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第7話「自分の希望を伝えなければ、希望のヘアスタイルには近づけない。人生なんてそんなもの③」

 やはり、ここは異世界なんだと実感した。僕の想像じゃあ追い付けない部分がある。このままこの世界を色々見て回りたいところだけど、僕から見たら異常に見えるこの世界に長居するのは精神衛生上良くないのかもしれない。


「よし、わかった。じゃあ、さっそくヘアカットするから座ってくれ」


 魔王は変形した玉座に座る。幸い道具は、おっちゃんの店に行ってすぐに弟子入りするつもりだったからハサミと櫛ぐらいは持っている。簡単なカットぐらいはできるだろう。


「魔王。カットクロスになるようなものある?」

「カットクロスとはなんだ?」

「切った髪がかからないように魔王につける前掛けのようなものだ」


 魔王がオールドエイトの顔を見る。オールドエイトは自らのマントを取り外し、魔王の前にマントをかぶせた。


「これでいいだろう」

「メガネ。やればできるじゃないか」

「ふん。私は元々優秀な部下なのだ。自信満々ダッシュ!」

「もう、原型とどめてないぞ」


 簡易的だが用意ができたところで、さっそくヘアカットに入ることにする。そもそもこの世界には洗髪というものが習慣化されているのかわからない。魔族だから髪の手入れをちゃんとしているとは思えないからな。


 僕は魔王の背後に回り、髪を見つめる。黒くて艶のある髪が床まで伸びていた。思った以上に綺麗な髪だった。指で髪の通りを確認するように手櫛で髪を梳く。するりと指が抜ける。髪質も柔らかい。ついつい、切るのもったいなぁなんて思ってしまう。


「どれぐらいの長さに切るんだ? 背中ぐらい?」

「いや。首が見えるぐらい短髪で」

「本気で言ってるの? もったいないよ、こんな綺麗な髪!」


「……そうか。私の髪を褒めてくれたのは二人目だ。褒めてくれてありがとう。しかし、いい加減うっとうしいから髪を切りたいのだ。髪を切って気分一新したいのだ」

「傷心OLみたいなこと言うなよ」

「OLがなにかわからないが、傷心なのはあながち間違いではないかもな。さぁ、ばっさりいってくれ」


 ちょっと魔王の傷心とはなにか気になるけど、話に深入りして帰れなくなるなんてことがあっても嫌なので理由は聞かないことにした。


 だけど、同時にどこか心の中でひっかかる自分がいる「それでいいのか?」と。僕が目指す理容師は……もっと違うはず。


 そこまで考えて慌てて首を振る。ここは異世界。僕の常識が通じない世界だ、深入りするとやっかいなことになる。僕はなんとか気持ちを持ち直した。


「魔王、後で後悔するなよ」

「後悔するぐらいなら、お前を異世界から呼び寄せん」

「わかった」


 最初のお客が魔王で、長髪バッサリとは。まったく度胸がいるなぁ。僕は櫛で何度か髪を梳いた後、ハサミを肩辺りの髪に入れる。


「いくぞ」

「あぁ」


 僕はハサミを握る手に力を籠める。ハサミはどんどん髪を切断していーー


 ハサミが髪に達したその瞬間、髪の周りが青白く光る。次の瞬間。ハサミの刃の部分が粉々に砕けた。


 どうなってるんだ?


「はぁ……」


 気のせいか、肩ごしの魔王がため息を漏らした気がした。


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