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IQ149とかただのやらせやろ

どいつもこいつも、俺にとってはお前らの方が精神異常者なんだよ。精神異常って勝手に言われて、カウンセリングを勧められたときも、お前のが異常なんだからお前が受けろやって、俺の大切な時間をそんなもんに割くのか?って、心底分かり合えなくて嫌になった。この社会の常識に俺をあてがうな。


「新作ゲームって何ですか?」


訝しげな表情で高橋が口を開く。


「テトリス」


簡単に答えると


「テトリス?あれの何処が新作なんですか?」


とさらに表情が険しくなって、


「でも、焼き直しすれば新作だろ?」


と笑うと


「はあ?」


もっと眉を顰められる。


「最近の湊は専らテトリス厨でさあ、暇さえあれば、隙間という隙間を埋めていくんだよ。それで、この学校の席が空いていたから、湊に埋められたの」


口からでまかせの、俺的には最もらしい理由をこねた。その様子を見ていた生徒達は俺の攻撃性がないと踏んで、ぞろぞろと教室に入ってくる。顔はすげえ見られるけど。ウザった。

警察のような尋問に飽き飽きしつつも、ここにきてなお醜形恐怖を拗らせてしまい、というかここにいる時点で非常識と思われているのが、肌がジリジリと焼けるように痛くて、冷や汗が止まらない。


「彼女いるの?」


「えー?いるよお、めっちゃ可愛いのが」


「大学は?」


「今日は講義入れてない日なんだよね」


無理無理無理、何で中学生に質問責めされてんの?引き攣った笑顔が筋肉痛を起こしたようにピクピク動いた。


「コスプレとか痛すぎて草」「脳内お花畑だろ」「おっさんハゲ」「変態狂人薬中乙」「誰か不審者通報よろ」「病院と間違えてんじゃね?」「どんな教育されたんだよ」「幼稚園からやり直せ」「さっさと死ねクズ」


きっと、書かれてる書かれてる。俺という存在が炎上してる。そんなことするならそのまま焼き殺せばいいのに、何で殺してくんないの?生半可な気持ちで俺を殺そうとするから、こうしてゾンビのように生きちゃうんだよ。誰も責任を負いたくないから、心だけを殺すんだね。それで十分、人生が狂うというのに。そう、俺は狂人で変態で薬物中毒者です。だから、何?生きている価値がない?ああ、そうですか。


「IQ20も違うと会話が成り立たないからさあ、俺はアンタの言っていることがよくわからない」


俺はあくまでただゲームをしている湊の代理で来ただけだ。いじめの調査でも、いじめっ子を殺すわけでも何でもないと虚勢を張ったら、まったくもって理解を示してくれない。

俺は分かるけどね。君が言いたいのは、折角いじめた湊が傷心して憔悴しきってないのが腹立つってことでしょ?


「へえ、それで君のIQっていくつなの?」


ひっさびさにIQなんて単語を口にしたよ。中学生らしい、そんなくだらないテストで知能指数を測ってひけらかすのは。


「125、平均が100前後だから困るよ」


「わあ、すごいね」


学級委員とその隣りの鈴木に、廊下に渋々連れられて、意味もなく突っ立って話してる。聞かれてまずいことなんて何もないでしょ?


「アンタは80もなさそうだな」


「さあ?もしかしたら160かも」


どうせ誰とも分かり合えない。ここの教師陣も、いじめがありましたって公表されるのは困るけど、いじめを止める術を知らないし、そもそも、いじめられる湊の方が悪いとでも言いたいような言い草に腹が立つ。いじめなんて、加害者側の強い劣等感から引き起こった精神異常だよ。正義なんか気取りやがって、お前の正義なんか武力行使の名分だ。湊はただの適応障害?愛着、発達障害?よく分からないけど、それで集団生活ができないからって、クラスからハブられるのはまあ分かるけど、人格否定はさすがにやりすぎだ。あいつの死にたみに巻き込まれてみろ。こっちが死ぬぞ。それに現にこれも社会勉強の一環だし、同じクラスにしたからには、お互いに傷付けない範囲で集団生活に適応していくよう教育していかなければならない。それを見て見ぬふりをしている教師がいったい教科書以上に何を教えることができるんだろうか。こんな御託を並べたところで理解されないだろうから言っておくが、俺はいじめの加害者って奴が心底好きだ。


「京一郎くん、僕にそれを言うためだけにここまで来たのかい?」


「眼目?だったっけ、名前」


「眼目さん、な?」


普通に授業を受けようとしたら、教科担当がキョドって、クラスの爆笑の渦に巻き込まれて、とりあえず、校長に会いに行け、なんて言われて、不毛で理不尽な会話に苛立ちを覚えて、帰りしな、眼目にその愚痴をぶつけたのだ。


「慣れないことして、頭痛えし、もう普通に帰りてえよ。湊に会いたい」


「それで、京一郎くんのIQはどのくらい?」


「はあ?」


突っかかったのがそこなのが何ともムカついたが、もうだいたいずっとキレてるが、頭のキレは悪くて、切って欲しいほどガンガン痛い。IQテストの本があるからやってみたら?と勧められて、あの攻撃的な無邪気さを持つ子供の群れのところに帰るよりはマシか、と思って時間潰しにやってみた。ら、まじか、IQ149って、ふふっ、この本が馬鹿なのか?それとも、お世辞という概念を持ったのか?俺にそんな数値を付けてくれたのだが、でも現実問題として、大してこんなもの役に立たないだろうと高をくくってしまう。俺が優れていると認めたくないばっかりに。だって、俺が優れてるんなら、こんな人生がつらくなってんの馬鹿みたいじゃん。優れてるなら優れてるなりにやりようを見つけられるだろ?だから、俺は大して優れていなくて、それにその中途半端な能力も中途半端にしか生かしきれていない。というか、真面目に生きようとしてないから生きてないのかもな。高IQは生きにくい、なんて聞くが、高IQならば相手のIQのレベルに合わせて会話を噛み砕き、返答することが可能なんじゃないか?それをやらないで生きにくいと嘆くことは、たぶん単に努力不足だし、俺らが言う生きにくいとは、たぶんニュアンス間違いだし、それよりもか、高IQだから、という優越感に浸りたいというような性格の悪さすら伺えてしまう。まあ、すべてが退屈だろうが、マウンティングゲームなんてしてる暇あったら、山にでも登っとけ。


「君、すごいね。天才だよ」


と嘲笑いながら、煽られる。


「何かの間違いです。だって二回目はIQ78でした」


「わざと間違えてる結果を伝えられてもね」


くだらねえ、くだらねえ。こんなのただの美的センスと数学の問題だろ。これがコミュニケーションにどう影響してるんだよ。コミュニケーションで言うんなら、日曜午後のあの番組の座布団のように計測して欲しいものだね。



誰も俺に話しかけてくれないから、自分から話しかけやすそうな人、人畜無害そうな人に声をかけた。


「絵、うまいね、すごい」


「そんなこと、ない、です」


と描いていた絵を腕で隠されてしまう。俺は絵なんてあんま描いたことないけど、将来はこれで飯食う奴もいるんだなと思えば、やっておけばよかった、なんて、初心者まがいの感想を抱いた。俺の母親は、俺がお笑い芸人になるとか、漫画家になるとか、そうゆう所謂、運とタイミングと技術力が伴う一握りの仕事をしたいと言ったときは決まって、「馬鹿なことを言わないで」と反対された。中学生の時から、将来の夢はそこそこの幸せを掴むこと、になってたのはそのせいだ。最も頭にきたのは、初めて完成させたギャグ漫画を見せたとき、「こんなの書いてて勉強は大丈夫なの?」と感想も何もなく、ただ勉強だけを心配されたことだ。今でも覚えてる。夢のまた夢みたいな将来の夢をしつこく言うと、アンタはつまんないし、下手だし、絶対になれない、と強く烙印を押される。だから、あの人の前では、自分の趣味も何も見せられないし、とゆーか、見失ったし、勉強しないといけないって漠然とずっと駆り立てられてて、焦りまくって、精神が狂った。それで今はそこそこの幸せすら掴み損ねたよ。


「将来は、漫画家とかイラストレーターとかになるの?」


「美術系には進みたいです、けど」


「自分の好きは大切にした方がいいよ。誰に何と言われようと、やりたいようにやればいい。人生は一度きりだし、その方が時間の無駄がないとゆーか、好きな時間が増えるでしょ?たぶん後悔しないで済むよ。俺は薬中だけど、後悔は全然、ほっとんどしてない。たぶん、俺が決めたことだからなんだろうね」


何でやっちゃったんだろう、というのはまあ、よく考えるけど、考えてもどうしようもないし、現状は変わらないし、その時は楽しかったんだからそれで良いし、今がつらいのはたぶん薬のせいだとは思うけど、俺がいけないんだし、俺が悪いんだし、全部が俺のせいだから、俺がつらいのはしょうがないよね。って謎に割り切れるから、これがたぶん誰かに吸わされたとか打たれたとかだったら、そいつへの恨みでグチグチとずっと考えるんだろうし、ずっとそいつに対して死ねって思い続けないといけないんだろうし、そいつを殺すかもしんないし、だから、俺のせいで俺が苦しいのは案外、俺にとってはだけど、耐えられる事象なんだと思う。貴方がどうかは別として。


「ヤク、チュウ???」


と口の横に手を軽く当てて小声で囁く。周囲に読唇術ができるやつはいないとは思うが、その配慮に感心した。俺も小声で言ったしね。


「俺の出身中学校、ってことにしといて」


笑いながら冗談で返す。


「え、え?、と、いうことは?まじ?まじもんの?嘘、やばい」


と予想外がすぎて口角が上がった口を両手で覆う。こんな人間、子供には刺激的すぎてテンション上がったの?


「さほど珍しくもないでしょ。見た目もこんなんだしさあ、説得力あんじゃん?」


痩せこけて骨の筋がはっきりと見える、手を机の上の俯き加減の彼女にもよく見えるように見せて、気持ち悪ぃと自分でも思った。骸骨と言うよりも、死骸が動いているというのが正確な俺の印象。


「それを、何で俺なんかに、初対面で、弱みを晒すようなこと」


その死骸の手に触れようとして、引っ込めた人間の手を持つ彼女は、かなり戸惑っている。この死骸をどう処理しようか?なんて


「何でだろう?他人に嫌がらせしてやろう、なんて魂胆が君にはなさそうだからかな?純粋、っぽい?」


「いやいやいや、腐っているんです俺は。申し訳ないくらいに腐ってて、めう」


と顔すらも隠された。


「腐ってんじゃあ、俺と似てんじゃん」


「いいいいや、そんな、そんな次元じゃないんですよ」


首を横に振られて、全力で否定される。


「それなら、どんな次元なの?」


と切り込んだ。気をつけて発言しようと、考え込んで、文章を脳内で構成して推敲して


「世間一般受けが嫌いなんです」


と細々と言われた。


「やっぱ同次元だよ、俺が君との共通点を見出したいだけかもだけど」


「蛙の子は蛙みたいに、青柳くんの兄も青柳くんだ」


呟くように、でも俺に聞こえるように、言った。


「湊とは、仲良いの?」


「あ、いや、転校初日に絡まれて、カートに乗せられて、突っ走ったのみです、はい」


「ああ、君があ、例の転校生。小倉トーストだったでしょ?咥えてたの、湊が」


頭の中の回路が繋がったように、そのときの湊との記憶が蘇ってくる。


「そう、ですね、よく覚えてますね、そんなこと。……マーマレード」


最後のマーマレードはよくわかんなかったが、マンマミーアの親戚だろうとは思った。


「湊がさあ、めっちゃ可愛く報告してきて、本っ当にそうゆうのって、記憶に色鮮やかに残るよなあ」


脳内で湊と出会って会話して、気持ちが昂って、惚気けるように、ニヤつきが止まらなくなりながら話した。


「兄弟愛、素晴らしいです」


冷静に分析結果のようなものを返された。唇を噛まれる。


「それが違うんだよね。湊とは血ぃ繋がってないしぃ、抱いた子だから」


「だ、抱いた!?どっちが???いやいやいやいや、待ってくだされ、お兄様のが、体格差的に、いやでも、ショタ攻め?という可能性も、あああああ、……とにかく、ごめんなさいいいい」


机に額をぶつけて、土下座の勢いで頭を下げられた。けど、さっきまで楽しく会話をしていたのにも関わらず、こんなことを突然やられた方はあまり気分がいいものでもなくて、ただ勝手に俺の気分を害したと思われている故の土下座に、俺の気分が害されていることに気づいた方がいいと思った。


「何で謝ってんの?俺が仕掛けた罠にまんまと引っかかっちゃったから?君の秘密にしたいことを簡単に暴いちゃったから?……楽しめなかった?」


張合いがないとか、あっち向いてホイに一回目で負けたみたいな?不甲斐なさとか?そうゆうのが彼女を謝らせているなんて傍から違うとわかっていて、でも敢えてわかっていない奴を演じることによって、彼女が由々しき発言だと思い込んでいるそれの由々しさは程度の低いものだと伝えたかった。そもそも君の脳内や趣味を規制しようなんて傲慢じゃん。それにはっきりとした伏線とも言えぬ線を張ったのは紛いもない俺なんだから、足に引っかかって君が転けても、俺は笑うだけだよ。


「いや、そういう事じゃなくて、あの、さっきのは、ほんと、忘れてください、お願いです」


と手を合わせられての懇願。


「嫌だ、これでお互いの秘密を共有したから俺が安心して過ごせるよ」


一刀両断、からの嘲笑。


「ああああ、完璧に攻め」


そうやって悶える姿は、滑稽で愛らしくて笑えてしまう。



はあ?完璧に地獄だ、地獄だな、ここは。


「普通に考えて、こんなに飯が食えっかよ」


給食制度なんて拷問の他の何でもない。さらに、給食を減らすのも禁止、残すのも禁止、食べ終わるまで給食タイムが永久に終わらない。はああああ?バカじゃん、アホじゃん、理不尽じゃん、何考えてんの?頭使ってますかあ?お前らの胃は胃潰瘍で溶けまくって、容量バグってんですかあ?それとも溶けてんのは俺の方で、食べ物を受け付けなくなってんのか、ああ、そうか、そうだろうな、食えねえよ。いいこと思いついた、カショオがバレなきゃ良いんじゃね?


「普通は食えますよ」


悪態をつく俺を嘲笑うかのように、高橋が突っかかってきては笑ってる。


「へえ、じゃあとってもとっても優しい俺がお前に飯を恵んでやろうか?」


「は?まじいらないんだけど」


とお椀を突き返される。しゃーねえなあ、腹くくるしかねえな。黙々と口から喉の奥、胃の底まで詰め込んで、あっという間に食い切った。詰め放題かよ。吐きてえ吐きてえ吐きてえ吐きてえ、胃ん中が気持ち悪ぃんだよ。死にてえ死にてえ死にてえ死にてえ、食っちまった罪悪感で悶え苦しんでいる。こんなに気分悪くなるんだから、こうなることはわかってんだから、始めっから食わなきゃいいのに、京一郎はやっぱり馬鹿だね。滑稽でみんなの笑い者。ほんの一瞬、この恐怖を忘れたように食べ進めるんだから。三歩歩いたら記憶を飛ばす鶏か汚職政治家のようだよ。笑っちまうなあ、盛大に笑い飛ばして狂っちまえ。あははっ、湊、怖いよお、なんて気持ち悪くぶりっ子でもして、湊くんに甘えてみたら?嫌われて捨てられてお前は結局終わりなんだよ。さっさと終わればいいのに。あああああああ、脳内に響く、その声が嫌いなんだよ。今すぐに抱きしめて、俺の事を好きだと言って欲しい。俺が存在している意味を再確認させて欲しい。必要として欲しい。ドロッドロに愛して、この煩わしい幻聴をかき消して欲しい。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い、俺って全くもって気持ち悪い!!!けど愛して、愛して愛して愛して、俺のこの胸の痛みに触れるように撫でてくれ。お前しか俺をうまくは愛せないんだから。


何コールもかけた電話。ひとつも通じやしないで、「ああ、死んだ」って、くたばった。



京一さんがいなくなった部屋で一人寂しく、何をすることもなく、ただ息だけはして生きてはいた。


「湊、ちょっと外に出てみない?仕事仲間に映画のチケットを頂いたのよ」


とドアの向こうからママが僕のことを呼んでいる。特に断る理由もなかったので、うん、と返事をして、車に乗せられて、映画館まで連れてこられた。平日の昼間だからか、人は少なかった。ポップコーン片手に、映画を満喫する気満々だ。ママは僕に独り占めしないの、とちょっと叱ったけど、ママはそんなに食べないから、自ずと独り占めみたいになってしまっているだけだと思った。

邦画は久びさに見る気がする。いつも洋画ばかり見ていたから、感覚が狂う感じがした。同じ恋愛映画でも、洋画は展開が秒速なのに対して、邦画はその付き合うまでの過程を描けるのが凄いところだ。だから、洋画は恋愛単体で映画をあまり作らないというか、恋愛映画でも一捻り設定が加わっているのに対して、邦画はリアルさを追求しているような間や、すれ違い、葛藤を描いている、その空気感を感じとれるのも、奥ゆかしい日本人らしいというか、僕からすると焦れったくてしょうがない。冗談のひとつでも言って、さっさとキスしちゃえばいいのに。歯痒くてポップコーンを詰め込んだ。

余命宣告された女の子が男の子と恋をして、「生きたい」と嘆くシーン。ああ、どうしたらこうなるんだろう。僕はこれよりももっともっともっともっと、京一さんに愛情を注いでいるのに、こんな「生きたい」だなんて言葉、あの人の口から聞いたことがない。そう思うと悔しくて悔しくて、涙が出てきた。僕も「生きたい」って泣きたい。もっともっと、生きていたいと言える人生を生きてみたかった。妬みや劣等感から、泣いて顔がぐちゃぐちゃになった女優さんよりも醜く泣いた。


「湊が映画で泣くなんてね」


「何か、悔しくて」


というと、ママは女の子が死んじゃうのが?と聞いてくるから、不思議だと思った。映画っていうのは、感情への刺激なんだろう。エンタメ全部そうだろう。僕は共感じゃなくて、劣等感から泣いた。共感して泣くなんて、ありえない。作り物の嘘に共感なんてできやしない。僕は僕のことで泣く。僕が悔しくて、悲しくて、苦しくて、泣いちゃうんだ。映画の出来事が僕の記憶や思考を刺激して、それでトラウマを刺激されたときに、フラッシュバックみたいに映画の内容うんぬんじゃなくて、自分のつらい記憶で泣くんだ。だから、泣ける映画泣ける映画って謳い文句は、みんなのトラウマを刺激するような映画に付けられるべきだと思う。お涙頂戴の死ネタに付けられるべきじゃない。

映画館を出て、携帯を復帰させると、うわっ、京一さんから鬼電……やっば


「もしもし?もしもし?」


と慌てて折り返しても、電話に出ることができません、という謎の女の人の声が聞こえる。女の人が京一さんの代わりに僕の電話に出てるじゃん。だから、ただいま電話に出ることができませんじゃなくて、ただいま電話の持ち主は電話に出ることができません、にしないと笑っちゃうじゃん。というか、笑ってる場合じゃないんだよ。はやくはやくはやくはやく京一さんのところに行かないと。

ママを急かして、僕を家まで送ってもらう。京一さん、何があったんだろう?そもそも、何で本当に僕の学校なんかに行ったんだろう?何かあったとしたら僕の学校で、嫌気がさす、僕が何も言わずに、大人しく、素直に学校に通っていたら、こんなことにはならなかった。僕の代わりに京一さんが行くことはなかった。というか、行く必要ないって。義務教育って何なんだよ。ふざけんな、義務教育させようとするなら、僕のような生きづらい者にも手厚くサポートできる制度を整備してから求めろって。社会全体で僕らをハブんなよ。学校に行けない者は社会には入れない、なんてふざけてる。向き不向きがあるじゃないか。というか、僕に向いてることなんてある?全部ぜんぶ不器用で苦手で上手くできなくて、泣いて泣いてばっかで、僕には何もない、強い劣等感とこの身体以外は。何もないじゃん、何で何もないんだよ。僕だって僕だって何か上手くなりたいんだ。勉強とか仕事とかして上手に世渡りして、幸せな人生を歩みたいんだ。けど、死ぬだけしか他に道がないんだよ。社会との関わりがからっきしなんだよ。不登校でも、学歴なくても、生きていけるなんて、大嘘だ。そんな戯言抜かした奴ら全員、僕を採用してみろって。すぐにクビにするとまでは行かなくとも、愚痴りはするだろう?社不か鬱か精神異常か障害者、どれもこれも僕を的確に示す言葉ばっかで、そう言われても文句は言えないけど、ずっと社内でも何処でも嫌われるんだな。ゴミと同然に扱われるんだな。じゃあ、こんなつらい人生は一刻も早く終わらせた方がいいって言ってんの、筋通ってるだろ?だからだから、彼も死にたいんだ。ああ、ごめんなさい。僕だけじゃあ無力でやりようがなくて、貴方を苦しめて殺すような社会をどうしようもできないです。ごめんなさい、僕が貴方に生きて欲しいのは、貴方がいると僕が安心するからです。求めて求められて、お互いに慰め合い傷の舐め合いをしながら、存在を確かめ合って、かろうじて生きているから、貴方がいなくなったら僕は何を支えに生きていけばいいんですか?怖いよ怖い、貴方が僕の目を塞いでくれないと、僕はこの狂った世界で狂死してしまう。貴方が僕の存在理由で存在要因なんだ。


学校に入り込んで、教室のドアを勢いよく開ける。黒塗りの机の席には誰も座っていない。


「京一さん、何処?」


「青柳くん、制服はどうしたんですか?」


状況がまったくわかってない教師が僕をただの六限に遅刻した生徒だとばかり思っている。制服は京一さんが召しているんだよ。


「そんなことより、京一さん知らない?知らない?知らないの?」


とキョロキョロしながらみんなに聞いていくけど、全然答えてくれない。


「あのキチガイ兄貴?帰ったんじゃね?」


京一さんを笑いものにした、発言が聞こえて、名前すらも、どうでもいい奴の机を蹴り飛ばして、横から蹴ったから倒れはしなかったけど、そいつの脚を痛めつけることはできた。だから、何度も何度も蹴り続けた。立ち上がってくれたら、胴がガラ空きなのでそこに蹴りを入れる。京一さんの代わりに。


「ざけんな、てめえ」


どうでもいいどうでもいいお前の怒り痛み名前、全てどうでもいいんだよ。むしゃくしゃして蹴ってみたけど、こんなゴミを蹴っても何にもならないなあ。


「ちょっと青柳くん、やめなさい!!!」


「はい先生、やめました、さようなら」


スリッパが脱げたのも気にもとめずに走った。京一さんが校内でいる可能性があるところと言えば、図書室か?


「眼目さん、京一さんは?見た?」


「3限あたりで会ったけど、そっからは知らないよ」


「ありがとうございましたあ」


と一瞬で過ぎ去って、でなければ、トイレか?と男子トイレの個室、鍵のかかっているドアの下の隙間から京一さんらしき人の脚が見えた。ドンドンドンドンドンと叩きまくって、


「京一さん、湊です、開けてください」


と何回も言った。でも応答がないから、このドアを壊してしまおうかなんて考えて、蹴ってみたけれども、やっぱり壊れなかった。


「京一さん、寝てるんですか?起きてください」


応答なし。ドアに向かって独り言を呟いてんのもだんだん飽きてきて、京一さんに会いたいのにこんな板一枚隔てられただけで、会えなくなっているのに腹が立ってきて、手も小指が機能しない程度には痛いし、もうかなり限界がきている。


「氷野 京一郎っ!!!死んでたら絶対に許さないからなあ!!!生きてんならさっさとこの、クソみたいなドアを開けてくださいよお!!!湊が貴方に会いに来たんですう!!!なのに何でこんな隔たりがあるんですかあ!!!こんなにも愛してんのに!!!クソッ!!!」

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