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第34話「新人にとっては何がわからないのかわからないのがデフォルト②」

 辺りを見渡したが、もうマクラの姿はなかった。

「大丈夫なのか、アイツ一人で」

「大丈夫だろ。子供じゃないんだし。魔法っていうスキルも持っているしな」


 襲われる心配はないとしても、襲う心配はあるだろ。

 とはいえ、マクラだったら魔法を使って特別な仕事もできるだろう。できれば稼いでほしい。まったくもってヒモの発想だが、もういっそヒモでもいいかと思ってしまう。


「行くぞ、シルバ。役立たず男組でなんとか仕事を探すとするか」

「お前、自分の事を役立たず男組なんてよく言えるな」


 気のせいか、オルエは嬉しそうな顔をしている気がする。こんな泥臭く稼ぐ状況なら、まっさきに嫌がると思ったのに。

 オルエは拳を天に突き出した。


「役立たず男組、略して『ヤダオ』コンビで頑張るぞ!」

「その略し方やめろ。サングラスが必要になるだろ」


 オルエについて行くこと数分ぐらい。大きな四角い建物が見えてきた。文字は読めないが、おそらく冒険者ギルド協会と書いてある。なぜならオルエがそう言ったからだ。あれ? ……ギルドと協会って意味被ってない?


 僕の身長は175センチあるんだけど、その倍の大きさがあるような扉を開ける。中は吹き放ちにされたピロティのような空間が広がっていた。入り口手前にはサロンのような談話空間が広がっていて、奥には受付と掲示板が並んでいた。


 サロンには軽装な鎧をまとった人間や、ローブと杖を装備しているいかにも魔法使いな人たちもいた。やはり、水芸をする女神はいなかった。少し残念。


 なぜか魔族と旅をすることになって、勇者の装備を盗もうとしている僕たちが冒険者としての第一歩を歩むことになるとは。不思議なものだ。初仕事ってなんだろうなぁ。モンスター退治は俺たちヤダオには無理だろうな。はっ。ヤダオって普通に使ってしまった。危ない危ないダメ人間を受け入れたらそれは転落の道へ一歩前進だ。嫁さんにキン●バスターかけてしまう。嫁はいないけど。いや、二次元にはいるけどね! いるけどね! 触れられないけどね。会話も成立しないけどね。でもだからってなんなんだよ。三次元の恋人や嫁さんにだって、触れさせてもらえないヤダオはいるし、話なんて成立してるように見えてしてないよね。妻の取り扱い説明書なんて本もあるぐらいだし。テレビじゃ芸能人嫁が旦那の悪口ばっかり言ってるじゃないか。だから三次は嫌なんだよ。いや、これ、負け惜しみじゃないからね。負け惜しみじゃないからね! すぐ、パートナーがいる人間はこちら側を下に見下してくる。その割に既婚者は『結婚lって地獄だぜ』とか言ってくる。どっちなんだよ。天国なの? 地獄なの? フィッシュ?orチキン? ヘブン?orヘル? 


 って。


 僕 は 何 を 考 え て い る の だ 。


「ついたぞ。さぁ、仕事を探すぞ」


 オルエの言葉に我に返る。危ない危ない。ダークサイドに堕ちるところだった。コーホーコーホーって息遣いしながら仮面を被らないといけないところだった。


「まぁ、お前は文字が読めないだろうから、俺が代わりに探してやる」


 仕事の候補はオルエに任せることにした。……だけど。あれ? 冒険者らしい人たちが集まっている掲示板を通り越して、別の掲示板の前に僕たちは立っていた。周りには何の装備も持っていない一般市民が掲示板を必死の形相で眺めている。


 こいつら。ヤダオのニオイがプンプンする。世紀末でモヒカンのならず者に消毒されそうだ。


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