自分の視野でしか世界は見られない
夏休みが終わり、学校がまた再開した。けれど大学生というのは、中学生よりも夏休みが長いらしく、京一さんは今日も朝からセックスを求める。
「湊、行かないで。湊がいないと俺、ダメになる」
「そんなことないですよ。京一さんは自立できます」
京一さんの猛アプローチを無情にも振り切って、僕は学校へ行く準備を進める。
「ああもう、じゃあ、いいよ。煙草吸う」
「それじゃあ、僕は行ってきますね」
と鞄を背負って玄関ドアに手をかけると、
「待って!!」
という京一さんの声。
「ふふっ、何なんですか」
「はやく帰っておいで。ここに一人でいるのは嫌だ」
京一さんからのハグ。ああああ、僕だって本当はヤリたいんだよ。でも、自分を律していかないと何も成し遂げられないような気がして、ダメになっていく気がして、不安に飲み込まれるんだ。
「もちろんです。すぐ帰ってきますね」
そう爽やかに言って玄関を通ったけど、ドアが閉まった瞬間、京一さんとの卑猥な妄想が止まらなく脳内に溢れてきて、鼻血が出てきそうだ。そして、
「あれ、青柳?うずくまってどうしたの??」
「あぁ、高橋……ただの熱中症……」
通学途中、出た。
「うわっ、鼻血出てんじゃん!!はい、ティッシュ」
「青柳くん、またえっろいこと考えてたのー?」
あ、真城さんもいた。
「もう、ほんと、僕の恋人が可愛すぎて困る!!」
僕は鼻にティッシュを詰めた滑稽な姿で登校した。
あーーー、あちぃ。クソほどヤリてぇ。けど、湊には振られるし、ヤる相手いねぇし、いっそデリヘル……そんな金もねぇ。死にてぇ、エロ動画片手にシコることしか能がねぇ。性欲発散後の虚無感。どう扱えばいいんだよこれ。こんな時、湊がいればなぁ。あの子の笑顔で満たされるのに。ティッシュでいっぱいなったゴミ箱。煙を吸って、何が楽しいんだよこんなの、って先程まで取り憑かれたようにしていた行為を嘲笑う。そうだ、グロ映画見よ。
「あのさ、今から映画見るんだけど、一緒に見ない?」
って文言の餌に、二つ返事で簡単に引っかかる魚。
「え、京一郎さんの部屋で?」
「うん、ダメ?」
「いや、別にいいけど」
会って秒で家に呼ぶクズさ。でもこの淡白な関係が楽に感じる。
「俺の部屋、汚いけど許して」
「なんか、もわっとしてる」
「さっきまで一人で抜いてたからね」
「え〜!もう、抜く前に呼んでよぉ!!」
わざとらしく彼女は俺の腕に抱きついて、胸を当ててきた。身体のラインが見える服。単純に唆る。
「経験人数何桁なん?」
「ざっと三桁はあるんじゃないかな?」
「もしかして風俗嬢やってる?」
「もしかしなくてもやってる」
「まじかあ、一分一円で勘弁してくれへん?」
「ふふっ、めちゃくちゃブラックじゃん」
「ほな、臓器売るかあ」
「やめてよ、友達でしょ?」
「うん、友達。ふふっ、何か桃子ちゃんから言われると嬉しいな」
「私も、京一郎さんと友達で嬉しい」
「恥ず、何か飲む?」
「何あるの?」
「酒かジュース」
「お酒飲んでもいい?」
「俺もちょうど飲みたかったところ」
二人で乾杯して、前見た映画の続きを見る。ゾンビ映画あるある、生命の危機だからこそのセックス。
「わあ、エロいなあ♡♡」
「実際にやってんのかな?」
「こんな演技されたら騙されちゃうよね」
「あ、やべ、勃ってきちゃった」
「京一郎さん、ヤる?」
「あはっ、やんねぇよ」
「寂しいなぁ、そのために来たのにぃ」
「何誘ってんだよ、俺らはセックスしない同盟じゃん」
「それ、京一郎さんが勝手に決めただけだもん」
「じゃあ、襲っていいの?」
「うん、どうぞ」
「んーーー、よーしよしよしよしよし!」
と俺は彼女の頭を撫で回して可愛がった。
「わ!やめて!!髪の毛ボサボサになっちゃう、」
「あ、悪ぃ。だって、襲っていいって言うからさあ」
「もう絶対に言わない!!」
って、桃子ちゃんは少し怒り気味で、手に持った酒をグイッと飲んだ。そんな無防備な彼女を見るにつれて、俺の本能が反応してしまう。クソ、煩悩消えろ。
「煙草、」
命からがら逃げるように煙草を吸って、吸ってる途中に気が付いたんだけど、今の俺、死にたいって思ってる。彼女に危害を加える前に死にたいって。こんな性欲に囚われてる俺がキモすぎて死にたいって。ああ、クソ。人間に理性というのを埋め込んだのは誰だ。そいつのせいで、性欲は我慢できる欲と分類されるし、レイプは罪になったんだ。
「美味しいの?それ」
「美味しくないよ。けど、やめられない」
一本吸っても落ち着かなくて、もう一本。俺のこの脳みそを誰か破壊してくれ。
「男ってみんな煙草吸うよね」
「男への偏見だよそれ、吸わない人もいる」
「けどお店で会う男、ほぼみんな吸ってるよ?」
「桃子ちゃんはさ、わざわざ煙草吸う男と付き合いたい、って思う?」
「あーね。まあ、私はどっちでもいいけどさ。京一郎さんのそれも偏見だよね」
「どれ?」
「彼女いない人が風俗行くって」
「だって俺には考えられないもん、彼女には一途だし」
「じゃあ、京一郎さんって風俗嬢に偏見ある?」
「過酷だなって思うだけ、それだけ」
「ふふっ、男ってみんな、男の性欲で稼げてるくせに、みたいな思想あるのかと思ってた」
人間ってきっと目に付く人間が、みんなだと思い込む。貧乳に可愛い子が多いのも、背が低いイケメンが多いのも、単にデメリットを打ち消すメリットに目が付くだけで、それ以外も当然あることを考慮できていない。
「女はマンコで稼げるけど男はチンコで稼げないから、単なる嫉妬じゃね?性欲に金払ってる時点で、」
「そーゆー話じゃないんだって、マンコでしか稼げないって言われてるのと同義なんだよ!?」
「ふふっ、そんな常識ねぇ奴の相手すんなよ。あ、それが仕事か。じゃあ、耳貸すな。だって、こんな俺でもバイトで稼げるんだぜ?桃子ちゃんだったら風俗嬢じゃなくても、いくらでも稼げるだろ」
「あーー、暑いね」
彼女が手のひらで扇ぐ。首筋に光る汗。上気した頬。こんな格好付けて話をしておいて何だが、これらの全てを性的に見てしまう俺の脳は腐っている。
「エアコン、もっと強めるよ」
「ありがと」
と俺が隣りに座るやいなや、俺の腕に抱きついて、ぴったりとくっついてくる。
「暑いんじゃないの?」
「だって、京一郎さんさっきからずっと、ここ固くしてるんだもん。こんなになってるのに、まだヤんないの?」
と俺の固くなってるそれを彼女は撫でてきた。
「ああ、まじでやめろ。洒落になんねぇから」
弱々しく彼女の手を退けて抵抗を見せた。けど、限界などとうに超えていて、脳内に快楽物質が溢れ出ている。
「なんなくていいよ。私は京一郎さんと繋がりたい」
と彼女は俺の頬にキスしてくる。
「……クソ、後で泣いても知らねぇからな」
抱きしめるような形で俺は彼女のワンピースのファスナーを下ろした。そして、下着のホックを外す。顕になった胸を俺は好き勝手に揉んで舐めて吸って、片手で自分のを弄った。
「京一郎さん、まだ、出しちゃダメ。私のナカにちょうだい?」
彼女の濡れている部分を愛撫して、彼女の喘ぎ声がより一層、官能的に聞こえてくる。呼吸が乱れる。思考を伴わない行為。
ガチャッ、と鍵が開いた。
「ただいまです、京一さん」
と何も知らない湊がこの光景を見て、絶句している。
「湊、違っ……!!」
俺は証拠隠滅をするようにすぐさまズボンを履いた。
「……あはは、すみません。お邪魔してしまって、」
泣きそうな顔して笑う、その顔を見るのが一番つらい。何言ってんだ、俺がその顔にさせたんだよ。
「ごめん、待って!!」
今にも帰ろうとする湊の手に触れようとした瞬間、
「その手で!!触らないでください、気持ち悪い」
と手を引っ込められて、そう酷く言い放たれた。
「ごめん、湊。ごめんね、」
「何がですか?これが貴方のしたかったことなんじゃないんですか。何に謝ってるんですか?」
「湊、怒ってる……」
「あはっ、そりゃあ怒りますよ!貴方のために早く帰ってきたのに、貴方は女と楽しくヤッてんだもん。僕がこんなに頑張ってんの、馬鹿みたいじゃないですか」
全部、湊の言う通りだ。
「……ただ少し、寂しかったの」
「はあ??じゃあ、僕に電話でもすればいいじゃないですか。貴方は本当にいっつもいっつも僕に頼らないで、自分勝手に何でも決めて……はあ、何だか怒るのにも疲れました」
「ごめん、ごめんね、湊。俺、今日で死ぬね」
湊と別れたら、俺に生きている意味はない。湊がいない人生に、幸せなんかない。俺は包丁を取り出して、
「え?……ちょっ、待ってください!!」
腕を切った。何度も何度も、湊を傷つけた俺が許せなくて、自分を罰した。涙が溢れてくる。床が血だらけだ。低血圧で立っていられない。ああ、このまま死ぬんだ。
「京一さん!!!」
両腕を湊に掴まれて、床に押さえつけられた。
「触んな!!どーせ俺のこと嫌いになったんだろ!?離せよ!!」
「こんな簡単に嫌いになれたら苦労しませんよ、馬鹿」
頬に冷たい感触。俺に覆いかぶさっている湊もまた泣いていた。
「……何で?」
「うっ、ひっく……ああもう、何でまだこんなにも、貴方が可愛いんだろう……」
湊が俺の頭を優しく撫でる。それに俺の心は救われる。ああ、俺はなんて馬鹿なことをしでかしたんだろうか。
「うわああん!!ああああ、ううう、湊、ごめん、ごめんなさぁい!!うああん、はあはあ、ぐすっ、うわーん!!」
俺はクソ子供っぽく恥ずかしげもなく泣きじゃくった。
「京一さん、そんなに泣かないで。……ところで、貴方は誰なんですか?」
湊が俺の涙を拭いてから、俺の血がついた包丁を手に取り、桃子ちゃんへと平然とした顔で向けた。
「湊、俺が悪いから……」
「京一さんは黙っててください。貴方が京一さんを唆したんですよね?じゃなきゃ、京一さんはこんなことしない」
「うん、私が京一郎さんにヤろうって誘った」
とブラ姿で淡々と口にした。
「それじゃあ、死んでください」
それに対して湊は笑顔で死を口にする。
「あーあ、京一郎さんいいなあ。こんな可愛い子に愛されてて……殺す?いいよ、殺して」
自暴自棄そうに桃子ちゃんは楽しげに言った。
「……京一さんが、貴方を気にかける理由が分かりました。でも、貴方がしたことは許せません」
「そうだよね、」
「二人ともスマホを出してください」
「え?」
「お互いの連絡先を消してください。今後一切、接触禁止です」
俺は手も顔も洗ってから、スマホを取り出し、桃子ちゃんと湊に見せながら、彼女の連絡先を消した。そして、桃子ちゃんに血がつかないよう軽くハグをした。
「ありがとう。ごめんね。男女の関係になっちゃったら、もう友達には戻れないね。桃子ちゃんと一緒にいれて楽しかったよ」
そう言ってからハグを終えると、桃子ちゃんの目から涙が溢れた。
「嫌だ。私だって、京一郎が欲しいよ!!まだ京一郎と一緒にいたい。離れたくない。……大好きなの。わかるでしょ?」
と俺を引き寄せるように、今度は彼女の方から抱きしめてきた。俺は彼女を振り払うことなんかできず、ただ彼女の背中を撫でていた。
「京一さん、そんな優しさは優しさじゃないですよ。ちゃんと振ってください」
湊にはそう言われたけど、俺はなかなか彼女からの好意を無碍にする言葉を、口にすることができなかった。
「京一郎、」
「わかってるよ。孤独で寂しいのも満たされないのも、全部つらいよね」
「つらいよぉ、京一郎。私のこと、救ってよ!!」
俺なんかに縋り、助けを求める彼女。
俺は中途半端に彼女を救おうとして、彼女の柔いところをナイフで突き刺すような行為を、する。長引けば長引かせるほど傷口は深くなっていく。
「……ごめんね、俺のことは恨んでいいから」
「ううっ、馬鹿。馬鹿馬鹿馬鹿っ!!最低最悪、私のセフレになってくれるだけでいいのに、私はそれでいいのに」
泣きじゃくる彼女になんて声をかければいいかわからなかった。たぶん、何を言っても不正解なんだろう。
「そーゆーところ、嫌いじゃないけど心配になるね。君はちゃんと誰かの一番になって」
「ふざけんなっ!!綺麗事言って、、」
と突如、彼女に突き飛ばされる。そうだよ、俺はただ綺麗事言って体裁よく終わりたい、自己中なクズなんだ。
「ふふっ、な?俺みたいな自己中と一緒にいても腹立つだけだろ。だから、絶交しよう」
「うわーん!!それはやだあ、!!」
また彼女は泣きながら抱きついてくる。
「なんでだよ、めんどくせぇ」
万策尽きて途方に暮れた俺は、目をまわしてお手上げ状態だ。それを察知した湊がとうとう痺れを切らして、
「あーー、ウザいウザい。泣きじゃくって彼女面してる不倫女も抱きしめられて満更でもない顔してる貴方も、みんなウザい。貴方ら二人で付き合ってればいいじゃないですか」
とヤケクソで言い捨てて、帰ろうと鞄を背負う。
「ごめんなさいっ!私にはセックスしかなかったの!!メリットを提示してないと不安になるの、ごめんなさい、!!不倫するつもりじゃなかった、ただ、私から離れないようにしたかったの……」
桃子ちゃんが俺に縋りついて泣いて謝ってると、湊がカバンを投げ捨て、彼女にビンタした。
「クソみたいな言い訳、見苦しいんですよ。本当に悪いと思ってんなら、とっとと離れて帰るってのが正解なんじゃないんですか?」
湊が吠える。最後に見つめあってから、一歩、二歩、彼女が後ずさりをする。俺に触れている手が離れた。その表情は、何でこんなにも人生うまくいかないんだろう、って微笑みだった。
「……ごめん、なさい」
うずくまってずっとすすり泣いて謝り続ける彼女。その光景に酷く胸を痛めて、俺は
「湊、言い過ぎ」
と湊の頭を軽く叩いた。そして、桃子ちゃんの手を掴んで、その涙を拭った。
「京一郎、何で?」
「泣いてる子みたらほっとけないよ」
「じゃ、じゃあ!」
「ううん、ダメだよ。俺は一途に愛してみたいんだ、ごめんね」
そう言って、申し訳なさから彼女の頭を撫でていると、彼女は何故か明朗に笑った。
「もぉ、しょうがないなあ……」
なんて言いつつ、彼女も俺の目の前で俺の連絡先を消した。そして切り替えたように鞄を持って、玄関へと真っ直ぐに向かった。
「桃子ちゃん、じゃあね」
靴を履く背中にそう軽く別れを告げた。
「京一郎、私以外に浮気したら殺すからね!」
こっちに振り返った彼女は、何だか怒っているようで、でも口元は笑っていた。
「もうお前にも浮気しねぇよ」
「なっ!まあ、そうだけど。映画おもしろかったよ。ありがとう」
今度は満面の笑みで感謝を述べた。情緒不安定で読めないけど、強いなあ、桃子ちゃん。
「こちらこそ、ありがとね。どうかお元気で」
「京一郎こそ、急アルで死なないようにね」
最後の最後でそんないたずらっ子みたいな顔して、こいつめ。
「ふふっ、言われなくとも死なねぇよ。それじゃ!」
「うん、バイバイ」
お互いに手を振って、綺麗に別れた。また会えるかのような、そんな決別だった。玄関が閉まった後、何故かその場にしゃがみこんでしまった。
「京一さん、あの子に惚れてたんですか?」
「惚れてたって訳じゃないけど、何だか親しい友人になれたらいいなって思ってたんだよ」
「じゃあ、何でセックスしたんですか?」
「彼女が望むものをあげたかったんだ、けど、何だかね。身体の繋がりなんてくだらないのにね」
俺の一つの誤った選択で彼女を傷付け彼女と別れることになった。そのことを悔やんでも悔やみきれないから、涙が出そうでダメだった。煙草に火をつけ憂鬱に浸る。
「はぁ、そうやって優しさでセックスするの良くないですよ」
「俺だって、したくなかったけど……」
「めちゃくちゃ挿れたがってたけどね、」
シニカルな笑いで床を見つめる湊。
「あ?何、喧嘩する??」
「今回の件に関しては、僕一切悪くないじゃないですかぁ」
あ、これ、拗ねてる。
「……ごめんね、湊」
煙草を置いて、彼を抱きしめる。何もかも大切にしたいはずなのに何もかもはこの両手には収まりきらない。
「……京一さぁん、酷いじゃないですかぁ。何で、何で僕以外の女と……ううっ、そんなに女がいいんですか?僕じゃダメなんですかぁ?京一さぁん、何か言ってよ……」
俺の胸を軽く叩きながら、泣きじゃくってくる湊のなんて可愛いことか。
「不安にさせてごめん。湊が一番だよ」
「その一番って、どーゆーことですか?都合が良い男ナンバーワンですかぁ?だったら僕は……」
言いかけた言葉を首切る動作で表した。そうしてニコッと笑って、死体のように全身の力が抜けるみたいに倒れ込んだ。それを真近で見た途端、背筋からゾワッとした震えが止まらなかった。
俺は、人殺しか??
「湊、湊、ねぇ、湊。ねぇってば、起きてよ湊。ねぇ、返事してよ。ねぇねぇ、湊。……何でこんなにも冷たいの?」
湊の死を信じたくなくて信じられなくて俺が殺したんじゃないし俺がせいじゃないし俺のでは生きてるし死んでないし何かの冗談だろ?なあ、また笑って起きて抱きついてこいよ。そしたら、めいっぱい抱きしめてやるから。なあ、湊。湊ってば。
「京一さん、泣きすぎですよ。何がそんなにつらいんですか?」
ニコッと笑った湊は俺の涙を拭っていた。
「湊、湊、あぁ、湊。生きてる、生きてるね。本当に、良かった。湊が、生きてて良かった……」
そう俺は湊をめいっぱい抱きしめた。
「うぐ、苦しい……まさか、僕が死んだかと思ったんですか??」
「そうだよバカ、死ぬなバカっ!!」
感情的になって、湊に怒鳴った。
「えーーー、だって、血も出てないしぃ、ただの死んだフリで、」
湊が困惑してる。そりゃそうだ、さっきのは俺の脳みそが作り出した悪夢なんだから。
「俺に悪夢を見させんな」
俺は死に鈍感なところがある。死人を蹴った日。俺には心というものが存在しないんだと思った。何の罪悪感もなかった。ただただ、「あーあ」って感じだった。大抵の犯罪者はこうなんだろうな。俺もその一人だと察した。俺は死んで当然だし、こいつだってたぶん死んで当然だ。この世界の将来は真っ暗だし、死なせてくれてありがとう、の一言くらい貰ってもいいと思ってる。それくらいには俺は死に対して鈍感だ。けれども、例外を知った。湊はどうしてもダメだった。何故か分からないけれど、湊と出会ってからというもの、恋人が死ぬ映画を見ていると泣きそうになる。以前は、いいぞもっとやれって死を望んでたのにな。湊が死にそうになるくらいリスカをした日。この世の終わりかのような絶望を感じて身体が勝手に動いた。湊が俺の人生の意味になってく。
「ごめんなさい。僕は死なないし、京一さんとも別れません」
「うん、湊。湊は俺の生きる意味だよ。いなくならないで、俺を捨てないで。……我儘を言って、ごめんなさい」
「京一さん、我儘なんかじゃないですよ。僕も一緒にいたいですから」
「ふふっ、大好きだよ。湊」
いっぱいいっぱい大好きを言って、その傷をいっぱいいっぱいの大好きで埋め尽くしたい。湊はこんな救いようのない俺の唯一の救いだ。湊を神格化していくと、俺なんかが一緒にいるのが穢らわしく思えてくる。一時的な感情で湊を傷付けてしまった自分に酷く自己嫌悪した。けれども、
「僕も大好きです」
って湊は俺を許してくれる。湊はその自己嫌悪の渦からも俺を救ってくれる。最高な恋人、って言ってしまえばそれまでだけど、永遠をともに過ごしたい人だとつくづく思う。
「このお詫びと言っちゃあアレだけど、何か欲しいものとか何かして欲しいこととかない?」
「それじゃあ、セックスしましょう。今朝の分とあの女にするはずだった分、と僕に対するお詫び分で、最低六回。保証してくれますよね??」
「いいよ、いっぱい愛を注ぐよ」
やっぱりこれか、と可笑しくなった。
「やった!!夏の醍醐味、汗だくセックス。に追加で、お仕置きセックスも楽しめちゃうだなんて……京一さんったら、えっちですね!」
「そっちの妄想のが、卑猥だと思うけどね」
なんて言いつつも、軽いキスから始めて、彼の制服の中に手を入れ、身体をまさぐる。湊が俺の腕の中で蕩けていく。身体が火照る。何も考えずに、ただ服を脱がし、キスをして、湊のナカを……
「京一さん、ストップ」
「え?痛い??」
「いいえ、これはお仕置きセックスですよ?そう簡単に、挿入させるわけないじゃないですかあ」
「はあ?」
「挿入れたいですよね?そうですよね??ダメですよぉ、挿入れちゃあ」
クッッッソ、煽りやがる。俺をいたぶってもてあそんで、悦に浸ってる。そうやって舐めるフェラだって、俺を気持ち良くさせるためじゃない、中途半端に気持ち良くさせて、生煮えのまま悶えさせるためにやってるんだ。
「んっ、湊……」
「すごい血管がドクドクしてますね。もうすぐイきそう?」
「……あぁ、うん」
「ダメ、イかせなぁい♡♡」
がちでこいつの顔面ぶん殴りてぇ。
「あーー」
「我慢できずに腰まで揺らしちゃって、お可愛いですね。京一さん♡」
まじうぜぇ、ぶん殴っていいよね??
「本当に可愛いで済むのかよ、湊」
「え?」
「本当はコレを挿入れられたくて挿入れられたくて、しょうがないんじゃないの?」
「ふふっ、僕は駄犬じゃないですよ」
と涼しい顔を見せるが、
「そんな格好付けたって、勃起してんのバレバレじゃあ、ね?」
「いや、違っ、これは……」
本能は正直である。湊の顔を両手で包み込むように掴んで、
「今度は俺が湊にお仕置きする番」
と湊にキスをした。うえー、さっき俺のアレを舐めた口にキスしちゃった。
「待って!!何で僕がお仕置きされなきゃなんないんですか!?」
「ん?そんなん、俺がしたいからに決まってんじゃん」
「……あはっ、そーゆーところ大好きですよ!!」




