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第49話「カット直後が完成形とは限らない②」

 僕は自室を出て、父がいると思われる居間を目指す。緊張からか耳が聞こえにくいのに、心音だけは響いてくるのがわかった。大丈夫、大丈夫、と何度も言い聞かせて、ついに居間のドアの前に立った。


 部屋の中では母と父がいるようだった。引きこもる前は無造作にドアを開けて居間に入っていったのだけれど、緊張のせいか、ドアをノックしてしまう。面接かよという心のツッコミにも笑う余裕はない。ノックした後も部屋の中の会話は続いていた。


 き、聞こえていない。僕はもう一度、気合を入れなおしてノックをした。だけど、反応はない。ノックの音が小さすぎるのだろうか。僕は思い切ってドアをノックしようと反動をつけた。


 すると同時にドアが開いた。


「はうっ!」


 目の前には父がいて、僕は父の顔面に裏拳を入れてしまった。鈍い感触が手の甲に残る。や、や、やってしまった! なにも言う前から宣戦布告ぅぅぅっ!


 うずくまる父。緊張で顔が引きつる僕。裏拳出したまま固まってる。僕はようやく声を振り絞った。


「ご、ごめん……なさい」


 母が僕と父を見た後、僕を見つめた。


「志瑠羽、反抗期! 思春期! 第二次性徴期!」

「ちちち、違うよ! ドアをノックしようとしたら父さんがいたんだよ!」


 必死に弁解しながら、最後のはなんだったんだと心の中でツッコんだ。おかしい。まったく僕の思い描いた告白の時間じゃない。もっと親子の緊張した場面のはずなのに!


 父は顔をさすりながら立ち上がってくる。僕は一歩下がってしまう。きっと怒ってるに違いない。最悪のタイミングだ。指の間から、父が睨んでいるのがわかった。


 何を言われるか恐怖し、最悪、暴力が振るわれることを覚悟した。


 しかし……


「は?」


 僕を見た父親の第一声はこれだけった。目線は僕の頭へと向いていた。ですよね~。昨日までのボサボサ頭が急にこの髪型ですもんね~。だけど、髪型を変えた僕の姿を見て、ただならぬ雰囲気を感じたのか父はそれ以上髪型には触れなかった。


 状況は最悪だけど、話すなら今しかなかった。ここで引いたら、しばらくは話できないだろう。僕は勇気を振り絞った。


「と、父さん。話があるんだ……」


 父さんは僕をジッと見つめたまま、しばらく動かなかった。というか、頭しか見ていなかった。緊張が走る。無言の時間。早く終われとも終わるなともいえない時間が続いた。


「あらあら」


 僕と父の沈黙へ割り込むように母が、僕の髪型を見て声を上げた。


「あらあらあらあらあらあら」


 何回「あら」って言うんだよ。顔が半笑いなのは気のせいだろうか。いや、気のせいではない。


「その髪どうしたの? ヒーロー?」


 母、恐ろしい。どストレートに聞いてきた。


「いや、息子に甲●バンドの話されてもわからないよ……」

「すごい、わかるんだ!」


 悲しい。わかってしまう。ここ数カ月、おっさんばかりと話してたせいでわかってしまう。というか、母に深刻さはまったくない。それも怖い。こんなに息子が悩んでたっていうのに!


 母の笑顔がいつの間にか半笑いからニコニコに変わっていた。


「お父さん、志瑠羽もこう言っていることですから」


 父は母の言葉を聞きながら顔をさする。やがて鼻から一息吐き出すと僕に言った。


「少し居間で待ってなさい。顔も殴られたし、ちょっと見てくる」

「うん……」


 そのまま父は居間から出ていった。入れ替わりに僕が居間に入って待つことになった。 居間のソファに座り、父を待つ。


 あっと言う間に一時間が過ぎた。父が帰ってこない。嘘だろ?


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