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第8話「ちょっとそのテンションわからないんですけど。どんな気持ちで見ればいいの?っていうツッコミする人、多いよね①」

 刃の部分が粉々になったハサミを持ったまま、僕は立ち尽くしていた。状況が分からない。刃元から刃先までがなくなっている。


 ハマグリ刃のスタンダードなハサミで、刈上げの練習のお供だった僕の愛鋏だったのに……。脳裏に練習してたころの記憶がよぎった。


 それにしても、金属だぞ。モリブデン鋼だから別に珍しくもないけど高いんだぞ。七万もしたんだぞ。なのに一瞬で粉々……


「はぁ……」


 ちなみに僕のため息じゃない。魔王は確かにため息をついた。今度は気のせいじゃない。ハサミが刃こぼれしたことを不思議に思わないのか? まるで「やっぱりな」と言わんばかりのため息だ。


 ……もしかして魔王はこうなることを知っていた?


 僕がここまで頭を巡らせたところで、邪魔するかのように僕の隣に立っていたオールドエイトの声が聞こえた。


「どうされました、まおうさま? あーっ! ななな、なんだこれはー! ハサミの、ハサミの、はのぶぶんがおれているー!」


 なんだ急にこの棒読みのようなセリフは。オールドエイトを見ると、大げさに両手を上げて驚いている。何がしたいんだコイツは。


 よくみると右手が手招きするかのように手をヒラヒラさせている。


「はぁ……」


 魔王はチラリとオールドエイトを見てため息をついた。少しの沈黙の後、魔王は息を小さく吸い込んで話し始めた。



「なんだと、おーるどえいと。ハサミの、はのぶぶんがおれているだってー。これではおれのかみがきれないではないかー」


 これまたビックリするぐらいの棒読みだな。後ろ姿しか見えないけど、耳が赤くなってるよ。肩が小刻みに震えてるよ。魔王、恥ずかしがってるよ。あの魔王だよ。


 こっちが恥ずかしくなるような「この世界は我が手にあり!」とか真顔で言うはずの魔王がだよ。


「たいへんだー。まおうさま、おきをたしかにー」


 オールドエイトが棒読みのセリフを吐きながら魔王に近づく。


「おいたわしや~、まおうさま~」と言いながら「およよ」と言って泣きマネを始めた。


「おい。まだ茶番は続くのか?」


 僕のツッコミにもオールドエイトはめげない。


「まおうさまー、これからどうなされますか~」

「懲りずに続けるのかよ!」

「まおうさま~、はやく~、はやく、つぎのセリ……じゃなくて、おことばを~」


 もうセリフって言ってんじゃん!


「つぎのセリフ……えっと。こ、こここ……」


 いやいや、魔王、必死に次の言葉を言おうとしてるよ。耳が真っ赤かだよ。肩ごしに手に書いたセリフのカンペが見えてるよ。緊張しいなの? 魔王?


「こ、こここ、これではシルバをもとのせかいにかえせないではないかー」


 そのセリフで僕は我に返った。この茶番は置いておいて、魔王の髪をカットできないのはさすがにまずい。魔王は約束を守ると言った。でも、カットできなかった時は帰してくれるとは言っていない。僕は初めて初めて焦った。


「待て待て、ハサミはまだある! これで切らせてくれ!」


 僕はカバンからもう一つのハサミ、片刃が櫛状になっているセニングを取り出して魔王の髪をカットしようとした。しかし、結果は同じでハサミは刃こぼれし、粉々になった。


 すかさず僕は片側のみに刃がついているスライドを取り出して髪を切ろうとする。髪を持つ手がわずかに震えて手元が狂いそうになる。しかし、その心配も空しく髪に触れようとすると、さっきと同様にハサミが粉々になってしまった。


 家から持ってきたハサミはこれですべてだった。嘘だろ。まだ信じたくない自分がいる。

 ハサミを持つ手が震えだした。オールドエイトがくるくる回りながら言葉を続ける。


「ああ、シルバよ。はさみをこわしてしまうとはなにとだ~」


 突っ込む気力がわかない。魔王が真っ赤になっているのとは対照的に、今の僕の顔は青くなっているに違いない。


 魔王は椅子に座ったまま、僕を見ようとしないまま、言った。


「もういい。オールドエイト。初めからこんな異世界人に期待した余が悪かったのだ」


 僕が聞いていてもひどく落胆している声質だった。同時に僕にを突き放すような冷たさを感じた。



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