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フィクションをノンフィクの感情で捉えられ、「つまらねえ」とか「理解不能だ」とか。〜妄想犯罪選手権、最優秀賞は誰の手に〜

「お前、やめろ。それやるんだったら帰れ」


京一さんは彼の布団の中で僕が自慰行為を始めようとすると、すぐにそう言って、僕を蹴って追い出そうとする。ここに愛情は一切、関与しない。


「ここでは京一さんの匂いに包まれながらイけるので、最も僕の天国なんです」


「……へえ、そうだったのかー。買い換えよ」


と秘密のケンミンSHOWみたいな棒読みリアクションでドン引き。冷徹にもスマホですぐさまマットレス一式を検索してる。


「じゃあ、僕が下取りします」


「百万」


「買います!」


「ふっ、馬鹿じゃねーの?こんなボロボロなのに定価の何十倍だ??」


そうやって、貴方はすぐ僕を馬鹿にする。でも、その笑顔が好きだから、僕は喜んで貴方に馬鹿にされる。


「貴方が使用したプレミア価格です」


「お前って、良い鴨だな。鴨鍋にして食ってやんよ」


「ふふっ、ありがたき幸せ♡」


そう貴方を言葉で酔わせて、鴨のくせに貴方の唇を食む。じゃあ、ここで自慰行為して良いですよね?


「ねー、本当に嫌だあ!!イカくせぇし、マジで出てけ」


「……何故?」


貴方は性欲というものが皆無なのですか?僕の予想では、キスで絆された貴方が僕のを手コキしてくださる、なんなら、貴方もつられて自慰行為をしてくれる予定だったのだけれど。予定が狂った。鴨鍋という奇天烈ワードが入ったからだろう。


あっぶね〜、湊に絆されるところだった。潔癖じゃないけどさあ、普通に嫌なんだよね。イカ臭さに包まれて寝るのは。俺が陸に初めて上がってきたイカが魔法か何かで擬人化した奴だったら、まだ「しゃーねぇな」ってみんな優しく受け入れてくれるだろうけど、自己管理がなってなくてイカ臭いのは、マジで淫らな奴だとハーブで香味漬けされるから狂っちゃうわ。


「ねえ、自分をさ、グロ注意だって思ったことはある?」


「え、どういう意味ですかそれ」


「ふふっ、そーだよね。ピンと来ないよね。でも、俺は俺が幾分か怪物に思えるんだ。他人の会話の内容がどうであれ、俺には俺の悪口にしか聞こえない。自分の好きを体現すると、体感するんだよ」


はみ出してる分、叩きやすい。それが滑稽なできだったらもっとだ。最も普通という概念を統計学上で見出してしまったから、それができていない俺は烙印だらけの楽々、他人のストレス解消グッズ。


「……京一さん、何で、僕の好きは貴方じゃないですか。僕から愛されるのは、苦痛ですか?」


「そーゆーことじゃないけどさ、そーゆーこともあるんだよね。お前の愛し方は性愛が八割じゃん」


「そんなことないですけど!??」


「え?違った??」


「……いえ、貴方がそう仰るならば、そうなんでしょうね。僕はどんな京一さんでも性的な目で見えちゃうし、今も『セックスしたい』と思っています。だけど、性愛以外の愛し方だって、僕は知っています。貴方のことをいつでも大切に想っています」


って湊は俺のことをそうやって甘やかすように抱きしめるんだ。それが良いのか悪いのか、はたまた性愛なのか純愛なのか、俺は湊に文句言うくせに何一つ分かっちゃいない。ただそうやって、俺が湊を悪く言う時は決まって、俺が湊にかまって欲しい時だから、これが腐った俺の脳味噌では正解だと、そう捉えている。それなのに、息が詰まるように苦しい。


「俺、資格ないよ。クズすぎて、幸せになる資格ない……」


「大丈夫です。資格ならば僕が与えます。幸せにも僕がします。だから、そんな心配は必要ないです」


何回目だろう、このやりとり。だけど、何回も言ってくれないと、俺の存在価値がなくなるから、何回でも、喉が潰れてたって言って欲しい。それくらい、この言葉に縋りたくなるほど、俺の心は弱い。


「あ……あははっ、湊はさぁ、どんな時に俺のことをエロい目で見てるの?」


「それは、あの……いっつも貴方がエロいから、困ってるんですけど……」


「え?そうかなあ??俺、かなり幼稚だと思うよ?」


「いや、その、ギャップ萌えで、抜けるんですっ!」


「ぷっ、本人にそれ言うか?」


「貴方が聞いてきたんじゃないですかぁ……」


「それもそうだね、悪かったよ」


適当に謝ってから、下着の中に手を滑らせて、キスをする。性愛八割純愛二割の君:性愛二割純愛八割の俺=3:1くらいの比率だから、シーソーゲームでズッコンバッコンもしない。だけど、長文メールにショートメッセージで返すような誠意は俺にだってある。


「んっ、そういうのが一番単純に、エロくって無理です……」


そうやって君は頬を赤らめて目を逸らす。


「じゃあ、やめる?」


って軽口叩くと、「嫌だ」って、「もっと」って、せがむように顔を近づけてきた。あは、かーわいい。


「京一さんは性的に僕のことを見られないだろうけど、僕は貴方がこうやってキスしてくれるのが、軽く飛んじゃうくらいには嬉しいんです♡♡」


何だよそれ。


「俺、可愛い子以外は抱かない主義だから」


「え?」


「ストライクゾーン案外狭いんだよ?」


と微笑んで君の髪を撫でた。


「……すいません。無理、させてますよね?」


「は?何でそうなんの??」


理解も勘も悪いその頭に俺がどうして湊を性的に見られないってインプットされてんだろうなあ。罰するようにかき乱してシャットダウン、からの再起動。


「はっ、はあ……ん、無理っ!……京一さん、何で??」


だいぶ混乱した脳味噌をアップデート。


「俺の好み、ど真ん中は湊だから。世界で一番愛してるよ」


「……はあ?」


「え、」


俺、何か間違った?てか、調子乗りすぎたんじゃね?自分のキモい愛の言葉を反芻して苦汁を、もう一杯。


「何ですかそれ」


「ごめ」


「ううっ、じゃあ、今まで抱いてきた彼女達を差し置いて、僕が一番で良いんですか?京一さんは、僕に性的な魅力を感じているんですか?」


二言目には「違うでしょ!?」って鬼気迫る様子で問い質す声が聴こえてきそうな、夢中で泣きながら俺の胸を叩いてくる。


「……ごめん、性的な魅力は分からない。けど、愛している。それじゃあ、ダメ?」


もっと傷を抉るだろうに、湊のことを抱きしめた。


「うわーん、良いよ!めちゃくちゃ良いよぉ!!京一さんの正直な気持ちが分かって嬉しいっ♡」


そうやってニコッと笑う笑顔に、不意にドキッとしてしまう。これは性的魅力を感じているのか、未だによく分からないけど、やっぱ綺麗な顔してんなあって思って、キスをした。


「はあああ、好きだわあ」


それで、確信した。俺は湊のことが好きなんだって。猫吸いみたいに抱きしめた湊の匂いを嗅いだ。


「あの、京一さん。抜いてもいいですか?」


「良いよ。何なら、俺がフェラしてあげよっか?」


「ふふっ、貴方って本当、気分屋さんですね!」


って、湊に頬を撫でられた。確かに、さっきまで布団で自慰行為されるのを拒絶してた奴とは思えない豹変っぷりだ。


「ごめん、扱いにくくて」


「そうゆう話じゃないですよ。そうゆう貴方が可愛すぎるって話です」


って湊は俺にキスをしながら、自分のを弄り始めた。あー、始まった。いつもの焦らしプレイ。


「俺に貸して。自分、後一時間くらい堪能したいとか思ってたんちゃう?」


「あ、バレました?そりゃあ、京一さんがいるのにサクッと済ませるのは、勿体ないじゃないですか」


「俺はいつでも傍にいるよ?」


「……ああもう、そうゆうことサラッと言うイケメン、無理です。死にます」


「俺はイケメンじゃないからセーフ」


「イケメンだって。心臓止まるかと思った」


「そしたら、湊の心臓を食べて、俺も死ぬ」


と言うと、ビュッと悦びを表すかのように、白い液体を吐き出す。アサリみてぇ。脚の力が抜けて、一気にグラッと倒れ込んでしまいそうな湊を支えながら、ゆっくりと床に座った。


「……はあ、はあ、あははっ!京一さんの彼女になりたかったなあ。そしたら、京一さんと結婚して、京一さんとの子供を産んで、『京一さん似だね』って僕は嬉しそうに貴方に言うんだ。でも貴方は」


「『湊に似て、可愛い子になるよ』って、俺はこうやって君に言うんだ」


よく頑張ったね、と労わるように湊の頭を撫でながら。たぶん今、ほくそ笑んでいる湊の、手のひらの上で転がされている。妄想の中で踊らされている。ごっこの下で遊ばされている。


「ううっ、うわあ、ああ、ああああ、うううっ……女の子に、産まれたかった……」


劈くような湊の泣き声で、この世界に亀裂が入り、現実へと引き戻された。無力感でいっぱいな俺は湊をただひたすらに抱きしめていた。



「湊はさ、ポップコーンが怖いと感じたことはある?」


「ないです。ふふっ、どうしたんですか?いきなり」


「俺はさ、ポップコーンが怖いんだよ」


「え、何でですか?」


「ポップコーンってさ、弾けるじゃん」


「はい」


「ポップなコーンなんだよ」


「そうですね(?)」


「語感良すぎない?」


「ふふっ、そうなんですね」


「耳馴染み最高、だけど口馴染み最低」


「そうですか?」


「ポップコーンの皮が、口の中に刺さるんだ。グサグサと」


「ありますねそれ」


「それに、映画館だと気を遣う。映画館にしかほぼ売ってないのに」


「テーマパークにもありますよ」


「俺は映画館にしか基本的に行かない」


「そうでしたね」


「そーゆー事だよ。分かった?」


「あはっ、分かんないですよお」


「俺にとって、ポップコーンは女の子なの」


「え?」


薬打ったんですか、って聞こうとして口を噤んだ。きっと、僕を元気付けようとして並べている言葉達だと分かったから。


「で、俺にとって、湊はアルコールだね」


「もう少し、解説してくれませんか?」


ちょっぴり不機嫌そうな顔する貴方は、また突拍子もない言葉を並べる。


「ポップコーンのポップくんは『みんなでポップコーンになろう!』って言う。だけど、俺は細胞までポップコーンになりたくない。でもアルコールは組織液にしたいと思うんだ」


とロマンチックな言葉のようにそう口説かれても、僕の頭が足りないのか一切、訳が分からない。


「細胞はコーンなんですか?」


「は?何言ってんの?細胞の核が爆裂種じゃん」


いや、共通認識事項みたいに言われても、知らんし。


「細胞がポップコーンになったらどうなるんですか?」


「……湊、湊ぉ、みぃーなとっ♡ ふふっ、好きぃ♡大好き、セックスしよぉ??ねぇ、湊。良いよね?」


とベッタベタしてきて、床に押し倒してきて、チュッチュしてくる。何それ可愛すぎぃ〜♡


「は、はい……」


「これがキャラメルポップコーン化」


と説明口調に切り替えられた。さっきの説明の一環のロープレだったの!??


「ポップコーン(塩)は?」


京一さんは僕から離れて、布団の上に寝っ転がった。


「湊」


「何ですか?」


「ふっ、何でもない」


と満更でもない表情で鼻で笑う。か、可愛い〜っ♡♡


「ポップコーン(塩)になってください!!切実に!!!」


僕が欲望のままに要求すると、貴方は困惑した表情を見せる。あ、京一さんにとって、女の子はポップコーンなんだ。


「……嫌だ」


「でも、京一さんが僕のことを、『好き好きぃ』になってくれたら、僕は嬉しいです……」


「だって、口ん中に刺さるもん」


「痛みは快感です」


「じゃあ、たまーに」


「てゆーか、僕、キャラメルポップコーンじゃないんですか?何でアルコールなんですか?」


「口触り良いし、なったとしても二日酔いだから、その瞬間は最高に楽しめる」


と少しほろ酔いな可愛らしい顔して、教えてくれた。


「京一さんは、ポップコーンとアルコール、どっちが好きですか?」


「それくらい自分で考えろよバーカ」


それくらい言わなくても分かんだろ、って。


「えーっ、教えてくれたっていいじゃないですかあ。ポップコーン×ポップコーンだと、どうなるんですか?そもそも、ポップコーンでいるデメリットが分かんないんですけど……」


図に乗った僕は懲りずに京一さんに詰め寄ると見せかけてイチャイチャしようとしてると


「みぃにゃと♡」


と逆手に取られてキスされた。甘々なキスで甘えてくるあまりにも可愛い貴方に、僕は余すとこなく味わい尽くされたアルコール。朝を迎えた。


「あ、今日学校なのに……」


「俺も、今日バイト。ね?」


「ん?」


「アルコールのデメリットは二日酔い」


「ポップコーンは?」


「俺がすげー痛い奴。じゃない?」


「僕の頭が追い付かないので食べ物に喩えるのはやめましょう。でも、京一さんはすげー愛らしくて、麻薬みたいですね♡」


「あははっ、学校でよく寝るんだよ?」


「ふふっ、勿論です!」



京一さんって、本ッ当に、良い男だと思う。顔も良いし性格も良いし、何より格好良いし、京一さんといると毎日が刺激的で、そりゃあ楽しいばかりじゃないけど、つらい時は包み込むように優しく抱き締めてくれるし、生きるのがつらいことだって知っているし、その分、僕の心の奥深くまで、寄り添ってくれてる気がするの。はあああ、理想的な彼くんで困っちゃう〜っ♡♡なんて、通学途中に脳内を誰にも言う訳でもない惚気でいっぱいにしていたら、鼻血が出た。


「青柳、あはっ、お前、通学途中にエロいことでも考えてたのかよ」


「エロくはない、健全に惚気けてた」


「……え?」


「ん?」


「彼女、いたっけ?」


「いないよ?」


「は?」


「あ、真城さんと高橋だ。おはよ!」


「え、何で血だらけ?」


高橋が虚無った。その後で、僕の左腕に触れにくそうに暗示している。


「青柳くん、おはよう!ふふっ、転んだんでしょ?」


真城さんは相変わらずだ。


「ううん、妄想に耽ってたら鼻血がでてきたの」


「あー」


青柳っぽいなって顔の高橋。


「流石、むっつりだね!」


むっつりスケベ弄りが好きな真城さん。


「脳内の八割はエロいことで詰まってるよ」


「おいおいおい、アリスに変なこと吹き込むなよ?アリスも、青柳からのそうゆう系の話は首突っ込むな」


高橋が場を凪に戻した。


「「はーい」」


「真城さんも、案外むっつりだよね。同盟組む?」


「は?」


「むっつりスケベ同盟?」


「なあ?人の話聞いてたか??」


「「むっつりぃ、スケベ〜っ!!」」


と声を揃えてハイタッチをした。全然むっつりしてなくて笑うんだが。多分、彼女もそう思ってるから、笑っている。


「へ、へえ……真城さんって、そーゆーキャラだったんだあ……」


とドン引きしたクラスメイト。


「ほら、引かれてるぞ?」


あーあ、って顔した高橋。


「私が楽しければ、それで良いんだもん!」


だと思った。


「僕も気にしないタイプ」


「気にしろよ!!まじ残念なイケメンだよなあ、青柳って」


「でもそこが良いんじゃん、青柳くんは」


「そうか?」


「違う?」


「まあ、面白いから良っか。青柳がモテなくても」


「え?ちょっと待って。さっきからずっと、僕がモテないって話してたの!?」


「だって、モテないじゃん。顔は良いのに」


高橋って、たまに辛辣。


「モテないねー」


「真城さんはさ、高橋がモテてたら嬉しい?」


「え?……嫌だ、普通に何か女の子とありそうで癪に障る気がする」


「やっぱ?あはっ、そうだよね!モテないイコール正義だよ!!だから、僕はモテない!!!」


京一さんがモテる、って考えるだけで、嫉妬で狂いそうになるから、京一さんにもちょっとは嫉妬して欲しいけど、普通にモテないし、ていうか、恋のライバルや当て馬なんてものは、漫画やドラマの中だけで十分だっての。


「アリスぅ、俺はアリスのが心配なんだよ?こんなに可愛くて好奇心も旺盛だから……」


ねえ、僕の主張聞いてた?てか、興味ある?


「なあ青柳、この子らが話あるって」


「ん?」


よく見る一年生の子達だ。「頑張って!」って一人の子がもう一人の子を元気付けてる。何なんだろう。


「お名前、青柳先輩で合ってますか?」


「青柳 湊だけど……」


「あの、放課後、お時間ありますか?」


「放課後は、すぐ帰りたいから。今じゃダメなこと?」


「えっと、その……青柳先輩、好きです!!」


「……は?」


「「はあ!??」」


「あの青柳が、告白されたーっ!!?」


端っから告白だと思ってもいなかったから、めっちゃクラスメイトの前、教室の目の前で告白されてしまった。公開告白じゃん。……ちょっと、若干、不意突かれて、照れた僕、これって浮気?


「とりあえず、トイレ、じゃダメか。屋上行こ!」


この状況じゃ、僕が振りにくいから!!

階段を駆け上がる。一番上は立ち入り禁止のカラーコーンが立てられているがお構い無しに登った。屋上のドア、鍵かかってんじゃん。やべー。


「青柳先輩、あの、ちょっと……」


「何?今忙しいから」


野次馬達が探しに来てる。階段の踊り場で二人、見えないように小さく屈んで息を殺した。


「ち、近いんですけど……!!」


確かに、これじゃあまるで、僕がこの子をギュッとして庇っているみたいな密着度じゃないか。


「あ、ごめんね。それでさ、僕に告白って、罰ゲームだった?」


彼女から離れて、踊り場の低い塀のようなものに背中を預けた。あー、あれが女の子か。ふわふわしてた。


「え?」


「一般的に考えて、それしか思い付かないからさ!」


「あ、いや、そうですね……」


「あと、何すればいいの?」


「……じゃあ、キス」


「え、それは無理。ごめん」


一刀両断しちゃった。


「そうですか、」


「はあ、そんなにも僕は恋愛対象外なんだなあ……」


罰ゲームで使われるほど、恋愛をしたくない人間。そんな奴と恋愛ごっこをさせられている京一さんが、あまりにも可哀想だ。


「罰ゲーム、じゃないです。一目惚れ、しました」


「え?どっちが本当??」


「一目惚れ、です……!」


「そっか。僕さ、彼氏がいるんだよ。それで、僕も一目惚れした。目の前に超どタイプの顔が身体が声が匂いがあったから、初対面なのにキスしたんだ。逃げられたけど、離さなかった。……ごめんね、君とは付き合えない。今の僕はその人に夢中で、執拗に追いかけ回す恋愛が好きなの」


「それって……こうゆうことしろ、ってことですか?」


って頬にキスされた。その慣れてない感じにちょっぴりキュンときた。


「僕さ、彼氏がいるんだよ?」


「はい。青柳先輩がゲイでも、私に惚れさせれば付き合ってくれるんですよね?」


「ああ。でも、キスは無理。彼氏が嫌がるから。あと、放課後は即帰りたいから」


「了解です。それじゃあ、校内では付き纏ってていいですか?」


「うん、それは別に構わないけど」


「ふふっ、分かりました。この髪の毛、明日切ってきます」


「何で?」


明日、ボーイッシュに髪をカットしてきたあの子、名前は、ハチじゃなくて、ナナちゃん。


「青柳先輩、どうですか?似合ってますかー?」


可愛い系の男の子感がある。友達から「失恋したんじゃないのー?」って聞かれてる。


「似合ってるよ。可愛いじゃん」


京一さんみたいなこと言っちゃった。でも僕は男のウルフカットのが今は好き。


「青柳先輩、クッキー焼いてきました」


誰かの手作りお菓子なんて食べたことない。けど京一さんと食べるカップラーメンのが今は好き。


「青柳、あの子、ナナちゃんだっけ?付き合ってんの?」


「いや、友達」


「え、何で付き合わないん?彼女いないんだろ?」


「友達だから、お前と付き合わないのと一緒でしょ」


「そりゃあ、俺は男だから」


「僕が男もいける口だったら?」


「……あははっ、冗談言うなよ〜!!」


冗談じゃない。


「青柳先輩、その女、誰ですか?」


「ひぇっ、え、あ、ちょっ、修羅ってます??」


「ん?メアちゃんだよ。何?」


「あ、青柳氏、これ、修羅ってません?」


「青柳先輩とどうゆう関係なんですか?」


「うっわ、確定演出きたー!お、俺は、青柳くんとは、お、お友達……」


小声&早口実況してるメアちゃん。やめてくれ、吹き出しそうだ。


「青柳先輩から離れてください」


「何で?友達なんだけど」


「可愛いです、離れてください」


「……え?」


「私だって、好きでボーイッシュな格好してるわけじゃないんですぅ!!青柳先輩のためなんですぅ!!」


「えーっ!?確かに僕はゲイだけどさ、友達の性別とか見た目とかは関係ないじゃん。筋違いだよ」


「……青柳先輩はこっちの方が好きじゃないんですか?」


「こっちの方が可愛いなあとは思ったよ?思ったけど、最初に彼氏いるって僕言ったよね??」


「だけど、私のこと、好きになって貰おうと……」


ナナちゃんを泣かせてしまった。


「ああもう、」


知らねー、って逃げたい。でも、女の子が泣いてたら慰めるのが鉄則。らしいので、いやでも、浮気じゃね?とぐるぐるしてると


「青柳氏、おすすめの少女漫画、今度貸すよ俺」


とメアちゃんに言われた。


「それって、僕に?」


「勿論」


ボーイズラブばっか読んでるからこうなるんだ、と言われているみたいだ。漫画だったら、ここで慰めのキッスでもしそうだもん。


「ナナちゃん、泣かないで。僕ら、友達じゃん!」


「やっぱ今すぐ貸すわ俺」


「ダメだった!??」


「青柳先輩って、乙女心が全然分かってないもん。嫌になっちゃう……」


「え、本当に?どこら辺が??」


京一さんみたいに上手く女の子を扱えてたと思ってたのに。失敗。


「そーゆーとこだよ」


「は?訳わかんないんだけど。教えてよ」


「例えばぁ、スカートからズボンにしたのに何にも反応無いし」


「いや、その時は髪型褒めたじゃん」


「手作りのクッキー、その場で食べてくれないし」


「学校でお菓子食べるの禁止じゃん」


「メッセしても高頻度でスタンプで返してくるし」


「勉強で忙しいからさ……」


「そーゆーのが全部全部、募りに募って『何で好きなんだろう?』って思っちゃった」


「僕は初めから恋愛対象じゃないし、」


「ちょっ、青柳氏、何言って……」


「ははっ、そーですよね。彼氏いるんですもんね!最初から分かってたことなのに、最悪……」


「青柳氏!これはあまりにも酷いですぞ!!なので、マーマレード・ガール全巻読破の刑です」


これって本当に、僕が悪いの?期待に応えられない僕が悪いの?彼氏持ちなのに、好きになってもらおうとする方が悪くない?てか、恋愛対象でもないのに、何で……って、ブーメランすぎるか。


「僕は他人の気持ちなんて一ミリも分からないよ。考えれば考えるほど自己嫌悪するから考えたくもない。ふふっ、ね?僕を好きになるだけ時間の無駄じゃない??」


「青柳先輩、」


「てゆーか、僕の何処が好きなの?顔??顔だけはよく褒められるんだよね!顔だけは!!」


「性格悪ぅ……」


「あははっ、それしか取り柄がないんだよ僕は」


この性悪な部分しか、僕の個性はない。ミドルネームにしたいくらいだ、青柳 性悪 湊って。


「はああ、冷めました。もう友達にもなりたくないです」


「そ、良かったよ」


って軽く永別をした影で、何故か僕は泣いてしまった。メアちゃんはそんな僕を見て、またキョドっていた。自分が分からない。何したいの?よく分かんない。


「ご、ごめん。冗談、だから。泣かないで?」


「メアちゃんのせいじゃないよ。こんな自分が嫌になるんだ。二者択一で切り捨てるのがつらいけど、僕は京一さんを裏切れない。それで、いちいち傷付くのも馬鹿みたいだ」


「そっかあ、そうだよなあ、んーーー、グレーゾーンがないから、そうやって白黒ハッキリとしてグサッと来ちゃうんだろうね。友達ってグレーゾーンに逃げられれば……」


「それもできないくらい僕は不器用なんだ」


「そうだよね、」


もう京一さんにべろっべろに甘やかして欲しい。


「京一さん」


「なぁに?湊ぉ」


「僕を、愛してください」


「愛してるよぉ♡」


酒で酔った貴方は簡単に愛を語った。そして簡単にキスをする。僕は貴方に抱きしめられても、貴方はすぐに離すんだろうって知っているから、僕のことを実際に愛しているのかは分からない。このキスだって、酔ってなかったらこんなにしない。ただ貴方は気持ち良さがあればそれで良いんだ。


「僕も酔っ払いたいです」


「ダーメ♡湊はあ、酔っちゃうでしょ?」


「京一さんだって、酔ってるでしょ?」


「酔ってないよぉ、まだシラフだって」


「酔ってる貴方は可愛いです。けど、嘘つきです」


「嘘じゃないよ。何でそんな酷いこと言うの?」


半泣きの貴方はまじで可愛い。ごめんなさい、僕が悪かったです。って心臓を差し出したい。


「ごめんなさい、でも、僕のことを愛しているのなら、僕のことを死ぬ気で求めてください。貴方は僕がいなくとも生きられる、と感じてしまうのは、死ぬよりもつらいです」


貴方は僕を搾るようにギューって抱きしめて、頬や首筋、勿論、唇にも。僕に何度もキスをしてきた。


「ごめん、不安にさせて。俺の愛情不足だって、俺が一番分かってるよ。でも、俺が愛情表現が苦手なの、湊も分かってるでしょ?……愛してる」


不意打ちの愛してるに僕は愕然とした。


「あっ、はあ、もう、腰抜けた。京一さん、僕、ぼくは、んっ……ダメになっちゃう♡♡」


「ダメになっていいよ。ダメにさせてあげる」


京一さんが僕の制服を脱がしている。呼吸が浅くなる。落ち着いて、って京一さんは僕の髪を撫でて、大人びた微笑みを見せてくれた。京一さんが抱いてくれる。それを考えるだけで軽率に脳イキした僕は、頭の半分が真っ白になっている。


「京一さぁん、僕って、エロいですかぁ?京一さんの女の子に、してくれますかぁ?」


「湊、そんなこと気にしないで」


「嫌でも、気になりますよ。京一さんのコレで、僕を女の子にしてくださぁい♡♡」


「湊……優しくするよ。とびきり甘くて特別なやつを、湊にあげる」


京一さんは僕を優しく抱きしめてそう言ってから、僕にゆったりとしたキスを浴びせてくる。


「京一、さん……キス、いいです……僕のこと、激しく突いて?痛いくらいがちょうどいいの」


僕は我慢ならなくて、雰囲気を壊してまでも早く京一さんが欲しかった。下は全く触られてないのにヒクヒクと動いてつらいんだ。


「ふふっ、優しくするって。気持ち良さだけ、感じていようね」


京一さんが唯一、指輪を外す瞬間。僕はキュンキュンしてしまう。だって、それは僕のナカに触れる合図だから。


「あっ、やば……あうっ、いっ……京一さん……」


「何?」


「貴方のが欲しいです……」


いくら京一さんと赤ちゃんができる行為をしても、僕と京一さんとの間には赤ちゃんなんかできやしない。別にそれはそれで良いけど。この幸福感は虚構だって、言われている気がしてならない。


「湊、可愛い♡」


事後の貴方はテンションが低いはずなのに、無理して僕のことを上辺で褒めるんだ。その優しさは愛情だよね?


「はあ、どうしようもなく好き」


これ以上、貴方のことを好きになったら、これ以上、貴方との温度差が開いていったら、これ以上、ヤンデレで重くて面倒くさい奴になったら、どうしてくれるんですか?

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