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マルか罰か参画か、みんなはどの記号がお好み?その記号に似るようにメイクするから「俺を愛して」と言ったところでみんなが好きなのはみんなが好きな記号に似ている俺の表面的な部分であって、内面的な部分じゃない

「湊、お話があるわ」


「何?ママぁ」


「クリスマスイブ、京一郎くんと一緒にいたのね?」


ママは洗濯物を洗濯機に詰め込みながら、ため息混じりに僕に詰め寄った。僕は内心冷や汗を垂れ流して、


「そんなことないよ?クリスマスイブは家庭教師の……長嶋さん!と一緒にいたよ??」


と大嘘をついた。


「嘘。この長いブロンドの髪の毛、京一郎くんので間違いないわよね?」


あわわわわ、僕の洋服に京一さんの髪の毛が付いてたなんて嬉しい!、じゃなかった、ヤバい!!どうにか誤魔化さないと、


「でもでも、京一さんとは今連絡取り合ってないし、たまたまブロンドの人と帰り際ぶつかっちゃっただけで、京一さんの髪の毛とは、言いきれないんじゃない?」


ママはそれを聞くと僕を抱きしめた。


「貴方を責めるために、言っているんじゃないわ。ただ心配で聞いているのよ。だから、正直に答えて?クリスマスイブの日、貴方は何処にいたの?」


「……京一さんの家」


僕は自白剤を飲まされたように、三上ミオの演技力に負けて、口から真実をこぼしてしまった。僕のママはそれを受け取ると、


「何か酷いことされてない?」


と余計にしつこく心配してくるから、やっぱ言わない方が良かったのかもしれないと薄々後悔し始めた。


「何も酷いことされてないよ。そんなことよりも、クリスマスプレゼントで、腕時計もらっちゃったあ♡♡僕なんかあ『僕がプレゼントです』って、何も用意せずに手ぶらで犯され待ちしてたのに、何も手出しされなくて手のひらの上で弄ばれてばっかで……ママ、僕は京一さんにどんなお返しした方が良いと思う?」


ママが呆然としている。僕がプレゼント、ってそんなにマズかったのかな?こんな中学生の身体じゃ、京一さんを満足させられないからって。


「貴方はまず、京一郎くんとの身体の繋がりを求めるのをやめた方が良いわ」


「やっぱり??」


「残念だけど。元々、ああいうタイプの男は、女以外は愛せないようにできてるのよ」


「そうなんだ……僕が女の子になっても、無理かな?」


京一さんと心も身体も繋がれるのなら、去勢だってホルモン治療だって整形だって、何だってやる。京一さんの一番の好みの女性に、京一さんの一番に、僕がなりたい。


「湊、貴方を愛してくれるのは、京一郎くんだけじゃないわ。男のままの貴方を好きになってくれる理想の相手はきっと、まだ出会ってもいないの。だから、何でもかんでも京一郎くんに合わせちゃダメよ?」


「僕はそうは思わない。京一さんが僕の理想の相手なの。京一さんに愛されない人生ならば、僕は今ここで死ぬよ」


ママは僕がそういうと、今まで優しく撫でていた僕の肩を力強く握って、「何でそんなこと言うのよ!!」と怒鳴り、涙を見せた。


「今の貴方は全ッ然、魅力的じゃないわ!!」


「え、ママ……どうして、そんなこと言うの?」


「私は、誰にも媚びない貴方が好きだった。どんなに手のかかる問題児でも、自分を大切にしてる貴方が好きだから許せたの。でも、今は……今の貴方は、ただ気が狂ったように変人の後を追って、ちぎれんばかりに尻尾を振り、生命を無駄にする犬みたいだわ。みっともない……誰が貴方をそうさせたの?」


「お言葉ですが、澪さん。……それは、貴方が愛する、僕のパパです」


と初対面の相手に見せるような笑顔を僕はママに見せた。



クリスマスイブ。湊の腕の傷が増えていた。俺はそれを覆い隠すように腕時計を嵌めた。


「今日はおそらく良い天気だね、あけましておめでとう」


出勤して、制服に着替えて、タイムカードを押す。


「誰がどう見ても良い天気です。あけましておめでとうございます」


「俺の目には雨が見えるんだよ、何処にいても」


「何かの比喩ですか?」


「ふふっ、酔っ払いの戯言は気にしないで。年越しをここで過ごした君はもう帰って初夢でも見なさい?」


「新年早々、どいつもこいつも浮かれてますね」


と私怨がこもったゴミを見るような目で俺を見てくる。俺は夢の中でルイルイとタイムズスクエアで年越しをしたんだ浮かれてる。でもどいつもこいつも年越しの瞬間にキスするもんだから俺もキスしたくなって、湊を探してもいないから、しょうがないからルイルイにしようと思ったらルイルイに叩かれて、床にキスをしたのを覚えている。


「あははっ、あかりが良い夢を見られるよう願ってるよ!」


「有難い侮辱ありがとうございます、お疲れ様です」


と疲労困憊で力なく彼女はとぼとぼと歩いて帰って行った。その様子を店内から見守っていた。


「大丈夫か?アイツ……」


「氷野さん、あけましておめでとうございます!」


「おっ、美優ちゃん!あけましておめでとう、今年もよろしくね」


「よろしくお願いします、でも去年は避けてませんでした?」


図星。それが定型文だから言っただけなのに。


「ぜ〜んぜんっ!避けてないよ??」


キョドって、誤魔化して、胡散臭い。


「じゃあ偶然、シフトが合わなかっただけ、ですか?」


「そうだね。俺さ、バイクで事故っちゃって……長時間は仕事入れらんないんだ」


後付けの嘘を含んだ真を彼女に伝えると、彼女は怪訝そうな表情から一転、心配そうに様子を伺ってきた。


「バイク事故って、大丈夫なんですか?」


「生きてるから、まあ、大丈夫なんだろうね」


内臓破裂したけど。


「そういう事じゃなくて、その、怪我とか……」


「あっ、こちらで!」


美優ちゃんの話半分に、俺は目ざとくレジまで駆けて、お客さんの対応をした。仕事中だし。


「氷野さん、納品片して」


「はーい」


元旦の朝から寒ーい冷凍食品の納品を片して、重たいダンボール空にして、潰して、ああ、体力が持ってかれる。ここでぶっ倒れてたい。だけど、返事だけは一丁前。


「氷野さん、手伝いますよ」


「え?……ああ、ありがと」


しゃがみ込んで少しだけ休息を取っていると、美優ちゃんに後ろから話しかけられた。納品は重たいものが多いから、基本的に男がやらされるんだけど。まあ、仕事バリできるあかり先輩は別。


「これ、重っ!!」


「良いよ、無理しないで。レジと代わってきたら?」


「いやでも、氷野さん、怪我してるって聞いちゃったら……」


「そんなん、もう治ってる治ってる!」


って、空元気で乾いた笑いを重ね、重たいバンジュウを手にすると、美優ちゃんがその反対側を持ってくれて、一つのバンジュウを二人がかりで運んでる。


「二人で分け合えば、そんなに重くないですね」


「あはっ、効率は悪そうだけど?」


「それは……」


「まあここで、一緒に給料泥棒するのも悪くないかもね」


客観的には給料泥棒。だけど本当は、劣等人種の俺ができる最大限の仕事をやっているだけだ。肉体労働は向いてないから、愛想振り撒いてやってるフリで、今までかろうじてやってきた。あとは全部、あかりのフォローのおかげ。


「氷野さんって、やっぱり悪い人!」


と彼女は何故か楽しげに笑ってる。


「やっぱり、って何?」


「ふふっ、そんなこと聞かないでくださいよぉ」


その彼女の笑顔につられて笑ったけど、その内側では、俺の罪を知っているようで彼女が怖かった。不安がふつふつと湧き出てくる。


「あれ、美優ちゃーん??」


と倉庫のドアの方から誰かが彼女を呼ぶような声が聞こえてくる。俺なんかに構ってないで、他にやることがあるのだろう。


「呼んでるよ?」


俺が彼女に問いかけても、彼女はそれを無視して、俺の業務である納品片しを手伝い続ける。そして、ちょっと一息ついてから、


「突然、私がいなくなったら、みんな吃驚するのかな?」


って独り言のように呟いて、うつむき加減で小悪魔っぽい笑みをしたのが見えた。


「そりゃあ、吃驚するでしょ」


「……そうですよね」


何か悩んでいる顔。でも、それを汲み取ってしまうと、手が止まってしまう。


「美優ちゃん、手伝ってくれてありがと。俺のことは気にしないでいいから、いっておいで!」


「……はい、氷野さんも無理しないでくださいね」


と倉庫から彼女が出ていくと、残されたのは納品の数々と疲れている俺一人。で、ため息が出た。



年越し蕎麦を食べているのに、僕の傍には誰もいなくて、ママも隆文さんもお仕事仲間と忘年会と称した飲み会をやっている。こんな寂しい夜は、京一さんのところへと会いに行きたい。あの、イベント事が嫌いな京一さんだって、干支が変わる瞬間くらいは起きているだろう。と合鍵を手に京一さんの家に訪問すると、京一さんは良い子にちゃんと寝ていて、お酒も寝酒の一缶でやめている。でもここまで来て、引き返すのもアレなので、年越しの瞬間は京一さんの寝顔を凝視しながら、「あけましておめでとうございます」と貴方に誰よりも早く伝えた。それにしても、よく寝ている。このまま今年の初キスは僕のものに、いや、毎年僕のものじゃないと困るんだけど。そのちょっとだけ半開きの赤ちゃんのような唇にキスをしてみたい。


「……はっぴ、にゅ、ぃにゃー」


午前二時頃、京一さんが寝言でそう呟いた。今の、ハッピーニューイヤーだよね??可愛い。


「ふふっ、ハッピーニューイヤーですね♡」


初夢、どんなの見てるんだろう。僕はちゃんと登場してるかな??そう思っていると、京一さんが徐ろに腕を立てて、手を動かし始めた。だから、僕がそのくねくねと動かしている手を掴むと、京一さんは少し口角を上げて、ふっ、と微笑んでから、唇を可愛らしく突き出して、キス待ち顔してる。


「んー……」


って僕の彼氏、新年早々、可愛すぎない??だから僕はそれに答えるように、貴方に覆いかぶさって、いざキスをする瞬間、貴方がいきなりぷいっと、そっぽを向いた。


「え」


何で!!??夢の中で何があったの??眉をしかめて、口角を下げている貴方の表情が何だか悪夢を見ているようで、つらかった。チュー、振られちゃったのかな?僕ならば、絶対に振らないのに。例えそれが夢の中であっても。


「……りゅぃ」


あああああ、絶対に青柳でもなきゃ、湊でもない、完璧に二文字。しかも!普通にルイって特定できちゃう僕の脳みそがウザったい!!!!


「ルイさんじゃないですよ、僕は湊ですよ」


横を向いて顔の前に両手を置いて寝ている貴方の顔には安易に近付けなくて、チューできなくて、僕は貴方に青柳 湊をその夢の登場人物の中に入れてくださいと耳元でそっと囁くことしかできなかった。


「……にゃに」


何?って、そう言ってくれたの?僕の話、伝わった?


「京一さん、僕です、青柳 湊です」


「んっ……りゅぃりゅぃ、ダメ……」


わああああ、ルイルイさん!!僕の京一さんに何してくれちゃってんですか??!!しかも初夢で!!!初夢は、叶うって、いや、そんなの迷信……。寝取り、ダメ、絶対。でも、嬉しそうに微笑んでいる京一さんは可愛くて、だからって、恨めしいのには変わりなくて、新年早々、複雑な心境。


「じゃあ、僕は帰りますね」


これ以上、京一さんがルイさんとイチャコラしている夢に魘されている姿を見ていられなくて、僕は施錠をしてアパートの外に出た。


「……もぉ、のめにゃい」


と京一さんがレモンサワーの水槽に溺れていることなんて、つゆ知らず。

こんな夜中にも、眩しいほどの明かりが点っている場所があって、僕は光に吸い寄せられる虫達のように、そこの中へと入っていった。そして、雑誌やらエロ本やらを横目に見て、飲み物、お菓子、パン、アイスの順で店内をふらふら見て回った。何で、女の子の下着姿の表紙はあるのに、男のパンツ姿の表紙はないんだろ。まあ、あっても買わないけど。てか、京一さんはいつもこんなの見てんのかな?


「お客さん、立ち読みは……って、湊くん?」


「あっ、どうも……」


やっば、結局一周して雑誌コーナーに戻って、エロ本手にしてるところを京一さんの一番のバイト仲間で、それに僕の恋愛サポートをしてくれている吉岡さんに見られてしまった。


「こんな夜遅くに何してんの?」


「……市場調査です」


「エロ本の?」


「いや、京一さんが抱きたくなる女の子が気になって……」


「氷野さんがここのエロ本を読んでるところ、見たことないよ?」


「あっ、ソウナンデスカ……」


その吉岡さんの一言で余計に恥ずかしさが増してきて、僕は手に持っていたエロ本をすぐさま閉じて、棚に戻した。京一さんが仕事中にこんな軽はずみな行動とるはずないのに、何で僕はこんなことを……


「湊くん、大丈夫?」


「いや……あっ、はい!大丈夫です!!」


「大丈夫じゃないでしょ?それ」


「あはは、その、何ていうか、京一さん、僕のことは抱かないくせに、他の人には抱かれてるから何だか、ね。何なんでしょうか、あの人」


「え、それ本当に??」


「いや、まだ真偽の程は分からないですし、分かりたくもない、っていうか……もう、僕ってそんなに魅力ないんですかね?やっぱ京一さんは、僕の運命の人じゃないんですかね?」


それを、確かめたくない。逃げたい。だけど、あの人とは恋人同士でいたい。今だって、向こうから月一で、って突き放されて、手紙だって京一さんからは返事しか貰えない。ルイさんとは楽しそうにやり合ってんのに、僕とはそういう雰囲気にはならなくて、クリスマスイブだってのに、貴方はサンタのようにプレゼントをただそっと置くだけだった。


「それは、氷野さんにしか分かんないな。私がすっごい魅力的だよ!って思ってても、湊くんは氷野さんの基準で魅力的だと思われたいんだもんね」


「……ううっ、すみません。今はもう、京一さんの気持ちが分かんないです」


「んー私的には、氷野さんは湊くんのこと、大好きだと思うけどなあ」


「何で?」


「毎回、惚気けてくんだよね。湊くんに似合う彼氏になるため、今頑張ってるんだとさ。じゃなきゃ、死んでるって」


「京一さんって、ちょっと頑固です。それ、って一度決めたら何が何でもやり遂げようとする、その一貫性のある性格が僕はとても好きなんですけど、でもそれじゃあ、あの人の心を砕けないじゃないですかあ。僕はあの人の理性を殺してまでセックスしたいのに」


「氷野さんってね、本当はすごく自信が無いんだよ。臆病で、湊くんとちょっと何かあると、すぐいじけて……だけど、それくらい氷野さんの中では湊くんの比重が大きいってことだし、大切にしたいってことじゃないかな?」


「僕は、京一さんのこと、大好きなんです。身も心も抱かれて、満たされたいんです」


「湊くんはさ、何でそんなにそれにこだわるの?」


「え……そりゃあ……」


……何で?なんだろ。今まで考えたこともなかった。好きだから、チューもしたいし、好きだから、セックスもしたい。その理由が、好き、という曖昧なものでしかないこと、それに今気が付いてしまった。


「ふふっ、恋愛ってわかんないね」


って吉岡さんは少し意地悪く笑ってから、仕事に戻っていってしまった。

恋愛って、何なんだろ。彼氏彼女なんて、都合が良くて金のかからない性処理相手。誰かがそんなこと言ってた気がする。僕はたかが「好き」の原動力である性欲に、誑かされていただけなのかもしれない。漫画やドラマで得たストーリー展開を無理矢理、僕達の関係に当て嵌めようとして。

僕が京一さんに惹かれるのは、やっぱりそのキラキラした笑顔だ。虚しさも痛みもたくさん抱えてるのに、その「大丈夫だよ」って笑顔が僕には煌めいて見えて、大好きなんだ。抱きしめたくて仕方がなくなるんだ。僕が何か、何とかしてあげたい。「大丈夫だよ、僕が守ってあげるよ」って、そうやって貴方を抱きしめていたい。……ああ、僕は、僕はなんて醜いんだ。建前では、京一さんの苦痛を取り除こうと齷齪奮闘する素振りを見せたが、本音では、その苦痛に苛まれている京一さんを真近で見ていたかっただけだ。今だって、京一さんが苦痛の配下にいることを心の中で望んでいるんだろう。そうやって、優越感を満足感を得ていたんだ。僕は悲劇のヒロインを助ける主人公でありたかっただけだ。


「……っ、イク……」


そんなことを考えながら新年初オナニーを元旦にしてしまった。ああ、だけど、京一さんの身体、何から何までえろすぎる。


京一さんの誕生日。京一さんに会うのはクリスマスぶりだ。僕はクリスマスと誕生日分のプレゼントに何を贈ったら良いか、熟考した挙句、今まで貯めていたお年玉で指輪を買った。


「は?……待って、はあ!??、コレ、余裕で10万は超えるレベルの、ブランド物……え、本当に……えっ!?大丈夫なの??」


「勿論!是非、嵌めてみてくださぁい♡♡」


前々からこの指輪を、貴方の指に嵌めてみたかった。とても格好良く映えるだろうと思ったから。貴方は恐る恐る指輪を手に取り、左手の薬指にそれを嵌めた。


「わあ、やべえ!!まじで……うわあ、言葉にならないくらい嬉しい」


彼は手を上に光にかざして、その指輪を嬉々として眺めている。シルバーが光を反射して煌めく。


「京一さん、少し指輪を外してもよろしいですか?この指はまたのお楽しみです。今回は、左手の中指に嵌めてください」


「あははっ、吐けなくなっちゃうね……」


そう、京一さんが左手の中指と人差し指を喉の奥に突っ込んで、自分で吐くことを知っているから、僕はそれを辞めさせる意味も込めて、この指に指輪を嵌めた。


「後は、簡単に女の子のナカをかき乱さないように」


「ふふっ、それはしないよ」


と貴方はサラッとそのことを否定する。モテるだろうに。さぞかし、モテるだろうに。


「本当?射精管理まで僕ができればいいんだけど」


「そんな、俺は湊のが心配だなあ。俺より性欲強いし、貞操帯付けた方が良いんじゃない?」


という京一さんの冗談なのか心配なのか、はたまた揶揄いなのか、ちょっぴり本気なのか分からない、僕を惑わせるような微笑みを見せた。


「うっ、京一さんがそう命じるなら、僕は従うだけですけど」


「そお?じゃあ……禁欲生活一週間、してみてよ」


それで、僕の愛の度量を確かめるように、貴方は悪魔的に囁いた。僕は今日ここに来るまでに既に二回抜いている。そんな奴が自分の意思だけで一週間も耐えられる訳がない。だけど、京一さんが言うのなら、京一さんが言うのなら……


「では一週間後、何かご褒美くれますか?」


「そうだね、あっ、また長時間キス受けるよ」


「それは、貴方をイかせないと意味な」


「俺も一緒にするからさ、ね?」


それって言うなればこうだ。僕が一週間禁欲生活すれば、京一さんはイキやすい状態で長時間キスを受けてくれるってことだ。


「京一さん、ちょっぴり興味あるんですか?キスだけでイカされるの」


「ううん、湊が俺のために健気に頑張ってくれんのを感じたいんだよ。まあ次も、俺がキスだけでお前をイカせるけどね」


「あっ、それ狡いじゃないですかあ!」


「あはっ、何があ?」


「だってだって、同じ条件だけど僕のが圧倒的不利じゃないですかあ。僕のがすぐイッて、イッて……あっ、でも京一さんとのキスをやめなければ良いんですね!!」


「賢者タイムに強ければね」


「ふふっ、策を講じればそんなもの、僕には通用しません」


そして、僕の禁欲生活が始まった。とにかく、暇な時間や京一さんに想いを馳せる時間があると性欲が剥き出しになってしまうので、我武者羅に勉強に打ち込んで、さらには筋トレを始めて性欲をうまく逃がすことにした。そして、最終的には英単語を見ているだけでも何だかそういう気分になってしまうほど、僕は頭がおかしくなっていった。

今日の放課後、京一さんに会える。京一さんに会える。京一さんに会え……やば、全然おさまんないんだけど。授業中、完璧に勃起してしまった。ああ、どうしよう。まだ授業中だし、誰も気付いてるわけないし、でも、貧乏ゆすりの足が止まらない。ああ、もう授業が終わる、立ちたくない。だから、机に突っ伏して、寝たフリをした。


「青柳ぃ、まだ寝てんの?」


「高橋……紐、持ってない?」


「紐??裁縫のあの糸ならあるけど」


「それで良い、頂戴?」


「はい、何に使うの?」


と裁縫箱をそのまま渡された。僕は赤い糸を手に取りトイレへと駆け込んだ。そして尿道を塞ぐために、自分のを紐で縛り上げた。ちょっと、エロい。で、固くなっているそれをバレないようにパンツのゴムでおさえて、もう我慢できそうにないから帰りの会とかどうでもいいから帰りたい。


「あはは、高橋、ありがと」


って、僕はぎこちない動作で高橋に赤い糸を返した。


「ん、それで、何か変態的なプレイでもしてんの?」


ああ、痛い。まじで痛い。図星突かれて痛いよ。


「えへへ、最近オナ禁しててさ、今日で一週間」


「何か青柳って、日に日に変態指数増してるよな」


「中一の頃はまだ純粋で可愛かったのにね」


「本当、何も知らない顔してたじゃん」


これも全部全部、僕が恋しちゃったせい。


京一さんの家まで、鞄を前に抱えながらやっとの思いで辿り着くと、僕は京一さんを見た瞬間、軽く脳イキした。でも縛ってるから精液はあまり垂れてなくて、賢者タイムを迎えるにはまだまだ時期尚早である。はあああ、可愛い可愛い可愛い可愛い。僕は何も言わずに京一さんを襲ってしまった。京一さんは布団に包まりながら洋画を見ていたのだけれど、そんなのお構いなしに僕は自分の性欲を爆発させて彼を襲った。舌の感覚がいつもの数倍気持ち良い、あーーー、何も考えられなくなる。ただこの行為をずっと続けていたい。快楽に浸っていたい。僕は息つく暇もなくまたイッてしまって、肌着や下着がヌルヌルに汚れてしまうのが嫌で、キスをしながらズボンとパンツを脱いで下半身を露出させた。


「チョコレート?仕込んできたの??」


京一さんはまだ理性が生きていて、味利きするように、僕が口移しで与えた媚薬の味を当てた。適量の五倍くらい口に含んでたから、口端から唾液と混じった媚薬が零れているのが何とも官能的だった。


「んっ……僕、約束……守りましたよ?」


「あはっ、こんなことまでして、めっちゃ可愛い♡♡」


と赤い糸で縛られて固くなっているそれを彼は容赦なく指で弾く。その強い刺激に僕は身を捩って、呼吸を乱して、脳内混乱、取り乱している。脳ミソがぶっ飛ぶほど完全にイキたくて仕方がない。中途半端にイッても気持ち良くない。僕の我慢汁が糸を濡らして、糸引いてんのに、ゾワッとした。


「えろく……ないですか?」


「あーははっ、身体が火照ってきたぁ」


と貴方は冬なのにスウェットの上を脱いで、床に投げ捨てた。上気した頬、可愛らしい。その貴方の細い身体、白い肌、僕を守るために負った傷跡、全てが愛おしい。そしてその指で、僕に絡まっている赤い糸を解いていく。


「ちょっと、京一さん!?、」


ダメ、ダメダメダメダメ!!完璧にイッちゃったら、僕動けなくなっちゃうから……


「湊、イッて良いよ?」


と彼は悪魔の囁きのように僕を惑わせて、濃厚な舌を絡めたキスをしてくる。身体が熱い。腰が徐ろに動いて、ポタポタと僕の精液が床に垂れる。


「……思いっきり、シゴいてくれませんか?貴方の、この手で」


「あはっ!嫌だよ。もっと苦しんで?」


うううう、貴方のその意地悪なところ、性癖だ。それから、僕の両手を掴んで、拘束するところ、大好きだ。僕のイケそうでイケなくて苦しんでいる表情を楽しんでいる貴方の表情が、大好きだ。だから、僕は京一さんの手の甲を僕の太腿に沿って滑らせた。貴方のために適度に引き締めた太腿。筋肉質になりすぎないよう脂肪も残して、除毛して毎晩ボディクリームを塗り込んでマッサージをした。


「触らなくて、良いんですか?」


そう僕が煽ると、貴方はちょっぴり情欲をかき立てられたようで、ごくり、と唾を飲み込んだ。そして僕の手首から手を離すと、舐めるようにゆっくりと手のひらを僕の太腿の上で滑らせて、柔らかさを確かめるように揉み込む。それに僕はビクッとしてしまったが、それすらも貴方は楽しんでいるようで、ずっと僕の脚を気に入ったみたいで撫でている。その羞恥に痺れを切らして、僕が「あむっ」とキスをすると、貴方は僕がしたのよりももっと丁寧で、快楽が長ーく味わえるようなねっとりとしたキスをしてきて、お尻の方まで味わい尽くすように触ってくる。やば、しんどい……気持ち良すぎて……死ぬ。

ビュルルルッ、と勢いよく飛び出たそれは貴方の灰色のスウェットのズボンに黒く染み込んで、白濁乳の濃厚なそれは貴方の腹部を汚した。


「あははっ!一週間分、たーっぷり出たね♡♡」


「まだまだ、残ってます」


僕は京一さんが勃起していることに気が付いているから、この機会を逃すまいと、必死に畳み掛けるようにキスをした。


「賢者タイムで死にそうな顔してるけど?」


「貴方のだって、イキたがって疼いてますよ」


頭がクラクラする。あーーー、何もしたくないけど、京一さんは快楽に沈めたい。その強がってる顔、ぐちゃぐちゃにして泣かせたい。ひんひん言わせて、もう無理、立てないってくらいガクガクに痙攣させたい。だから、僕は彼の腰に腕を回して、自分のを彼のに擦り付けながらキスをした。


「んっ……湊、ルール……ルール違反、だって……」


「ん?僕はただ、貴方を抱きしめてるだけですけど?」


「腰、動いてんじゃん……」


と貴方が拗ねるように言って、最高に照れてる顔が可愛くて、ああ、また性欲復活してきたあ。


「何?感じてんの??」


「うっさい!!俺が湊にイかせられるわけ……」


僕は貴方の両耳を塞いで、咥内で僕と貴方の舌が交わて起こるくちゅぐちゅ音を貴方の脳内に響き渡らせた。それに加えて、貴方が舐められて好きな上顎の部分をねっとりと舐めて、ふにゃふにゃになっている貴方の耳をくりくりと触って弄ってから、長い髪をその耳に掛けた。


「ふふっ、可愛いいい♡♡僕のキスだけでイッちゃったね……♡」


そう僕が満足感で微笑んでると、京一さんは呼吸を乱しながら、ぼろぼろと泣き出して、


「みにゃ、みなと……もう一回!!もう一回、やらせて??」


と僕の制服を掴んで懇願してきた。


「え?何で、そんなんじゃないんですけど……」


「お願い!!もう一回!!!」


「……はあ、京一さん」


そんなに僕とセックスしたくないんですか?


「ごめんなさい、ううっ、ごめんなさい……」


貴方は僕のため息を見ると、何かに怯えるように蹲りながら謝り続ける。


「何で謝ってるんですか?」


「はぁはぁ、嫌だ、嫌だ……湊に見捨てられたくない。ずっと俺を好きでいて欲しい。俺を捨てないで、一人にしないで。ずっとそばにいて、離れないで」


「京一さん、落ち着いて?僕はずっとここにいます。貴方のことを見捨てたりなんかしません」


「でも、でも湊は、俺がこんなもんなんだって、知ったら、知っちゃったら、もう俺のことなんか、興味ないんでしょ??俺は、湊が思ってるほど、良い人間じゃないよ……」


「あははっ、そんなことで悩んでたんですか?僕は悪い貴方が好きだって、散々言ってるじゃないですかあ。忘れちゃったんですか?」


「ううん、だけど湊の理想に……」


「そんなの気にしないで?僕の理想は、何がどうなったって貴方です。貴方の言動の何処を切り取っても、貴方は僕の理想なんですよ。もっと自信を持って下さい。貴方は青柳 湊の理想の彼氏なんですから、ね?」

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