どうもこう廃人として生きる術しか身につけられない
結愛ちゃんとの遊園地デート。朝9時開園なのに、朝8時から並んでいるのどう考えても頭悪い。こんな時間、無駄でしかないのに。あーそんなこと考えんな。期待値が高まっている彼女に合わせてテンション高く接してあげて満足させてあげたいけれど、朝に滅法弱い俺はテンション低く、彼女に後ろから抱きついて寄りかかって寝ていた。
「京くん、みんな見てるよ?」
「んー、ええやろ別に。俺の結愛ちゃんやあって知らしめてんの」
「可愛いね」
兄貴とのあの一件があった日のその次の日からまたホストを始めた。結愛ちゃんには連絡取れなくて心配されたけど、携帯なくしてたって嘘ついた。店には無断欠勤分の罰金を請求された。兄貴から貰った百万で全部払った。奏さんにはあの後から声をかけられていない。俺はあの人のことちょっぴり怖いと思って、少し距離を置いている。
「結愛ちゃーん、まだ開園せぇへんの?」
「うん、あと三十分くらい待ってね」
「そか。はあ、煙草吸いた……」
と思ったままを口にしていると結愛ちゃんの表情が曇っていく。湊だったら、俺の性格を分かってて開園前に並ぶことなんかしないし、喫煙所で吸ってきていいと言ってくれんのに、君はそうじゃないから、あーなんかストレス溜まる。仕事なんだから文句言うなって話なんだけどね。
「京くん、楽しみじゃない?」
「え、そんなんじゃないよ。めっちゃ楽しみやで?はよ、耳付けたいわ」
テーマパークお決まりのカチューシャ。これのどこがええねん。みんなでみんな揃いも揃って付けまくって、浮かれてる奴ばっかでおかしなるわ。って、こんな場所で浮かれてない俺のがおかしいんだろうけど。
「え〜!お揃いの付けよ!」
「うん!それでいっぱい写真撮ろな」
と嘘を塗り重ねて機嫌を取る。女の子ってめんどくさい。きっと湊もめんどくさいタイプなんだけど、湊自身でそれを自覚している分まだめんどくさくない。
開園したと同時にたくさんの人が中に入っていく。結愛ちゃんは入口のオブジェを撮って、自分自身を俺に撮らせて、ツーショも撮ってと写真を撮りまくっている。
「ねー、私盛れてない!もう一回撮って!」
とめんどくさいこと言うから、動画を撮っておいた。そしたら、「え!動画なのー?」って笑ってくれた。俺なんか、盛れてる写真ひとつもないけどね。
「結愛ちゃん、かわいっ♡」
と撮れた写真を見返して、可愛いと褒めるとそれだけで彼女はだいぶ満足したようで幸せそうに微笑みながら、俺の腕に抱きついてきた。
「京くん、カチューシャ見ようよ!」
俺はこんなの一ミリも興味が無いし、何なら付けたくないのだが、俺は彼女の奴隷だ。金を頂いている分、その対価として楽しさを提供しなければならない。
「わ、どれも可愛ええなあ。こーゆーの結愛ちゃんに似合うんちゃう?」
適当に選んだリボンのついたふわふわの白いカチューシャ。可愛らしい結愛ちゃんによく似合っているって勝手に思っている。
「ん〜、確かに!今日のコーデにもよく合ってると思う!」
偶然、ふわふわの白い上着を着てたからなんか統一感出てよく見える。自ずと、正解を引けた。
「うん、似合っとうよ」
「じゃあ、京くんのは私が選ぶ!」
と選ばれたのはふわふわのクマみたいなカチューシャ。え、大丈夫これ?なんか、コーデと合ってなくない??
「……どお?似合っとる??」
鏡を見ても不安が拭えなくて、結愛ちゃんの方をぎこちなく向いてしまった。
「あははっ!京くん可愛い〜っ♡♡」
と笑われたので似合ってないんだと確信した。けど、自虐的でも笑いが取れるのは大きいので、カチューシャを外さずに
「めっちゃ笑うやん!そんなに似合っとる??」
とボケをかました。「あははっ、似合ってる似合ってる!」って大爆笑された。どんだけ似合ってないねん。
会計を済ませてカチューシャを付けるやいなや始まるのはまた自撮りタイムだ。そろそろ自分の顔見んの嫌になる。
「京くん、顔ちっちゃ!私よりもちっちゃいじゃん!」
そんなんある訳ない。お世辞にも程がある。ツーショ見ても同じような大きさしてる。湊は俺よりももっと顔が小さくてもっと目が大きくて可愛い。
「そんなん比べるもんちゃうて。結愛ちゃんは結愛ちゃんやから可愛ええんよ?」
醜形恐怖の気持ちがわかるから、ツーショで隣りの人と比べてしまう気持ちがよく分かる。隣りに写る君はとても可愛い顔をしているのにそれに比べて俺は、とても醜く気持ち悪く写るんだ。
「うーん、そっかあ」
「ほんまに、ここにおるすれ違う女の子見ても、俺には結愛ちゃんのが可愛く見えとるし、やっぱ可愛ええんやなって隣り歩いてて誇らしくなるわ」
「そお?」
「そやで。結愛ちゃん、めっちゃ可愛い!」
と嘘でもベタ褒めして、どうにか機嫌を勝ち取った。でも、こういう人混みで醜形恐怖を拗らせて、全てが楽しくなくなる経験を俺もしたことあるから、そんな悲しい経験はして欲しくないという純粋な俺の気持ちも含まれていた。
「京くん、ありがとね。京くんを好きでいて良かったよ」
「こちらこそ一緒にいてくれてありがとう。これからもずっと好きでいて?」
「うん!ずっと好きだよ♡」
「ふふっ、俺も好き♡」
と照れるように言っちゃって、俺らは付き合いたてのバカップルか、とツッコミたくなった。こんなん嘘の好きなのに、何照れちゃってんだろ。ただ金のためにやってんのに。
一緒にアトラクションに乗って、純粋に遊園地が楽しくて、俺はテンション高く笑っていたと思う。湊のことなど忘れて、ただ目の前の女の子に楽しんでもらうことに精一杯で。俺は素面なのにその子の頬にキスをしてツーショを撮った。
「ふふっ、京くんにちゅーされちゃったあ!」
と嬉しそうに笑う彼女に
「愛してる証拠やな」
ってもっと喜びそうなことを付け加えた。
「スマホのロック画面にしちゃおー♡」
「あ、ずる!俺にもその写真ちょーだい?」
と今日だけはスマホのロック画面を初期設定から俺と結愛ちゃんのツーショに変えた。ああこれ、スマホを見る気が失せてええなあ。
塩味のポップコーンを食べて、口の中にその皮が刺さる。それでも美味しいからって食べ進めていると、彼女に食べすぎだと怒られた。
「京くん、ポップコーン好きだよね」
「うん。映画観る時はいつも買ってまう」
「しかも毎回、塩味だし……」
「え、キャラメルのが良かった??」
「いやそーゆーわけじゃないけど、いつも塩味は飽きない?」
「別に飽きたりはせぇへんけどなぁ……」
毎日食べる訳ちゃうし。映画観る時だけやし。まあ、毎日食べたら飽きるんやろうけど。
「あ、見て!チョコレート味だってさあ。食べてみよーよ!」
と彼女に引っ張られてチョコレート味のポップコーンを買うと、何とも甘ったるくて手が進まなかった。
「結愛ちゃん、俺もうお腹いっぱいやあ。食べてくれへん?」
「あれ?お口に合わなかった??私は意外と好きだけどなあ。甘くて美味しくない?」
「んー、お腹いっぱいやあ。空腹なら食べたんやけど」
「そっか、じゃあ私が食べちゃお!」
やっぱポップコーンって女の子みたいだな、としみじみ思って、塩味とキャラメル味のハーフアンドハーフみたいな結愛ちゃんを味わった。
夜になってレストランに入ると、結愛ちゃんは可愛いカクテルを頼んで、俺も同じように度数が強そうなカクテルを頼んだ。
「へえ、こーゆーテーマパークって酒飲めるんやね」
「うん、せっかくだし乾杯しようかなって思って」
「俺、お酒大好きだから嬉しい!」
と嬉々として乾杯して一杯飲んだのは良いが、圧倒的に飲み足りない。え、これ酒入ってた?ただの美味しいジュースじゃん。
「あ、飲み足りないって顔してる」
「ふふっ、バレた?」
「京くんはいつもが飲み過ぎなんだよ」
「結愛ちゃん、たくさん飲ませてくれてありがたいよほんま」
「潰しちゃってごめんねって思ってはいるんだけどさあ、京くんはシャンパンを下ろすとめっちゃ喜んでくれんじゃん?そんな他の子よりも良いシャンパンなんか下ろしてないのに……」
「結愛ちゃんと飲めるお酒は格別に美味しいの。シャンパンで俺のこと呼び戻してくれんじゃん?それがめっちゃ嬉しい♡」
「私だって京くんと一緒に飲んでたいし、」
「俺も結愛ちゃんと一緒に飲んでたい。こうやっていま飲めてんの、幸せだね」
「ふふっ、京くんともっと一緒にいたいなあ。一日だけじゃ足らないよ」
「俺も。明日も明後日も、その先もずーっと全部の予定なくして、結愛ちゃんと一緒にいたい。離れたくないね」
「ああ、明日の仕事行きたくないよー」
「いつも頑張ってるもんね。偉いよ。またお仕事頑張ったら、ご褒美にまた何処か一緒にいこうね」
と彼女の頭を撫でた。それで従順に従ってくれる彼女がなんとも可愛らしい。
「京くん、ありがと」
「ううん。こちらこそありがと」
って夢のような時間を過ごした閉園間際。結愛ちゃんは名残惜しそうにパーク内を見つめていた。
「終わっちゃうね……」
「うん。また一緒にこようね」
と彼女の腰に手を回して抱きしめた。身体を密着させると寒さなんか感じなかった。
「京くん、大好きだよ」
「ありがと。俺も大好き」
って今日何度も付いた嘘。この言葉を発する度に自分が穢れていく気分だ。終電で帰った駅のホーム。街灯が光ってるだけで、辺りは暗く人気もない。お土産で買ったお菓子は湊のためだけど、自分で食べるって言い張った。お揃いのキーホルダーも買わされたけれど、こんなのどこに付ければいいのか分からなくて、客に横流ししようかなとか考えちゃう。俺が働いてるコンビニでは店長が漫画を読みながらレジ打ちしてる。こんな楽しかったのに楽しかったよとも言えずに、楽しくない現実がこれから続いていくのが察せて何とも虚しい気持ちになった。
「京一さん、おかえりなさい。楽しかったですか?」
「ううん、ただの仕事だもん。疲れたよ。はい、これお土産。食べていいよ」
とぶっきらぼうに湊にお菓子を与えた。湊はそのお菓子をつまんで「美味しいですよこれ!」って喜んでるけど、俺はそんなのどーでも良かった。
「京一さん、どうしたんですか?何か嫌なことでもありました??」
寧ろその逆だよ。嫌なことがないのが嫌なんだ。途中から俺もテンション高く、楽しんでしまったのが俺自身で許せないんだ。湊がいない場所で、湊じゃない奴で、幸福を感じてしまったのが許せないんだ。
「湊、今度遊園地に行こう。お前と一緒に行きたくなった」
「え!めっちゃ嬉しいです!!ぜひ行きましょう!」
煙草を吸ってもなんだか心のわだかまりは消えなくて、湊のことを遊園地に誘ってもやっぱり消えることはなかった。だから、
「湊……やらせてくんね?」
って性欲を発散させて、快楽に溺れて、忘れようとした。湊はいとも簡単に絆されてくれて、手のひらで扱いやすくて可愛かった。きっと彼女も……あー、そんなこと考えるとイけなくなる。クッソイライラしながら湊を暴力的に抱いた。終わった後で気がついたけど、湊は泣いていた。慰めの言葉なんかかけなかった。放心状態で何も感じなかったから。ただ常同行動で煙草を手に取って吸っていた。
「ふふっ、気持ちよかったです……」
泣きながら笑うなんか湊にとってはいつものことだ。何も異常を感じずに「あっそ」と冷たく返した。湊と一緒にいると心地が良い。俺が何したって湊は何でも許してくれるから。
「湊、大好きだよ」
ふと思い出したように嘘の言葉と真の言葉の違いが知りたくて、湊にこう言ってみた。特に何も感じなかった。言い慣れた言葉になってしまった。あの頃の照れとか恥ずかしさとか全部消えてしまった。それが何だか嘘っぽいんじゃないかってなって、本当に愛せてないんじゃないかって不安になった。湊はその言葉でさらに泣いてしまった。
「貴方の気持ち、もうわかんないです。貴方のことずっと、疑ってばかりで苦しいです。信じたいのに信じれなくなってく……もっと僕に正解をください……」
今までは単純だった。湊と俺の双方の矢印しかなかったから。けれど今や俺の愛情は隣人まで届いている。人間嫌いの俺がここまで愛情深い怪物になれたのはきっと湊のおかげだ。あとは金のせい。じゃあさ、恋人って何なんだろう。ああもう俺だってわかんないよ。
「俺は湊のことを一番に愛しているよ。それは変わんないから」
「心移りしないでくださいね」
それを言われてキスされた瞬間、寒気がした。湊の唇の触感が柔らかかった。だけど、しょっぱかった。
ああもうこの世の中全部終わってしまえばいいんだ。貴方と僕だけが中心の世界だったのに、貴方はその世界から逃げ出してしまった。僕は取り残されたこの世界で貴方の残り香だけを感じてただ虚しく一人でイクだけで、貴方がたまに帰ってきても、もうそれは貴方ではなく別人に感じるんだ。僕が愛した貴方は今何処でさまよっているんですか。僕が見つけ出して連れて帰って衣食住なんでも揃えてあげるから、もう僕の傍から離れないでね。って貴方を僕という檻で閉じ込めていたい。きっと今貴方は幸せなんだろう。適職を見つけてお金が稼げてお洒落なものに身を包んで、ああ、貴方は必然的にこうなるように世の中に仕向けられたんだね。僕が貴方を生かしたから貴方はこうなってしまったんだよね。僕の思い通りにならなかったからって貴方が生きるための行動をしているのには変わりないのに、何故僕はこんなにもイライラが止まらないんだろう。何故貴方のことを嫌いになってしまいそうなんだろう。貴方が僕を置いて幸せなのがきっと憎いんだろうね。
「ミサトくん、あのお菓子のCMオーディション!受かりましたよ!!」
「え!本当ですか!?」
「受験生応援CMになるそうです!ミサトくんも受験生だし気合い入れなきゃですね!」
「それ、当の本人の僕が受験に落ちたら、縁起の悪いCMになりませんか?」
「そんな、縁起でもないこと言わないでくださいよ!ミサトくんは頑張ってるのできっと受かりますって!」
「ありがとうございます。頑張りますね!」
受験も俳優もどちらも頑張るって決めたからには、今、京一さんのことで悩んでいる暇はない。僕は僕の人生を歩む。依存しすぎてたんだ、今までが。お互いに忙しいくらいがちょうどいいと気づけた。
「ミサトくん、次のシーンは勉強で疲れてそのまま寝ちゃうって感じで!」
いつもの授業中を思い出して、こくんこくんとしながら頭をもたげさせる。そしてそのままゆっくりと眠りにつく。
「はい、カット!いいね、自然な感じが出せてるよ」
「ありがとうございます!」
授業中に寝といてて良かった。これの参考になった。勉強するシーンは普段通り。だけど僕にしては簡単すぎる問題を楽勝で解いていった。
「おおっ!さすがミサトくん!全問正解っ!!字も綺麗で助かるよ〜!」
「ふふっ、そう言っていただけて何よりです」
「ミサトくん、学校でも優等生でしょ?」
「あ、それはちょっと、トップシークレットで!」
というと現場が笑いに包まれた。そして、お菓子を食べるシーン。ここではお菓子を食べて、やるぞ!と強い意志を固めて勉強を頑張るシーン。
「あー、ミサトくんちょっと固いね!まだ緊張してる?」
「あ、はい。初めてのCM撮影で」
「そっか、普通に美味しそうに食べてくれればいいから!」
普通に、美味しそうに、ね。
「ん〜っ♡♡」
僕の中で美味しいと言えばキスだった。京一さんとのキス。これほど美味しいものはないから、僕は京一さんとのキスを想像して、口付けするようにお菓子を食べた。
「ちょっ、カットカット!なんか大人っぽいCMになっちゃうから!ん〜、じゃあこうしよう!パクッ、うんうん。……よし!って勉強に取り組む感じでいこう!」
「はい!わかりました!」
言われた通りに食べて、味わうように目を閉じて二回ほど頷いて、少し深呼吸してから、目を開けてこくんと軽く頷いてから、よし、とペンを持ち始める。
「いいじゃん!完璧だよ〜!ミサトくんに任せて良かったあ」
「いえいえ、こちらこそ起用していただき大変光栄です!」
「やっぱ目力があるよね。他人に何かを訴えかけるような」
「そうですかね?」
「あと、お顔がとびきり可愛い♡ほんっと見蕩れちゃう♡♡」
「ふふっ、照れますね」
「結構、恋愛もしてる方なの?」
「まあ他人よりかはしてる方だと思いますね」
「だと思った!こんなイケメン、女子達が放っておかないでしょ!」
「いやでも、傷付いてばかりですよ」
「そうなの?その顔だったら誰でも虜にできそうなのに……」
「ふふっ、そんな世の中甘くないですね」
京一さんに好かれなきゃ京一さんを虜にできなきゃ、この顔だって意味がない。やっぱり僕の中心は京一さんで、京一さんがいなきゃ空っぽになるんだ。生きている意味が途端になくなる。
撮影が終わると、僕の変わらぬ日常がまた始まる。家庭教師に勉強を教わって、宿題をしながら、帰りが遅い貴方を待つ日々。今宮さんに帰りの車内で今日はよく頑張りましたと褒められた。僕はあまり手応えを感じてなくて、不安そうにそうですかと返答した。今日も酔って貴方は帰ってくる。
「湊、ただいまぁ」
「おかえりなさい、京一さん」
と僕はおかえりなさいのキスをしたくて出迎えた。そんな僕に酒臭い京一さんはキスをしてから、抱きついて寄りかかってくる。
「湊ぉ、俺はこの仕事嫌だよぉ」
「ふふっ、お疲れ様です。はやくやめてください」
「だってさあ、みんなセックスばっか求めてくんだもん。嫌になっちゃう……」
「しなくていいですよ、セックスなんか」
「誰も俺のことを見てくれないんだ」
「僕が見てればいいじゃないですか」
「湊ぉ、……よしよしってして?」
は?何この可愛いおねだり。照れながら京一さんがおねだりしてきた。僕は京一さんの希望通りに頭を撫でながら、よしよしと言った。
「こ、これで良いんですか?」
「もっと、頂戴?」
か、可愛いすぎんだろ!!よーしよし、と今度はバリエーション豊かに京一さんの頭を撫でまくった。
「よしよーし、京一さんは偉いですね」
「もっと」
「ん〜!可愛いねぇ、京一郎は」
「もっともっと」
「あーもう僕のにゃんにゃんだあ!僕の撫でる手がそんなに気持ちいいの?可愛いねぇ♡」
と僕がぶっ壊れると京一さんもぶっ壊れて、
「にゃーん♡」
と猫の手招きポーズをしながら甘えてくるからもう、眼福。
「にゃんにゃーん、ちゅー♡」
「ん〜っ!みにゃとっ♡」
キスしてなんだか幼児返りして喜んでる。仕事めっちゃストレスなんだろうなあ、と京一さんのこの行動から類推できて、この京一さんを見られるのは僕だけだから優越感を得た。
「なぁに?京一郎」
「みにゃとはぁ、俺のこと、好きぃ?」
「好きに決まってるじゃないですか。めっちゃ大好きですよ」
「ふふっ、俺も好きぃ。しゅきしゅき〜♡」
とハグをして、好きを分かち合う。その満面の笑み、とても可愛い。
「もう、可愛すぎて死ぬ♡」
「死んじゃやーだ!京一郎がぎゅっぎゅっする!」
京一さんは心臓マッサージのように二回ほど僕を強く抱き締めてから、ちゅーって僕に長いキスをした。
「京一郎がいれば僕は死なないね!」
「うん!みにゃとは俺がまもりゅの!」
可愛すぎかて、ほんとにもう、困っちゃうよ。傍から見たら、痛々しいクソバカップルなんだろうなあ。でもそれでもいいよ。周りの目なんか全部抉りとってあげるから。
「ずっと守り続けてね。京一郎」
「勿論、永遠の愛を誓うよ」
はああああ!この男は!!突然イケメンすぎてしんどい!!僕はそんな京一さんの胸で泣いてしまった。
「ううっ……愛してる……」
京一さんへの愛が僕の身体では抑えきれずに溢れ出る涙のようだ。
「湊ぉ、何で泣いてるの?」
「これは嬉しすぎて泣いてるんですよ」
「そっかあ。湊、すごい不安にさせちゃってごめんね。どんなことがあっても湊が一番大好きだから」
「……はい。愛してます」
感情の昂りに合わせて、彼への盲目度が増していく。けれどその熱狂が覚めた後、またあの熱狂を味わいたくて彼のくれた言葉を反芻するのだけれど、盲目的になりきれてない僕ではその言葉には懐疑的になってしまって、そうなってしまう自分に自己嫌悪する。




