無菌なゴキブリだってゴキブリじゃん
俺がスキンケアしたってメイクしたって整形したって、それはただの不細工な猿が小綺麗な不細工な猿になるようなもので猿という枠からは何ら出られるわけが無い。そんなもんに大量に金つぎ込んでも、俺はもともとが怪物だ。産まれた時から定まってたんだ。気持ち悪ぃ京一郎は何をしたって変えられない。そんな奴が自信過剰に格好付けたり可愛こぶって病んだり媚び売って甘えたりプライドがなんだかんだ一丁前に話してんのなんか吐き気がする。死ね、気持ち悪ぃ。お前なんか人類にとって害悪以外の何者でもないからな!!なんて俺が意見すんのもダルすぎてキショい。コンプレックスを抱えている人間は自分自身を殺しながら必死で生きている。そんなのない人間は自分自身を愛して朗らかに笑っている。さあ、馬鹿はどっちだ?あはははっ、なーんて、馬鹿らしい優劣ごっこに執着しないから自分自身を愛していられるんだろうに、愚問だよ。あーあ、気持ち悪い。自分自身の顔が不細工な構造で傍から見て可哀想になるくらい気持ち悪い。なんだよ、その目。鏡に映るお前の目を見るだけで毎度俺は絶望するんだよ。何枚鏡を叩き割ったって根本的解決には至ってないからこれからも馬鹿みたいに鏡を叩き割る。暇つぶしに必死かよ。ああ、暇つぶしでもやってねえと死にたくなっちゃうもんなあ。暇さえあれば死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、ウザってえわ!!さあ、本日の自己嫌悪と醜形恐怖の原因は?
「湊なにこれ?、俺のアルバムなの?」
俺の写真と共に日付、出来事、感想まで丁寧にメモしてある湊のお手製だ。
「はい、素敵な京一さんをファイリングしておこうと思いまして」
「廃棄するのはいつ?」
「廃棄?するわけないじゃないで」
「そんなんファイリングなんて言わねえよ、バーカ」
湊の想いを踏みにじる、苦汁が俺の口から溢れ出る。
「……僕は大切に保管しておきます」
俺の手からそのアルバムを奪われた。その表情は悲しげなのに、俺はその顔すらも見ないように蹴り散らす馬鹿。
「肖像権侵害で訴えんぞ?」
「嫌でしたか?」
「ああ、お蔭さんで見たくもねえもん見ちまった」
「ごめんなさい、今後は目に付かないように配慮して」
「あんさあ、俺って何であんなに不細工に笑えるんだろうね?まじでキショかったあ、ああ死にてえ」
って顔覆って笑っても不細工で不安でしかない。
「は?貴方の何処が不細工だって言うんですか?」
「全部全部全部全部、見ててイライラしてきた」
他人よりも歪んでる不細工な笑顔で湊に甘えて媚びて、俺の可愛い湊を、クッソ気持ち悪い。俺如きがその汚い手で触れんなや。死んでしまえ。この顔面の気持ち悪さを再確認して今までの振舞いの気持ち悪さを懺悔する。させてくれ。
「……鏡、また割ったんですね。スマホ画面も」
「そお!悪い??」
「悪、悪くな……悪くなくもないんじゃないですか?」
「どっちだよ!!」
「ああ、悪いですよ。悪い人です。物は大切に、って言ってるじゃないですか!」
「知らねえ、どーでもいいんだよ!!俺を精神不安定にさせんなら、そんなんクソじゃねえのかよ!!」
クソ、言っちまった。湊がせっかく作ってくれたアルバムを。
「……そう、ですね」
湊が笑った。
「ごめ、ごめん湊。アルバム作ってくれてたのすごく嬉しかったよ。なのに変に醜形恐怖を煩っちゃって、本当は……」
「大丈夫です、分かってますから」
「ごめん、ごめんなさい。捨てないで、お願い。お願いします」
頭を抱えてしゃがみ込んだ。顔は見せないように俯いた。お目汚しだ。それでいて、まだ厚かましくも祈りを捧げる。湊の寛大な優しい心を知りながら。
「京一さん、僕も怒っちゃってごめんなさい。貴方がつらい思いしてるの知ってるのに」
「ううん、湊は正しい。俺が絶対的に悪い、ちゃんと罪を償わさせて、お願い」
俺の土下座なんてもんに価値はねえだろうが誠心誠意の土下座をした。湊にまだ縋っていたい自分が未だに気持ち悪く思えるが。
「最近、面白いことに気づいたんです。いつだって正論が正義とは限らないんですよ。所謂、一般論はただの理想論ですし、机上論が一般論を構成しているんです。道徳の教科書に載ってるの全部、僕にとっては空想論!!正解はないとか言いながら、僕の回答に教師は箔じゃなくてケチつけるんですよ。だから、貴方が絶対的に悪いなんてことはないですし、貴方が僕のアルバムは破かなかったこと、僕はとっても嬉しいですよ♡」
「湊、まじで天使」
泣けてくるほど、懺悔成功。
「あははっ!そうですね、罪を償っていただけるというのならば、今度からは破壊衝動が起こった時には僕を怒鳴り散らして殴り倒して蹴り殺してください!」
俺があんなに怒鳴ったから、湊が自暴自棄になったんだ。自分自身の価値を極端に下げて、感情を落ち着かせている。懺悔失敗。湊が自傷行為しないといいけど。
「それじゃ、意味ないよ」
「意味ありますよ。物を大切にできるじゃないですか」
「湊を大切にできなきゃ意味ないの!俺にはどんな物よりも湊のが大切なの!何でわかんないの?」
「あはっ、そう言われると気が狂いそうです。僕にはどんな物よりも京一さんのが大切です。鏡の破片で指切っちゃいましたね」
湊が床に座り込んでいる俺の手を取って、傷口をキスするように舐めた。傷の痛みが引いた、気がする。
「嫌だよ、俺は生きてるだけで湊を苦しめ続ける」
「その苦しさでさえ、貴方とならばまた一興です」
「俺といることで後悔しない?」
「後悔なんて、寧ろ幸福です♡」
「ありがとう湊、愛してる」
「こちらこそ愛しています」
そうゆう湊の甘言で俺の認知を歪めることで、俺はまた湊とキスなんて愚行をできるようになる。人生、シーソーゲームのようにその繰り返し。
「馬鹿ほど誰かを打ち負かすのに必死、あはっ、京一さんの言っていた通りだ。僕なんかを力量で負かして嬉しいの?」
体育館倉庫に閉じ込められて、金属バットで殴られた。頭から何か温かいのが流れてくる。鈍痛。死に目に京一さんの顔を拝めないのは嫌だなあ。
「うるせぇんだよ!!!」
はあああああああああ、こうやって殴ってくれるのが京一さんだったら幸せなのに。てゆーか、何で縛られて殴られてんの僕は?とゆか、誰ですか?
「痛っ!!」
「おい!何やってんの?お前ら」
「千尋、お前も青柳に恨み……」
あれ?仲間割れ?鈴木が山田太郎殴った。鈴木くんお久しぶりですね。助けに来てくれたんですか?それとも、あー、走って逃げてった。3人の山田太郎達。
「大丈夫か?」
「また演技性パーソナリティ拗らせたの?」
「いや、それ湊ちゃんの方じゃないの?」
「あははっ、めっちゃ言えてるね!それじゃあ、お礼にキスでもしよっか?」
「はあ?」
「あ、それとも交合ってみる?今だと脳内低酸素状態だから、めっちゃ気持ちいいと思うんだ!僕があ」
「お前がかよ」
「うん、京一さんは嫉妬するだろうけど、それはそれで……」
最っ高なトラウマみたいな記憶が脳裏に過ぎる。涙と精液とでぐちゃぐちゃになった京一さんのなお麗しい顔。僕の最低な行為が際立つ。
「本っ当、その性格嫌いだわ!!俺が好きなのはお前の顔だけだって、やっと夢から冷めた」
「良かったね、興醒めだね」
「そういや、あの京一って「京一さん」、京一さんとはまだ関係続いてるの?暴力振るわれてるの?」
「逆、僕がネグレクト状況だから、死にたい」
「どーゆーこと?どっち??」
「僕が、京一さんのことを、虐待してる。主に性的に。あーーーーー、やっぱ鈴木には話しやすいね!」
「お前ってまじで失うものがないよな。メンタルどうなってんの??俺にされたこと分かってるの??」
「失うものはある。メンタルは弱い。鈴木にされたことも分かってる。けど、だからこそ、僕のつらさを分かってよ。あはっ、これは復讐だね!」
うつ病の人間は周りの人間もうつ病にしていくらしい。僕のメンタルは崩壊してるから、あとは鈴木をどうにかするのは僕の自由なんだ。京一さんには話せない。僕がつらそうだと余計につらくさせちゃうのが嫌だから。
「湊ちゃん、やっば、最恐に怖いんだけど」
煙草を吸いながら、俺のストレス発散方法って何だっけ?と考え事に耽ける。飛び降りたい、死にたいほどクズな答えしか出てこなくて、地球上に存在しているのが害悪だと思った。暇で自慰行為とかするけど、賢者タイムはずっと死にたい気持ちでいっぱいだから、あれは賢者タイムなんかじゃなくて、自滅タイムだと思う。
「湊、傷だらけじゃん。どうしたの?」
痣も瘤もできて、内出血も外出血もしてる。
「森に迷い込んで大コケしました」
「へえ、それでトトロはいた?」
「僕の目にはもう見えないそうです」
「そっかあ」
会話が途切れた瞬間、その隙間が気持ち悪いからキスして埋めた。クチュクチュと言って絡み合って、また離れるときには違う話題になる。
「ふふっ、いきなりですね」
「俺のストレス発散方法を模索中なんだ」
「合ってました?」
「ケースバイケース」
「うーん、京一さんを僕で癒せればいいんだけど」
酒を一缶。頭痛がする。あれ?レイプとかされてない、よな?湊は俺以外に触らせたくないなあ。なんて漫画の設定を引き継いで現実世界に反映してしまう。
「湊ぉ、クラクラしない?」
「いや、あ、ちょっと立ちくらみがす」
湊に抱きついて、ズボンいやパンツの中に手を突っ込む。柔らかいお尻を触って、「やわけー」って思った。
「……あの、京一さん??何、してんですか??」
「確かめてんの」
「え、何を?」
「湊がイジめられてないか」
ケツの穴をイジめられてないかを??あはは、何言ってんだろこいつ。
「ちょっ、やめ……んっ♡♡」
まだ非処女じゃないっぽい!!安心したあ、湊のズボンから手を引っこ抜いて、興味をなくして酒を手に取る。湊はまだ俺の服にしがみついてる。
「おてて、開けなくなっちゃったの?」
「そんなわけじゃないですよ、でもそうゆうことにしたいです」
ならわざわざ否定しなくていいじゃん。何で一旦否定したんだろ??手が開けなくなったという理由では不十分なのか??
「じゃあ、そーゆーことにしといてあげる♡」
「貴方、わかっててやってますよね?」
「えーーー、何のこと??」
とシラを切ると
「ふふ、良いですよ。貴方の思わせぶりな態度、嫌いじゃないですから」
なんて、苦しまぎれに微笑まれた。
俺は誰かを欺かなきゃ生きていけない。お世辞でも何でも良い。たくさん褒めてたくさん持ち上げて、調子にも図にも乗らせた。その瞬間が、人間が最もボロが出る瞬間だと思って、目敏く隙をついた。弱みに漬け込むために。無意識にそう生きていた。たくさん褒めれば褒めるほど、相手は俺に酷いことをしなくなりそうで、寧ろ優しくしてくれそうで、そんな安心を求めていた。自分が傷つきたくなくて、その一心で、相手を惑わしてしまう。この本心が誰かに知れて、嫌われてしまうのが最も恐ろしい。なんならその前に死にたい。
「思わせぶり、って……あはは酷いなぁ、湊は」
と考えすぎて疲れて笑った。
「じゃあ、違」
「ああああああ、うっせえなあ!!めんどくせえんだよ何もかも!!」
突然、怒鳴ってしまって、湊は勿論だが、俺も自分自身に驚いてしまった。精神的に余裕がなくて、延々とイラついてしまう。ずっと腹に短剣ぶっ刺しながら生きてる気分だ。
「……京一さん、?」
不安げな目で俺を見つめてくる。俺だって戸惑ってんだよ、見てくんな馬鹿。
「あ、ああ、どうしよ……精神不安定、すぎ……ごめん、死ぬわ」
「やめてくださいよ、離しませんから」
服をぎゅっとまたさらに強く掴まれた。嫌だよ、もう自分が嫌なんだよ。最低になってまで生きていたくないんだ。死なせてくれ。
「ううっ……吐く……」
グラッとして、湊の方に倒れ込んで、持ってる酒缶を床に落として、手で口元を覆っても、吐瀉物はその手のひらからこぼれ落ちて、湊の学ランに、嫌だ。最低だ。もう生きるのが無理だ。
「京一さん、」
「どんなに頑張っても、どんなに苦しんでも、俺が報われる未来は、もうないよ……生きるだけ、拷問時間が長くなって、ただただ、つらいだけ……許容量なんて、とっくに超えてるんだ、うっ……ああ、汚ねえ、死にた」
広げた両手がベタベタで感触悪くて、臭いもツンとして、見た目もぐちゃぐちゃで、嫌悪感だった。
「僕が、そばにいますから、支えますから、」
湊は背中を撫でてくれるけど、正直、今は触れられたくなかった。見殺しにしてくれた方が嬉しい。
「ごめん、湊のが、つらいのに、俺ばっか、甘えたこと、言って……」
「僕はつらくないですよ、貴方と生きられて幸せです」
ゲロまみれになっても、幸せだと言い張る彼が、やっぱ、とっても、おかしくて笑った。幸せの定義は、彼の中では、俺みたい。
「ここ、たんこぶできてる」
「ふふ、できちゃいました」
湊の左頭上を撫でる。痛そう。そして俺は湯船に浸かってる。湊と一緒に風呂、とゆーか、湊にお風呂介助されてる。
「誰?何で、やられたの?」
「いいえ、コケたんですよ」
「誰に?」
「えへへ、えーと……」
微笑されて、お湯を濁された。お茶か?
「学校、行かないで」
「それはダメですよ」
「俺がもっと勉強するから、ね?」
小首傾げて、おねだりするのは、脳が弱った証拠。これ以上、湊を困らせんな。
「僕も社会勉強しないとですから」
「……ごめんなさい」
「え!?、いや、京一さんが謝る必要ないですよ?寧ろ、可愛すぎて、絆されちゃいそうでした」
そうやって照れながらに情けなく笑う顔、「好き」だなあ。その顔するのは、俺の前だけにしてくれない?
「……もう一度、お願いします」
え、なんかめっちゃ照れられてる。可愛い。
「何?もしかして、声、出てた?」
「無自覚ですか、」
目を逸らして、口元に手をやる湊を見て、なんかムカついて、こっち見てを言うように
「湊、好きだよ」
と言った。真ん丸の目をした湊がこちらを見て、顔を赤らめて、幸せそうにわなわなしながら笑ってる。
「僕も、京一さんが好きです」
幼稚園児のような、好きの言葉、何色が好きみたいな、単純な言葉。深い意味はないのに、俺の腹の奥深くが突かれたようにジンとした。
京一さんは自分の写真を見ると絶望すると言っていた。だから、京一さんの目の着くところには、アルバムもカメラも、スマホの待ち受けにだって、置けない。整形したいとも言っていた。自分の全てを殺して、自分というものを見えなくしてから、また生き直したいって。僕は京一さんの顔も過去も現在だって、愛していたいのに、京一さんはそれを拒絶する。
「愛していたいのに、愛してしまうほど苦しめていく」
僕が愛せば愛すほど、京一さんは幸せになってくれると思ってた。けど、僕が京一さんに淡い希望を見せて、それが絶望を呼ぶとも知らず、死ぬだけだった彼を蘇らせて、生き地獄へと誘った。
「何悩んでるの?」
図書室で京一さんの生態について、今後について、愛で方について、ノートにまとめようとして、考えに行き詰まっていると、眼目さんに隣りに座られた。
「眼目さん、愛されるのって窮屈なんですか?」
「え、んー、そうだね。愛については様々な解釈ができるから一概には言えないけど、律儀な人間ほど窮屈なものに感じそうではあるね」
「そうなんですか、僕は愛してていいのかな?」
「京一郎くんを?何があったの?」
「そんな、事件とかは起きてないです。ただ僕は京一さんと赤ちゃんできるレベルのイチャイチャをしたいんですけど、それを京一さんに弄ばれるんですよ」
「赤ちゃんできるレベルのイチャイチャって、言葉選びのセンスが良いね」
なんて朗らかに笑われるけど、笑ってる場合じゃない。って僕、眼目さんに対してキレてんの??
「そんなことはどうでもいいじゃないですか」
「まあ普通に考えて、まだ未成年だもんね。手が出しにくいのも分かってあげてよ」
「大人はデートの三回目なのに、僕には五年後にしろって言うんですか?体格だけでそんな、しかも僕から熱烈アピールしてるのに」
「あはは、そうだね。そうだろうね。だけどさ、湊くんは中学二年生で好奇心旺盛で、対して京一郎くんは大学生でうつ病で、性欲のレベルが違うんじゃないの?」
「ああ、そっか。京一さんは童貞じゃないし、僕のことだって、ただ好きでいるフリしてるだけで、そもそも男が好きじゃないし。なんか、うつ病が治ったら、どっかにふらっと消えちゃうんだろうなあ……」
言葉にできない虚しさがずっと心の中にあって、それを言葉として吐き出してしまうと、ああ、なんだそんなもんかと思うほど、短い台詞になってしまう。
「初めての失恋?」
「ふふ、何でちょっと楽しそうなんですか?」
「恋は人間を変えるからね」
僕は京一さんのおかげで前向きに生きることができている、学校だって、京一さんのために、生活リズムも京一さん中心で、脳内の九割は京一さんで占めている。貴方が僕を励まして、笑わして、好きだと言ってくれるから、貴方は生死の境目を千鳥足で歩いて頑張って生きてるから、僕は一目見た瞬間から貴方のことが好きだ。確かに、生きる意味を得て僕は変わった。
「僕の生きる意味なんですよ。もし失ってしまったら、僕は死にます」
「生きる意味を亡くしても尚、生きている人はごまんといるよ」
「僕に常識は通用しません、絶対に死にます」
「じゃあ、君は京一郎くんと出逢う前に何で死ななかったの?」
死にたがりで生きて、発達障害で生きて、孤児院で生きて、僕は何故、死ななかったのだろう?くだらない日常を生きていて、何故、死ねなかったのだろう。何故、何故か、淡い希望を抱いていたのだろうか。助けてくれ、って。
湊を殴ってしまった蹴ってしまった。理由は湊が俺の言うことを聞かずに攻めてきて、つい恐怖を感じたからだ。
京一さんに殴られてしまった蹴られてしまった。理由は僕が京一さんの言うことを無視して、ついつい欲に呑まれたからだ。
「湊……ごめ……」
謝ること、許しを乞うこと自体、俺には資格がないみたいで、途中で言い淀んでしまった。
京一さんが謝ることを途中でやめた。自分のしたことは悪いことだと思ってる顔のままで。
「京一さん、ごめんなさい」
「やめて、悪いのは俺だから」
「いや、僕が……」
あーあ、どちらが悪いなんて関係ないことで平行線。
「許しを乞うわけじゃないけど、俺に謝らせて欲しい。いや、それさえも傲慢に思えるから、俺はどんな罰を受ければいい?ううん、罰されるのも罪の償い、救済になりそうだから己の罪悪感に従って……」
一生涯、苦しみ続けて死にたいまま生き続けろ。
「単純に、『ごめんなさい』が良いですよ」
必要以上の償いは僕を罪人にさせる。複雑に考えている貴方は、頭が良すぎるので幼稚園からやり直し。
「……ごめんなさい」
これでいいのか?
これがいいんだ。
湊に頭を下げた。
京一さんの頭を撫でた。
「もう良いですよ、気にしないでください」
湊の天使のような優しい微笑み。
「湊ごめん、痛かった、よね?」
京一さんの手が傷を覆うように頬にそっと触れる。自我を生き返した彼の心配が僕の安心感と涙を誘った。
「ふふ、痛いに決まってるじゃないですかあ。でも、もう大丈夫です」
何故か機嫌を良くしたようで、俺が硝子細工に触れるようにその頬に触れた手を重ねて握られる。
「ダメ、病院行こ」
そんな台詞、貴方から聞けると思わなかった。
「何て説明するんですか?」
ドメスティックバイオレンス、虐待、暴力、アル中、ヤニカス、うつ病、薬中……児童虐待が最も避けて通れない重罪。医者に即刻通報される。
「そんなこと気にしてる場合かよ、お前が脳震盪で死ぬよりか幾分とマシだ」
やば、京一さんが格好良すぎて目眩がしてくる。クラっとした拍子に京一さんに抱きついた。
「嫌だ、離れたくない。僕の我儘、一つくらい聞いてくださいよ」
すげー弱った、すげー弱ってる。相反する感情のせめぎ合い。ああ、泣きそう。
「俺だって湊と一緒にいたいよ。ずっとこうしてたい。だからこそ、病院行って調べてもらお?湊死んじゃうかもしんないんだよ?」
「僕はそんな簡単に死にませんって。ふふ、心配のしすぎ」
鈍痛さえも貴方の前では心地良い。大好きが脳内に充満しててCTなんて撮られた日には、愛の言葉がぎっしりと詰まってんだから、恥ずかしいじゃん。
「湊、俺の名前は?分かる?」
「氷野 京一郎さん」
「俺が好きな煙草は?」
「ラッキーストライク」
「好きな酒は?」
「レモン味のストロングゼロ」
ぐう、可愛い。全くもって自分では嗜まないのに、まだ未成年なのに、俺の趣味だからって覚えてんの可愛すぎて、すげー萌える。
「大正解。頭痛は?吐き気はしない?」
「はい、だいぶ痛みも引いてきました。問題ないです」
気持ち的にはもう大丈夫でいたいのに、身体がそれに追いついていないだけで、大した問題ではない。それよりも京一さんが格好良すぎて大問題だ。
「でもとりあえず病院行こっか」
「何でそうなるんですかあ、行かなくたって……」
「これがセカンドインパクトだから、お願い」
虐められたのが一回目、そしてトドメを刺すように、俺が殴ったのが二回目。近くの病院まで湊をおんぶして死に物狂いで走った。
京一さんに背負われてる。振動があまりこないように気を遣われているのもわかった。すごい眠くて寝落ちしてしまいそうで、でも頑張ってくれている京一さんをこの目に焼き付けておきたかった。
「もしもし澪さん、あの、大変申し訳ございません。この度は俺が不甲斐ないばかりに、湊に怪我させてしまって、本当にすみませんでした。謝って済む問題ではないことは、重々承知の上ですが」
「ちょっと京一郎くん?一旦、落ち着いて。何があったの?」
「湊に、暴力を振るいました。本当に、申し訳ございません」
「どうして、そんなことをしたの?」
「それは……」
湊との痴情のもつれで、何て言えねえ。やべえ、謝らないとって強迫観念で電話したから、何も考えてなかった。
「また湊がキスとか何かしら、しつこくせがんだんでしょ?あの子ったら京一郎くんのこと、自分の恋人みたいにずーっと自慢げに話してるんだもの」
「そうですか。湊は、そうですね、俺の恋人です。もう、そうじゃなくなるかもしれませんが……」
湊が俺のことを俺の知らないところで話してるのがこそばゆくもあり、とても嬉しかった。一瞬の温かさを、氷で冷やした。
「何言ってるの?」
「あ、いや、ごめんなさい。……ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい。湊と、ううっ、まだ……」
湊と恋人じゃなくなるかもしれないと言ったのは俺なのに、その言葉がすっごく悔しくて、涙がこぼれるのと同時に謝罪の言葉をこぼした。
「京一郎くん、大丈夫だから、今何処にいるの?」
「病院です、近所にある。名前は──」
「わかったわ。すぐ行くから安心して」




