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愛し合ってちゃ犯罪です!

四月の終わり、ゴールデンウィークの予定は?と聞かれれば、京一さんとのセックス三昧と答えてしまいたくなる今日この頃。先生の送別会が総合の時間に設けられていた。これは三月に何処かへ消えた教師達が、何故か一度この学校に帰ってきて、生徒会から花束を貰って、向こうでも元気にやってますよ的な近況報告をする会だ。クソほど興味もないさっさと帰りたいと思わせる会なのだが、今回に限っては違った。神回とかじゃない、クソのクソの激クソ回なのである。だから、僕はこの日のためにナイフを調達してきた。京一さんにこのことを言ったら、


「完全犯罪にしろよ?まあ、お前にゃ無理だろうけど」


とアドバイス付きで煽られた。でも完全犯罪にしないと京一さんとの楽しいゴールデンウィークを過ごすことができなくなるらしいので、無い頭を絞って、それっぽい感じにできるように……クッソ今すぐ刺したい!!!顔を見るだけでイライラしてきたあの体育教師。何ヘラヘラ笑ってんだよ。キモ。死ね!!!


「青柳、貧乏ゆすりやめろ……」


「だって、あの顔ムカつかね?」


「じゃあ、寝てな?」


「寝られるわけがない。殺意で滅多刺しにしとく」


「はあ……まじで刺しそうで怖いわ……」


高橋って、謎に僕の思考を読み取れるパワーを持っているようだ。何で刺殺するって分かったんだろ。まあ、滅多刺しって言葉を僕が使ったからなんだろうけど。


「今は中学一年生の担任をしています」


あんな奴が中学入って早々担任なんて、僕だったら即不登校になるね。可哀想。あーーー、イライラが止まらなくて、自分の脚をひたすら殴っていた。京一さんが愛でてくれている脚をアイツのせいで汚してしまっていると思ったら余計に腹立たしくて、今すぐにでも僕が刺殺してあげなきゃ、という使命感すら芽生えた。

やっと、式が終わった。僕は教室に戻らずに職員室へと向かった。誰かと会話中だったアイツを顎で使って、


「来てください」


と呼び寄せた。


「青柳。お前、この状況が見えないのか?『会話中、失礼します』とか言えねぇのかよ」


お前だって、僕が高橋と喋ってた時、一方的に「青柳」って呼んできたじゃねーか。会話中もクソもねぇよ。俺が来いって言ったら来い、って言ってたじゃん。だから、つべこべ言わずにさっさと来いよ。


「先生だって、僕に同じことしてたよね?」


とだけ言って、僕は走って空き教室へと逃げ込んだ。まんまと奴が罠にかかった。鍵をかけた。


「青柳、何逃げてんだよ」


「僕はアンタが嫌いだ。大嫌いだ。恨んでるし憎んでるし死んでくれって、そう思っている」


「あっそ」


僕の言葉なんかどーでもいいって顔してる。それが憎くて悔しくてウザったくて、僕は殺意を極限まで募らせた。


「ううっ、お前が悪いんだ。お前が、僕を馬鹿にするから。僕の精神を壊したから……。ああもう、さっさと教師やめて、落ちぶれて、行く宛てが地獄しかなくて、一生涯、苦しみ続けながら、地獄でも苦しんでろ」


僕はナイフを取り出して、コイツの胸ぐら掴んで、思いっきり振りかぶった。その手を誰かに掴まれる。


「はっ、謝んねぇぞ?」


鼻で笑われた。


「ああああ、死ね!!!殺させろ!!お前なんか生きてたって誰も、誰も、誰もっ、幸せにできないんだから!!!」


僕の腕が捻られる。ああああ、痛い痛い痛い痛い。


「……湊のバカ」


京一さんを思わせるようなその口調。


「高橋、久しぶり」


「お久しぶりです。元気そうでなによりです。これからも健康にお気を付けて。……健康しか取り柄がないんだからさ」


確かに。高橋の小さな愚痴が聞こえてしまった。


「やっぱ良い子だねー。青柳と違って」


「そうやって、生徒を比較して、優劣付ける態度が、クソほど気に入らない!!死ねよ!!!」


僕は猛獣のように、奴に向かって吠えた。


「そーゆー、お前が死ねば?人間として終わってんだから」


そんな世迷言にグラッと効いてしまって、僕は取り乱してナイフを投げた。呼吸が浅くなる。床に膝を付ける。こんなことしたくないのに。いつの間に僕は、高橋の胸を借りて号泣していた。


「僕は、いらない子なの?」


何であんな奴に、今でも認められたがってるんだろう。人格否定の訂正を求めてしまうんだろう。


「青柳は、確かに変人だけど、いらなくないよ」


「何で?」


「俺の友達じゃん」


高橋のその手で頭を撫でられると、相手は京一さんじゃないのに、僕は少しキュンときてしまった。


「高橋あのさ、僕、恋人いるんだ……」


だから、そんなキュンとさせるようなことはあまりしないで欲しいと続けようとしたところ、


「知ってるよ」


って、ケロッと高橋は衝撃発言をした。


「え、何で知ってんの?」


「大学生くらいの金髪の男でしょ?」


「え、こっわ!!!エスパー??」


僕は、かなりハイレベルなマジックを見たときのように、怖すぎて若干引いてしまった。


「いっつも写真フォルダー見返しては、にやけてんじゃん」


まじで引いた。


「あれ、保護フィルム……貼ってなかったっけ?」


「俳優の写真を見せるついでに『この人も格好良くなーい?』って見せてきたことあったでしょ?あの瞬間、あ、彼氏自慢だ。って気付いたよ」


ドン引きした。


「何でそんな、僕のこと分かるの?」


「あー、雰囲気(?)」


あ、そこは鈍感なんだ。



同性愛を認めない奴に、子孫繁栄にならないから。という理由で認めない奴がいる。じゃあ、逆に聞くが、お前はコンドームを付けずにセックスするのか?って話だ。子孫繁栄を願うなら、コンドームもピルも中絶も、反対の立場じゃないといけないわけだ。まあ、一生童貞も子孫繁栄って立場からすると悪だよな。だから、そーゆー奴は、子孫繁栄のために自慰行為で精子を無駄遣いにせず、毎回女の子に中出しして孕ませてるってことで解釈合ってる?っていう話を一回まじでされて欲しい。という想いを引っさげながら、今日も仕事中に煙草を吸う。


「氷野はショタコン」


という噂話が広まって、レッテルが貼られてしまって、もうバイトする気にすらなれない。


「氷野さん、サボタージュ中ですか?」


休憩に入った美優ちゃんに声をかけられた。


「もう、全部、どーでもいいや。ってなってさあ」


俺は情けなく笑って返した。


「氷野さんのショタコン説、推してるの橋下さんくらいしかいないですから、気にしないでください」


「ふふっ、励ましのお言葉どーも。よく俺のこと嫌いにならないね?」


あんな襲うようなことしたのに。


「わざわざ嫌われるための演技する人を、私は嫌いになれませんよ」


「恥ずっ!演技だって、バレてたんだ……」


「ふふっ、簡単ですよ。だから、ショタコンの何かの間違いですよね?」


と「そうだよ」を聞くために聞いてきた。けど、


「何かの間違いであれば、ね」


俺がこんなにも悩むことなかった。間違ってないのが間違いであった。


「嘘、」


彼女は絶句した。


「でもショタコンっていうよりかは、男子中学生の恋人がいる。ただそれだけ」


「それ、犯罪じゃないですか?」


「さあね。本人が楽しければ良いんじゃん?」


「そんな他人事みたいな……」


「俺は恋人ごっこに付き合わされてる側なの」


ってうんざりした表情を見せたが、どの口が、どの面下げて言ってんだ、という話である。夢中で腰振ってんのはどこのどいつだよ。


「氷野さん、彼氏が帰ってきましたよ」


あかりが、そう揶揄って、俺を呼んでいる。湊がここのコンビニに来る時は決まって、俺に一刻も早く会いたいって時で、彼が死んじゃいたいって時だ。


「え〜っ!面倒くさ……」


勿論、湊を慰めることじゃない。湊を可愛がっている俺を見られて、誰かさんにバッシングされるのが面倒くさいのだ。


「京一さん、いないんですか?今日、シフト入ってたじゃないですか」


バックヤードから出ていくと、何だこの、厄介クレーマーは。レジ打ちの橋下さんに質問責めしている。


「湊、どうしたの?」


「あ、京一さん!」


と子犬のように駆け寄ってきて、俺の事を抱きしめてくる。あーあ、終わった。俺の社会的地位も名誉も。橋下さんからの鋭い視線が痛い。


「ショタコン……犯罪……」


「……ふふっ、犯罪じゃないですう」


と震え声で薄っぺらい保身を述べた。


「ん、今すぐにでも抱かれたい♡」


って空気を読まずにさらに身を寄せてくる。


「ああっ!全く、犯罪じゃないですからあ」


惚気けてくる湊に嫌気がさす俺。


「やっば、児ポルじゃね!??」


「警察に通報しないと、かな?」


通報されたら即アウトだ。証拠として、ハメ撮りなら湊の写真フォルダにたくさんある。俺は焦りに焦って、目の前にいる湊を剥がして、突き飛ばした。


「……京一、さん?」


ああああああああ、全ての判断をミスって、全てハズレくじを引いている気がする。もう嫌になるわ。



警察が来た。僕と京一さんの愛の巣に警察が土足で踏み込んできた。京一さんはそれを何とも思わず、ただ「はいはい、」と警察からの話を流していた。僕はこれから何が起こるのか、きっと嫌なことが起こるんだろう。そういう不安でいっぱいだった。


「何しているんですか?誰からの捜査依頼ですか?僕は同意の上で彼と性行為をしているので、捕まえる理由がないじゃないですか」


「その淫行してるのがダメなんだよ。君、未成年でしょ?児童福祉法違反で、彼を逮捕しなきゃいけないの」


と京一さんのことを指差す警察。


「ダメです!!誰がこんなこと、警察に言ったんですか!??」


「俺だよ、湊」


京一さんが口を開いた。


「はあ???何、え!?、何してん、ですか……?」


「俺が捕まりたくて、自首したの。ダメ?」


そう、俺が深夜にラーメン食いたくて、ラーメン食ってるの。ダメ?みたいな軽い口調で何とも許されざる罪を吐いた。


「クッソ馬鹿じゃないですか!??貴方ってモンスターは!!ダメに決まってんでしょうがあ!!!僕とのセックスがそんなに嫌なんですか??僕といるのがそんなに苦痛なんですか???……ねえ、何で黙ってんの?」


僕は彼の胸ぐらを掴んだ。警察の人が引き裂こうとしてもどうでもいい。僕は彼が許せなかった。


「湊のことを大切にできない俺は、湊の傍にいらない。だから、バイバイ(?)」


ああもうそんな、今にも泣きそうな顔で、僕を手放さないでくれ。僕の心臓が潰れてしまいそうだ。


「そんなの、初めから承知の上です。それでいて、どうしてもどうしても、貴方のことが好きなんですよ」


「でも……」


「じゃあ、僕に『死ね』って言ってるんですね。あーはいはい、もう分かりましたよ。死ねばいいんですね!死ねば!!」


馬鹿みたいにそう言って、


「え?何でそうなんの??」


小馬鹿にしたような貴方の表情を見る。


「僕は貴方がいないと生きれないです」


そう貴方を抱きしめて、もう永遠に離したくない。



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