自カプよ、永遠に幸せになれ
「青柳氏!前に貸した漫画読んでくださりましたか?」
「うん、読んだよ。バトル漫画の熱い友情っていいよね」
「俺の推しカプっ!最高すぎか!!」
昼休み、メアちゃんと使われていない階段で推し語りをするのが日課になっていた。何故、こんな辺鄙な場所でするのかと言われると、お互いに聞かれたくない秘密を共有しているからだ。
「そういえば、メアちゃんはさ最近彼氏とどうなの?」
「え!?それは……」
と言い淀んだのを察して
「あ!言いたくなければ言わなくていいよ!」
とフォローした。
「最近、致したんだよね。彼氏と」
「え!?良かったじゃん!!」
何故か暗い表情のメアちゃんに対して、テンション高く明るい僕。
「いや、でも、BL漫画で読んでたイメージと違くて……」
「気持ち良くなかった?」
「うーん、ただただ、痛い」
そう深刻そうに悩んでそうだった。
「そっかあ。まあ僕も最初は呆気なかったなあ」
「え!?あの京湊が、でござるか?」
「そんなあ、僕達も普通のカップルと変わんないよ」
「そ、そうだったでござるな……」
「京一さん一回ですぐやめちゃうし、賢者タイムだから甘えられないしで、繋がれたのはすごく嬉しかったけど、快楽という意味では満足はできなかったかなあ」
なんて過去のことを思い出して懐かしむ。
「京湊も、そうなんだ」
「あ、でも今は違うよ!京一さん、二回は最低してくれるようになったし、賢者タイムでも甘えさせてくれるし、僕が快感得やすいように前戯してくれるようになったし、」
「それは青柳氏の方から伝えたの?」
「京一さんが察してくれたのかな?自然とそうなってた」
「そっかあ……」
それじゃ参考にならないって顔された。
「でも、何回もヤッてるとお互いに気持ち良いとこや好きなとこがわかってくるから、何回もするのをおすすめするよ」
「おん!そうしてみるよ」
って微笑まれた。
「てかさ、ずっと気になってたんだけど、そのクリアファイル、何?」
漫画の入っている紙袋から少し飛び出ているクリアファイル。同人誌か何かだろうと思って、読んでみたくてたまらなくなった。
「あ!えっと……これは、見せるには恐れ多い代物でして、特に青柳氏の目には触れてはいけないものでして……」
「どーゆーこと?見せてよ」
と僕がそのクリアファイルは興味本位でひょいっと盗み奪うと、メアちゃんがあああああ!!っと絶叫した。
「青柳氏!!すぐさま返してくだされ!!」
「え……これってまさか……?」
「わあああ!!俺は禁忌を犯してしまった!!な、ナマモノを本人の目に触れさせてしまうなんて……!!」
たんと、これは京一さんと僕の同人誌だった。しかも18禁。
「えー、めっちゃ見てみたい!」
表紙で京一さんと僕がえっちしてる!表紙で京一さんと僕がえっちしてる!!
「そんな、俺の浅い解釈と稚拙な絵じゃ、京湊を表現しきれてないというか、現実のが100倍いいと思うのですが……!!」
「だって、えっちな京一さんのイラストが見れるんでしょ??最高じゃん!!」
と僕は1ページ目を開いた。
その同人誌は京一さんが酔って帰ってきたところから始まった。酔った京一さんは煙草を吸ってから、勉強している僕にバックハグをしてくる。
「ねぇ、湊。勉強は楽しい?」
そう不敵な笑みで問いかけて、僕の制服の中をまさぐる。
「京一さん、僕はやることがあるので後にしてください」
その同人誌の僕は冷たく、京一さんの手を制服の中から除いた。
「あはっ、つれないね〜!」
と京一さんは笑うと、僕をバックハグするのをやめて、また酒缶をプシュっと開ける。ぐびぐび飲む貴方の口端からこぼれ落ちるレモンサワー。それが何とも官能的だと言わんばかりのひとコマ。現実とフィクションが混同して興奮する。
「お酒、飲みすぎですよ」
僕は勉強の手を止めて、京一さんからお酒を奪う。すると、
「じゃあ、構ってくれんの?」
って妖艶な表情の京一さん。僕は不器用に笑っているだけ。貴方に流されるのも悪くない、けど、貴方に流されたら僕はまともではいられない。その葛藤を抱えているようだった。
「とりあえず、お酒は控えてください……」
そんな機械的な言葉しか僕は言えないし、こんな冷たい態度しか僕は取れない。
「ああっ!くっそイラつく!!」
本物の僕は悔しくて悔しくてたまらなくなった。
「あ、青柳氏、か、解釈違いでしたか??」
メアちゃんがおどおどして聞いてくる。
「いいや、そんなんじゃないよ。解釈一致だけど、僕が冷たすぎてムカつく」
「あ、ははは、まあ、フィクションですしぃ。ストーリー的にその方が面白いかと……」
彼女は僕の怒りをなだめようとしてくれるけれど、僕の怒りは収まらない。だって
「これ、現実問題なんだ。現実の僕も京一さんに冷たくしちゃってる」
だから、僕はこんなにも自己嫌悪が止まらない。
救いを求めてページをめくる。
「湊はさ、お酒って何で飲むと思う?」
京一さんが酒缶片手にそんなことを聞いてくる。
「楽しい気分になるためじゃないんですか?」
と僕は勉強の片手間に答える。
「違うよ。酒はつらい記憶を隠すために飲むのさ」
と言い、貴方は一口、酒を呷る。
「つらい記憶って何ですか?」
僕は訝しげな顔をして貴方に質問をする。
「何だろうね。今にも泣いちゃいそうだ」
少し潤んだ瞳で答えにならない答えをしてはぐらかす。貴方は僕を悪人にしたくないんだ。
「何がそんなにも貴方を苦しめているのですか?」
わからず屋の僕は、せっかくの貴方の気遣いを踏みにじって、貴方を問いただす。
「あーあ、もう嫌になっちゃうね!」
貴方は口を大きく開けて笑う。自暴自棄の笑いだ。僕はそれを見ると、胸の奥が苦しくなるんだ。
「……京一さん、質問に答えてください」
苦虫を噛み潰したような顔して、僕は貴方に向かって、地獄のような尋問をする。
「全部、ぜーんぶっ!俺が悪いんだよ。湊は何も悪くないよ?」
京一さんはそう嫌味っぽく笑顔で言ってから、ふっと笑顔を消して煙草に火をつける。
「ああ、そうですか。貴方っていつもそうですよね。僕のせいにしないくせに僕のせいで傷ついている顔をする」
「あ?そんなんも気にすんのかよ。じゃあ、俺の顔なんて一生見んな」
「そんなの不可能です」
「じゃあ、どうしたらいいの?あっ!俺にはずっと笑顔でいて欲しいって、そーゆーこと?湊自身が傷つきたくなくて言ってたんだ」
最悪な解釈をして納得する京一さんに、僕は自傷行為をするように手のひらを強く握った。
「貴方って本当に、人間をイラつかせる天才ですね!」
「褒めてくれてるの?ありがとう」
って貴方は何ともないように煽り返すので、僕はもううんざりきて、ため息が出た。
「はあ、もういいです。勉強しますから」
と机に向かう。貴方は煙草を吸い終わると、ふらっと外へ出てしまった。
僕は貴方のいないところで腕を切った。一方で貴方は覚せい剤を買った。
貴方が家に戻ってくると、僕は平然と勉強しているフリをする。白シャツに血が滲んでいる。貴方はそんなのよりも覚せい剤を水に溶かすのに夢中だ。
「よし、でーきたっ!」
わざとらしく僕に聞こえるように言ってくる。自分を心配して欲しいっていう、お互いの気持ちがぶつかり合っているんだ。
「まだできてませんよ」
「え?湊に何がわかんの?」
「わかりますよ。貴方が死のうとしてることくらい」
僕はシャーペンを置いた。筆箱からカッターを取り出し、また腕を切った。
「湊、何してるの?」
貴方の悲しそうで心配してそうな顔と声。僕が欲しかったのはそれだ。
「貴方が死ぬのならば、僕も死ぬだけです」
「そっか」
とだけ言うと、貴方は注射器に覚せい剤を溶いたものを入れる。
「それ、僕にもください」
「嫌だよ。俺のものだから」
「どーせ、死ぬんだからいいでしょ?」
血だらけの手で貴方の注射器を持つ手を掴む。貴方が僕の頬を撫でる。
「ああ、やっと構ってくれた」
貴方の満面の笑み。それに僕はキュンときてしまった。と思ったらキスしてくるから、キュンキュンしちゃった。
「僕だって、叶うことならば、貴方とずっとこうしていたいですよ」
って、僕からもキスをした。貴方が嬉しそうな顔を見せたと思えば、すぐに舌を絡めたキスをしてくる。それには流石の僕も堕ちて、だらしのない蕩けた表情になってしまった。
「地獄で一生こうしていようね」
貴方と一緒ならば地獄さえも天国のように僕は過ごせるだろう。安直にそう感じさせられるほど、僕はとても愛されていた。
「あっ、あんっ、しゅごい……」
という僕の喘ぎ声。見てるこっちが恥ずかしくなる。けど、なんか気持ち良さそうでずるい。僕も京一さんにどちゅどちゅされたい。
「あ、青柳氏、予鈴が……!!」
「へ?」
顔面を真っ赤にした僕は、完全に同人誌の世界に引き込まれていた。そうか、ここは学校か。
「お、俺の京湊本、ど、どどどどどど」
と何か言いにくそうに身振り手振りだけで何かを伝えようとしてくるメアちゃん。
「買った!すごいエロくて抜けるから!」
たぶん感想を聞かれてるんだと思ってそう返答してしまった。とても馬鹿な返しだと思う。
「ありがとう、ござます……」
僕は同人誌片手に教室までダッシュした。教室のドアを開けると、みんな座っててちょっぴり気まずかった。
「青柳、おせぇよ」
「先生きてないからギリセーフ」
「お前、昼休みいっつもどこいんの?」
「内緒っ!密売人からとてもいい商品を買ったんだ!絶対に見せないけどね!」
と機嫌良く椅子に座る。ああ、とても機嫌が良い。どうでもいい奴とまともに会話してやるくらいには機嫌が良い。
「どーせ、エロ本かなんかでしょ?」
という高橋の声。バッと後ろを振り返ってしまった。困惑した表情を見られた。
「え?なんでわかんの??」
「青柳はわかりやすいから」
という高橋の不敵な笑み。もうカズくんの馬鹿っ!僕がむっつりスケベじゃなくなってしまうじゃないか。
「エロ本なら俺にも見せてー」
「嫌だ。僕以外は見ちゃいけないの」
もちろん、作者のメアちゃんを除いてね。
「何で?ケチ!」
「は?」
つい、キレてしまった。僕はメアちゃんにこの本の代金として、1000円押し付けた。何の対価もなしに僕の性癖暴露本を見せるわけないだろ。
「青柳の性癖ってかなり歪んでるからさあ、エロ本って言っても俺らが見て楽しいものじゃないんじゃね?」
高橋のフォローがあまりフォローになってなくて、少しだけグサッときた。
「え、青柳ってそんな性癖歪んでるの?」
「高橋、しーっ!まじで言わないで!!」
僕は若干の涙目になりながら、高橋に人差し指を立てて訴えかけた。
「こいつぅ……あっ!先生きた!」
と高橋が言いかけて、逃げた。僕は正直ホッとした。京一さんに首絞められながら感じてるなんてクラス中に広まった日には、恥ずかしさで首を吊ってしまう。あれ、何で恥ずかしいなんて思っているんだろう。それが本物の僕なのに。嘲笑われるのが嫌になったのは何故だろう。僕は道化師だったのに。本物の僕を覆い隠す仮面がきっとあるからだ。初対面の人や仲良くない人に向ける仮面は、コミュニケーションを円滑にするための普通の人間を模した仮面だ。その仮面を使っていく中で気が付いた、人間は弱みを握られると不利なのだと。だから普段は弱みを見せないで、仮面で覆い隠しているのだと。僕の弱みは京一さんだ。京一さんに何か危害を加えるなんてされたら、ミンチ肉にしてさしあげたくなる。それと、僕の弱みはリスカだ。これをよく思わない人間が周囲のどこかに必ずいるから、隠し続けないといけないんだ。僕が普通になるために。
普通を追い求めて、自分を失うなんてくだらないね。この仕事をしているとつくづくそう思う。誰よりも魅力的で誰よりも奇抜で誰よりも繊細であるべきだ。そうでなければ、客は離れていく。普通ではない、特別を求めてここにくるのだから。
「君、この仕事向いてないよ」
客から言われた一言。こんなの煙草一本分。でも、この仕事を舐めていたんだと気が付いた。普通に会話するだけで稼げる?ファックオフ!そんなのぶっちゃけコミュ障以外は誰でもできるんだ。じゃあ、何故みんなやらないのか?それだけじゃあ売れないからに決まっている。ここで売れるには顔とトーク。俺には顔がないと把握。だからその分、面白い話をしようとして、から回る。あーあ、俺が凡人になったのはいつからだろう。
「こんにちは!京でーす!よろしゅう頼んますわ!」
「えー!関西の人??」
「おん!出身関西やねん!まあ、標準語もネイティブに話せるんやけど、こっちのがおもろいかな思て」
日本語のバイリンガルってルイルイに言ったら、馬鹿にされた。
「へぇ、標準語も喋ってみてよ!」
「そんなん急に言われても、何喋ればええねん。あ、あれか!『姫、俺と結婚しようか』」
と大根役者の演技を見せる。
「わあ!関西弁だとどうなるの?」
「ほな、俺のこと永久指名してもらわんと!」
最低でも今月で指名3本作れと言われて、とても焦っている俺である。
「え〜!ずるーい!」
「何がずるいねん!俺、結構ええ男やで?」
なんて言っといて何だが、俺の良さって何?
「え、どこがぁ?」
「嬢ちゃん、阿呆やなぁ。この良さに気付かへんとは。俺と一緒におるだけで、た・の・し・い♡、やろ?」
わざわざ一音一音を強調して、煽って、笑わせる。
「あははっ、うざすぎるわお前!チェンジチェンジ!」
「あ、そーゆー照れ隠しね!ほな、俺のこと永久指名してもらおかぁ」
とポンポンっとさりげなく姫の太ももに触る。
「え〜だって、かっこよくないしぃ」
ああ、こういうストレートな言葉が一番刺さる。
「いやいや!顔は三日で飽きるってよく言うやん。俺は一生、君を笑かしてみせんで?」
「……もし無理だったら?」
「そんならもう、俺の顔面なくなるまで殴ってええで?ホストできんくなるまで」
「ほんまにぃ?」
「ほんまに!俺のホスト人生、全部姫に捧げんで。姫を楽しませられへんかったら、俺は終わり!ホストもやめる!どや?ええ男やろ??」
思い付いた嘘をペラペラペラペラと。俺はこんなにも二枚舌なのかと感心してしまった。これもそれも全部指名、いや、金をもぎ取るためだ。
「うん。絶対に、約束ね」
「絶対に、約束する。だから、たくさん俺に会いにきて」
「わかった。約束する」
と指名を入れてもらって、一安心。したのも束の間、楽しませなければならないのには変わりない。
「なんか大阪行きたくなるなぁ」
「せやなぁ。最近、話題になっとる大阪の新マスコットキャラクター知っとる?」
ぶさかわで話題になってるマスコットキャラクター。湊が欲しがってた。
「うん、知ってるよ」
「あれ、可愛ええよなぁ!俺欲しなってもうて、」
「ああ、ブサイクだから?親近感わいて?」
「……せや!なんか自分みたいでほっとかれへんねんなぁ」
くっそ、冷めるわー。何なんこいつ、何様??他人を傷付けるのそんなに楽しい?って俺が言えたことじゃない。だけどさ、顔ってすぐに変えられないんだよ。俺だって俺の顔面大っ嫌い。そんなの嫌ほどわかってる。わざわざ言うことかな?他人のコンプレックス。笑いに変える以前に、自己嫌悪でいっぱいになる。ああ、ブスでごめんね。って申し訳ない気持ちでいっぱいになる。好きでこの顔になった訳じゃないのに。ってか、俺が笑いに変えなきゃ、お前も気まずくなるのに、どうしてそう軽率に他人の顔をいじれるの。あとそれ、お前の面白さじゃねぇから。この後はどうやって話したか記憶にない。
「京一さん、おかえりなさい。遅かったですね」
「うん。新しいバイト始めてさ、24時間営業の居酒屋」
不機嫌を悟られないように淡々と話した嘘まみれの言葉。
「そうなんですか。大変ですね」
「まあ、深夜料金のが稼げるからさ」
「お疲れ様です」
そう言って、湊が抱きしめてくれる。その優しさに弱っている俺はうるっときてしまった。
「ただいま、湊」
そうつらかった思いを全部吐き出すように抱きしめ返した。
「京一さん……」
俺の異変に気が付いたのか、湊は俺の名前を呼んでからキスをしてくる。
「なんだよ、ヤリたいの?」
とその優しさを下心だと馬鹿にする、俺のが馬鹿だ。
「ふふっ、うん!」
って純粋に頷く湊はとても可愛らしくて、何で俺なんかが付き合えているんだろうとまた自己嫌悪が加速する。
湊を補給するようにセックスをして、愛を確かめ合った。けれど、俺に残ったのは虚無感と自己嫌悪だけだった。煙草の吸殻だけがたまっていく。
「ごめんね、湊。俺はブスで死にたがりで何もできなくて……」
そう独り言を呟くように言った。湊に聞こえないような声量で。
「京一さん、無理しないでくださいね」
風呂上がりの湊が俺の頭を撫でてきた。さっきの聞こえてた?いや、壁越しだし、超小声だし。
「……ありがとう」
その不意打ちの優しさに涙が止まらなくなった。突然、泣き出す俺に湊は心配そうで、でも優しく撫で続けてくれた。
「大丈夫です。僕が全部何とかします」
「そーゆー問題じゃないんだよ」
「どういう問題ですか?」
俺がブスだってことが、湊の隣りにいるのに相応しくない気がしてならないんだ。湊は俺のことをかっこいいと言ってくれるから、少しは自信を持てていたのに、俺はやはりブスのままの俺だった。自信喪失してからは、今までの言動の全てが無理になった。ブスのくせにこんなことしてんだと思うと、死にたくなる。
「湊はさ、俺のことかっこいいと思う?」
「はあ、またその質問ですか?」
と湊はうんざりした様子を見せる。
「俺には湊しかかっこいいって言ってくれる人がいないの!!」
ってキレて号泣してしまった。あー全部酒のせいにしたい。
「ごめんなさい、京一さん。貴方はかっこいいですよ」
「あーあ、言わせた。言わせちゃった。本当は思ってないのにね」
悪態ついて、泣きまくってる。
「本当に思ってますって。ああもう、僕の言葉の信憑性ってそんなに低いですか!??」
湊まで苦しそうな表情にさせちゃった。
「ううん、そうじゃないの。俺が全部悪いんだよ。不安になっちゃう、疑っちゃう、俺が悪いの」
「それ、僕が悪いです。貴方を不安にさせる、疑わせる、僕が悪いです。貴方が満足するまで僕は貴方が欲しい言葉を言い続けます」
湊はまた抱きしめてくれた。かっこいいです、と連呼しながら。
「湊、ありがとう。もう充分だよ」
「貴方は世界一かっこいいですから。自信を持ってくださいね」
「うん!湊のおかげで元気でたよ」
あんなクソ客よりも湊の言葉のが重要だ。俺の中の何かが満たされて、湊にキスしちゃいたくなった。
「京一、さん、んっ……!!」
「湊のおかげで死にたい今日でも生きたい明日が見えるんだよ。ありがとう。大好きっ!」
大好きを伝えたいがためのディープキス。何回も何回も、何回も何回も、湊に愛情が伝わるのならば百億回でもしたくなる。
「京一さん、ほんとに、、んっ、」
「どうしたの?湊」
「また、セックスしてくれませんか?」
俺はそーゆーつもりじゃなかったけど、湊はそーゆー気分になってしまったみたいだ。お互いに服を脱いで、布団の上に寝っ転がる。湊のふわふわの太ももを触る。
「ああ、とても可愛い」
俺にはもったいないくらいの可愛い湊を汚していくみたいだ。その背徳感で勃ってしまった。
「京一さん、エロすぎますって……」
服を脱ぎ捨て上裸になると、湊が指の隙間から俺のことを覗いていた。
「なーに?今更」
「ふふっ、京一さんが妄想以上にエロくて最高だったから、つい」
「そお?じゃあ、一緒に気持ち良くなろうね」
気持ち良さしか感じなくなるまで、夢中で腰を振った。ビクッ、ビクッと少し痙攣しながら湊のナカに出した。精力尽きて湊に抱きつくと、湊は幸せそうに笑った。
「あはっ、すっごい気持ち良かったです!」
湊は案外ケロッとしてて、体力お化けだと思った。俺だけがこんな疲れてるよ。
「ほんとにぃ?ちゃんとイッた??」
「見てくださいこの手を、僕の精液でベタベタですよ」
と手のひらを見せられた。汚かった。嘘。可愛い。
「ほんとだ。ちゃんと綺麗にしてね」
「じゃあ、一緒にお風呂入りましょう!」
「やだ、めんどい」
と抱きしめたまんま動かないでいたら、
「京一さんのこと触れないんですよ。この手で触ってもいいんですか?」
と脅された。
「やだ。入る」
湊から逃げるように風呂に入ると、湊も追いかけてきて、急いで風呂のドアを閉じた。風呂のドアを引っ張り合った。
「ふふっ、なんで入らせてくれないんですかぁ?」
「俺の全裸は有限なの!」
「どーゆーことですか?さっきまで見せてくれてたじゃないですか」
「滅多に見れない方が希少価値上がるでしょ?」
意味わからん理由を並べて、湊を困らせるのが俺の最低の可愛がり方だ。
「えー、価値下がんない!まだ見てたいですよ」
「もう、湊がそこまで言うなら……」
とそこまで言われてないのに易易とドアを開けると、
「やった!京一さんの全裸だ!!」
ってきもい喜び方をされた。ちんこ触ろうとしてくるし、顔が良くなければまじで犯罪。
「その代わり、俺の身体洗ってよね」
「え!喜んでやります!!」
と背中にキスをされた。
風呂上がり、湊に髪を乾かさせる。その髪に触れる指通りが心地よい。
「京一さんの髪、煌めいてますね」
「金髪だからね」
「艶々ですよ。食べちゃいたいくらい」
って髪の毛にキスされる。
「きもっ」
「それぐらい大好きってことですよ!!」
「ありがとね、湊。俺も大好き」
と言うと背中からハグされて、鏡に写る湊の顔がにやけてた。その隣りにいる俺の顔も同じような表情をしていた。幸せを噛み締めた。
「湊、こっちおいで」
自分の髪を乾かし終わった湊を呼ぶ。
「何ですか?京一さん」
湊に倣って、その髪の毛にキスをする。
「これがしたかったの」
「可愛すぎる!!貴方ってどうしてこうも可愛いんですか!??この髪、一生洗いません!!」
「ちゃんと洗ってね。汚くなるから」
「はい!洗います!!」
ああ、大好きって気持ちで脳内いっぱいだ。何で悩んでいたんだっけ?、忘れちゃった。
「湊、ホットミルクでも飲む?」
「え、あ、自分でやりますよ」
「いいの。俺が作りたいの」
ただ牛乳を入れて電子レンジで温めるだけ。それでも、湊と一緒に飲んだら格別だった。
「幸せですね」
「何だかこうやって二人でゆっくりする時間、最近なかったね」
「そうですね、僕も勉強と演劇が忙しくて……」
ってあくびをする湊。
「眠い?とろんとした目してる」
「貴方に惚れてるからですよ」
湊は俺の肩に眠そうに頭をのせてくる。
「ふっ、俺のどこがいいんだよ」
「全てに決まってるじゃないですかあ」
という湊のキラキラした言葉。俺は到底信じられなくて、問いただしたくなったけど、問いただしたところで虚しくなるだけの答えを聞かされる羽目になるのでやめた。俺は俺の良さがわからない。だから、湊が一緒にいてくれるわけがわからないんだ。俺の全てが好き?世間的に優れたところが一つもないところとか??まじで好きなのかよって思っちゃう。湊がいないと俺は生きていけない。だから、湊が嫌がることはできない。ホストとかホストとかホストとか。でも金がないと俺は生きていけない。だから、湊が嫌がることでもしないといけない。
「湊、お布団いくよ」
「はーい」
こうやって湊の隣りで寝れることが俺にとっての幸せだ。ああ明日から、コンビニバイトも頑張ろうっと。




