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死んじゃう詐欺

誰かの成功談なんてクソほど興味ねえよ

俺がそんな正攻法で成功するわけねえし、まず初期設定から違うじゃん

煌びやかな世界の入り口は絶望のハードルを高めると知ってるから、意図的に避けてきた結果、生命維持すらできなくなった

本末転倒とはまさにこのこと

中庸を求めろと書いてあった教科書が懐かしい、辿り着けねえよそこでさえ

ああ、全部がクソだ

腐ってんなあ、俺は人生から捨てられたゴミ

さっさと処理しろっつーの、汚ねえじゃん

気持ち悪いし、吐いちゃうからさあ

ゴミはゴミ箱に、こりゃ名言だわ

見捨ててくれ、殺してくれ、ってゆー言葉の裏には、つらさと苦しさを与えないでくれ、ってのが隠れてんだ

でもさあ、つらさも苦しさもない人生ってのは存在しないからとどのつまり死ぬしかないじゃんってなんの分かる?

幸せな君には理解できそうもないね

存在自体が迷惑な俺とは違うもんね

クソほど使えねえ脳みそをぐちゃぐちゃに引き裂いたら、ペースト状のカニ味噌ぐらいにはなるんじゃねえか、なんて馬鹿なことは考えないんだろうなあ

チカチカチカチカうるせえ眼球も潰れて何も見えなくなれば、真っ黒に塗りつぶされた安心が待っているだろう

あの画家さんみたいに耳を切り落として、パンの耳とカリカリに焼いたら、蠅や蝉の声に妬くことは無くなるだろう

ゴキブリ、ウジ虫、ムカデのケーキで誕生日パーティすべて呑み込め

引き攣った顔で感謝の演技、ゴミをゴミ箱に包んでプレゼントだ

あーあ、何が愛でたいんだこんなもん

俺の寿命が決まっているのならば、死へのカウントダウンになるんだけど

何時死ぬのかを教えてください、目標をください、って神に縋りたい

泣いて泣いて泣いて涙が枯れて心が枯れて体が枯れて塵々に、細胞一つも残らないほど

消えてしまえ

行動力という翼をもがれて、飛ぶことさえ許されないから、地べたに這いつくばって、ゴミのように見られて避けられる

その視線が直接的な凶器であれ

ストレス耐性皆無なのにストレス発散法を見失うとか俺すげえ馬鹿じゃん

ストレス貯金はいくら貯めれば死ねますか?

赤信号を血液で染めたらダメですか

でもでも、惹かれるのは白いスポーツカーかなあ

俺にそんな権利も価値もねえけど

バールで滅多刺しくらいがお似合いかも

頭から血を流している俺に、嘘でも「愛してる」と抱きしめた、君の白いシャツを汚したい

「僕が殺したみたいですね」って、君は血だらけの両手をとびきりの笑顔で見せてくれるんだ

頭がぼーっとして何も考えられない俺に


「京一さん、聞いてますかあ?」


「……え、ごめん聞いてなかった」


「もう、何か僕だけで張り切ってるみたいじゃないですかあ」


「ごめんって」


「それで、京一さんは何処に行きたいですか?」


と遊園地のパンフレットを床に広げている。

学校の創立記念日という平日休みのお出かけプランだ。


「んー、湊と一緒なら何処でもいいかな」



とか言ってたのに、湊とはぐれた。ここ遊園地で。右も左も分からない遊園地で。

観覧車に乗ろうとか言ってたのに。一人で乗らせる気かよ。

取り敢えず、座り込んだ。丸くなって自分の世界に閉じこもりたかった。きっと前世はカタツムリかダンゴムシだったに違いない。


「なんでこんなところでひとりにすんだよ」


湊の馬鹿、電話かけても出てこないし。

平日だけど、ある程度の人はいるし。

たくさんの悪口の中に紛れ込んだ


「大丈夫ですか?」


という煽りに


「俺が大丈夫なわけないでしょ」


と小声でツッコミを入れた。笑いたかったけど、笑うだけ虚しかった。


「どうしたんですか?」


「え?」


明らかに幻聴とは違う声。顔をあげるとそこには清掃員のお姉さん。やべえ、聞かれてた。人間っ!!!


「えーと、いやあ、なんでもないですよ」


と愛想笑い。


「今さら隠さなくても良いじゃないですか。私もちょうどバイトサボりたかったんで、少しお話聞かせてくれませんか?」


と冗談っぽく笑ったその子は何となく湊に似ていた。


「……俺、迷子なんですよ」


「え?」


「恋人と、はぐれちゃいました」


「連絡は取れないんですか?」


「ん、まったく」


「それ、はぐれたというより別れられたんじゃ……」


という幻聴が聞こえてきたので


「何か言いました?」


と聞いてみた。ああ、人間相手は疲れる。


「いえ、何も」


と、すまし顔。


「俺のこと、好きじゃないのかな」


最悪の方向に考えてしまうのはいつもの悪い癖だ。


「そんなこと言わずに、一緒に探してみませんか?案外、すぐに見つかるかもしれませんよ?」


「そうですね」


──────────


「って、なんで一緒に観覧車に乗ってるんですか?」


とツッコまれた。

空いてたし、そこにあったし、


「高いところから探せばすぐに見つかるかなあって」


という単純明快な理由だ。


「これ、ウォーリーの探せ並の難易度ですよ」


「そ」


「しかも、入り口で先輩に睨まれたの知ってますか?あとで確実に殺されるわあ」


「五月蝿い、集中したいんだけど」


「ごめんなさい」


確かにウォーリーを探すよりも難しい。湊だから、簡単に見つけられると思ったのに。


「でも、写真も見せてくれないし」


と彼女の愚痴はまだ止まらない。

恋人と言ってしまったせいで、湊の写真を見せられずにいる。けど、見せないと彼女は探せないし、最終的にはバレるよなあ。


「ほら、可愛いだろ?」


と写真を一枚、見せることにした。勿論、自慢するためだ。


「ほんとだあ、可愛いい」


と馬鹿っぽいリアクションをされた。

まあ、湊の良さなんてそんな二次元の画像で分かるわけないか。別に俺だけ知ってれば良いことだけど。


「実物はそれより可愛いよ」


「よし、頑張って探そっと」


気合いを入れてくれたみたいだ。

突然、電話が鳴った。知らない番号。

彼女の手からスマホを取り返して、電話に出た。


「もしもし、今何処に」


「この子を返して欲しかったら、十七時までに百万円用意しろ。さもなくば殺す。サツにチクっても殺す。じゃあ」


「はあ?俺にそんな金があると思うのかバー、カ」


うわ、切りやがった。

なんで湊が。誘拐するならもっと、こう、金持ちの子供っぽい……あ、そういや、湊って、金持ちの子供じゃん。

良い服着てるし、顔可愛いし、高そうな一眼レフまで持ってるからだ。うっわ、詰んだ。


「何だったんですか?」


「……誘拐されてた」


「え、そんな馬鹿な」


「百万円用意しろと、ある?」


「そんな大金、あるわけないじゃないですか」


「俺も」


はあ、ため息しか出なかった。


「とりあえず、探しましょうよ」


「何処を?」


「何処ってそりゃあ……拘束されてる場所とか?」


「こんなだだっ広いのに見つかるわけないだろ」


「何でそんなにネガティブなんですか」


「はあ?現実見てないよりかはマシじゃん」


「じゃあ、何もしないんですか?」


「それは、もっと、こう……」


「分からないじゃないですか。ほら、頑張りましょう」


と背中を叩かれる。触れられた瞬間、ゾッとして殺されそうで気持ち悪かった。


「励まされたところでどうにもなんねえよ」


「……貴方、モテないでしょ?」


「いいや、可愛い恋人がいる」


「言ってやろ、別れた方が良いって」


「それには同感だわ」


俺のクズさ加減は初対面でも数分話せば分かるレベルだ。

揺れる観覧車で心まで揺れてしまう。


「そう言えば、良いもの拾ったんです。落し物ですけど」


と彼女が取り出したのは、湊のモデルガン。

何処で拾った、と迫る俺に彼女は若干引き気味だった。

連れて行かれたのは、観覧車近くの植木。ここで湊は拐われたのか?

足跡なんて分からねえ。なんでモデルガンだけなんだ?色んな疑問がグルグルと回る。


「煙草」


頭をスッキリさせるために煙草を吸おうと口に咥えたところで、電話が鳴った。


「どうだ?金は用意できたか?」


「急かすなや、調達中だ」


「そんな呑気なこと言ってると本当に死んじゃうからね」


「わかってるって」


わかってて焦らないようにしてんのに。

悲鳴の声でも聞かせてやれ、と湊に代わった。


「もしもし、京一さん?」


「湊、泣いてんの?何処にいる?無事なのか?」


「そんなに質問されても困っちゃいますよ」


泣きながら笑ってる。受話器の向こう側の湊がどんな状態か手に取るように分かる。


「今、何処にいるの?」


「……今日のデートプラン、無駄になっちゃいましたね」


「そんなことどうでもいいから」


「今度は、帽子に気をつけてください。烏は嫌いです」


「はあ?」


「あと、煙草に火をつけてないのなら僕がつけますよ?」


「どういうこと?」


「愛してます」


と言われ、電話が途絶えた。

湊の近くに犯人がいて、情報を言うと殺されるとみた。だから、暗号ってわけか。

湊が考えそうなこと、俺が分からないはずがないじゃないか。


「帽子に、煙草……」


俺、帽子なんか被らねえし。

それに、煙草のことなんで分かったんだ?

頭が冴えてないからか?


「どうしたんですか?」


「帽子に気をつけろ、煙草に火をつける」


「え?」


彼女もきょとんとした顔をするだけ。


「どうしよ、分かんないかも」


ここになって、現実味が帯びてきて、やっと焦って不安になって泣きそう。


「ちゃんと教えてください、どういうことですか?」


「湊が暗号で教えてくれたんだよ。帽子に気をつけろ、煙草の火をつけるって」


期待はしないまま言った、彼女はもっと分からないはずだから。


「取り敢えず、煙草に火をつけたらどうですか?」


咥えたところで止まっている煙草にライターで火をつけた。何だかこの行為自体に何か特別な意味を感じて、いつもよりもするのが怖かった。煙草を吸ったら何か起こるんじゃないかって不安と期待があった。


「はあ、何も起こんないかあ」


昇煙とともに落ち着きを取り戻す。


「もう一度、一言一句詳しく教えてください」


「煙草に火をつけてないのなら僕がつけますよ、って言われた」


「あっ、あ、分かりましたっ!」


と元気よく挙手された。


「何?」


「プロポーズじゃないですか、それ」


と興奮気味に確信を持ったように言われても、


「意味わかんねえ」


としか言えなかった。


「だって、ほら、煙草に火をつけるってそばにいる人じゃないとできないですしぃ」


「それをわざわざそばにいないときに言うかあ?馬鹿じゃあるまいし」


あれっ、湊って馬鹿……じゃないよ。馬鹿じゃない。あの子は頭良い方だもん。


「そうですよねえ」


俺に遠回しに馬鹿と言われたのを気にしているのか、わざとらしい返事をされた。


「……何で煙草なんだ?」


「え?」


「プロポーズ」


「そりゃあ、毎日煙草吸うからでしょ」


「それよりもさあ。ウェディングケーキに火をつける、のが良くない?」


湊だったらそう言いそうなのに。


「知りませんよ、貴方の好みなんて」


「そう言えば、ロウソクは何で火をつける?」


「チャッカマーン、二本だと、チャッカメーン」


とポーズとともに陽気に教えられた。


「ライターじゃないんだ」


「ライターは何か、雰囲気的にノーです」


「煙草=ライター、だから?」


「そーそー、そんな感じです」


「あはっ、わかっちったあ」


頭ん中に天才的ひらめきが降りてきた。


「へ?」


「ライターだよ、lighterじゃなくてwriterの」


「どういうことですか?」


「だから、何か手紙でもくれるんじゃないの?」


「でも、どうやって……」


「んー、分かんないっ!」


可愛子ぶっても意味ないかあ


「あはは」


「結局、ふりだしに戻る」


そう俺の人生、そんな感じ。


「あっ」


彼女の無線に誰かから連絡が来たようだ。


「はーい、了解です」


と彼女が適当に返事をしている。


「何だって?」


「先輩から、掃除しろって煩いんですよ」


困ったように愚痴られても


「ああ、金もらってんならちゃんとやんな」


共感はできない


「案外、真面目なんですね」


「うん、良い子ちゃんだから」


「それ、自分で言ったら悪い子ですよ?」


「そうなん、知らんかったわあ」


「嘘です、私が作りました」


「ん、どうでもいい」


さっさと掃除しろ、と急かして付き合わせて悪かったなあと思った。

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