第52話「カット直後が完成形とは限らない⑤」
再び、舞台は異世界の馬小屋。過去に思いを馳せいたからずいぶん時間が経った気がする。気のせいか三週間ぐらい過ぎた気がする。
オルエの声が聞こえた。
「いや。マジで長かったわ。校長の話より長いわ。このまま異世界モノじゃなくなるのかと思ったわ。なんか真面目ぶりやがって。昔の少年ジャ●プの漫画みたいに、普通のコメディ漫画だったのに人気取るためにガッツリ格闘モノ漫画へ急に変わるぐらいの方向転換で思わず焦ったわ」
「今も人気ない漫画は結構方向転換あるぞ。わかってやれよ……」
「いや、俺はわからないね。幽霊のままでずっといて欲しかったもん!」
「特定するような書き方はやめろ! 妖怪等と戦う設定は最初からあったんだ! あったんだよ! 急に霊界探偵になったわけじゃないよ!」
「え? なんの話をしてるの? 実写化記念?」
「もうこの話は止めよう。無駄に敵を作りすぎる」
「シルバァァァ! 君が 泣くまで 話すをやめないッ!」
「もう漫画がごちゃごちゃなんだよ! お前こそ本編からずらしすぎだろ!」
せっかく僕の回想から戻ってきたっていうのに、なんなんだよ、いきなり。鬱憤晴らしのようなネタを放り込んでくるのは止めろ。
オルエは反省したのか、干し草に寝転んで深いため息をついた。
「……そうか。シルバの人生、おっさんパラダイスだったんだな」
「おっさんパラダイス言うのやめろ」
オルエは何度も頷いている。おかしい。僕は回想していただけのはずだが……
「って。僕、また思ったこと口に出してた?」
「めっちゃ出してたぞ。しかも懐かしそうに。ご説明ありがとう」
「殺して! 今すぐ殺して! 恥ずかしくて死にそう!」
僕は両手で顔をふさぎ、干し草の上をごろごろと転がった。それを見てオルエは「羞恥に苛まれたオタクはよう転がるわ」と嬉々とした口調で言った。くそう……
「シルバ。ちなみに結論がわかりきってる回想編は短くした方がいいって小説の書き方の本に書いてあったぞ」
「終わった後に言うなよ!」
くそう、なんか久しぶりだな。この無駄に行数を過ごす感覚。無駄話万歳。
「シルバ。理容師になるって決めたのは高校の時だったのか?」
「んー、まぁそうだね。まだ中学の時点ではハッキリとは決めてなかったな。おっちゃんの真似事をして友達の髪を切ったりしてたら徐々にっていう感じかな」
「なるほどな……って、お前、友達いたのか!」
「い、いるよ……」
「ちゃんと目を見て言えよ」
この本編にまったく戻らない感じも久しぶりだなぁ。僕は今までどうしてたんだっけ?
最初は魔王城にいて、その後、シルバに引きずられて外に出され、事情を聞き、勇者の装備を手に入れるためこの街にやってきて、旅費を稼ぐためにバイトをして、今、一晩の宿を求めて馬小屋ってわけだ。はい、あらすじ終わり。
オルエは再び何度も頷きながら返事をした。
「うんうん。なにはともあれ、シルバの『おっさんパラダイス編』堪能させていただきました。星三つです!」
「おっさんパラダイスって。なんかイメージだけだけど汗臭そうだな」
「あー、俺の周りも『おっぱら』だったらなぁ」
「略すなよ」
「あー、おっぱら、おっぱら」
「お前、それ、言いたいだけだろ。まぁ、オルエは相手が人間だと、余計に話づらさを感じるだろうな。これからの旅は僕が助けられることも多いだろうから、バイトぐらい僕が頑張るよ。非戦闘員だし」
「……シルバ」
「でも、明日の仕事はサボるなよ」
「メガネに誓ってサボりません!」
「メガネに誓ったってことは、こいつ、本気だ……」
僕がバイト先で職人のおっさん達と話ができるという話題からずいぶん脱線したけど、こんなところでも理容室での日々が役に立つとは。おっちゃんのありがたさを感じる。
オルエは寝転んで天井を見ながら呟くように言った。
「とはいえ。やはり俺とシルバでは同じようで違うんだな。やはり……」
「そりゃそうだろ。お前は魔族だし」
「種族の話ではないのだが。まぁいい」
そう言うとオルエは僕に背を向け寝転んだ。
「まぁ、お前の過去という答え合わせも聞いたし、俺は満足だ。そして、少し羨まし……ちっ。もう寝るわ」
「なんだよ。僕も言ったんだから、お前も昔話をしろよ」
「ぐーぐー」
「口で言うんじゃねえよ」
今日はもう疲れた。明日も仕事だし、まずはゆっくりと眠るとしよう。鼻を通り抜ける干し草の匂いにも慣れてきたころ、僕はゆっくりと眠りについた。




