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ファッションリスカで目指せ!病み系可愛い子♡

「まじアイドルのリスカ、許せねぇ!!」


ルイルイに酒飲みながら愚痴ると、


「何が許せないん?そんなん勝手やろ」


ともっともな意見をされて、まあそうなんだけどさあ、と口ごもる。


「でもさあ、あんな可愛い顔して仕事もあってファンもいて何がつらいん?」


「……特大ブーメランやな」


ルイルイは焼き鳥を飲み込んでからそう言った。


「は?」


「そない格好ええ顔して恋人も金持ちの友人もいて何がつらいん?」


俺がさっき言った言葉をオマージュして、煽ってきやがる。お前は俺のつらさ知ってるのにな。


「俺は、うつで働けなくて金ないし、顔も格好良くないし、家庭環境クソで……」


「アイドルなんてぎょうさんおるんやから、リスカする奴くらい何人かおるやろ」


考えんの無駄!って言っているようだった。


「でもでも!それをSNSで拡散して『私可哀想でしょ〜?』アピしてんのキモいし、リスカ跡も愛おしいとか顔可愛いんだから叩くなとか擁護するオタクもキモい。こっちがどんな思いして必死にリスカ跡を隠してんのか知らねぇだろ。純粋に不快なんだよ」


「はいはい、京ちゃん。それ自分の彼氏に言えるん?」


俺の怒りをなだめながら、そんなことを聞いてきた。勿論、答えはひとつで


「言えなーーーい!」


って元気に答えた。


「せやろ?そーゆーもんやって」


「でも湊はちゃんとリスカ跡隠してるし、俺は湊のつらさよくわかってるし……」


「人間には人間のつらさがあんねん」


様々な人間のつらさを真近で見てきたルイルイだからこその説得力があった。


「けどなあ?アイドルって夢をみさせるのが仕事じゃん?そんなつらさとか病みとか誰が見たいねん。そんなんアピールするもんじゃないし、変に憧れちゃってファッションリスカする奴だっておるかもしれへんやん。そないしたら、ほんまにつらくてどうしようもなくてリスカする奴が軽んじられて見られる気がして嫌なんよ」


「ほんまにつらくてどうしようもない人間とファッションリスカの人間。他人はそんな区別はどーでも良くて、ただそのグロいリスカ跡は見せんなって思っとるだけだろうよ」


普通の人間の一般論みたいなのを聞かされて、俺はリスカの意味にこだわる変人ということが強調された。


「ルイってさ、意外と常識人だよね」


「誰かさんの目に付くような言動は仕事柄できんからなあ。その土地の慣習やマナー、思想や宗教などは最低限知ってんのよ」


「じゃあ、ルイルイの意見はその土地土地で変化するの?」


「せやなあ。今は日本人としてのルイかもしれん。他人に興味ないフリして比べたがり、意見する時は批判的ってのが日本人っぽいわ」


「いかに他人を見下せるかが相対的に自分の能力の高さだと思ってる奴が多すぎなんだよ」


「性格悪ぃよな。けどリスカに関しては96%以上が京ちゃんみたく隠れてするんだとよ。かまってちゃんは4%未満か」


とスマホで調べたのか、スマホ片手にそう言ってきた。


「その4%未満の声がデカいのがムカつくんだよ。承認欲求のバケモンだから。大半は不快な感情を解消するためにやってんのに」


「ストレス発散方法がリスカってだけで、かまって欲しいとか可哀想に見られたいとかそーゆーのはないん?」


「んーーー、俺は最初、湊に切られたんよ」


「うわ、まじか……」


「リスカする時は大抵、死にてぇのと湊への思いがぐちゃぐちゃになってやってる」


これを言っている自分がキモくて吐きそうだ。湊のことを思いながら、オナニーしてるのと一緒じゃん。


「きめぇ愛やな」


「ふふっ、だから他人に見せたくないし、可哀想だとは思って欲しくない。他人に心配されても、うぜぇだけだしな」


「うぜぇか、俺が心配してんのも?」


「ルイルイには、ありがたいって思ってるよ。お前は過度に心配しすぎないじゃん?」


「京ちゃんの生死はたまーに気にかけとるよ。しばらく連絡ないと『あれ、死んだんかな?』思うで」


「『京ちゃん、生きとったん?』言うもんなあ。生きとるわボケ」


「ほな、連絡せぇや」


「しとるやろアホ」


「あはっ、最近は連絡頻度多くて助かりますわあ」


「こちらこそ毎度お薬貰えてありがたいですわあ」


と何故か煽り合うように言うと、何やってんだろってだんだん可笑しくなってきた。


「京ちゃん、笑いすぎやで」


「あははっ、ルイルイとおると楽しいかんなあ!」


「あーもう酔ってんなあ」


その後、カラオケに行って、何を歌ったかわからないけれど、楽しい記憶だけはあった。どうやって家に帰ったかはわからない。


「あれ、湊……?」


「ん?」


「え、ここどこ?」


「ホテルだよ。帰るのしんどいだろうから」


ルイルイと二人きりでホテルなんて、しかもなんか高そうな部屋。


「カラオケでオールでよかったのに」


「ちゃんとベッドで寝た方がええかと思て」


「ルイルイはイケメンやなあ」


「京ちゃん、さっき薬飲んでなかったやろ。はいこれ」


と薬と水を持ってきてくれるのもイケメンやわ。


「ありがと。ルイはさあ、彼女作らんの?」


「性処理の女ならいくらでもおるけど?」


「いやそうゆうんじゃなくてさあ、愛されたいみたいなのないの?」


「ないな。今の暮らしで満足してる。それに仕事する上で邪魔やし。女なんて」


「邪魔かあ……」


俺もそう思われてんのかな、と一瞬暗い表情を見せると、それを察されて


「あ、京ちゃんに言っとらんよ?」


と訂正される。


「でも俺、ルイの負担になってるよね。薬さ、ちゃんと用量を守って飲むから、半年分くらい一気にくれないかな?」


「ダメ」


重くて低い声で、その一言。


「何で?信用できない??」


「いや、とにかく嫌や。一ヶ月に一度、必ず会う。わかったか?」


「わかったけど……」


「それならいいよ。京ちゃん、今日はもうゆっくり休みな」


俺を寝かしつけるように頭を撫でてきた。このまま寝るのも悪くないが、


「ルイルーイ、もうちょっとだけ遊ばせて?」


とルイの手を取って、甘えた。


「えー?何して遊ぶん?」


「なにしよっかあ?」


「京ちゃんそれ寝たくないだけやろ」


「そうだよ。ルイと一緒にいるんだから、寝る時間がもったいないじゃん?」


「京ちゃんほんま、人たらしやわ」


ルイと何年かぶりにぷよ通で遊ぶ。昔は俺のがうまかったけど、何だか最近暇つぶしに練習してるみたいで、ルイに圧倒的な実力差を見せつけられ、完敗した。


「こんな連鎖ってできるもんなんや」


ボロ負けすぎて悔しさもない。あるのは感嘆だけ。


「定番の詰み方があるんよ。それを何個か組み合わせてるだけ」


「簡単そうに言いよるなあ」


「ふふっ、手加減してあげよか?」


にやにやして、俺が嫌がるとわかってて言ってるから、ほんっと腹立つ。


「じゃあ、ルイルイ両手禁止な!」


「は?それじゃ操作でけへん」


「足の指でできるやろ」


「ほんま、京ちゃんはおもろいなあ」


とわっかりやすく嫌味言われたけど、


「はーい、両手後ろにして」


とお構いなしにルイの両手首掴んで後ろに回した。


「どや?俺を拘束した気分は。楽しいか?」


ふと気づけば、ルイと向かい合わせ、ルイの太ももの上に乗っかって、ハグするみたいにルイの両手を拘束していた。


「『俺に乱暴する気でしょ、エロ同人誌みたいに』って言ってみ?」


「あはっ、口が裂けても言わんわ!」


「冗談やて。せやけど、いい眺めやなあ」


「ほな、俺も見てみたいわ」


形勢逆転。拘束したと思ってた両手は力ずくですぐさま俺を押し倒してきた。

両手首を上でクロスして、片手で押さえつけられる。ルイに襲われてるみたいだ。


「俺に乱暴する気だろ、ゾンビ映画みたいに」


抵抗できないゾンビの俺を殴り殺すみたいに。


「京ちゃんのこと食べんよ、俺」


「お前がゾンビ側かよ」


「せやけど、これは……あぁ、すげぇ可愛い」


ルイが興奮してるのがわかる。バットトリップしてるような目して、俺を見つめてる。


「ルイ」


目を覚ませと言いかけたところで、


「京ちゃん、逃げられへんよ?」


と恍惚そうな表情で拳を振り上げるルイに、思わず目を瞑った。こめかみに鈍痛が響く。


「……ルイ、殴った手の甲が痛いやろ」


「いいや、こんな痛みよりも心が痛いわ」


我に返ったルイは自己嫌悪に押し潰されて息苦しい、という表情をしていた。


「ふふっ、お前でも心が痛むことあんねや」


内心怯えながら冗談言って、その罪悪感が少しでも紛れたらいいと思った。


「京ちゃん、もう一回殴られたいん?」


「ははっ、勘弁してくれやあ」


「京ちゃんに対するこの想いだけは、知られとうなかったんやけどなあ……」


ルイは俺の横に添い寝して、ずっと俺の方をただ見つめていた。


「なに?どんなん隠してんの??」


「嫌や、言いたない」


「何でーや、俺達の間に隠し事はなしやろ?」


ルイの肩を揺らして、ありもしない約束なんか持ち出してまで、俺に対してどう思ってんのか知りたかった。


「恥ずいねん!さっさと煙草吸って寝ろ!!」


それに対してルイは頑なで、俺を突き放してきた。


「えー、ほんまにダメ?」


「可愛こぶるのなし!!」


「じゃあいいよ、煙草吸うから。ルイルイもいる?」


「ん、ありがと」


とルイルイが咥えた煙草に火をつける。


「はぁ、眠りたくない」


「そない起きて何すんねん」


「ルイルイとぉ、ふふふっ、何しよっかあ?」


「京ちゃん、俺としたいことあるんやろ」


「うん、あるよ」


「なーに?言ってみ??」


「……ルイ、抱きしめてくれない?」


「えらい可愛いお願いごとやな」


「あははっ、さっきから震えが止まらないんだ。だから、少しでも安心感が欲しくてさ」


漠然とした不安と恐怖に押し潰されそうなまま、一人でベッドに入るのは嫌だから、甘えたことを恥ずかしげもなく言った。


「その原因、俺なんちゃうん?」


「え?」


「京ちゃん、俺に怯えてんねやろ。頭ではそう思ってなくとも、身体が無意識に防衛反応してんねん」


「そんなこと……ないよ、ルイ」


「俺に殴られたとき、最初に何思ったん?俺の手の甲への心配じゃないはずや。正直に言うてみ?」


「……父親に殴られたの、思い出した」


「ふふっ、せやろ?あーほんまに俺、最ッ低な行為をしたなあ!!笑っちまうくらいに!京ちゃんの過去も知っとんのに、俺の私欲で京ちゃんのトラウマを抉って、傷つけて、怯えさせて……好きな人をいじめて何が楽しいねん、はよ死ね馬鹿」


間違いであって欲しいことが最悪な正解で、ルイはストレスへの防衛機制で馬鹿笑いしてるようだった。


「ルイ、俺は大丈夫だから……」


「その優しさがいっちゃん傷つくねん!ほっといてや」


「ごめん」


「あー!京ちゃん謝らんといて!!悪いのは完全に俺やから!!」


「ルイ、落ち着いて」


「いやいやいや、京ちゃんに悪いことしたんやで?落ち着いていられへんわ」


そんな情緒不安定で自虐的なルイを一方的に抱きしめた。俺が傷つくのは許せても、俺のせいで大切な人が傷ついているのを見るのはつらいから。


「煙草くさくてごめん」


「……京ちゃん、愛しとるよ」


ルイは俺の額にキスをした。罪滅ぼしのようなキスだったけど、とても嬉しかった。


「ルイ、俺のこと殴りたきゃいくらでも殴っていいよ。けど、自分を傷付けるのはなしね」


「俺さ、知っとると思うけど、京ちゃんが憧れなんだ。強くてしなやかで格好ええ。そんな京ちゃんが大好きなん。せやけど、関わっていく内に京ちゃんの弱さも見て、もっと好きになっていった。薬を必要とされてるだけなのに俺まで必要とされてると勘違いして、京ちゃんには俺がいないと、なんて誇大妄想を抱えてた時期もあった。今もまだあるかもしれん。でも、それくらい京ちゃんが可愛くて大好きなんよ。それはわかってほしい。けど、たまにこの誇大妄想が暴走する時があってな、俺、京ちゃんのことぐちゃぐちゃにしたくなる時あんねん。たぶん試し行動してるんやろな。京ちゃんは俺から離れないと思っとるから。殴っても蹴っても泣かせても何しても、京ちゃんは俺を必要としてくれてるって夢見ちゃってるから。……ごめん、こんなん言い訳やけど、すげぇ自己中だけど、俺の傍から離れないで欲しい。お願い」


そう言いながら抱きしめ返してきたルイに、俺は可笑しくなってしまって、こんな価値のない俺に必要とされてることがどうしてそんなに嬉しいのかと、疑問にすら思った。でも、彼の目は真剣そのもので笑うのはお門違いな気がして、笑いをこらえてもっと俺も真剣に考えた。


「こーゆーのは不器用なんやな、ルイルイは」


試し行動してしまうのは自信のなさの裏返し。俺なんかに必要とされて嬉しいのは、承認欲求が満たされてないから。


「人間を愛したことなんか京ちゃんが初めてやもん。だから、京ちゃんが死にてぇとか殺してくれとか言うと、普通に傷付いてんねんで?」


こんな弱音や本音を言うルイは初めてでどう反応していいか分からなかった。いつも自分を強かに美しく見せているルイの裏の顔。


「またか、みたいな顔してるけどな」


「必死に隠してんだよ」


「へえ。じゃあさ、俺とセックスしたいと思うの?」


「は?それはちゃう」


と抱きしめていた手を離して、俺を咄嗟に突き飛ばしてきた。


「キレんなや。性的感情はないんやな。安心したわ」


よろけて尻もちついて、情けなさで笑った。こんなんで転けるんや、って思われてないかな。


「わりぃ。すぐ乱暴してまう、悪癖やな」


「ははっ、俺の身が持たないわ」


「そやね。そのうちいてこましてまうかもな」


「そうだと嬉しいわ」


「京ちゃん、冗談でもそゆこと……」


ドンドンドンドンドン!!隣りの部屋から凄い音が聞こえた。


「何や?この音」


「叩き返すか」


と言って、ルイは壁をドンドンと叩いた。それでもその音は鳴り止まなくて、手の甲が痛くなるばかり。


「何なんだよ、こいつ」


「文句言ってくるわ」


「ちょっ、ルイルイ!トラブルになるのはヤバいって!!」


玄関に向かうルイルイの手を掴んで必死に引き止めた。


「大丈夫、穏便に済ませる」


なんてにっこりされたが、ルイの穏便って脅迫や殺しも含まれてるんだよな。


隣の部屋の玄関、三回ノック。


誰も出てこない。


(あ、玄関ドア開いてる……)


興味本位でドアノブに手をかけたら、そんなことに気がついてしまって、大鬱。これがルイにバレたら、


「ルイ、やっぱ開かないね。俺もう眠くなってきちゃったよ」


って、あくびするフリ。眠そうな演技をする。その上で、ルイの腕に抱きついて、俺達の部屋の方へと引っ張った。


「京ちゃん、俺、ピッキングするわ」


「なんでやねん!」


渾身のツッコミを入れてしまった。俺はトラブルになるの嫌やし、トラブルにまきこまれるのも嫌や。


「だって、京ちゃんが熟睡できひんやん」


「そんなんどーでもええよ」


「良くない!京ちゃんが我慢する必要なんてないねん!」


とルイが力任せに扉を蹴ったら、扉が開いてしまった。ルイの自分の思い通りにしたいという感情が人一倍強いのは、自分の思い通りにしてきた経験が多く、それで得たものが多いからだ。


「ふっ、漫画みたいやな」


「京ちゃんは何もせんでええ。俺が何とかしちょるよ」


と微笑むルイの顔を眺めていた、視界の端に金槌を振りかぶった男の影が見えた。


瞬時に回し蹴りをした。身体がよろけて、ルイに支えられる。


「……っと、危なかったあ」


「蹴りが甘いね、京ちゃん。体幹鍛え直した方がええんとちゃう?」


なんて嫌味を言われたので、


「ルイが守ってくれるんじゃないの?」


と嫌味で返した。


「あぁ、殺しちゃる。京ちゃんはここで見てて」


ルイはその男から金槌を奪うと、それよりも他、目を奪われる何かに唖然としていた。


「どうしたの?」


「京ちゃん、これ見てぇや」


ルイの視線の先には、頭蓋骨が見えている女の死体が壁に磔になっていた。


「すげ!頭蓋骨まで見えてんじゃん!!」


グロ映画のノンフィクション版を見た気分で、テンションが上がった。


「俺は……殺してないよ。死体が、あったんだ。そこに」


この男、おそらく殺人犯はそんなほらを吹いて、この場をしのごうとしていた。


「あれ、お前の彼女?首絞めセックス失敗したん??」


ルイは男の分かりきった嘘を無視して、尋問するようにその男に問いかけた。


「俺は!殺してない!!俺は被害者だ!!」


男が大声で吠える。それに対して、シーッとルイは人差し指を立てた。


「静かにせぇよ。俺ならお前を救えるかもしれん」


「あぁ、ルイルイなら死体の一つや二つ、簡単に海に沈められるもんな」


虎の威を借る狐のように俺はルイの肩を持った。けど、こんな男を救って何がしたいんだか。


「何なんだよ、お前ら。消えろ」


「ん?俺ら、殺し屋だけど??」


ルイルイの悪い癖。安易な身分詐称。俺と肩組んでそんなことを言わないでくれ。


「こ、殺し屋ぁ〜!俺さぁ、彼女のこと大好きでさぁ、復活させたいんだよね〜!」


その男は媚びるように嬉々として話してきた。磔にされたイエスキリストが復活したように、彼女を壁に磔にしたのか。


「あははっ!きっしょいのぉ!!」


ルイがゲラゲラ笑いながら、俺の頭を金槌で軽くトントンと叩いてきた。


「おい、やーめーろ!」


俺もやられてゲラゲラと笑いながら、頭を抱えて抵抗した。京ちゃん、脳みそ空っぽやんなぁ。ええ音するわ。なんて言ってきて、冗談でぶっ殺したくなった。


「だってだってだってさぁ、俺らが殺し屋って知った瞬間、目の色変わったやん?俺らが何とかしてくれるっちゅう期待の眼差しをビンビンに感じてキショいねん。死体を復活?そんなん、ないない。てか、お兄ちゃん薬ヤッてんの??」


ルイはその鋭い洞察力で俺よりも先にそれに気がついていた。テーブルの上に置かれた使用済みの注射器を見て、身体が疼いた。


「やってないよ。俺は被害者だってそう言ってんじゃん」


「ルイ、俺ここにはいられない」


「ああ、部屋に戻って「一緒に戻ろ?」


薬のことで頭がいっぱいになる。ルイに土下座するでも全裸で踊るでも何でもいいから今すぐ欲しい。そんな気持ちを押し殺しながら、ルイの手を握っていた。


「殺し屋ぁ、俺を助けてくれ〜!」


「は?黙るか死ね。京ちゃん、限界なんか?」


ルイは俺の両手を握って、しゃがみこんで俺の顔色を伺っていた。


「うん。ふふっ、ルイが欲しい」


薬欲しさの甘言。でも、薬断つための代替品だった。ルイは俺を軽々しくお姫様抱っこして、部屋に戻りベッドへと置いた。


「あー、京ちゃん。それは京ちゃんが悪いわぁ」


なんて言ってから、ルイは俺にキスをしてきた。幻覚だったのかもしれない。けれど、心地よかった。


「ねぇ、もう一回」


せがめばせがむほど、唇同士が離れた瞬間の虚しさが嫌になる。この行為に意味はない、けれど、この沼から抜け出せない。


「あかん。京ちゃんは俺のじゃないねん」


ピタッと拒絶をみせたルイに、俺はどうしようもない怒りが込み上げてきて、頭ん中がぐっちゃぐちゃになる。暗闇の中の一筋の光のような正解が欲しい。


「ルイ、お願い!やめないで!!嫌だ、俺から離れていかないで!!」


奇声をあげて、駄々を捏ねて、爪を噛んだ。泣きじゃくって、布団蹴り飛ばして、己を思いっきり叩きもした。


「京ちゃん、大丈夫やから。自傷行為せんといて」


「殺し屋ぁ、助けてくれよ〜!」


ふらふらと俺らの部屋までその男が入ってきた。


「あぁ、クソ!最悪や。京ちゃん、少し待てるか?」


「ルイ、あの男を殺す気でしょ。行かないで」


「殺さへんよ。大丈夫やから」


ルイは自分の鞄から何かを持ち出してから、その男をどこかへ連れて行った。数分でルイは帰ってきた。その三十分後、男が窓から飛び降り自殺した。


「ルイ、これ大丈夫かな?」


「飛び降り自殺したくなるほど、彼女を殺したのがつらいんやろ。完璧なシナリオや」


と満足気な顔を見せるルイ。


「どーせ毒でも盛ったんでしょ?」


「いいや、俺は薬屋やで?」


警察のサイレンがうるさく鳴り響く。


「ルイ、俺にも毒を盛ってよ」


「ごめんな、京ちゃん。薬しか持ってないねん」


ルイから渡された水を飲むと、パッと落ちるように寝てしまった。


「ルイ……?」


昼過ぎに目を覚ました。ルイはいなくなっていた。「ごめんな、京ちゃん。仕事あるから、先出てくで」という置き手紙が灰皿の下にあった。

とりあえず煙草を吸って、シャワーを浴びて、部屋から出ると、警察官に会釈されたので、会釈し返した。



「これって京一さんが泊まってたホテルですよね?」


「ああ、隣の部屋だった」


ニュースを見て、驚いた顔の湊に、淡々とそう答えた。


「え……大丈夫でしたか?」


「うん、見ての通り無事だよ」


と両手を広げてアピールすると、


「左腕、見せてください」


って左手を掴まれた。


「見せたくないよ。汚いからね」


そう拒んでんのに湊は容赦なく俺の左袖をまくった。


「何ですか、これ」


「何が?」


「まだ新しい傷跡」


「そーゆー気分だったの。許してよ」


俺にとってはもう過去の話。それをわざわざ掘り起こされて責められることほど、面倒くさいことはない。


「どうしてそうなったんですか?ルイさんは何も言わなかったんですか?」


「ルイルイは見過ごしてくれてたよ。あいつは融通が利くからね」


「経緯を詳しく教えてください。許すかどうかはそれからです」


ほんっとめんどくせぇ、と思いながら経緯を説明している途中に、思い出した。


あれ?俺、ルイとキスしてね??


寝ちゃって記憶が曖昧になってたけど、そういやなんか俺キスせがんだ気がするし、キモい言動たくさんした気もする。


「注射器を見て、フラッシュバックしちゃって……待って、死にたいかも」


「え!??」


「薬欲しさでルイにせがんで、ルイの拒絶にピキっちゃって、キショい言動晒したの今思い出したわ。あー死にたくなるね」


また腕を切るためのものを探してしまう。きっとこれは依存性だ。一段階下げて、煙草にする。これも依存性だ。


「……薬は我慢できたんですか?」


「腕切ってやっと」


「それは偉いです。とても偉いです」


「だから、許して?」


と可愛子ぶって唇を少し尖らせて上目遣いで小首を傾げた。


「ああもう!その可愛さに負けちゃうんですよ僕は!!」


そう取り乱す湊のが可愛いし、俺はそれを見るのが好きだ。


「てか、リスカの何が悪いの?見た目だけじゃん」


「血が出て、痛いですよリスカは。貴方には煙草があるのに、リスカを選択するってことは、かなり感情的になってたってことです。もしかして、京一さんが殺しました?」


懐疑的に俺を見つめてくる。


「いいや、ルイがどうにかしてやったよ」


「ルイさんならばうまくやりそうですね」


そうルイを褒めるから、少しムッとして、


「俺だって完全犯罪できるよ」


と小学生の自慢のように言った。


「何を言ってるんですか?」


「俺だって、完全犯罪できるって言ってんの!」


湊に褒めて欲しくて、こんなことを恥ずかしげもなく言ってしまう。俺の心は小学生の時と何ら変わらない。


「だからって、何なんですか?褒めませんよ??」


「は?別に褒められたくて言ってんじゃないし!」


売り言葉に買い言葉だ。褒められたくて言ってんのに。俺に褒められるところなんて何もないから。


「そうですか。僕と一緒にいたいのならば、いかなる犯罪もしないでくださいね」


「そうだね。俺が次に犯罪をする時はお前を殺す時だからね」


「はわわ〜!京一さん!それ僕の惚気垢に書いていいですか?」


幸せそうにくねくねして、そんな訳の分からないことを言ってきた。


「は?きっしょ!え?きしょいて!」


「安心してください。誰にも見せませんよ。僕の備忘録ですから」


「へえ、他にどんなのが書いてあるん?」


「あ、いや、えっと、誰にも見せないって言ってるじゃないですかあ!」


スマホを抱えて、俺の手の届かない範囲に逃げられた。


「いいじゃん、一個一個俺の前で朗読してよ」


「どういう羞恥プレイですか!?恥ずかしくて死んじゃいますよ……」


「じゃあ、あれは?自作ポエム、まだやってんの?」


「だからそれも恥ずかしいって!その自作ポエム垢がだんだんと惚気垢になっちゃったんです!」


いや知らんがな。それよりも、俺のことがどういう風に書かれているのか気になりすぎて、夜も薬なければ眠れない。まあ、おおよそ俺のキモイ言動の寄せ集めだろうから見たら見たで夜も眠れなくなるだろう。


「てかさ、他人の幸せを喜べる人間ってどうやって生きてきたんだろうね。そんな奴、存在しないよな?」


「僕は京一さんの幸せは喜べますよ」


「他人って言ってんじゃん。SNSに彼氏彼女のこと載せてる奴ってさ、誰も聞きたくも見たくもないのに幸せですアピールを堂々として、恥ずかしくないんかね?」


「ただ自慢できて優越感を満たせればそれでいいんですよ、きっと。他人がどう思うとかどーでもいいんですよ、そーゆー人達は」


と自分と切り離して言う湊に、ちょっぴり恐ろしさを感じた。俺とって湊は誰よりも優越感を得たい人間で、誰よりも向上心のある人間だからだ。


「そーゆーのを痛いな、って思う俺のが痛い人間なのかもしれないな」


「いや、でもまあ、他人の気持ちを慮れない幼稚さはあると思いますよ。どちらにせよ」


「他人の自慢を妬んでも、目くじら立てて否定するのは違うもんな。同等な幼稚な行為をすることになる。その自慢を可愛いなって思えるくらいの心の余裕が欲しいよね」


そんなもん、俺にはありはしないけど。


「京一さん……大人になりましたね……」


「いいや、大人ぶってるだけ。格好良かった?」


「はい!また惚れ直しちゃいました!」

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