第31話「職務質問される人は何度もされる。一日に同じ人に職質されることもある①」
ようやくタミオンの街までたどり着いた。
魔王は一カ月の猶予というが、すでに一カ月経ったような気分だ。僕とマクラが街中に入ろうとすると、タミオンの街の入り口で立ち止まるオールドエイトがいた。
「どうしたんだよ。今更怖気づいたか?」
「ちげーよ。お前に言っておかねばならぬことがあってな。今から俺はオルエと名乗るから」
「なんで? 自分の名前にコンプレックスが?」
「今更こじらせないぞ。俺の名前は人間界では知られすぎているからな。一種の偽名だ」
するとマクラが頷きながら答える。つられてツインテールが跳ねるように動いた。
「まぁ、そうじゃな。『腐敗の将軍、オールドエイト』は人間どもにとっては苦い記憶しかないじゃろ」
「ふん。それは人間どももお互い様だろ」
ここはチャンスとばかりに僕は口を挟むことにした。
「なんで『腐敗の将軍』なの?」
マクラが片目を閉じながら、少し考えて答えた。
「それはな、卑怯な手ばかり繰り出して、人間どもを苦しめたから心が腐ってるという由来じゃ」
「あー、それわかるわ」
「わかるなよ! 俺、いつも正々堂々だったし」
「それはあくまでもあなたの感想ですよね?」
「シルバ、なんで論破の人みたいなこと言うの? あぁ、そうだよ。戦いに正々堂々も卑怯もあるか。だから俺は腐ってない! 腐敗臭がする新鮮モノじゃい!」
「最後の言葉の意味は分からんが、まぁ、わかったよ。僕もこの街で面倒はごめんだからな。それじゃあよろしくな、オルエ」
なんかオルエって一文字変えたら、臆病者の一撃の曲みたいだな。と思ったのは心の中に置いておこう。
「ちなみにマクラはマクラのままでいくらかの」
「なんで?」
「私は先の大戦には直接的に関与しておらんのでな。人間どもには知られておらんのだ」
「なるほど、有名じゃないからっと、メモメモ」
「はぁ!? シルバ、言葉に気を付けるのじゃ。名前なぞただの飾りじゃぞ! 偉い人にはそれがわからんのじゃ! ついでにお前も偉くはないが見る目は節穴じゃ!」
「ハッキリ言う。気に入らんな」
「どうも」
なんだこの会話は。今から宇宙空間に足のついていない機体で出撃するみたいじゃないか。まぁ、マクラに言ってもそれはわからないだろうけど……ん? じゃあ、なんだあの受け答えは! ……気にしたら負けだ。
それにしても、なぜか誇らしげなオルエがムカつく!
改めてタミオンの街を見る。城壁のようなレンガ造りの壁に囲まれた、なかなか栄えている街のようだ。門には警備の兵士がいるようだが、厳重なチェックは特になく、多くの人々が行き来していた。
さっそく僕たちも門をくぐろうとした。まだなにもしていないのだが、悪いことをしているようで緊張する。僕が横目で警備兵を観察する。金属でできた軽微な防具を付けて、槍を持っていた。まごうことなき雑魚兵士である。
「おい、お前たちちょっと待て」
警備兵が僕たちを呼び止めた。僕は肩を少しすくめてしまう。オルエもマクラも動揺一つ見せていない。警備兵が手招きするので、僕たちはそちらへ歩いて行った。僕は小声でオルエに話しかける。
「逃げなくて大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。っていうか、逃げたら余計に怪しいだろうが」
さすがは腐ってても魔王軍四、じゃなくて五天王の一人。肝が据わっている。警備兵の前にたどり着くと、兵は僕たちをじろじろと上から下へと見定めているようだった。
「なんだ、お前たちその恰好は。仮装大会はまだ先だぞ。お前たち、どこからきた」
警備兵の言葉にオルエが小声で「カッチーン」と言った。いや、それオノマトペとかで表せよ。どうやら、自分が考えた衣装を馬鹿にされたのが気に入らなかったようだ。
オルエは鼻を鳴らして答えた。
「ふん。魔王城だ。雑魚兵士」
「は?」
警備兵の眼光が明らかに光った。
おい、まだ街にも入っていないのにトラブルかよ!




