものは食べられないからだろう。


「そんな、僕の分まで。わざわざ、ありがとうございます。けれど、本当に申し訳ないんで」


と京一さんが断ろうと言葉を選んでいると、


「ううん、遠慮しないで食べて。貴方は食べた方が良いわ」


とママが京一さんの手首を掴んで、言葉をストレートに伝える。


「京一さん、食べなくていいですよ」


「湊、何でそんなこと言うの」


「炒飯は油っこくて食べられないから」


「……すいません、拒食拗らせてて」


京一さんが申し訳なさそうにしている。


「いえ、こっちこそ配慮が足りてなくてごめんなさい」


ママが僕に少し怒り口調で、そういうことは伝えておいてと言ってきた。


「ごめんなさい」


この悪い雰囲気、全部僕のせい。


「でも、少しだけいただこうかな。とても美味しそうなので」


と笑顔を見せる京一さんは一瞬で雰囲気を良くしてしまった。まるで魔法使いみたい。

けれど、無理してそうで心配になる。後で吐かなきゃ良いけど。


お昼を終えても、京一さんはママと話している。僕の部屋に連れて行きたいのに。


「京一郎くん、スキンケアとかはしているの?」


「スキンケア、ですか?そうですね、そういうのには疎くて、適当に水でバシャって」


「やっぱり、そうだろうと思った。洗顔と化粧水だけでも是非使ってみて」


「え、でも……」


京一さんはスキンケアとか面倒くさがりそうだけど、僕が管理しなければならなくなりそう。


「そのニキビ、せっかくの綺麗なお顔がもったいないわ」


と自分の頬を指差している。きっとママは京一さんが整った顔をしているからわざわざこんなことを言うんだ。普通の人だったら言わない。


「そんな、いえ、すいません、ありがたく使わせていただきます。けれど、」


と京一さんは財布を取り出した。


「お金なんていらないわ、次会う時に貴方がもっと格好良くなっていれば」


今でも十二分に格好良いからね、と付け加えた。ママは美人が好きだけど、美を磨かない美人は嫌いな人だ。太ったモデルや俳優を見ると、もったいないってよく言っているから。


「頑張ります」


俯き気味に答える京一さん。僕が手伝わないと。


「ママ、そろそろ京一さん貰っていい?」


映画見終わってしまった僕は京一さんに部屋紹介がしたくてうずうずしている。


「あら、ごめんなさい。楽しくてつい喋りすぎてしまって」


「いえいえ、僕も楽しかったですよ」


そうやってまた二人で話し始めそうだから、京一さんの腕を引っ張って、僕の部屋に強制的に連れ込んだ。


「湊、引っ張んないで。痛い」


「京一さん、ママに気に入られたみたいですね」


「え、何処が?」


「すごい喋ってたじゃないですか」


「あれは、湊のことをよく聞きたかったからで。俺自身はたぶん嫌われてるよ」


「何で?」


「普通じゃないじゃん。せっかく作ってもらった料理も食べられないし、顔も見ていられないほど酷いからスキンケアまで勧められた」


「それは違いますよ、京一さんが特別格好良いからそうなったんです」


「ふふっ、そうだといいけど」


「そうですよ、僕のママは顔が良い人が好きだって言ったじゃないですか。だから、もっと格好良くなったらもっと好かれちゃいますよ」


「あの三上ミオに好かれるなんて、人生も捨てたもんじゃないかもなあ」


「好きなんですか?」


「んー、こんなこと言っていいのか、わかんないけど、俺も男だからさ、やっぱり、その、綺麗な女性には好かれてたいよ」


「ですね」


「あ、湊が共感した」


「僕は綺麗な人は男女構わず好きですから、性的な嗜好とはまた違うけど」


「へえ」


「引きました?」


「いや別に。俺はどう見られてるんだろうなあって考えてた」


「京一さんは京一さんですね」


「何それ、わかんねえ」


「例えば、血液みたいなものです」


「はあ?」


「無ければ死にます」


「それは言い過ぎ」


「でも、本当に僕の身体の中に流れてるみたいに感覚的に好きです」


「あっそ」


と興味無さげに返答されて会話が途切れそうだったので、こんな馬鹿げた質問をしてみた。


「じゃあ、京一さんにとって僕は何ですか?」


「んー、介護さん???」


と笑って、嘘だって、一瞬だけ落ち込んだ僕をまた笑った。僕は笑ってたのに。


「真面目に答えると、ドラッグの代替品かな」


「それは真面目に答えてますか?」


「まじ、大真面目に答えてるよ」


冗談なのか本気なのかわかんないけど、ずっと笑っている。


「ふふっ、嬉しいです」


僕が笑うと、京一さんは安堵の表情を見せた。


「モデルガンばっか」


クリスマスと誕生日にプレゼントされる。壁に飾ってあるのがお気に入り達。


「好きなんですよ、格好良いじゃないですか」


「銃で殺されたいの?」


撃たれたいじゃなくて殺されたいと聞くところにキュンとくる。


「はい、是非とも殺してください」


と僕が壁にかけてある銃を京一さんに差し出すと


「いや、ナイフのが良い」


と断られた。けれども、殺すことは断られていないから


「僕はどちらでも構わないですよ、京一さんに殺されるのならば」


と言ってみた。京一さんに滅多刺しされてみたい、高揚感。


「わかった、俺が殺してやるからそれまで死ぬんじゃねえぞ」


と落ち着いた口調で話す京一さんが死ぬほど格好良すぎて


「あははっ、大好き愛してる」


と抱きしめてしまった。


「バレちゃうよ?」


部屋の向こうにママがいることを思い出したが


「何か問題でも?」


と強気にみせた。


「お前が気にしないなら別に」


ママは僕が何をしようと干渉はしない。言われるとしたら、父親の方だ。


「京一さんは気にするんじゃないですか?」


三上ミオに好かれたいのなら特に。


「まあ。でも、これが良い」


と僕の抱きしめている手を上から撫でてくる。


「僕、こんなに幸せで良いんですかね?」


人間は幸せになるために生まれてきた、なんて戯言。今は信じてもいい。


「まだまだこれからじゃん」


なんて笑う京一さんをもっと愛してみたくなった。



九月一日。学生にとって、地獄な日。


「いってきます」


と夏休みの終わりと同時に学校の始まりを感じて落ち込み不安がる湊に


「あと、二日でドラえもんの誕生日だから」


と自分でもよく分からない励ましをした。


「ドラえもん、まだ生まれてないですよ」


的確な突っ込み。


「だけど……」


言葉が詰まる俺に対して、


「ドラえもん誕生日スペシャルは一緒に見ましょうね」


と言ってくれる湊はとても可愛い。


「もちろん、楽しみだね」


湊が頑張れるように心を込めて抱きしめる。


「京一さん、遅刻しちゃいますよ」


離れたくなくて抱きしめていたら、湊に笑われてしまった。


「ああ、ごめん。いってらっしゃい」


と離れて手を振ると


「大好きです、いってきます」


と照れながら大好きだと言ってくれる湊に殺られて、ドアが閉まった玄関で暫く立ち尽くしてから、ベッドに寝っ転がって嬉しさで悶えた。


「俺も頑張んなきゃ」


大学にでも行ってみようか。



「疲れなんて無いさ、疲れなんて嘘さ。怠けた人が言い訳したいのさ。だからもっと、だからもっと、僕ならやれるさ」


久しぶりの授業に、脳みそがオーバーヒートしている。変な替え歌を口ずさみながら、自身を励ましても、頑張れそうにない。


「何?その歌、ブラック会社みたい」


「ああ、真城さん。お久しぶり」


机に突っ伏しながら、挨拶をした僕は礼儀がなっていない。


「久しぶり、青柳くん。元気だった?」


「元気だったけど、もう元気じゃない」


「確かに、大丈夫?」


と疲れている僕を面白がっているのか彼女は笑った。


「ああ、頭おかしい」


と僕が笑うと


「え?」


と彼女が驚いた顔をした。そして、


「私、なんか悪いこと言っちゃったかな?」


と独り言っぽく、小声で言っていた。


「ん?」


僕は彼女がよく分からない。


「ごめん、青柳くん。怒ってる、よね?」


「え?怒ってないよ?」


「でも、私のこと頭おかしいって」


「いやいや、言ってないよそんなこと」


「言ったよ、私が大丈夫?って聞いたとき」


「ああ、それは僕の頭がおかしいってこと」


彼女はそんな勘違いをしていたのか。

彼女の手を僕の額に当てる。


「ほらね、オーバーヒートしてるでしょ?」


「ああ、本当。頭おかしい」


と彼女が手をすぐに引っ込めて、僕を睨んでくる。僕に触られるのが嫌だったんだろう、ごめんなさい。


「ごめん、やっぱり頭おかしいね」


僕に触れられて喜ぶ人なんていないのに。

京一さんに狂わされちゃったな。


「私こそ、ごめん」


とだけ言って、彼女は離れていった。

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