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第6話「自分の希望を伝えなければ、希望のヘアスタイルには近づけない。人生なんてそんなもの②」

 二人に案内された場所は、さっきの場所よりより一層開けた場所だった。天井も高い。自分の身長の三倍はあると思われる扉を開ける。


 部屋の両端にはゲームに出てくるモンスターと呼ばれるような異形な石像が並んでいた。部屋の真ん中には部屋中を縦断するように装飾が施された赤絨毯がまっすぐ伸びている。


 絨毯の先には刺々しいデザインの大きな椅子……というより玉座が存在していた。


「えーっと。まさかあの玉座で髪を切れと?」


 すると魔王は申し訳なさそうに頭をかいた。


「申し訳ない。適当な椅子がなくてな」


 魔王とは対照的で自信満々にメガネが僕と魔王の間に割り込んできた。


「シルバ、魔王様に粗末な椅子に座らせるつもりじゃないだろうな。許さんぞ! 椅子の真ん中にまっすぐ溝があるような椅子には座らせん! その椅子が金色だったらもっと許せん! 俺が座る!」

「黙れ! エロメガネ! そもそもお前の千里眼で適当な椅子を探せばいいだろ」


「私の千里眼は探し物発見器ではないっ! 馬鹿にするな!」

「なにその中途半端なプライド」

「自信満々デッシュ!」

「語尾が皿に変わってる……」


 ふんっとか言ってめっちゃメガネを上げ下げしてるよ。どや顔するな。メガネの後ろから申し訳なさそうな声が聞こえてくる。


「すまない、シルバ。以前、オールドエイトの千里眼で椅子探しを頼んだんだが、なぜか金色の溝がある椅子しか持ってこなかったんだ……」

「てへっ♪」

「お、お前のセンスを疑うぞ……」


「そうか駄目かぁ。やはり黒にすべきだったか」

「色じゃねえよ!」

「え! 違うの!?」

「驚くな、驚くな! 怖っ。メガネの奥の目が真剣で怖っ!」


「二人とも、その辺りにしてそろそろ髪を切ってはくれまいか」

「魔王様。仕切りの腕を上げましたな」


 魔王城の良心、魔王ラストボース。魔王城なのに良心とは?


 それにしても。この玉座、大きすぎる。まず背もたれ部分が魔王の座高の二倍はある。勇者との最終決戦にはふさわしいのかもしれないけど、カットしずらいことこの上ない。


「魔王。この背もたれだけはなんとかならないだろうか」

「ふむ。他に希望はあるか?」

「他? 言えばキリがないけど、あとはこの刺々の装飾が邪魔かな?」

「よし、わかった」


 魔王が玉座に近づくと、玉座に向かって耳打ちするように話しかけ始めた。さらに椅子へ耳を傾けてうなずく魔王。僕はアンタだけはまともな人種、じゃない魔族だと思ってたのに。


 何度かの魔王と玉座のやり取りの末、魔王が戻ってきた。


「大丈夫だそうだ。刺々部分が私のアイデンティティだと譲らなかったが、なんとか納得してくれた」


 可哀そうな魔王。きっとメガネの他にも変な部下に囲まれてたから、玉座しか友達がいなかったんだろうな。頂点を極めると孤独になるというが本当なんだな。と思いながら、魔王越しの玉座に目をやる。


 すると玉座が生き物のように動き出し、棘がなくなっていく、背もたれ部分もどんどん低くなっていった。僕は何が起こっているのか理解に苦しんだ。それを見て魔王が気をまわしてくれるように解説をしてくれた。


「実はこの魔王城自体が生き物なのだ。ゆえに交渉次第で好きな形に変えることも可能なのだ」

「魔王様。そんな重要機密を話してしまっては」

「いいのだ。散髪が終われば元の世界に帰るんだから、言っても構わんだろう」


 二人の会話でなんとなく事情は察したが、それにして……


「魔王、生き物の中で生活してるの?」

「ああ」

「魔王、生きている玉座に座ってるの?」

「ああ……なんだ、その可哀そうなものを見るような顔は」


「だって、生きている椅子に尻をつけているんだろ?」

「いや。お前の世界だって馬や象に乗るではないか。それと同じだ」

「そ、そうなんだ」


 同じかなぁ……うん、同じだな。いや、同じじゃねえよ!

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