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頭脳は子供、見た目は大人

今日の朝、京一さんのもとを訪ねると、京一さんは幼児向け番組を真顔で見ていて、時々笑っていた。


「京一さん、気分はどうですか?」


「んー、ふわふわしてる」


と不思議ちゃんな答え。

昨日のストレスがまだ残ってる。


「ご飯、食べれますか?」


「ご飯やだ、お菓子ないの?」


と子供っぽく拗ねられた。


「お菓子では糖分と脂質しか取れませんから、ちゃんとご飯を食べましょうね」


「やだ、いらない」


ぷいっとされた。


「元気が出ませんよ?」


ほら、そこのアニメキャラみたいに


「元気なんて、とっくのとうに忘れた」


たまにあるハイテンションのときも京一さんにとっては病気なのかな、と想像してしまう。


「じゃあ、ゼリー飲料はどうですか?」


「やだ」


イヤイヤ期だ。


「どうして?」


「俺ゴミだから、食べる権利ない」


「京一さんはゴミじゃないですよ、当然食べる権利もあります」


「でも、どーせ吐くじゃん」


「もしかして今も体調悪いですか?」


「そうじゃないってばあ」


「何ですか?」


「……食べんの怖いんだけど」


「そうですか」


僕は食べるのが怖いという感覚がよく分からないから


「食べんのの何が怖いんですか?」


と聞いてみた。


「俺が生きてんのが怖い」


違う恐怖を言われて頭がこんがらがっち。


「僕が分かるように説明してくれませんか?」


「普通に死にたいんだよ。死にたくて死にたくてしょうがないの。阿呆らしいじゃん。こんなになって生きてんのとか。だからさ、食事を持ってくるなら毒盛ってきてよ。そしたら、食うからさ」


「死なせませんよ、殺しもしません」


「うざ、使えねえわ」


「その苦しさだけ、取り除きます」


「どうやって?」


京一さんは嘲笑うかのような苦笑いをして助けて欲しいと言っている。たぶん。

根本的解決にはまだ至らないけれど、表面的解決にはなりそうなハグをした。


「僕が何とかして、します」


「何だよそれ、苦しいんだけど」


「頑張りますから」


「俺のために?」


「はい、京一さんのために」


「あはっ、好きぃ」


とさらにギューっと抱きしめてくる。この人は甘えたなときはとことん甘えたさんだ。


「ねえ、ご飯ちょーだい」


「え」


「はやくぅ」


「ああ、分かりました」


とても気分屋、だけど好き。

今日もこの人に振り回されるんだろう。


箸が持てない京一さんにご飯を食べさせる。

落ち着きがない京一さんを布団で捕まえる。

寝れないとぐずる京一さんに睡眠薬を飲ませる。


「あははははっ」


突然、笑い出して吃驚した。


「まじ不器用すぎて笑える」


一人で布団に入りながら笑ってる京一さんに落ち着いて寝るようにと促す。


「だって、聞いてよお」


と可愛く言われて、歳上なのに僕よりも可愛い可愛い赤ちゃんに見えた。


「何ですか?」


お腹をポンポンと軽く叩きながら、赤ちゃんをあやしている気分だ。


「何かね、寝そうってなったらね、やっと寝れるって思って、嬉しくて笑っちゃうの」


「それで、寝れないんですか?」


「そー、超不器用でしょ?」


「そうですね、可笑しいです」


僕はそんな京一さんが愛らしくて笑っちゃう。可愛くてしんどい。


「湊、一緒に寝よーよ」


と手繰り寄せてまた抱きしめられる。

この人は本当に、僕のことを何だと思っているんだ。段々、抱き枕扱いされるのも、母親役を演じるのも、疲れてきてしまったのだ。僕は京一さんの恋人でいたいのに。


「京一さん」


と顔を掴んで、舌入れてキスをした。

最初は「んーん」と唸って嫌がられたが、そのうち、京一さんが僕に合わせてくれた。


「何だよ、みなとぉ」


と、にやりと笑う京一さんはいつもの京一さんだ。


「僕も甘えさせてください」


と引っ付くと


「やだ、寝みぃ」


と引き剥がされた。

ああ、これだ。これが京一さんだ。と思って冷たい対応までもがまたもや愛おしく感じられた。


パチッと目を覚ました京一さんは


「あれ?今日って何曜日?」


と不思議そうに僕を見つめてくる。


「火曜日です」


「学校は?」


「休みました」


「何で?」


「京一さんの傍にいたかったから」


「あっそ」


と言って、一旦、周囲を見渡して状況判断してから


「ありがと」


と京一さんは無造作に僕の頭を撫でてきた

京一さん、格好良い。惚れる。


「湊、コーヒー飲む?」


「苦くて飲めませんよ」


「ふふっ、まだまだ可愛いね」


そうやってコーヒー飲む京一さんは先程とは打って変わって、格好良い大人に見えた。


京一さんは洋楽を聞いて勉強している。僕は英語がさっぱり分からないのだが、ペン回ししながら、洋楽を少し口遊んでいる京一さんは様になっていて、映画のワンシーンみたいだった。


「ああ、駄目だあ」


スイッチが切り替わったみたいにいきなりダウンしてしまった。


「どうしたんですか?」


「やりてえ」


「分かんないですよ」


「シャブぅ」


「それは我慢してください」


「もう頭ん中がシャブでいっぱい」


それならと、京一さんのおでこを擦りながら


「お薬、お薬、飛んでいけえ」


とおまじないをかける。


「無理ぃ」


と京一さんは僕の顔を掴んで、唇にキスをしてきた。

僕は心の準備もできてない状況だったから、かなりのパニックに陥った。


「……京一さん?」


「本当はキメてからヤんのが最っ高に気持ち良いんだけどさあ」


と唇を尖らせて、少しの不満を見せたかと思うと、


「我慢するからあ、一回ヤラせてよ♡」


と情欲を催した京一さんが雄の表情を見せてきた。ああ、ちゃんと狂ってる。恋愛感情からではなく、だだ性欲を満たしたいからで僕を使おうとしてる。息苦しいくらい動悸がしてきた。


「やめてください、本気で」


僕に覆いかぶさって抱きしめてくる京一さんを手で押し退けて抵抗する。


「俺のこと、嫌いなの?」


僕に嫌いと言われることを想定をしていない笑顔で聞いてきて、本当に狡いと思う。


「好きですけど、こんなの嫌です」


「意味わかんねえ」


「これ、僕じゃなくて良いですよね」


「セックスなんてそんなもんだよ」


とまた僕にキスしようとしてきた京一さんを思いっきり叩いた。


「最低」


鞄も何もかも置いて、靴下のまま外に出て行った。歩きながら涙が止まらなくて、家の鍵も忘れて、玄関を背にしてまた泣いた。


現実の波に飲まれたみたいだ。僕の理想はいとも簡単に崩れ去る。

僕は貴方に愛されたいけど、貴方の玩具にはなりたくない。




湊に、叩かれた。

その事実がグルグルと頭の中で無限ループする。ぼーっとして、気持ち悪くて、死にたくなった。

子供の頃、なりたくない大人に会った。煙草吸って暴力や暴言が日常茶飯事の酒に呑まれた五月蝿い奴。その時、「あんな大人には、なりたくない」と心に誓ったはずなのに。気づけば俺もそういう大人になっていた。境界線が見えなくなってくるんだ。つらい状況から逃れるために、と言い訳をして。

それが正義とすら思えたこともある。楽しいことをするために生きているから。つらいのに生きてても意味ないじゃん、なんて言って、さらに状況が悪化していることに気が付かないんだ。

湊はまだ境界線が見えてるんだろうなあ。

あーあ、安心した。どうか、俺のようなクズになりませんように。俺はさっさと死にますように。

死ぬためのクスリが欲しい。苦しいのは嫌だ。でも、こんなこと言ってるからいつも死ねないんだろう。死ぬための準備すらできない。あーあ、湊がいればなあ。手伝ってもらえるのに。あっ、湊いないんだった。そもそも、手伝わないか。んー、ダメじゃん。結局、一人じゃなんもできねえわ。ゴミすぎて泣けてくる。涙を拭いてくれる人もいない。

涙で床に染みができた、なんてぼんやりと思っていたら、玄関ドアが開いた。


「京一さん、死んでください」


と入ってくるや否や銃を構えられた。湊だ。泣いていたのがよく分かる不細工な顔してる。


「湊、殺しに来てくれたんだあ」


超絶嬉しい。嬉しさで笑ってしまうほど。ああああ、なんて良い子なんだろう。涙が出てくる。


「バーン♡」


と口で言いながら引き金を引かれて、中に入っていたBB弾が俺の心臓部分へと飛んできた。俺が理解できないでいると、


「はい、これで貴方は死にました」


とニコニコ笑顔で言われた。


「死んでないよ、ちゃんと殺して」


と起き上がって、湊に主張する。


「僕の嫌いな京一さんを殺したんです、僕の好きな京一さんは生きています」


「へえ、湊が嫌いな俺ってどんな奴だったの?」


「僕を見てくれませんでした、僕の気持ちを全然わかってくれなかったんです」


「……ごめんね、湊。自分のことでいっぱいいっぱいになっちゃってた」


「そうなんですか。じゃあ、僕もごめんなさい」


「なんで?」


「そんな京一さんに冷たくしたから、僕はもう貴方の玩具でも何でもなりますよ」


「どういうこと?」


「自分勝手でした、感情で動くなんて」


「そんなことないよ」


「僕は貴方のものなのに」


「わかった、俺が悪かったから」


「京一さんは悪くないですよ」


「ああもうそれならさあ、たーくさん喧嘩しよーぜ?」


「え」


「言いたいことは隠さずに言う、そうして喧嘩してたらもっとお互いのことを知れるでしょ?」


「そうですね」


「そしたら、今よりももっと良い関係になれると思うんだよね」


「良い関係って?」


「ずっと一緒にいたいって思える関係」


「僕は今だってずっと一緒にいたいって思いますよ?」


「嘘つき、泣いてんじゃん」


「これは、その……ああ、そうですね」


と言い訳するのを諦めて、適当に納得された。


「だから、隠すなよ?」


と小指を差し出すと


「わかりました、約束します」


と小指を絡められた。


「じゃあ早速、湊クスリ買ってきて」


「絶対に嫌です」

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