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クズ人間が生きづらい人間社会クソ

みんなの話に愛想笑い。たまに一人で大笑いしては、場がシラケます。僕の面白い話はみんなを不愉快にさせるみたいで、僕一人で笑ってます。不謹慎だって、無配慮だって、陰口を言われます。だから、普通に思ったことは話せません。だれかを無意識に傷つけてしまうからです。コミュニケーションは最低限しか取れません。「はい」か「そうですね」と言うだけです。僕の感情なんてありません。言われたことをただやるだけです。クズ人間にも単純作業ならできます。シール貼りなら永遠にできそうです。将来はロボットに取られる職業でしょうね。生活が豊かになるどころか、生活できなくなっていきます。何故でしょうか?自然淘汰でしょうね。人間と目を合わせる技術が付いていなくて、先生に怒られました。その目が怖いから見るのを避けてるのに、余計に睨まれました。動物の本能的に目を合わせるのは、威嚇じゃないですか?僕だけそう思うのならば、ごめんなさい。でも、不快感を与えたいんじゃなくて、ずっと見られていて、何か話さないといけない状況が怖いんです。僕は感情に囚われると、話すことはできます。でも、絶対にクズ人間になるんです。相手をさらに怒らせるんです。だからって、黙っていても怒られるんです。僕は何をすれば良いんですか?正解が分かりません。言葉だけのごめんなさいなら覚えました。言っている途中で笑ってしまって、怒られました。僕は怒られると笑ってしまうようです。反省はしています。死にたいと思うくらいには自分を責めています。でも、それが相手には伝わらないみたいです。

だから、もう全部ぜーんぶ嫌になってしまいます。「死にたい」とばかり言う狂言者とも、甘ったれとも言われて、「はい、そうですね」って笑うのが、何だかとっても泣けてきます。

京一さんに薬物を禁止させといて、僕はリスカをしています。理由は、死にたいからではなく、頭の中をふわふわさせたかったからです。所詮、クズ人間です。カッターで切ったところから血が丸くなって出てきて、より集まって流れていく。それが何とも可愛いです。傷口を光に照らしてみると、血液とよくわからない分泌液で艶めいていて笑えました。涙の代わりに血液を流すので、そのときは取り憑かれたように楽しいです。事後は、多幸感で満たされて頭が働かないので、ひたすら寝ます。現実逃避していることを忘れるくらいに、ここが現実世界なのかも曖昧です。そうしていると、京一さんが僕の腕に消毒液をかけて、たくさん絆創膏を貼ってくれます。僕の異変に気づいて、優しくしてくれます。僕は心配してくれることを嬉しくも思いながら、こんな僕を疎ましく思っているんじゃないかと、不安になってしまいます。そう疑う自分が嫌いです。リスカの数時間後、現実が押し寄せてきたときに涙が止まらなくなります。悪いことだと思いながらやってしまっていることを、このときになって気づきます。人生は矛盾ばっかです。何をするにも、ぎこちなくて、うまくできなくて、人間の欠陥品だと、後ろ指さされて、軽蔑されて、思い知らされる人生は、もう十分すぎるくらい経験したのに、まだ人生の半分も終わっていないなんて、壁に頭を打ち付けたくもなります。腕を切りたくもなります。薬物乱用したくもなります。この社会は、たぶん懲罰房なんでしょうね。生きているだけで罪になり、生きている間は罰を受け続ける。神様、僕の人生は懲役何年ですか?死刑にしてはダメですか?


「京一さん、僕の人生で最大の幸福は貴方と出会えたことですよ」


京一さんに後ろから包まれるように抱かれて、二人でソファに座っている。僕の好きな洋画をダラダラと見ながら、僕はぼーっとしてしまって、実はその内容が全然入ってこない。今日の僕は集中力がほとんどないので、京一さんの映画鑑賞を邪魔する方が楽しい。でも、京一さんもこういう日は僕に甘々に接してくれるので、僕の我儘をすんなりと受け入れてくれる。僕はその心配に及ばないほど、実際はかなり元気なのに、リスカしたおかげで得をしている気分だ。すべて自分が原因で自分のケジメでやったことなのに、京一さんは過度に意味合いを持たせているみたいだ。


「俺も幸せ、温かい」


湯たんぽ代わりに僕に抱きついている、彼は僕よりもさらに目が死んでいる。心配が必要なのは僕よりも彼の方だ。ご飯を食べなければ動けないのに、食べたら食べたでイライラしてるし、知らない人ともすぐ仲良くできるほどコミュニケーション能力が高いけど、嫌いなタイプの人と出会うと、英語でアレをナニする奴とか下品な悪口を言うし、すぐに物に当たる、特にスマホを壊そうとするし、人が嫌がること大好きだし、勉強は気が向いたときにやるぐらいで、大学は学費詐欺グループとか言ってるし、不眠症も拗らせてて、睡眠薬でオーバードーズしようとするし、突然、泣き出すし、怒り出すし、蹴ってくるし、あとは死ぬだけの人生と悲しく笑う。そんな彼がめちゃくちゃに好きだ。だけど、ふわふわした頭の中は飽和状態で、貴方のことさえも拒んでしまいそうになる。キスは嬉しいけど、何だかずっと疲れてて、感情が乗らない。心を失いかけているようだ。


「んー、もう十分です」


「えー、俺のこと嫌い?」


笑いながら可愛くそんなことを聞いてくる。


「そんなわけない、大好きです。けど、体力が持ちそうになくて」


体力というより、精神力のが正しい気がする。言葉を発するのでさえも、考えるのも、めんどくさい。


「じゃあ、寝てればいいよ。俺は満足するまでお前で遊ぶけど、気にしないで」


彼は僕をソファに押し倒して、その上に覆いかぶさり、楽しそうな顔をする。


「何ですかそれ」


僕はふわふわの中で嬉しくなって、普通に笑った。


「言うなれば、お人形さん遊び?」


と言って、僕のことを湊ではなく、お人形さんと呼ぶ。お人形さん、可愛いね。と彼はお人形さん相手だと、かなり溺愛モードに入って、何回もキスをする。お人形さんを溺愛する自分に酔っているみたいだ。僕が何か言うと、お人形さんは喋らないの、と可愛く子供みたいに指摘して、口にチャックをされた。だが、微笑むのは許される。


「お人形さん、こんな俺を許してね」


そう言って、僕の服を脱がしてきた。人形の服を脱がしたがる子供と同じのようだ。上裸になった僕を何故か微笑んで観察して、特に何もすることなく放置された。彼はずっとソファの前で、僕を見ながら座っている。


「俺がセックスできれば変わるのかな」


相談するように呟かれても、僕はお人形さんだから、何も答えることができない。


「怖いんだよね、愛してるのに。それができないと愛してないみたいで。だから、確認するのも怖くて逃げてんの」


何故か僕の右乳首を弄りながら、彼は決まりが悪そうに笑う。僕は声を出さないように指を唇で挟んだ。その状況を面白がって、味をしめたように彼が「気持ちいい?」と聞いてくる。僕は頭が真っ白のまま、愉悦に浸る。正直、気持ちよくて困っている。このカオスな究極状態が、僕の失いかけた心に火をつけたみたいだ。興奮する、何も言えない。


「お人形さん、可愛いね。傷跡もすっごく可愛い。だけどだけど、リスカって快楽物質を得たいからじゃん?たまーに、俺がその代わりになれればなあ、なんて」


僕の手のひらを掴みながら、傷跡を凝視される。ソファに横たわる僕から、その顔がよく見える。考えても考えてもどうしようもならないって顔。


「京一さん」


お人形さんをやめて、クズ人間の湊が復活した。ソファから降りて、京一さんの頭を抱きよせる。僕の肩に京一さんの頭が乗る。


「どうしたの、湊ぉ」


と溺愛モードもお悩みモードも終わり、いつもの京一さんに戻った。


「僕は幸せすぎると不安になります。痛いくらいが安心します。性的快感なんてご褒美でしかないです。だから、貴方は僕のことなんかお構いなしに、生きてくださいよ」


「嫌だね、俺は湊の傷を癒すために生きてるの。いつか俺の隣りが安心するって抱きしめて欲しいの。一人じゃないの、一人にしないで、最期は二人で死にたいの」


甘えたようにそう言ってくる彼がとっても可愛くて、でもちょっぴり悲しかった。


「そんなの、幸せすぎるじゃないですか」


幸せってのは、悲しさの裏返しで、トランプに描かれた陽気なジョーカーみたいだ。トランプの中で唯一、あいつは笑ってる。ババ抜きでは嫌われ者なことを誇って、僕達を嘲るんだから。


「俺は気持ち良ければ良いほど良いの。満腹でもつめこむのが好きなの」


「知ってますよ」


ストレスの対処法として、僕はリスカ、京一さんはシャブと過食嘔吐、最適解だと思う。性格的に。だから、この依存性を変えるには、性格を変えないといけない。けれども、性格を変えたところで、それを僕と言えるのかは不透明で、そんな僕を彼が愛してくれるのかも不明だ。変化を恐れて、このままの安心を望んでいる。しかし突然、何処かに行ってしまいたくもなる。それは何故だろう。



昨日は学校を休みました。理由は、疲れが酷かったからです。けれども、今日は学校へ行くぐらいの体力はあります。京一さんには、今日も休めば?と促されたが、固い意思を持って、断った。薬物乱用防止教室で習ったアレみたいだと思いました。だけど、京一さんは悪くありません。リスカした僕を気遣ってくれているのです。ただ僕は自分のエゴで、今日は学校へ行きます。

今日も上履きは行方不明です。もはや捜査すらしていません。冬の体育は、マラソンです。切られていない体育服とジャージを着て外に出ると、寒くて身が縮みました。けれど、僕の嫌いな体育教師は、今日も僕を怒鳴りました。僕がジャージを着ているのが気に食わないみたいです。どっちが頭おかしいのかは分からないけど、僕はこの寒さで半袖短パンを強要するのは、頭がおかしいと思いました。それに、僕にはジャージを脱げない確固たる理由があります。あの傷跡はみんなを不快にするからです。それなら、この教師にちょっとばかし怒鳴られた方が遥かにマシです。


「何で女子はジャージを脱がなくていいのに、男子は脱がないといけないんですか?不公平じゃないですか?」


「水泳のときもそうだが、青柳、お前は女子なのか?何故、脱げない?ブラジャーでもしてんのかよ」


と授業中にみんなの前で、馬鹿にしてきて、僕にあってないような自尊心を粉砕してくる。人格否定が得意な教師、苦笑するくらいには面白い。水泳のときも、長袖のパーカーみたいなものを着ていたら怒られた。この発言らは、セクハラで後々に訴えたい。それに、僕を笑いのネタとして扱っているのが、普通にムカつく。僕はいじめてもいい人間と、教師が生徒に教えている感じがとても胸糞悪くなるんだ。


「してないですけど、僕が女子だと認めれば、この話は済みますか?ジャージを着ていても、許されるんですか?」


「お前は男だろ、ジャージくらい脱げ」


「Cocksucker!」


誇らしげに中指を立ててから、校内に逃げ込んだ。あいつとは、永遠に分かり合えないと悟ったからだ。

京一さん、貴方のせいです。僕の口が悪くなりました。けど、笑いが止まらないのは何故でしょうか?僕がクソ野郎だからでしょうね。


「眼目さん、何であいつは教師をやれてるんでしょうか?」


体育の時間が暇になったので、友達で教師の眼目さんにさっきの話をしてみた。眼目さんはただ笑うだけで、明確な答えはくれなかった。


「現実を見たら負けだよ」


とは助言をくれた。何だかどうでも良くなった。京一さんにもその話をしたら、最高だと笑って褒めてくれた。類は友を呼ぶ。

授業が終わると、真城さんに話しかけられた。中指を立てたとか、青柳は女だとか、気持ち悪いとか、様々に言われてる中で、話しかけてきたのだ。


「青柳くん、先生がめっちゃ怒ってたよ?」


「どーでもいいよ、意味わかんないし」


「そっか、でも私もあの先生の態度はムカついた。だって青柳くん、本当は女の子かもしれないじゃない?」


と楽しそうに自分の考えを話してる。この人の頭の中は、いつも楽しそうだ。


「僕は、男だけど、何で?」


よく分からなくて、聞き返した。


「いや、心が女の子とかあるでしょ?そうやって、見た目で決めつけるの良くないと思うんだよね」


「ああ、確かに。……そうゆう問題?」


「え、そうじゃない?」


「何か、不公平で理不尽な問題だと思ってた」


「あー、それもあるね」


と彼女は僕の意見はサラッと受け流した。僕の心は乙女、言われてみれば、そうかもしれない。


「でも、どうしてジャージを脱げないの?」


「恥ずかしいじゃん」


「えー、何処が?」


「だって、人間がパンツを履くのは陰部を隠すためでしょ?それと同じ」


「ふふっ、変なの。だって、ジャージはみんな脱いでるじゃない?それはどう思うの?」


「それは別に何とも、普通じゃない?」


「へえ。じゃあ、自分だけは嫌なんだ」


「そう、僕がセックスしたい人にしか見せたくないね」


京一さんを思いながら得意げに言った。あの人は僕の傷跡を見て、気持ち悪いとか汚いとか言わないから。


「うわ、きっしょ!お前、女子に何言ってんの?」


とクラスメイトの男子から囃される。名前も知らない仲なのに、肩を組まれて笑われた。そして、ちょっとこっち来いよ、と誘われて、男子トイレまで来てしまった。


「湊ちゃん、あのさ、ちんこ付いてんの?」


とワクワクしながら、触ってこようとするから、手を掴んで阻止した。


「はあ?」


「いやさ、お前って女子みたい綺麗な顔してんじゃん?だから、おっぱいが無いだけで、女の子なんじゃないかなって、さっき思ってさ」


「男だって」


「だから、確認のために触らせてくんない?」


「えー、なんかやだ」


「じゃあじゃあ、見せるだけっ!」


としつこく言うから、ズボンのゴムを伸ばして、パンツを見せた。おお、という謎の反応をされ、ありがと、と機嫌よく教室に戻ってった。


「……何あれ?誰?」


教室内を見てみると、さっきのあいつが高橋と話してた。名前は鈴木というらしい。またもや印象が薄い。



湊から体育教師と揉めた話をされて、何だか自分の中学時代を思い出していた。あの頃は自分のことを特別だと思っていたし、頭良かったし、将来は平均年収以上は稼げると信じていた。それで、可愛い奥さんと幸せな家庭を築いて、毎日そこそこの楽しい生活を送れると思っていた。その理想がこうも叶わなくなると、笑えてくる。

持久走か、と頬が緩んだ。部活が陸上部で長距離選手であったこともあり、学校の周りをぐるぐると走っていたことを懐かしんだ。ペースメーカーで、腕時計を見ながら走ったりして、みんなであと1周、とか言いながら、楽しかったわ。1キロ、3分10秒とかで走ってたっけ。マネージャーの子が1キロのところで秒数を数えてたなあ。走り終わって、自己ベスト更新したときは、一緒にすげえ喜んでくれてた。走り終わって、そのまま地面に倒れ込んだときは、タオルかけてくれて、介抱したりもしてくれた。夏休みの練習後は、みんなでアイス食ったり、大会のあとは打ち上げとかして。まじであの時が一番、人生がめっちゃうまくいってたと思う。

そんなことを思って、久しぶりに走ってみたくなった。最近は湊に食べさせられて、体重も増えたし、散歩もしてるから、体力はある程度はついた。だから、1キロくらいは走れるんじゃないかとタカをくくっていたら、死ぬほどつらかった。10分くらいかかったんじゃないか?息が苦しくて、口の中で血の味がした。足があの時のように前に出なかった。リズムよく淡々と走っていたときが懐かしい。風になったみたいに軽やかで、何も考えないで走ってた。それと比べると今はゾンビだ。頭の中がつらいと苦しいと痛いでいっぱいになった。走るのが嫌いになりそうだ。だけど、1キロを走り終わった瞬間、最後まで走り切った、この時が今も昔も、最っ高に気持ちいい。身体の内側から何かが湧き出るように、とても満たされてる。


「ただいまです」


と帰ってきた湊の驚く声が聞こえる。そりゃそうだ。玄関を開けたら、俺が倒れてるんだから。家に何とか帰って、その疲れからそのまま靴を履いたまま、玄関で寝っ転がったのだ。俺は動くこともできない。


「湊、おかえり」


と掠れた声で言えたと思えば、ゴホッゴホッと酷い咳が出た。あー、死にそう。


「ああっ、今すぐ救急車を」


「大袈裟」


鞄を探る湊の手を掴んで、やめてと言わんばかりに目で訴えた。本当は、それなりに元気にはなっているが、動くのがめんどくさいだけなのだ。あとは、心配して欲しかったのかも。そんなことで救急車を呼ばれたら、救急隊の人もたまったもんじゃない。

湊に経緯を説明すると、危ないことしないでくださいと怒られた。でも、俺が健康への小さな歩みを進めたのが嬉しいようで、今度は一緒に走りましょうと笑ってくれた。


「湊は部活やんないの?」


お風呂も入って、一段落したところで、湊とのイチャイチャタイムが始まる。晩御飯を仲良く食べながら。今日は気分がいいし、カロリー消費してるし、箸が進みそうだ。


「やりたくないです、京一さんとの時間が減るのは嫌ですよ」


「そっか、確かに。俺の中学時代はずっと部活だったから、休日がなかった」


そこから、湊が俺の中学時代の話に興味を示して、色々と中学生京一郎の話をしていると、


「いけ好かない奴ですね」


と俺の成功してた話に、ちょっぴり不満げに笑った。まあ、元カノの話なんかしたからか。嫉妬して欲しくて言ったんだけど。


「たぶん中学生の俺と会ったら、湊は嫌うんじゃない?」


「んー、違う世界で生きる人間とは思いますよ。嫌いかどうかは別です」


「でも、俺は湊にちょっかい出しちゃうかもね。めっちゃ可愛いもん」


同じクラスにこんな奴がいたら、嫌でも気になるだろうな。変なことばっかして、怒られてばっかで、避けるかもしれないし、いじめるかもしれない。大人になりかけている俺は、その内側まで理解しようとしているが、子供の俺は理解しようともしないだろう。タイミング的に良かったんだろうな、出会ったタイミングがあの時で。


「中学生の京一さんが、僕に、想像つきませんね。写真、ありませんか?」


「ちょっと待ってね」


スマホの写真フォルダで過去に遡ると、中三くらいの写真を見つけた。これ、と見せると、スマホ画面に顔を近づけて、めっちゃ見てる。可愛い。笑える。


「あー、好きです。可愛い、可愛すぎる。むしろ、いじめられたいです」


とその写真をスマホごと抱きしめた。


「へえ、どんなことされたい?」


意地悪く聞いてみる。


「この爽やかな笑顔な京一さんにですか?そうですね、二人きりの教室でキスして欲しいです」


「あははっ、そうゆうシュチュエーションが好きなんだ」


よくあるシュチュエーションが飛び出てきたので、安心して笑った。


「はい、それで、それから彼女とのデートに行っちゃうのを教室の窓から見てたいです」


その安心を奪われた。


「すげえマニアックじゃん、悲しくない?」


「そうですか?それくらいが僕にはぴったりじゃないですか?叶わない恋で、遊ばれて、苦しめられたいです」


幸せに生きるために苦しめられたい湊は、やっぱりちょっぴりどこか変だ。何もないのが幸せじゃないけど、自分から苦しくならなくても良くないか?


「湊と中学生の俺は恋人じゃないの?」


「いじめっ子といじめられっ子です。僕をいじめてる時の嬉々とした表情の京一さんを見られることに僕が幸せを感じたいからです。でも京一さんってやっぱり良い子じゃないですか。だから、いじめグループのみんなには内緒で、ごめんってたまに僕に言うんですよ。そこで、僕が京一さんを好きになっちゃって、キスしちゃうんです。そこから、泥沼化して、ああ、ごめんなさい。何か気持ち悪いですね、普通に蹴ってください」


妄想が止めどもなく溢れてくるようで、俺のこのクソが詰まった頭では、処理スピードが遅くてそれを対処できなくて、脳内反芻中に泳がせてたら、いつの間にか湊が横に倒れてて、蹴ってくださいと懇願してくる。


「たぶん、俺が罪悪感を消したいがために、湊にキスするのがやめられなくなんじゃん?それで、苦しめられたいの?」


「はい、愛情はなくてもキスはされたいです」


寝転がったまま、下から目線で、可愛い。


「可愛いくて儚いなあ。でもそれは俺も苦しいだろうね」


「何でですか?」


「俺ね、蹴り潰した相手に向かって、ごめんねって言ったことあるんだよ。そしたら、死ねって言われたの。正直、嬉しかったんだ。こいつは俺を傷つけようとする人間だから、俺もこいつを傷つけてもいいって、自分を正当化できたんだ。だから、好きだからって暴力を受け入れられると、自己嫌悪で潰れそうになる。まあ、それで、暴力をやめられるかと言ったらそうじゃないんだけど。俺が暴力を振るうことで、認めてくれる仲間がいるからさ」


その可愛い瞳の中に俺が写らないように左右に揺れた。


「そういうもんですか」


「うん、だから、湊が苦しいと俺も苦しいんじゃないかな。俺って良い子ちゃんだから、俺が苦しめた奴のことも考えちゃうの」


自虐的に良い子ちゃんを自称する。立ち上がって、換気扇の下で煙草を吸った。


「ふふっ、京一さんのが未練がましくて可愛いじゃないですか」


仰向けに腹を空に向けて、湊は笑った。ああ、確かに、この煙草は苦い味がする。

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