わおん
湊に俺の写真を撮るのをやめろと警告した。でも湊は食い下がらなくて、
「京一さんとデートした証拠が欲しいんです」
と力説してきた。写真を撮られた瞬間、俺の顔面の気持ち悪さが肥大してしまい、全部が歪んで見える。俺は今日もピカソが描く顔よりも気持ち悪い顔で生きているんだ。撮られた写真を確認してはそう思う。
「クソブスじゃん」
「は?京一さん、それは許しませんよ??」
「何が」
「その発言、僕が許しません。撤回してください」
「は?ブスにブスって言って、何が悪いの??」
「京一さんが傷付く言葉です。京一さんでも京一さんを傷付けること言うのは許しません」
湊はちゃんと真っ直ぐ俺の目を見て、俺の手を握りながら真剣に伝えてきた。こうやって彼が真剣に怒ってくれるのは、俺のことが好きだからだ。
「……恥ず」
なのに俺は、そう言って目を逸らしてしまった。
「ギャン可愛じゃん!!!」
湊は俺の手をぎゅっと握り直して、その手を額に付けた。俺の一挙一動に過剰に反応する湊が面白かった。
「ほら、冷めちゃうよ」
とオムライスとナポリタンを示した。俺はオムライスが全部食べ切れなくて湊の方へと差し出す。その動作で湊は察したようで、俺の食べかけのオムライスを頬張った。
「オムライスも美味しいですね」
彼はそう言って微笑んだ。俺は俺の分までいっぱい食べる君が好きだ。
「湊、ケチャップ付いてる」
「え、どこですか??」
と着ている洋服を気にする湊。
「馬鹿。そこじゃない」
湊の顔を掴んで俺はキスをした。人前で、恥ずかしげもなく。でもそれくらい彼のことが愛おしくなったから、致し方なく。
「……京一さん、まじで、貴方って人は」
恨みがこもった声色で、顔を真っ赤にして惚気られる。
「んー?何ぃ??」
と惚けた声で返答した。
湊とはもう話しすぎて、最近話すことといえば、今話題の芸能人や今期のドラマやアニメの話ばかりだ。
「今期の○○○がイケメンすぎて、」
「そうだね」
「ほんと僕って、クズ推しなんです」
「は?」
確かにそのドラマではあのイケメン俳優は、殺人犯だったけど。何?クズ推しって。
「我を通すクズは最強ですよ」
「俺をクズから逸脱させないようにしてる??」
「はい、それが京一さんの良さですから」
俺の良さは……クズなところか。
「じゃあ、お前のこと大切にしなくていいの?」
「大切にしている上で乱暴にされたいです」
「ははっ、意味わかんねぇ!」
とコーヒーを啜った。
「京一さんは京一さんのままでいてください。僕はその京一さんに惚れたんですからね」
「それじゃあ、『もうセックスしない』って言ったらそれでいいの?」
「いや、えー、それは、ちょっと……」
湊が渋ってる。だから俺はそのメロンソーダを奪った。そしてストローを咥えた瞬間、シャッターを切られる。
「は?」
「もう一回」
パシャッ。何か変にキメ顔しちゃって。
「は?」
「京一さんとメロンソーダ、一緒に撮りたかったんですよずっと」
「最初からそう言えよ」
「言ったら、撮らせてくれないじゃないですか」
「ふふっ、だからって盗撮すんなよ」
あー、図星で笑ってしまう。
「京一さんだって、盗食してるじゃん。僕のメロンソーダ」
「あははっ、美味しいねこのメロンソーダ」
「話題逸らそうとしてますね」
「クッソ、なんでわかんだよ」
って爆笑した。
「僕、京一さんの解像度だけは高いんで、舐めないでください」
「別に舐めちゃ、いや、舐めたか」
彼の口端を、さっきチューして舐めた。
「その舐めたは許しますよ。逆にもっと、ください」
と期待した眼差しで見つめられる。
「ふふっ、あいかわらず変態で好きだよ」
「ああ、変態で良かった……」
どんな安堵の仕方だよ、ってついつい突っ込みたくなる。まあ、こんな変態を、好きにさせられた、が正しいのかもしれない。
さっき、純喫茶でご飯を食べたのに、食べ歩きしましょう!なんてふざけたこと抜かす恋人を引き連れ、商店街を練り歩く。
「京一さん!かき氷がありますよ!!」
かき氷ごときでテンションが上がるなんて子供だなあ。まあ、食ってやるか。口の中ですぐ解けてなくなる、ふわふわのかき氷は食べている感じがしなかった。
「京一さん!射的がありますよ!!」
射的ごときでテンションが上がるなんて子供だなあ。まあ、撃ってやるか。パンッ!!とコルクが飛んでった先には万華鏡、くだらねぇと湊にやると、ずっとそのキラキラを彼は眺めていた。
「湊!喫煙所があるぞ!!」
喫煙所ごときでテンションが上がるなんて……いや、上がるだろ!!煙草吸えんだぞ?最近の店はどいつもこいつも紙タバコ不可でヤニなるぜ。路上喫煙しないだけありがたいと思え。と一服した。
「京一さんもまだまだ子供ですね」
と万華鏡片手ににやけ面。
「はあ?」
「我欲に真っ直ぐで、子供っぽいじゃないですかあ」
「大人のが子供よりも我欲に真っ直ぐだから、俺は大人なの。お分かり?」
と屁理屈こねると
「ふふっ、狡い大人!」
と大人っぽく微笑まれた。禁欲主義的な見方では、成長につれて欲望を抑え込むことが大人になるということだ。が、そうしたら子供は産まれなくなるのではないか?経済も回らなければ、働く意味もない。だから、禁欲主義のアンチテーゼ、快楽主義に俺は身をゆだねて、成長につれて欲望を曝け出すことが大人になるということだ。と俺は考えている。
「お前も狡い大人になっちゃえばいいじゃん!たぶんセンスあるよ」
「……学校で教わることって何なんでしょうね?受動的にこれやれあれやれ文句を言うなって学校では教わるのに、能動的にあれやれこれやれ指示を聞くなって社会では叱られるんですよね?」
「あはっ、学校はクソ!あんなとこで育まれるのは良くて、努力家の凡才程度。天才は武器を失うよ」
「京一さんの、そうやって言い切ってくれるところ、好きです。何だかスカッとします!」
「あ?適当言ってるだけだよ」
と湊の頭を乱雑に撫でた。あ、これ、セットに1時間かけたのにぃ、と湊は文句を言っていたがそれすら可愛かった。
「京一さん、日が沈んできましたね」
まだ帰りたくなさげに彼は言う。
「あー、湊、ごめん。酒入れていい?」
俺は恥ずかしい台詞が言えなくて、酒へと縋った。とりあえず、生で。ソフドリの君と乾杯した。
「京一さん、今日一幸せって顔してますね」
なんかすげぇ嫌味を言われた気がする。あと謎のダブルミーニング、クソうぜぇ。イッキでジョッキ空にして、ドンッと音立てて置いた後で、
「は?お前といられるから幸せなんだよ」
って、惚気けながらキレた。
「……すみません、わかっちゃってました♡♡」
彼は顔を両手で覆って、ガチめに照れている。分かってた、これ、言葉で愛情が欲しくて、わざと嫌味言ったんだ。そんな好きな人からの誘導尋問、好きって言うしかないじゃん。
「あはっ、小賢しくなったじゃん」
「貴方のせいです」
「へえ。じゃあ、俺の事好き?」
と変に可愛こぶって小首傾げる。
「もう、そんなん、好きに決まってるじゃないっすかあ!!」
飲んでる俺よりもシラフの湊のが声大きくてビビった。オタクこわ。
「馬鹿、」
シーっと人差し指立てる。
「あ、すみま」
「湊、隣りに座っていい?」
「え?」
湊の隣りに座って、彼の肩にもたれかかる。あー幸せだ。
「……好き」
と俺が言うと、湊は俺の手を取って恋人繋ぎしてから
「京一さん、僕も好きです」
と囁いた。そのせいで、俺は今すぐにでも彼を襲いそうになってしまったので、頭を冷やすためにサワーを5杯頼んで、ほぼ一気飲みで飲み干した。
あーまじだる。飲みすぎたクソ。身体が熱くて熱くてたまらない。頭クラクラする。気持ち悪ぃ。中途半端に飲んだから吐けねぇし。何なんだよめちゃくちゃ楽しかった。てか、この思い出の最後を、こんな酔いでマイナスにしたくねぇ。湊、すやすや寝てる。俺、一向に寝れそうにない。酒好きだけど、今日は飲まれたな。頭痛。もう嫌だ。酒なんて飲まねぇ。とか、思っても、どーせ明日には飲むんだなきっと。日付変わってるけど。
「湊、愛してる……」
って彼の寝顔に向かって呟いて、その頬にキスをした。
え、待って!??!?、京一さん、愛してるって言った!、?!??、明日雪降るのかな???やば、完全に寝たフリしてた。京一さん、いつ寝るんだろう思ってたらもう、え!??夢かな!???!?僕も愛してますよ京一さん!!!やばい、寝たフリがバレちゃうじゃん。ニヤけるな僕!!でも、これはニヤけるの不可避じゃん!!!あー、余計に寝れなくなってくる。
「京一さん、全力でセッ、しましょう!!」
ガバッと起き上がって、目バッキバキで京一さんの手を掴む。
「あークソ、起きてんのかよ!もう、」
拗ねて照れてんの可愛い!!!俄然萌えてきた!!上着脱いで、上裸で京一さんを抱きしめる。もちろん、彼のスエットの中に手を入れて、
「京一さん、あったかいね」
「酒のせい」
酒のせいでとろっとろになっている舌と僕のを絡める。はああああ、気持ちよさで飛びそ〜!!!腰が自然に揺れる。
「んっ、気持ちい……♡」
「変態」
ああもう、そうやって煽られるのが好きなんだって!!京一さん、知っててやってるから有罪だ。
「ふふっ、もっと、繋がりたいなあ♡♡」
「あー、酒のせいで勃たないかも」
「え……!??」
「今、すげーだるい」
そう仄暗い部屋で申し訳なさそうに微笑む貴方。……好きだ!!!!
「そうですよね、良いんですよ。僕が我儘言ったのがいけないんですから」
ぎゅっと貴方を抱きしめると、貴方は抱きしめ返してくれた。
「でも、すげー好きだよ」
って。はあああ、沼だ。特大底なし沼。セッ、しないで好きだよ。ってそれはもう、人間として、好きじゃん!!そーゆーことじゃん。
「はあ、貴方のこと襲っちゃいそう……僕は最低な人間だ……」
「最低なんかじゃないよ。咥えよっか?」
ぎゃんっ!!!ぎゃんかわじゃん!!!!酔ってるとはいえこれは……、絶好のチャンスでは???
「京一さん、お願いしてもいいですか?」
というと、京一さんは僕のズボンを下ろして、バンツ越しに僕のそれを手で弄ってくる。
「ふふっ、すげー硬くなってんじゃん」
「京一さんが可愛すぎるから、」
「もったいねぇな、」
「何がですか?」
「ん?こんなにも硬くなってんのに、挿入るとこがどこにも……」
「どこにも、?」
「あははっ、あったあった!!俺のここだ!」
と可愛らしい笑顔で自分の口許を指さした。より一層、僕のそれが大きくなった気がする。
「京一さん、無理しなくても、いやっ……」
京一さんが僕のその先端をぺろっと舐めただけで、僕は変な声を出してしまう。
「好きな人には俺ので気持ちよくなって欲しい。当然じゃん?」
京一さんがイケメンすぎて、好きが溢れすぎて、脳内が真っ白になる。ぺろぺろとアイスキャンデーのように僕のを舐める京一さん。慣れてないのも、愛おしい。
「可愛いですね、京一さん」
「これじゃ、イケない??」
と自信なさげに聞いてくる。いや、そうだけど、そうじゃないんだよ!!!
「ご奉仕してくれるだけありがたいです」
「ううっ、それじゃ嫌だあ……」
京一さんが駄々こね始めた。なんだこの人、可愛すぎて軽率にイキそうになる。なんて呑気に考えていた隙に、京一さんがいきなり僕のを喉奥まで入れ込んだ。
「京一さん!!それやるとゲロっちゃうから!!!」
涙目になってる。やばい、戻すぞこれ……。直ぐに引き剥がして、上を向かせた。……あっぶな。吐かなかった。
「う、ううっ、嫌だよ。何で俺はうまくできないの?最悪!!!」
京一さんは吐き癖があるからフェラは向いてない。
「そのお気持ちだけで僕は大満足ですから……」
「湊のこと、気持ちよくさせたいのに……」
こんなことで泣いてくれる僕の彼氏、可愛すぎでは??
「それなら貴方のこの手で、僕のことを弄んでくれませんか?」
と彼に提案すると、彼は新しい玩具を前にした赤ちゃんのように、僕のを触って離して、触って離してを繰り返して、何故か笑っていた。焦らしプレイすぎておかしくなりそうだ。
「はあ、寝みぃ……」
一通り笑ったあとで、京一さんはペタンと床に倒れ込んで、目を瞑った。京一さん!??!?と起こしたかったけど、僕にはそんな我儘できなかった。
「もう、自分で処理しちゃいますからね!」
と謎の宣言をしてから、精液を出した。汚ね、すぐさま手を洗って、京一さんの手もウェットティッシュで拭き取った。よく僕の咥えてくれるよな、って賢者タイムに思ったけど、僕も京一さんのだったら咥えたいな、って思うから、そーゆーことなんだろうって自己完結して勝手に萌えた。
寝起き、一番、僕の顔がブサイクに見える瞬間。京一さんには完璧な僕も汚い僕も愛して欲しい。けど、汚い僕を晒していると京一さんが離れていってしまいそうで怖くなるから、僕は京一さんよりもはやく起きて、スキンケアに髪の毛を整える。一方、京一さんの寝起きはというと、とても赤ちゃんのような顔で、とろんとした目が可愛らしく、その唇もちゅんとしてて可愛い。起きてる時はあんなにもイケメンなのにな、って。そのギャップにやられている。
「みにゃと、朝ごはん何?」
「鮭焼きました。一緒に食べましょう」
インスタント味噌汁と適当にちぎったサラダ、グリルに任せて焼いた鮭。手慣れていると言ったらそれまでだけど、京一さんには毎日美味しいものを食べてもらいたいというこだわりはどこへ行ってしまったんだろう。
「やった、鮭。ありがと」
寝起きの京一さんと食卓を囲んで座ると、京一さんは嬉しそうにそう言ってくれる。そのおかげで僕は毎日、ご飯を作ることができている。
「さあ、いただきますしますよ」
「「いただきます」」
京一さんと声を合わせていただきますを言うのが僕のモーニングルーティーンだ。最高だろ。僕がご飯を食べ終わって食器を片付けている時、
「湊」
と京一さんが僕の名前を呼んだ。
「なんですか?」
「昨日はやれなくてごめんね」
「覚えてたんですか」
「今からする?」
「でも、朝ですよ?」
「俺はすげーしたいんだけど」
と言われてしまったら、もうやるしかないわけで、朝なんて関係なしに、京一さんと繋がった。挿入時の痛みにももう慣れて、京一さんは僕に「痛くない?」とも聞いてこない。その度に「痛いくらいがちょうどいいです」と返してたからかもしれないけど。
「京一さん、僕学校あるから、あ、短めに、」
「俺のこと、好きでしょ?」
「ん……えっ??」
「好きだよね??」
「だからって、学校は……あっ、ちょっ、激し!!」
僕はその後は喘ぐことしかできなくて、ちゃんと中出しされて、学校に遅刻した。
「あー、幸せ」
京一さんはやり終わった後、必ず煙草を吸う。その姿がとびきり格好良い。僕はそんな京一さんを布団の中から、ただじっと見つめては見惚れている。だから二回戦目は一回目よりも煙草の味がする。そんなキスが僕は好きだ。でも今日はそんなことは言ってられなくて、
「京一さ、んっ!!本当に遅刻するか、らあ、」
彼は僕を風呂にも入らせないで、煙草片手に二回戦目を始めようとする。煙草の煙、直に吸った。目に染みる。
「だーめっ!今日は一緒にいよ??」
糖度バグってんのか?!??!賢者タイム機能して。京一さんは僕を布団へと戻すと、煙草を消して、何度もキスをしてきた。ここで僕の理性なんて消し飛んで、本能的にキスを貪った。
「僕の人生、貴方に狂わされてばっか」
なんて嫌味なことを言っても、京一さんは、
「でもそれがいいんだろ」
って僕の痛いとこを突いてくる。快感。
三回ほど中出しされて、やっと京一さんの賢者タイムが機能し始めた。煙草片手にぼーっとしている。こんな時は、そっとしておくのが一番。でも突如、京一さんは「俺、なんでこんなことしてんだろ」とか言ってくるから、軽率にキレそうになるよね。
「京一さん」
「んー?」
「今日は何でそんな甘々だったんですか?」
「えー?俺が甘くちゃダメー??」
と灰皿に煙草の燃えさしを落としながら、そうぶりっこっぽく笑った。
「いや良いんですけど、」
「夢見たんだ、湊とセックスする夢」
「へ?」
「その湊があまりにも可愛くて、現実にしたかった。ただそれだけだよ」
貴方は煙草に口付けをする。それがちょっぴりムカついて、僕は貴方から煙草を盗んでキスをした。
「現実の僕はどうでしたか?」
「ふふっ、生きてるって素晴らしいね!」
京一さんは僕を抱きしめてくれた。ああ、夢心地の中で貴方の体温が温かく、貴方の息遣いを感じて、こんな細い貴方の身体の中にも心臓はあって、生きているだなって実感する。それと同じように、貴方は僕が生きてるってことを感じてくれたんだろうね。
「ほんとにもう好きすぎますよ」
貴方の欠点だって、僕の貴方が好きなところの一つにすぎなくて、どんな姿を見せられたって、貴方に蛙化することなんてなくて、どれだけ傷つけられても、その傷を愛しているんだから、僕はきっともう貴方に狂っている。
「俺も好きだよ、湊」
はあああ、生きてて良かったあ!!!!
湊が俺のせいで学校に遅刻した。その罪悪感が脳内を駆け巡る。湊はこんなどうしようもない俺を好きだと言ってくれるけど、俺は俺が嫌いだ。
「氷野さん、ため息ばっかでどうしたんですか?」
「はあ、死にたくないけど生きたくもないだけだよ」
「意味わかんない。死にたくないなら生きたいになるじゃないですか」
ああ、どうしてこう伝わんねぇかな?めんどくせぇ。
「はあ、死にた」
「え!?私のさっきの一言で!!?」
と狼狽してるあかりがおもしろくて、
「あははっ!お前が俺を殺したあ!!」
って高笑いした。
「他人のせいにしちゃダメですよ」
「それって、あかり個人の意見だよね?俺は別に、他人のせいにしてもいいと思ってるけど?」
と社会的に受け入れられなそうな自己主張をする。
「ウザ、この人」
「ウザくて結構。綺麗事で説教してる奴よりマシ」
「ほんっと!性格悪いですよね〜!!」
「何だかんだ、性格悪い方が生きやすいんだよ」
「それ、氷野さんの個人的な意見ですよね?」
と彼女のが一枚上手に出て、
「うっざ!!」
と俺は冗談っぽく笑うんだ。こうやってふざけて笑いあっている時は死にたいだなんて思わないから、好きだ。
「先生、腹痛が酷くて遅刻してしまいました」
京一さんの精子が歩いてる途中とかにドロッと僕の中から出てきて、あ、中出しされたんだ、ってちょっぴり照れる。この腹痛も中出しのせいだけど、京一さんのせいなら許せちゃうんだ。あーなんなら、もっとされたい。
「どうしたら遅刻しない?」
「え、」
「どうやったら遅刻しないんだ?」
「腹痛が酷くて」
「そんなのお前の体調管理が悪いんだろ」
は?ふざけんな。じゃあ、彼氏との中出しセックスやめろって言うのか。不可能だろ。
「すみません、次から気をつけ」
「なあ、次っていつだよ。お前そればっかじゃん」
って、詰め寄られる。死にたくなる。
「それって、"人間やめろ"っておっしゃってるんですか?」
「は?」
「人間なんだから体調崩すのは当たり前じゃないですかあ」
僕は先生を小馬鹿にしたように微笑んだ。
「他のみんなはできてるのに、何故お前だけできない。お前以外にこんな遅刻してる奴いるか?」
口を噤んだ。僕以外に中出しセックスしてる奴もいないだろう。
「ええーと、その、僕、ペットを飼ってて、」
「ペット?」
「その子が死にそうなんです。僕がいてあげないと」
「家族は?」
「先生もご存知ですよね?共働きで家にいるの僕しかいないんです。だから僕が……」
と迫真の演技で嘘をついていると、先生は少々黙り込んでから、疑い深い目で僕を睨んだ。
「……じゃあそのペット、今はどうしてるんだ?」
「え、」
「今も死にそうなんじゃないか?」
「ああ、今は落ち着いて寝てると思います。今朝、なだめたので」
「そうか。まあ、ペットも大事だが、そんなんで受験は大丈夫なのか?」
「ははっ、」
ダメかも〜!!って薄笑いしながら内心思ってた。ああ、京一さんに会いたい。セックスしたい。
「青柳、何幸せそうな顔してんの?怒られたのに」
「今朝までは最高でさあ、まだお腹に残ってる」
と僕が幸せそうに言うと、高橋は顔を歪めて、
「おええ、青柳のコレって相当クズだよな」
って小指立てて、京一さんのことを褒めて(?)くれる。
「でしょ〜♡」
「何惚気けてんだよ。褒めてないから」
「褒めてないの??」
「はやく別れろって言ってんの」
「え?何で??」
「話聞く限りクズじゃん」
「そこがいいんだよ。高橋はわかってないなあ」
僕は高橋にゴールデンウィークにあった思い出話をたくさんして、京一さんの良さをプレゼンした。
「何話してんのー?」
「え、僕の彼氏がイケメンって話!」
と真城さんに言うと、何故か場が静まり返った。
「……彼氏、??」
「うん、彼氏!」
「へえ、彼氏かあ」
「うん!ほんと世界一格好良いの!!」
って自信満々に言った。真城さんはそんな僕を見て優しく微笑んでくれた。
「青柳くん、その話はあまりみんなにしない方がいいよ」
「僕は真城さんだから言ったんだよ」
みんなと僕は違う。そんなのは百も承知だ。みんなから白い目で見られること、無意識に傷つけられること、たくさんあった。僕は人間がみんな嫌いだった。だけどその一方で、僕のことを好いてくれる人間もいることを知った。そんな貴重な存在には、僕のありのままを知っていて欲しいと僕のエゴが言っている。ただ認めて欲しいんだ。こんな僕を。
「ごめん、ありがとね。教えてくれて」
真城さんは僕の肩に手を置いた。僕はちょっぴり嬉しくなった。
「聞いて聞いて!今日の朝もね、」




