第33話「新人にとっては何がわからないのかわからないのがデフォルト①」
タミオンの街中は人々や馬車が行き交い、レンガ造りが中心の街並みで作られている典型的なゲームやラノベに出てきそうな中世的な街並みだった。僕はホッとした。
少し前の話だと車も貴重だがあるという話だったので心配していたのだ。果ては宇宙船まで飛び交い、天人が闊歩してるんじゃないかって。
どうやらここはその心配はなかった。ただでさえ、紛らわしいのにそこまで被ってしまったら、存在意義にも関わってくる。
僕が物珍しそうに街中を歩いていると、オルエが「田舎者と思われるからやめろ」と言ったが、無視した。
それ以上にマクラが大声で「ほほーう。これがクソ人間どもの住処かぁ~。すごいもんじゃのう」と褒めてんのか貶しているのかわからない言葉を吐いていたからだ。
「そういえばさ。さっきの重装備の警備兵なんだけど。お前の千里眼で見破ることができなかったの?」
「お前なぁ。俺がいつも千里眼使ってると思うなよ。千里眼使うのも魔力を消費するんだぞ。訓練された鬼退治する人たちじゃあるまいし。常に全集中できるわけないだろ。そして千里眼に透視能力はない」
「じゃあ、本当に誰かわからないんだな」
オルエは少し考える素振りをみせた後、答えた。
「まぁ、だいたいの予想はついている。だが確証がない。こちらの邪魔さえしなければ放っておけばいい」
確かに助けてもらったし、余計な詮索はトラブルの元だろう。
タミオンの街の中央に位置するという噴水広場まで到着する。するとオルエが僕たちを立ち止まらせた。
「ところでだ。お前たちに知らせることがある」
「なんだよ」
オルエはスーツのポケットに手を突っ込んだ後、再び手を出して、お手上げの仕草をした。
「衣装を買ったのでもう金がない。このままじゃ宿にも泊まれないのだ」
「いや、それは早く言えよ! どうするんだよこれから」
「俺は確信した……金を稼ぐ必要がある!」
「当たり前のことを自信満々に言うな!」
勇者の装備を奪う旅のはずなのに、まさかお金を稼ぐことになるとは。計算済みだと思っていたオルエの行動がまったくの無計画だということに愕然とした。
「この甲斐性なし!」
「仕方ないだろ。身支度して魔王城出たらバレバレだろうが。着の身着のままで出てきたから魔王城も見逃したのだからな」
「しかたないのう。じゃあ、ここからは別行動じゃな」
マクラはあっさりと承諾した。もっとワガママ言うかと思っていたのに意外だった。
「じゃあ、とりあえず仕事を探しに行くか」
「オルエ、どこかアテがあるのか?」
オルエは顎に手を当てて少し考える仕草をしたあと、一つ頷いて答えた。
「冒険者ギルドに行けばなんとかなるだろ」
「魔王軍が冒険者ギルドだと……なんか色々とすごいな。潜入捜査みたい」
「いや、普通に生活費稼ぎだけどな」
「び、貧乏が憎い……若者のお金離れ顕著」
いや、ちょっと待て。今、大事なことを聞き逃した気がする!
「あれ、今、マクラが『別行動じゃな』って言わなかったか?」
「言ったよ。そしてもう行った」
周りを見渡すとマクラの姿がなかった。ショッピングモールに行って、一瞬で子供の行方を見逃す親のような気分だぜ……




