第32話「職務質問される人は何度もされる。一日に同じ人に職質されることもある②」
オールドエイトを信じた僕が馬鹿だった。
すぐに僕はフォローに回る。
「ば、馬鹿! 冗談ですよ。コイツ、すぐにボケてウケを狙うんですよ~」
なぜ、権力の前に出てしまうと、こんな下手にでてしまうのだ! 僕の馬鹿馬鹿、小市民! いや、警備兵、めっちゃオルエを睨んでいるし!
「真面目に答えろ、どこから来た」
「えー、それ答える義務あるんですか? 任意ですよね? だったら拒否します」
オルエはまったく怯むことなく答えた。いいんだよ、そういう口答えは! 『職務質問受けてみた!』みたいな迷惑系動画配信者みたいなことするんじゃないよ!
「お前、ふざけるのもいい加減に……」
警備兵の槍が震えている。強く握りしめているかだろう。これは怒る寸前だ。ここは、マクラになんとかしてもらおう、と隣を見る。
「おおっ、これが人間どもの使う槍か~、ホントに雑魚兵士にふさわしい、雑魚武器じゃのう」
マクラは好奇心のままに警備兵の槍の下の部分を握って揺らしていた。いや、槍を震えさせてたのお前かよ!
「小娘、槍を離せ!」
警備兵のこめかみがピクピクしてる。駄目だ。この二人に任せた僕が馬鹿だった! もうこうなったら土下座しかない。なんにも悪いことしてないけど謝るしかない。もう小市民でも底辺でもいい。こんなところで足踏みしているわけにはいかない。僕はジャンピング土下座の態勢に入った。
「エルアモ、待て。その者たちは知り合いだ」
警備兵の詰所から、声が聞こえた。この雑魚兵士はエルアモと言うらしい。エルアモが警備兵の詰所らしき場所を振り返る。大きな金属音をさせたながら何者かが外に出てきた。
「ブロッパ先輩。貴方の知り合いでしたか」
全身金属の鎧に身を包まれていてまったく誰かわからない。戦でもないのに、その重装備。体がまったく露出していない。戦いにくそう。お前の方がよっぽど仮装大会だろ。僕の心の中のツッコミが聞こえたのか、エルアモが僕を戒めた。
「あの人はいつも臨戦態勢でこの街を守っておられる大先輩なんだ。ブロッパ先輩を馬鹿にするのは俺が許さん」
なんだよ、そのソウルシンガーが叫びそうな名前は。ガチャガチャ煩いなぁ。でも、どんどん近づいてくる鎧姿の警備兵はさすがに不気味さと迫力を兼ねていた。
「そいつは、テッシ―村の同胞なんだ。おかしな恰好は許してほしい。田舎者だからこれでも一張羅のつもりなんだ」
鎧野郎に言われたかねえよ! とツッコみたかったが、助けてもらっているので僕は我慢した。
オルエはしばらくブロッパを睨みつけた後、ゆっくり彼に近づくと話始めた。
「お前、なんでテッシ―村を知っ……」
鎧男の目の前で立ち止まるオルエ。言葉も途中で詰まってしまっている。しばらくじっと鎧男を見つめているオルエはやがて何かに気づいたように鎧男の肩を叩いた。ガシャガシャ金属音が煩い。
「おー、ゲロッパじゃないか!」
「いや、ブロッパだ」
「すまん、すまん。ソウルシンガーかと思ったから」
「そうるしんがー? なんだそれは」
やめろ。それ以上話をややこしくするな。僕はオルエの口を塞いだ。
「エルアモさん、これで僕たちが怪しいものじゃないってわかったでしょ? でしょ? 冒険でしょ?」
最後のは余計だった。ともかく、なんとか警備兵の疑いも晴れ、僕たちは街の中に入ることが許された。
「はぁ、助かった。それにしも、オルエ、お前のせいで大変な目にあったぞ」
「あの、ブロッパという男、何者だ……」
「お前も知らないのかよ」
するとマクラが代わりに答えてくれた。
「テッシ―村とは、我ら魔族が人間界に潜り込むために作った架空の村の名前なのじゃ。疑いをかけられれば、この村の名前を出すことになっておる」
「じゃ、じゃあ、アイツはもしかして……」
「おそらく、魔王軍の者じゃないかと」
二人が分かっていないということは、魔王軍公認ってわけじゃなさそうだ。だが、僕たちを助けてくれたことには変わりがない。感謝するとしよう。
こうして僕たちはタミオンの街に入ることが出来た。




