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しんど

ピンポーン。と京一さんのいない京一さんの部屋のチャイムが鳴らされた。訪問者なんて、宅配便以外で初めてだ。覗き穴から覗くと制服を着た京一さんみたいな人が突っ立ていた。


「こんにちは、京次郎さんでしたよね?ただいま京一さんは留守でして」


「あー、君まだ恋人なん?別れた?」


初手でそれ聞いてくるんだ。弟さん、めっちゃ気が合いそう。と思う玄関先での出来事。


「恋人です」


「そ。それであのクズは?」


やっば無理かもー!?京一さんのことクズ呼ばわりする人と仲良くできそうにない!!京一さん、早く帰ってきて。


「知りません。ところで、そちらはどういったご用件で??」


「ああ、んと、家があ、燃えた」


決まりが悪そうにうなじを手で擦りながら、答えられた。だから家に泊めて欲しいと。


「そんなBL漫画の始まり、みたいなこと現実にあるんですか??」


デジャブを感じて、若干の興奮を見せた。


「は?」


怖っ、言葉を一音発してこちらを一瞥するだけでこの破壊力。京一さんに似てて京次郎さんも可愛い。無理。もっと近くで見ていたくて玄関扉をさらに開いた。


「どうぞ。と言っても、この部屋も半焼状態なんですけどね」


「何で?」


「京一さんがストレスで布団を燃やしました」


「クズじゃん。そのまま焼死すれば……」


「あはっ、冗談でもそんなこと言っちゃあダメじゃないですかあ」


と赴くままにその腕に抱きついた。ピトっと頭を肩に付ける。京一さんよりも筋肉質で違った感触がある。


「ごめん触らんといて。苦手なん」


あ、これは京一さんと同じだ。


「ごめんなさい、つい」


その腕を離すと、にっこりとした笑顔を見せられて、


「京一郎と間違えた??」


と目線を合わせて聞かれた。


「間違えてはないです、気になっただけで」


「良かった、同じにされたら腹立つからね」


同じにしていたら、殴られでもしたんだろうか。とそれもまた気になった。


「お茶かジュースか珈琲がありますが、どれか飲みますか?」


冷蔵庫を開いて、座ってスマホをいじっている京次郎さんとの沈黙を破る質問をした。


「お気遣いあんがと、あんま気にせんで」


可愛い、微笑むのが優等生みたいで可愛い。ダメだ、京一さんから浮気しないって決めてるのに。でも沈黙が続くとそれはそれでそわそわしてしまうもので、京一さんとは連絡が取れないし、何処へ行ったのかすらも分からない。


「京次郎さん、少し親睦を深めませんか?」


近づいていって正座して、失礼のないように申し出をした。それに対して


「何で?」


とスマホ画面から目を離さずにそれだけ言われた。


「えーっと、色んなお話を聞いてみたくて……」


「それ、俺と仲良くなりたいんやなくて、京一郎のこと知りたいだけやん。絶対に無理やわ」


完全拒否。心を打ち砕かれそう。


「京次郎さんのことも知りたいと思ってます」


「知ってどうすんの??すぐ忘れんじゃないの??」


彼の関心だと僕はスマホ以下だ。


「忘れません、貴方という人間を理解してみたいです」


「嘘くさ。京一郎の情報を聞き出すためによおやるわ」


「そのためじゃないです、僕はただの好奇心で貴方のことが気になっています」


僕が想いを伝えると、やっと一瞬だけ目が合った。


「京一郎にも、そんなこと言っとるん??」


「いや、言ってないと思います」


「じゃあ、良いよ」


スマホ画面が黒く染まる。その面を下にして床に置いて、僕の方を見てくれた。


「ありがとうございます!!」


とハグしようとすると、「だからそれは嫌や!!」って押しのけられて拒まれた。


「俺はなあ、ずーっとキラッキラした京一郎と比べられて、あいつの影みたいに、いいや、金魚のフンみたく思われとったんかなあ??ムカつくけど。でも俺やって、良いところはそれなりに(?)はあるし、アイツよりも頑張ってんのに、みんな見てくれへんから、もう他人に期待すんのはやめた。そうしてひねくれ者として生きてんのが俺という人間。どお?つまんない??」


自信なさげなのを誤魔化す苦笑いに小首を傾げる仕草、すごく良い!!!


「ふふっ、もっと聞かせてください!!」


と僕は欲のままに強請った。正座から膝立ちになってその腕とか顔とか触れたくなったけど、我慢してまた正座に座り直した。


「えー、何が聞きたいん??」


「んー、えっと、好きなものは?」


「俺」


「嫌いなものは?」


「京一郎」


「最近あった面白いことは?」


「京一郎にキスされた」


「え!??何それ!!?」


思わずタメ口でリアクションを取ってしまった。


「なぁ??おもろいやろぉ??」


と揶揄うようにこちらの顔を覗き込んでくるのでさえ、面白くてにやけた。


「恋人なんて無駄、キスなんて気持ち悪い、って俺が言ってたら、実験とか何とか言ってキスしてきた」


「京一さんが……」


めっちゃしそうで、大ダメージを受けた。


「おーい、大丈夫かぁ??」


手を目の前でヒラヒラして、意識が少々飛んでいる僕の心配をされた。


「どうでしたか、キスは?」


「まあ、悪くないんじゃん??」


「やっぱ京一さんってキスが上手いですよね?」


「そりゃあ中学ん時からませてんだから、経験人数は多いだろうね」


「ソウデスヨネ」


知ってはいた、京一さんがモテることは。でも受け入れられているかどうかと言われたらそれはまた別問題で、受け入れようとはしてるけど受け入れ難いものがある。


「あははっ、だから湊くんに言う『好き』も『愛してる』も過去には他人に言ってた戯言なんだよ。そんな奴、信じられる??」


ああああ、分かりたくもないのに分かってしまうのがこんなにも苦痛だとは。


「僕がいくら手を焼いて身を削って尽くしても、この大恋愛は報われないと脳では分かってはいます。でも今は京一さんのことを愛していたいんです。隣りにいられれば幸せなんです」


「何がそこまで君を惹き付けるんだろうね」


「分からないです。初対面で一目惚れして底なし沼に落ちてしまったので」


「おっかな」


と鼻で笑われて、これ以上京一さんのことは話さなかった。弟の京次郎さんだって、京一さんのことがきっと好きなんだ。


「ただいま」


ガチャっと、ドアが開くとビニール袋をぶら下げた京一さんが帰ってきた。


「おかえり」


と京次郎さんが自分の存在を示す。


「何でいんの??」


「可愛い弟がいちゃダメか??」


「家が燃えたらしいです」


と僕が説明を挟むと


「ふふっ、変な嘘つくなよ」


と京一さんは笑った。嘘、だったんだ。まあ良いよって、彼はキッチンにビニール袋の中身を冷蔵庫に入れている。


「何買ってきたんですか?」


「ラーメンと酒とアイス」


何だか詩のタイトルみたいだ。


「腹減ったあ」


「待って、ラーメン作っから」


その兄弟の会話が羨ましかった。僕は、帰った方がいいのかな?


「何ラーメン??」


「味噌」


「えーーー、俺塩派なんだけど」


帰ろっかな??


「湊は?」


「え?」


「何ラーメンが好き?」


まな板と包丁を用意してキッチンに立つ京一さんに見蕩れながら、優しく質問されているのにキュンキュンした。


「僕は、食べられれば何でも」


「じゃ、闇ラーメンね!」


「何ですか?闇ラーメンって」


「何でもぶっ込んだラーメンが闇ラーメン。そうだ、アイス入れよう!」


と嬉々とした表情を見せるのも可愛い。僕の分まで作ってくれるの??胸が踊る。


「喜んで頂きます」


「湊くん可哀想」


「嘘だって、美味しい味噌ラーメンを三人で食べよ」


え、待って、絶対に買い出しで疲れてるはずなのに調理までしてくれんの??とやっと京一さんが何をしているのかが理解できてきた。可愛さに脳が悶え死にしすぎてる。


「僕も手伝います」


「それじゃあ、麺茹でるのお願いして良い?」


「Yes, my pleasure」


「京一郎、湊くんに普段どんな教育しとるん??」


京一さんがシカトしてキャベツ切ってる。可愛い。



「いただきます」


具材切るのに苦戦しながらも、見た目それっぽいラーメンを作ることができた。座った瞬間どっと疲れが出た。でも京次郎の前では元気なところを見せてたいから、ぐっと堪えてラーメンを美味しそうに啜った。湊、不安そうな目で見つめてこないで。だから、


「美味しい?」


と話を振ってみた。


「はい、すっごく美味しいです!!」


良かった、晴れやかな顔してくれた。対して、京次郎はスマホとにらめっこして食べている。


「ジロちゃん、行儀悪いよ」


「その呼び方やめろ」


と少々キレつつもスマホを床に置くんだから何だかんだ可愛いらしい。


「お前だって、"兄ちゃん"って呼ぶじゃん」


「何?"クソ野郎"って呼んで欲しい?」


前言撤回。やっぱ腹立つ。


「あの、京一さん、僕のこともあだ名で呼んでくれませんか?一度だけで良いので」


可愛い。中和された。


「良いよ、みーたん??」


「うっ」って湊が顔を両手で覆って俯いている。え、ダメだった!?


「あははっ、きっついわあ。みーたんは流石にぃ」


と弟はここぞとばかりに嘲笑ってくる。


「京一さん、可愛すぎんのも程々にしてください。喜びで悶絶しちゃうじゃないですか」


顔を真っ赤にした湊に腕を抱かれ、肩に頭をピトっと付けられる。待って、湊のが可愛いじゃん。


「京一郎、湊くん、食事マナーなっとらんよ」


二人でいちゃラブしてたら、京次郎に指摘された。これはまじでごめん。


「ほら、湊離れて。食べられないから」


「ふふっ、はーい、わかりましたよ」


機嫌良くした湊がルンルンでまたラーメンを食べ始める。俺は自分で作ってなんだが、限界がきていた。酒でも入れるか。


「酒クズ」


立ち上がった瞬間に京次郎にそう言われるんだから、面白かった。行動パターンが読まれてんなあ。酒飲んだら、湊にキスとかしちゃうかな?まあ、いっか。飲みたいんだし、人前でキスするのが悪い事だと思わないし。まあ、見るのは嫌だけど。ってクズか。


「はいはい、何とでも言って」


プシュって缶を開ける音でかき消すからさ。


「京一郎のバカ。酒なんてお前には贅沢品なんだよ」


「うんうん、そうだよね」


悪口も機嫌良く聞き入れた。


「ううん、京一さんは頑張ってますよ。ご褒美ぐらいあっても良いじゃないですか」


「湊もありがとね。わかってるよ」


「はあ??どっちなん??」


京次郎は俺のどっちつかずの態度が気に入らないようで口を歪めた。


「ごめんね、俺はどっちも好きだから決めらんない」


「京一さん……僕も好きです」


ストレートに想いを伝えてくれる湊も


「気色悪っ、大嫌いだし……」


つっけんどんで素直じゃない京次郎も、俺は両方好きだ。実家が居心地悪くて、わざわざここに来るくらいだ。今だけは頼れる兄ちゃんでありたい。


「京次郎、おいで」


と両方を広げると


「何なん?もう酔った?」


と馬鹿にされた。


「まだシラフ、可愛い弟を愛でて何が悪い??」


京次郎の方から来ないから俺の方から這いつくばって近づいて抱きついた。そして嫌がられながらも頭をよしよしした。


「まじウッザ!!酒くせえ、やめろ!!」


「あはっ、よく頑張ったね、京次郎」


疲れて床の上に横たわって、京次郎の目を見つめていた。


「は?ウザすぎる、一遍死んどけよ」


照れくさそうに言放つのがやっぱ可愛いなあ、と思う。「ふふふ」と満足気に笑っていると、恋人が物欲しそうにじっと見つめていた。心霊写真を思わせるほどじっと、こっわ。


「湊もよく頑張ったね、よしよし」


起き上がってお気に入りの芸術作品を愛でるようにゆっくりと撫でた。京次郎の時は不機嫌な猫を思わせたのに、この対比すらも愛おしかった。

酔いが回ってくると、やっぱり開放的な気分になってくるもので、「湊」と一言呼んで弟にはバレないように軽くキスをした。それで二人で見つめ合って微笑んで、今日はそれだけでもすごい楽しかった。


「京一さん、一緒にお風呂でも入りませんか?」


湊からそこなら堂々とイチャイチャできると提案されているみたいで、ニヤけが止まらなかったしもう一度キスしてみたくなった。首を縦に振った。


「京次郎、先にお風呂入っても良い?」


「待って、お前ら長くなりそうだから俺先入るわ」


しんど、バレてんじゃん!!ちゃんと"お前ら"って言ってんの、我が弟ながら強すぎる。でもまあ、


「じゃあ、今からイチャイチャタイムですね♡」


って二人きりになった瞬間、湊が抱きしめてくるから良し。


「俺頑張ったよね??」


とキスの合間に湊の前では弱さを見せてしまう。純粋に褒めて欲しかった。


「とってもよく頑張りました、京一さん格好良いです」


湊に母親みたいに全てを包み込むように優しく頭を撫でられて褒められて、もうここから動きたくないとずっと撫でていて欲しいと、そんな我儘が頭の中をグルグルとしていた。

バタンと風呂場のドアが閉まる音が聞こえて、すぐさま二人で少し離れたところにぎこちなく座った。少しして腰にバスタオルを巻いた京次郎が出てきて、辺りを見回すとやはり異変に気付いたのか、


「別にイチャイチャしてていいよ、気ぃ遣わんで。もう寝るからさ」


とフォローを入れられた。それにまた赤面してしまう。何でバレてんだろ。


「京次郎さんの観察眼は鋭いですね」


なんて言ってシャワーを浴びる湊。やっぱそう思うよな??湯船に浸かっている俺は、考え事をしてたら逆上せてきた。昔からアイツはよく見てる奴だったと。頭から冷水をぶっかけて、物理的に頭を冷やして考えをクリアにした。


「だって、キーホルダーひとつで貰いもんかそうじゃないかが分かるんだぜ?」


それで彼女ができたかどうかがバレる。一人暮らしをする時だって、「連れ込みたいから?」とか変なことばっか聞いてきた。そん時はそんな奴いないって答えたけど、初めて家に遊びに来た時、「一人くらい女いれたでしょ?」ってバレた。アイツ、探偵とかそれこそ浮気調査とか向いてそう。


「そうなんですか、僕も身に付けたいスキルですね」


「えーーー、何で??」


「そしたら貴方のことが手に取るように分かるじゃないですか。貴方が何時、誰と何処で何をしたのか、僕は詳細まではっきりと見てみたいです」


「そんなことしなくたって俺は浮気なんか」


「いいえ、そうじゃないです。ただ見てたいんです、貴方を」


こっわ、浮気調査よりも怖いわ。そんな俺ただひたすら見てたって、面白いことは何も起きないけど。今シャンプーが目にしみて開けられなくなってても、本当は俺のことを見てたいのかな??それは何か、可愛い。


「そっか、この家、盗聴器とかある?」


「あははっ、そんなのあるわけないじゃないですかあ」


うわあ、めちゃくちゃありそううう!!まあ湊だし、やましいことは何もしてないし、良っか(?)


「湊、この傷まだ沁みる?」


俺が煙草を押し付けた根性焼き。湊の裸を見るとついつい、左腕の傷跡達が気になってしまう。リスカ、アムカ、根性焼き、皮膚が爛れて赤くなっている。


「大丈夫です、痛くないです」


前髪なしの濡れ髪の湊は爽やかで、でもその左腕を見ると罪悪感に呑まれて、ごめんねを言ってキスをした。


「湊を傷付けるようなことはしない」


誓いのような約束のような催眠のような言葉。


「別に気にすることないですよ。僕は嬉しいんです、貴方を感じられる傷跡ができて」


「ふふっ、もっと健全に俺を感じてよ」


と裸のままで抱き合ってしばらくキスをしていた。


「これは不健全じゃないですか??」


R-18に指定される行為を中学生相手に行う。おそらく不健全である、不健全であるが湊が傷付くよりかは何倍も健全であると思う。

風呂から出て、長風呂で逆上せた身体を冷やす。良い風呂だったなあ、湊の太ももって白くて綺麗だなあ、ってホワホワと思いながら脱衣場で裸で横になっていた。服を着た湊が団扇で扇いでくれている。


「さっき京次郎さんから苦情言われましたよ」


「ん、何て?」


「一つ目は、まじでヤッたのとドン引きされ、二つ目に、喘ぎ声うるさくて寝れねえと文句を言われ、三つ目は、つかここ壁薄くね??と、以上です」


「ぷはっ、可愛い奴!で?何て答えたの?」


「本番じゃない、ごめんなさい、知りません、の三つです」


「いやあ、お前も可愛い♡♡」


と陽気に湊の首に手を回すと


「ありがとうございます、リップ音は控えめで」


とこれからされることが分かっているように注意を言われた。が、脳内が多幸感に満ちていて、無視して思いっきり音立ててやろうかなんて強気に思ってしまい、見事に失敗した。


「おい京一郎、やめろっつてんだろうがよ!!」


とバーンと脱衣場のドアを開けられてしまい、濃密なキスをしているところを目撃されてしまった。当然、リップ音は立ててから唇を離した。


「えー、イチャイチャしていいって言ったのにぃ」


「寝れねえの!!俺が寝てからやれ!!」


とずかずかと入ってきて、湊を誘拐して行った。しばらくはただ裸のまま横たわって、湊が虚無感を残していったこの場所から動けなかった。


俺がやっとの思いで動いて居間へと向かうと、京次郎が湊を抱き枕にして寝ていた。戦犯やろ、コイツ。とその寝顔を眺めていた。その中で、湊が動きづらそうにただ視線だけは猛烈に動かして困惑しているのがわかった。


「京次郎の腕の中で寝ていいよ、おやすみ」


とその目をそっと閉じた。といっても、俺も湊がいないとよく眠れないので、近くに布団を置き、湊の肩回りに腕を置いて寝た。



朝起きると目の前に京一さん、背後に京次郎さんがいた。何この幸せな兄弟サンド。可愛すぎて朝から死亡案件だった。


「んん、湊くん」


背後から声がした。京次郎さんが起きた。寝返りを打って振り返ると、まだとろんとした瞳の彼が柔らかく微笑んだ。


「おはよ、ございます」


それに見蕩れてしまった僕は、少し不自然な挨拶をしてしまった。「おはよ。寝れた?」「はい」という自然な会話をしてから、


「抱き枕にしちゃってごめんね」


と謝られた。口は悪いけどやはり良い人なんだと感じた。


「いえいえ、抱き枕にされるのは慣れてます」


「ふふっ、京一郎か。何かムカつくからさあ、ちょっと仕返ししようよ」


京一郎さん、今朝はこんな気持ちの良い朝なのに、これから兄弟喧嘩が勃発しそうです。どうかまだ今だけは、すやすやとお休みしていてください。


「これはダメですって」


「良いじゃん、お願い!じゃなきゃ.......」


「はいはい、わかりましたよ」


京一さんが目を覚ました。僕らが笑っているのを不思議そうに見つめてくる。やっぱり可愛い。


「何笑ってんの?」


「京一さんが可愛くて」


「そうそう、超可愛いよ!!」


と京次郎さんが言うと


「胡散臭っ」


と訝しげな顔をする。洗面所へと向かった京一さん、「何これ!!」という驚愕の声がする。それに僕ら二人でまた腹を抱えて笑った。

京一さんの顔に落書きをしたのだ。僕が持ってたアイライナーで。じゃなきゃ、油性ペンで書かれるところだった。


「額に肉とか似合わねえ、もっと屑とかにしとけば良かった」


なんて、落書きし終えた京次郎さんに言われた。瞼に目を書いて猫髭を付けてと、定番の落書きをしていた。僕は大好き♡と頬と目の中間の辺りに書いといた。


「お前ら小学生かよ、くだらねえ」


と顔洗って京一さんが愚痴をたれながら出てきたと思えば、


「ぷっ、あはははっ!!何ですかあそれ!!」


眉毛を繋げて鼻の穴を大きくして鼻毛もシワも付け足して、僕達がやったのにもさらに酷くなって登場してきた。


「まじお前最高やわ!!」


パシャパシャとスマホで京次郎さんが撮っていると気分を良くしたのか、変顔までしてくれた。京一さん、何しても可愛すぎ。

そうやって溌剌と遊んでから、メイク落としシートを肌に滑らせると、いつも通りの格好良い京一さんが見えてきて、無性にドキドキしてしまった。


「何見てんの?」


と僕の視線を奪っておきながら微笑んで煽ってきたので


「貴方です」


と王子様っぽく言いたかったけど、実際は照れながらの恥晒しみたいで格好悪くなってしまった。


「ふふっ、可愛いね」


大好き。あーあ、僕のことをもっと好きになってくれないかな?



「青柳、お前背伸びた?」


高橋から唐突にそんなことを聞かれた。


「え?無自覚なんだけど」


「前は俺のがもっと目線高かったじゃん」


「そう言われればそうかもしれない」


京一さんと立ったままキスする時も少し唇が近くなった気がする。……成長期だ!!!


「目標は?何センチ??」


「そうだね、百八十くらいは欲しいかな」


京一さんよりも背が高くなって、今度は今されてるみたいに包み込むように、彼を抱きしめたい。でも、んーーー、そしたら百九十近くにならないと無理か。


「おま、その童顔で??」


「顔ももっとシュッとしてて格好良い大人っぽくなるって!!」


「へえ、なあアリス!青柳がさあ将来、高身長でシュッてしてる大人っぽい顔になるってよ」


高橋が真城さんを呼ぶ。


「ふふっ、想像つかないんだけど。どんな話してたの??」


呼ばれた真城さんは笑いながら近づいてきた。


「どんな大人になりたいか??」


「それでその答えがコレ??」


と期待はずれみたいな顔されたから言い訳を並べた。


「だって身長と顔のことしか聞かれなかったから」


「俺が聞いた、こいつ背高くなったと思わない?」


「え、比べっこしようよ」


背中合わせになって、真城さんと身長を比べる。前回は僕が僅差で勝っていた。今回は……


「おお!ちゃんと差が出てるよ。青柳のが高い」


「ふふっ、また僕が勝った」


得意げに鼻を鳴らすと


「良いよ、女の子は背が低い方が可愛いから」


なんて拗ねられてしまった。そっか、女の子は背が低い方が可愛いんだ。京一さんは、僕が背が低いままのが可愛いのかな?


「高橋は?」


「は?」


「女の子は背が低い方が可愛いと思う?」


「それは、んー正直に言うと、どっちでもいい。背が高くても低くても、人間として惹かれる部分があれば可愛く見えるもんじゃね?」


「高橋、格好良いじゃん」


というと肩をどつかれた。


「何だよ青柳、お前はどうなの?」


「僕は、低い方が好きだよ。抱きしめた時に包み込みたいから」


「だから百八十も……全く想像できないけどなっ!」


でも京一さんが望むなら、僕はずっと少年のままでいたい。あ、京一さんから電話だ。


「ちょっと外すね。……もしもし、京一さん??」


「湊くん、ビデオ通話しよ!」


京次郎さんじゃん、ビデオ通話オンにした瞬間、嫌なもの写ったら嫌だなあ。嫌なことされても嫌だ。見れはするのに手出しできないのがもっと嫌だ。と、思いつつもオンにしてしまう。画面には京次郎さんだけの顔が写ってる。


「京一さんは?」


「あ、出てきた。どや?」


うわっ、めっちゃ可愛い。髪染めたの!?やば、プリンだったのも可愛いかったけど、真っ白な金髪になってんの天使すぎて無理。前髪も作ってんの幼さが増して可愛すぎぃ。え、待って、前の伸びっぱなしロングはめちゃくちゃえちえちだったけど、今回の金白髪ロングウルフはなんか完成されてる分健全さが見えて、寧ろギャップに悶え苦しむのでは!?ダメダメ、何いかがわしいことを考えているんだ僕は。うわあ、髪の毛艶々になってるう。丸っこい眼鏡も可愛い。普通に格好良くなりすぎてて、モテすぎるの確定で鬱。お洒落の度を超えてるから外に出ないで欲しい。


「湊ー??」


ぐっ……スクショの手が止まらない、ビデオ通話してくれてありがとう。


「京一さん、そんなん格好良すぎじゃないですかあ。直視できない国宝級レベルのイケメンだから、家に引きこもり安全を確保してください!!」


「ふふっ、大袈裟すぎ」


「これから兄ちゃんの大学に行って、友達作ろうプロジェクト進めてくっから、じゃあね!」


何そのプロジェクト、僕知らないんだけど。


「湊も学校頑張ってね!」


「はい!物凄く頑張ります!!」


可愛い可愛い可愛い切らないで可愛い、て思ってる途中で切られてしまった。スクショを見て余韻に浸っていると、デレデレした僕の顔が端に写っていて鬱だった。


「青柳、何してたの??」


「えーと、推しのライブ配信??」


「へえ、青柳ってアイドルとか推してたんだ」


「いや、まあ、うん。秘密」

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