表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/92

罪人の罪良感

前回までのあらすじ─────────

遊園地に来ていた湊と京一だったが、急遽、謎の人物に湊が誘拐されてしまう。「煙草に火をつける」のヒントを解き明かし、湊が手紙を送ってくるかもしれない?という予想が見えた。しかし、「帽子に気をつけろ」のヒントが未だに謎のままである。

──────────────────

ああ、バイトとかまじでめんどくさい。

どーせ、汚くなるのに掃除する意味とは?こんなん、お掃除ロボットくんに任せとけばいいじゃん。

あっ、でもでもお金は欲しいからあ、息してるだけでお金くれる会社は無いのかな?あはっ、あるわけないかあ。


櫻井 真央、十九歳。遊園地で清掃員のバイトをしています。

たった今、誘拐事件に巻き込まれて何だかワクワクしてきたんですが、当事者に除け者にされそうで焦ってます。


「じゃあ、バイト頑張って」


「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って」


「何?」


「私も協力したいです」


「何で?」


「それはその、困っているお客様を放って置けないですしぃ」


「掃除とかクソつまんないからあ、だろ?」


と嘲笑ってくる。


「そこまで言ってませんっ!」


この人、何か掴みどころないんだよなあ。

落ち込んだり、貶してきたり、冷めてたり、馬鹿にしてきたり、悲しそうにしてる。


「鳩が紙ゴミをつっついてる」


「え?」


「ほら、あそこ」


と指さした方向を見ると、鳩が紙ゴミをつっついていた。いや、そんなことどうでもいいでしょ。取って欲しいのか?あのゴミを、私に。清掃員だから。


「わかりました、取りますよ」


と鳩を追い払って、紙ゴミをダストパンの中に入れた。そう言えば、先輩も同じようなこと言ってたなあ。鳩が紙ゴミをつっついてるって。


「鳩もゴミ食べるんだ」


「まあ」


「へえ、カラスに似てる」


「ああ、確かに」


「そう言えば、湊はカラスが嫌いでさあ」


「怖いですもんね」


「いや、そうじゃなくて……」


いきなり立ち止まって私をじっと凝視してきた。


「何ですか?」


恥ずかしくて目が泳いでしまう。


「帽子、ハット、鳩、じゃない?」


と帽子を取られて、わかっちゃった、っていう様子。


「返してくださいっ!」


真っ赤の顔がバレてしまう。私のことを見つめてきたんかと思ったあ。ああ、焦った。


「鳩に気をつけろ、カラスは嫌い」


得意気にしてる、謎が解けたから。恋人の考えが分かったから。


「それで、どう気をつければ良いんですか?」


「もう終わってる」


「……終わってる?」


「ゴミ、ちょうだい」


とダストパンを開けて、中を探っている。


「え、汚いですよ?」


そんな言葉も関係なしに手を汚している。


「さっき拾った紙ゴミ」


「あっ、ああ、今度こそわかりましたっ!」


丸まった紙ゴミを開いてみると、中にポップコーンが包まれていて、紙には数字の暗号が書かれていた。

48 81 23 24 61 31 63


「何ですか?この数字?」


「んー、たぶんもっと掃除してたら集まってたのになあ」


手がかりが少ないと当回しに伝えられた。


「すいませんでしたねっ!でも、任せてください」


無線で先輩達に紙ゴミを広げて、暗号を集めるように頼んだ。遊んでいるのか、と馬鹿にされたが、こっちは至って真面目だ。

日頃の行いかな?なんてこの人にも馬鹿にされた。それは解せぬ。

早速、集まった暗号を解読しようにも全然分かんない。


暗号

48 81 23 24 61 31 63

51 24 25 2 312⇆

88 33 43゜18 19 21

79⇆ 38 39 16 21 26 46 69"

32 18 15" 14-1/2 27 212 33 413 714-1/2 46


「何だこれ?」


「氷野さんでも分かんないんですか?」


「いや、分かるし。ちょっと待って」


と考える人の銅像みたいに硬そうな頭して考えてる。あと一時間かかりそー。とほほー。


「あれ?ポケットにもう一枚ありませんか?」


氷野さんのズボンのポケットからはみ出ている紙を指さした。


「ああ、これは違う」


と隠されたが、見せてくださいよお、と強請ったら渋々見せてくれた。


遊園地デートプラン

1、お城の前でツーショ

2、ジェットコースターで絶叫

3、可愛いカチューシャを購入

4、ポップコーンを口でキャッチ

5、お化け屋敷で吊り橋効果

6、観覧車の頂上でキス

7、メリーゴーランド白馬の王子様

8、ケーキ付き豪華なディナー

9、キラキラの夜のパレード


「うっわ、羨ましいというより恨めしい」


「遊園地デートなんてこんなもんだろ?」


「そうですけど。うわあ、観覧車でキスなんかしようとしてたんですかあ」


そんなことまで書いてあるこのデートプラン、見るだけで顔から火が出そう。


「悪い?」


と少し首を傾げていう姿に全然悪びれる様子はない。


「いいや、悪くはないです」


悪くはないけど、見たくはない。


「俺の恋人が考えたの、可愛いでしょ?」


「はーい、何歳なんですか?」


文章が幼稚っぽくて可愛い。


「十三」


「それって、ばりのショタコンじゃないですか」


つい、思ったことを口にしてしまうとムッとした表情をされた。


「だから?」


「いや、別に何もそんな……」


事実を言ったまでだし。断じて、貶してなんかない。


「あは、怖がりすぎ」


「えっと」


「怒ってない、怒るわけないじゃん」


「ああ、良かったあ」


胸を撫で下ろした。


「ショタコンかあ、言えてるわ」


「そうですか?」


「でも、美少年だから好きなわけじゃないから少し違うのかな?」


「というと?」


「湊のことは人間として好きなんだあ、性別も年齢も見た目も関係なしに好き」


「やばいくらい、ベタ惚れですね」


「ん。だから、はやく会いたいんだよね。会えないとつらい」


そんなことを言うのはそこら辺のカップルと何ら変わらない。普通に恋愛してる人だ。


「もうすぐ会わせてあげますよ」


「え」


「暗号が解けてきましたから」


「やば」


暗号はデートプランが鍵になっていた。

最初の数字がプラン、次の数字が文字数を表している。


48(口) 81(ケ) 23(ッ) 24(ト) 61(観) 31(可) 63(車) →口ケット観可車 →ロケットが観ることが可能な車


「ということじゃないですか?」


「うわっ、天才じゃん」


「ふふふ」


「湊が」


「えーっ、私じゃないんですかあ?」


「だって、デートプランで暗号作っちゃうなんて普通じゃないでしょ」


「まあ、そうですね」


「ありがと、解いてくれて」


そうやって、弄ってからそんな感謝されても嬉しいわけないじゃん。むしろ、心をかき乱されてムカつくっての。


「別にぃ?暇つぶしですしぃ」


「はいはい」


51 24 25 2 312⇆

→お ト コ 2 入⇆ →男、2人

88 33 43゜18 19 21

→な い フ シ ョ ジ →ナイフ、所持

79⇆ 38 39 16 21 26 46 69"

→白⇆ シ ャ ツ ジ ー ン ズ →黒シャツ、ジーンズ


最後の暗号は一際難しい。

32 18 15" 14-1/2 27 212 33 413 714-1/2 46

氷野さんに解読を頼んだが、解けた内容を教えてくれなかった。

曰く、「俺さえ読めれば良い」らしい。


マップを広げて、ロケットはここ、駐車場はここだから、と誘拐場所を推理する。


「ここら辺の駐車場なら見えるかな?」


「あっ、待ってください」


「ん?」


「この遊園地は世界観を大切にしていて、パーク内から外の景色があまり見えないんです」


「つまり?」


「その逆も然りで、駐車場からロケットが見えることはありません」


「俺、外から観覧車見えたけど」


「それは例外ですよ、ロケットみたいな小さいアトラクションはまず見えないです」


「へえ、なら何処行ったんだ?」


不思議そうに地図を持ち上げてクルクルと回しながら見ている。多角的に見るってたぶんそういうことじゃない。


「それは知りませんよ」


「ああ、わっかんねえ」


と空を仰いだ次の瞬間、ベンチから頭から落ちる。


「え、ちょっ、大丈夫ですか?」


「んーんー、バカ頭痛え」


と頭を抑えながら、笑顔で起き上がる。


「やば、血ぃ出てるじゃないですかっ!」


「あーあ、切っちゃった♡」


「切っちゃった、じゃないですよお」


救護室に連れてかないと。

でも、背負っていくのには無理あるし。

あっ、近くにお土産屋、発見!

カートとタオルを借りてきて、まずタオルで止血。よし、カートに乗せて、救護室までゴーっ!


「あはっ、楽しいいい」


そりゃあ生きてて、カートに乗れることなんて早々ないからなあ。私も楽しいいい。

先輩には、絶対にどやされるけど。まあ、いっか。


「おい、ここにゴーカートってないのか?」


マップを見ながら、完全にカートの上でくつろいでいる。


「ゴーカートですか?つい最近まであったんですけどねえ」


カートじゃなくてゴーカートに乗りたいってか。贅沢め。


「そこ連れてけ」


「え?」


「はやく」


「救護室は?」


「どうでもいい、はやく」


わけわかんない、こいつううう

ゴーカートは営業終了だってのに。

命令を受けて、カートを走らせる。

ゴーカートがあった場所は宇宙エリアのすぐ近くだった。ほら、ロケットが見えてきた。


「ゴーカートの残骸とか、残ってないの?」


「ああっ!頭良い!」


「感心してる場合か」


「残骸なら、この工事現場の裏に」


何台ものゴーカートが森の中に捨てられている。先輩曰く、空飛ぶ車が普及した近未来を表しているらしい。

ここなら人目にもつかないし、工事の音で声はかき消されてしまう。

知る人ぞ知る立ち入り禁止スポットだ。


足場の悪いところを容赦なくよろよろと歩いていくから危なっかしい。私、こういうところ嫌いなんだよねー。虫とか出そうで。


「あっ、ポップコーン見っけ!」


と四つ葉のクローバーを見つけた子供のように嬉しそうにしている。ポップコーンなんて珍しくもなんともないのに。

そして、その近くのゴーカートに乗り込んで何かを探している。

私もゴーカートを眺めながら探していると


「一眼レフ、あった」


手をあげて、収穫物を見せられた。


「そんなの落ちてたんですか?」


珍しいこともあるもんだなあって笑うと


「湊のやつ、置いてったんだ」


と言われ


「ああ、そーゆーこと」


と納得。ということは、もうここにはいないのか。


「次」


肩に寄りかかられて、何か私すらも移動手段になっている気がする。

彼がカートに乗って脚を組む。

とりま、救護室へカートを走らせた。

途中、先輩と鉢合わせてしまったが、


「見逃してくださあーい!!!」


と走って逃げた。

救護室に着く頃にはタオルが真っ赤になっていた。看護師さんが対応してくれて、頭にガーゼと包帯巻かれてて何だか不格好だった。

病院に行った方がいい、という看護師さんの勧めに、はーい、と一眼レフを見ながらうわの空で返事をしている。


「病院、行かなくて良いんですか?」


「俺、医者って信用ならなくてさあ」


「それ、今時絶滅危惧種ですよ?」


「そもそも、そんな暇ないし」


と一眼レフの写真フォルダにはまた暗号が書かれた紙が写し出されていた。

86 87 410 411 79-2/2 1000 1010

再度、デートプランを確認。


遊園地デートプラン

1、お城の前でツーショ

2、ジェットコースターで絶叫

3、可愛いカチューシャを購入

4、ポップコーンを口でキャッチ

5、お化け屋敷で吊り橋効果

6、観覧車の頂上でキス

7、メリーゴーランド白馬の王子様

8、ケーキ付き豪華なディナー

9、キラキラの夜のパレード


86(豪) 87(華) 410(キ) 411(ャ) 79-2/2(白-ク) 1000(セン) 1010(?)

→豪華客船、センジュウ?


「センジュウ、が分かんないですけど」


と嘆くと


「こんなん簡単だろ」


と得意気に馬鹿にされた。

とりあえず、豪華客船に乗りに行くのかと思ったら多目的トイレに手を引かれて連れていかれた。


「ちょっと、何なんですかあ?」


トイレの鍵を閉められ、手を離されたかと思うと、


「脱げ」


といきなりいけしゃあしゃあと命令される。


「はあ?」


「それとも、俺に脱がされたいの?」


「えー、どっちも嫌だあ」


と笑うとうんざりした表情をされた。

まあ、どうしてもって言うならあ……


「別にお前のなんて興味ねえよ」


とベルトを緩めている。え、何か脱ぎ始めてんだけど


「へ、変態っ!」


「何とでも言え」


と私の仕事着のつなぎを掴んで脱がしてくる。やば、無理無理。心の準備が……


「ちょっ、ストップ!」


「何?」


上を脱がされたところで下をしっかりと掴んでタイムをかけた。恥ずかしくてまじで顔から火が出そう。


「この下、パンツなんだよね」


と恥ずかしがって言うと、目を少し回してめんどくせーって顔された。すると、彼が上に着ていたパーカーを渡してくれた。


「それで良い?向こう向いてるから」


うっわ、格好良いいい。

今のは惚れた。見直したぞ!

彼のパーカーを羽織って、ワンピースみたいに着ると、これはこれで可愛かった。

脱いだつなぎを彼に渡して、


「そういうことでしょ?」


と得意気に聞いてみると、「気づくの遅せえよ」とからかわれた。

ロンティーにつなぎを腰巻きしてお洒落に着こなしている。


「んじゃ、ちょっと借りんね」


とトイレのドアを閉めて、一人でスタスタと出ていった。

え、何で?私を置いて行く気だ。

すかさず後を着いて行って、


「何で私を置いてくんですか?」


と引き止めて聞くと、


「あれ?パンツ見えてんよ?」


と話を逸らさて馬鹿にされた。


「ちょっ、見えてないですからあ」


とパーカーを下に伸ばして隠す。


「じゃあ、生脚♡」


ちらっと脚を見られ笑われる。恥ずかしくて咄嗟に肩を押した。


「ああ馬鹿、私なんて興味ないくせにぃ」


と不貞腐れてそっぽ向くと


「可愛い」


と肩に腕を乗せられて近距離まで迫られた。


「サイコパス」


「本心だって」


この男はこうやって何人の女を落としてきたんだろう。自分が利用したいときに利用して。


「罪ですね、格好良いのは」


「格好良い?誰が?」


「わざとですか?」


「まさか、俺のこと?」


めっちゃ目を見開いてびっくりしている。


「貴方以外、誰がいるんですか?」


「え、それは見る目ないね。そんなんじゃ、ダメ男に騙されるよ?」


「真っ最中じゃないですか?」


「あはっ、めっちゃ言えてるわ」


なんて笑ってたけど、豪華客船に乗る前に、

「危ないからついてこないで」と言える男はダメ男じゃない気がする。

だから、待つ振りだけしてこっそりとついて行ってみた。



豪華客船に乗って、男子トイレへ直行する。

10 1 0はそのまんまトイレで訳した。

帽子を深くかぶり清掃員の真似をして、入り込もうとすると、入り口に黒シャツにジーンズの男がスマホを弄りながら突っ立っていた。こいつが誘拐犯か。

今すぐにぶん殴ってやりたかったけど、湊の無事を確認してからにしようと我慢した。

さて、男子トイレに入れた。掃除をしながら一つだけドアがずっと開かないところを見つけた。

そこを十円玉マジックで開けてみた。

中には猿轡をされて手足を拘束された湊がいた。


「あちゃ、お楽しみ中だった?」


なんて、嘘。怒りを隠すためのジョーク。

俺以外にこんなことされていいわけない。

手枷と足枷を外して猿轡を取るとそのまま抱きしめられた。


「京一さん、愛してる」


なんて耳元で囁かれて、心の底から安堵した。ああ、湊が生きてるって。


「俺も。遅くなってごめんね」


「ううん、助けてくれてありがとう」


とまた強く抱きしめられる。


「ああ、泣きそう。ドライアイじゃなかったら絶対に泣いてる」


しょうもない感想はキスによって塞がれる。湊は俺のとは比べてはいけないくらい綺麗な涙を流していた。


「観覧車、乗りませんか?」


「そうだった」


こんなトイレでしてる場合じゃないんだ。

観覧車でデートの続きを……


「不思議だなあ、何で分かったんだろ?」


とドアを開けると、ナイフを持った男が一人。入口付近にいた奴だ。


「それは俺の台詞なんだけど」


「掃除のしすぎだって」


「そっか、お前も掃除してやるよ」


とモップの柄で顎を突く。

仰け反ったところでナイフを奪い男の首に当てる。ちょっとでも動いたら切れるって具合に。


「驚いた。上手いね、お兄さん」


「褒め殺してくれんの?」


と調子に乗ると、思いっきり腹パンを食らわされてゲロりそうになる。


「でも、やっぱ弱そう」


確かに体力的にもう限界なんてとっくのとうに超えてる。疲れで今すぐにでもぶっ倒れそう。頭がガンガンする。


「京一さん」


と湊が支えてくれる。無理しないで、と言ってくれてるみたいだ。


「助けにきてやられるとか。ごめん、ダサすぎて言葉も出ないわ」


と馬鹿にされて笑われた。

うるせえなあ、言葉も出ないって言葉が出てんじゃねえかよ。


「分かった、降参。ほらよ、お望みの金だ」


ポケットから封筒を投げ捨てた。万札が見えるように。無抵抗だと両手を広げて上にあげる。


「おお、やるじゃん。最初っから……」


金を拾おうと屈んだその男の後頭部へとかかと落とし。そして、踏みつける。

俺は脚が長いから蹴り技のが得意なんだよ。


「便所のシミでも舐めとけ、クズが」


この作業着もその一万円も借りもんだから汚されたら困る。すぐに回収。封筒の中には偽札の一番上に一万円を仕込んでおいた。


「ううっ」


湊の唸り声。振り返ると、湊が片手で首を締められている。

そして、俺はスーツを着た男に銃口を向けられチェックメイト。もう一人の奴か。


「殺すって言ったよね?」


「まだ十七時になってないし、サツにも言ってないけど?」


「追加、邪魔する奴は殺す」


「なにそれ、理不尽」


「社会なんてそんなもんだ」


まあ、湊の両親は金持ちだから。湊のことを俺よりも簡単に助けちゃうんだろうな。だったら、俺は死んでも大丈夫か。


「そっか、つらいだろうが生きろよ」


男に何言ってんだこいつって顔されたが、お前に言ったんじゃねえよ。

銃声が聞こえた。聞こえてから何秒で死ぬ?こうやって考えられてるのは生きてるからで、我思う故に我あり。あとどれくらいで俺は……。


「うあっ、うう、ああああっ」


と目の前でつらそうに倒れているスーツ姿の男。


「は?」


「これ、僕の銃です」


スーツ姿の男をマットレスのように何食わぬ顔で踏んで、手に持っていた銃を奪い取る。


「は?」


「撃たれてみますか?」


「いや、これは?」


スーツの男の脚を撃ち抜いている弾丸。

不審に思って周囲を見渡すと、


「これ、本物だったの?」


って顔をして震えている彼女がトイレの入口付近に立っていた。


「あらら、一杯食わされたみたいだ」


湊はあらかじめ本物の銃と自分の模型銃を入れ替えていたらしい。だから、紙には一人分の情報しかちゃんと書かれてなかった。


「お前さあ、何で誘拐なんてしたの?」


「どうしても、金が必要なんだよ」


「何の?ドラッグとか?」


「分かった!保釈金じゃないですか?」


「違う、彼女の治療費が……どうしても……」


と涙を浮かべながら俺に向かってがむしゃらに殴りかかってくる。当たらない拳を引っ張って組み敷く。


「それはそれは可哀想に。お悔やみの言葉しか出てこんわ。でも、俺の大切な人を傷つけたのは許せないの。お分かり?」


と聞いてもシカトされて、独り言になってしまった。


「俺だって、好きな奴のためなら死ぬ覚悟でいるんだよ。このまま、お前を殺したいほど恨んでんだ。けど、そしたら会えなくなるから殺らないの。罪を犯したらお終いなん、知ってたか?」


「俺だって、できることならこんなことしたくなかった。でも、彼女のためなら何でもしてあげたかったんだ。俺には、金持ちがみんな、クズに見えた。だから、やった。罪悪感なんて一切無いさ」


「あっそ、クズ野郎」


「何だよ、正義のヒーロー気取りか?」


結局、俺もクズなんだな。

お前を滅多刺しにしてやりたくてしょうがない。落ちていたナイフをふりかざした。


「京一さん、馬鹿じゃないですか?」


と湊に止められて、やっと目が覚めた。


「湊、ごめん」


こんな奴にナイフを刺そうとしてたなんて。自分が情けなくなってくる。


「デートの時間、なくなっちゃいますよ?」


「ごめん」


手に持ったナイフを落として、代わりに湊の手を握る。


「もうキスしますよ?」


うんざりして笑う湊に手を繋がれ、歩き始めようとすると、墓から甦ったゾンビに足首を掴まれる。


「違う、お前も罪人じゃねえか」


何、悠々自適に生きてやがんだ。お前も俺と同類だろ。とその腕が俺の人生の足枷となる。


湊がその男の頭を何回も踏みつける。顔の凹凸を失くしてしまうくらい。


「湊?」


「何ですか?」


きょとんとした顔の湊には罪悪感という言葉は無いようだ。


「……俺をカートまで運んで」


「了解しました、カートって何ですか?」


「あっ、ああ、私、手伝う、から」


慌てて銃を投げ捨てて、カートを走らせてきた音がした。さすが、清掃員アルバイト。


「ふふっ、愉快な移動手段ですね」


と湊が笑って、俺をカートの上に乗っけた。

「京一さん、買っちゃいました」とふざけている。そして、呑気に記念写真まで撮ったみたいだ。


「ナイスショット、真央ちゃん」


と頭を撫でると、複雑そうな感じで微笑まれた。


「どういう関係か分かんないですけど、ありがとうございました」


と湊が彼女に頭を下げた。しっかりしてる子だ。俺にはもったいないくらい。


「湊、俺が彼女に惚れてるとしたら?」


意地悪く質問した。


「え、それは、一応は応援しますけど、今日はデートプランまで立てたのに」


とデートしたい気持ちをそれとなく伝えられる。すごい可愛い。


「クズ野郎、さっさと仕事着を返しやがれ」


と彼女には軽く叩かれる。


「あはっ、痛いって」



「湊、俺以外を殺してはいけないよ」


「いきなり何ですか?」


「俺が湊の初めてを奪いたいから、ファーストキスを奪ったのは俺でしょ?」


「そうですね」


「だから、ファーストキルも俺にして」


「それは、ちょっと笑っちゃいます」


と僕が少し笑うと、


「俺も、約束ね」


と言い出した本人も少し笑ってる。


「そもそも、僕は法律違反はしませんよ」


「さっきのは暴行罪で訴えられそうだけど?」


「あれは正当防衛です」


「それにしてはちょっとやりすぎじゃない?」


「大袈裟ですね、ただ腕を踏んだだけじゃないですか」


「え?嘘つかないでよ」


「嘘じゃないですよ、見てましたよね?」


「あいつ、最後に何て言ってたっけ?」


「違う、お前の弟じゃねえのかって。僕のことを京一さんの弟と思ってたらしいです」


「まじで?あはは、笑っちゃうなあ」


「それより、清掃員の女の子のこと、どうなんですか?好きなんですか?」


「何?嫉妬してんの?」


「そりゃあ、もう、すっっっごく」


「まあ、好きなんだろうね」


「ああああ、僕はここから飛び降ります」


観覧車の頂上付近から見える景色は死んでもいいくらい綺麗だから。


「まだ話の途中だけど?」


「……じゃあ、最後まで聞きます」


「でも、湊のが好き。どんな奴よりも湊のが良いと思う。世界一で湊が好きかも」


「ああ、可愛いのもほどほどにしてください」


「え?」


「濃厚キッス、しちゃいますよ?」


「最初からそのつもりなんでしょ?」


「嫉妬した分だけ長くしていいですか?」


「あーあ、観覧車2周はしないとじゃん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ