第38話「今の子はスポーツ刈りを知らないって本当ですか?!①」
馬がいない、だけど馬小屋。そこに人間と魔族が二人。敷き詰められた藁の上にシーツをかけて、そこへ寝転ぶ。フカフカではないけど、地面に寝るより遥かにましな環境。藁の匂いが鼻の中を通り抜ける。日本で普通に暮らしていては体験できない。
母さん、僕は今、異世界の片隅で暮らしています。
――じゃねえよ。
異世界に転移させられて、ボケたおす魔族のツッコミをしつつ、勇者の装備をかっぱらおうとしてます。そして今日は馬小屋で寝ているこの状況。なんなんだよ。あんまり熟睡できる気がしない。
隣ではメガネ悪魔が、すやすや寝息を立ている。時折、寝言まで聞こえた。
「むにゃむにゃ、もう食べられないよ……」
お前がその寝言を言うな。それを言っていいのは美少女だけだ。
「むにゃむにゃ、もうメガネかけられないよ……」
「どういう状況だよ! っていうか、お前起きてるんだろ!」
「むにゃむにゃ、起きていないよぉ……」
「起きてるじゃねえか」
オルエは目を開けると「むにゃむにゃ」と言いながらメガネを上げて目をこする。一挙手一投足に腹が立つ。っていうか、コイツメガネをつけたまま寝てやがる。メガネの風上にも置けない男だな。
「シルバ、なんだよ。人がせっかく眠ってたのに。ポエムみたいな独り言言いやがって」
「はっ。自然に声出てたのかよ」
時々、心の声が口から出てくるらしい。これからは気を付けよう。
「まぁ、言葉によっては聞かなったフリをしてやるから心配するな」
「それも嫌だろ。変な行動をした時はちゃんと言ってくれよ」
するとオルエは「うーん」と言って少し考える仕草をした。
「とはいえ、時と場合に寄るだろ。例えば、シルバが隣でゴソゴソしてたら、気づかないフリするのがジャスティスだろ?」
「そのセリフを言っていいのは女神だけだ! 悪魔は黙ってろ!」
まったく油断も隙もあったもんじゃない。っていうか、ゴソゴソなんてしてないから。焦る僕にオルエは天井に向かって話始める。
「戯れの会話はおいておいて。今日一日働いてみてわかったが、やはり俺は大勢との仕事は向いていないな」
「今までの会話戯れだったの? っていうか、仕事に関しては慣れのもんだいじゃね?」
「それはコミュニケーションとれる奴の理屈だ。それにしても、なんでお前はおっさん達とあんなに話できるんだよ」
オルエは一見、細かいことは気にしないようなズケズケモノを言うような性格のようで、ちゃんと周りとの関係を気にしている。繊細なのか大雑把なのかどっちなんだよ。
「え? あぁ。僕だってもともとコミュ障寄りだよ。引きこもった時期もあるし。だけど、おっさんだけは別なんだよ。親しみがあるんだ」
「そういえば、前もそんなこと言ってたな。今日のお前を考えると引きこもりの時期があったなんて考えられんな」
「そうかな。まぁ、色々あったし」
僕は自然と異世界転移される前の事を思い出していた。




