第3話「休日に声を発さないと、平日になって声の音量を忘れるときあるよね? そしてその声の大きさに驚くから気をつけろ①」
僕が魔王のヘアカット……。理容師試験合格したての僕に? 初めてのお客さんが魔王ってわけか。いや、なにそれ。初めては普通が良かったんですけど! いきなりハードモードだな、おい。
……と僕が戸惑っているのをみかねたのか魔王はが話し始めた。
「改めて自己紹介しよう。私は魔王、ラスボースト。この魔王城の管理と魔族及び魔獣たちのもっとも上位の上司にあたる最高決定権を持つ者だ」
割と丁寧な挨拶に違和感を感じてしまう。なんだか、魔王だったらもうちょっと偉そうで良いのに、この男前には謙虚ささえ感じてしまっている。
「そして隣にいるのが、四て……じゃなかった。五天王の一人、オールドエ――」
魔王の喋りを邪魔するようにメガネが僕の前に踏み出して、大声で話し始めた。
「わーれこそは、魔王様直属の四……五天王を束ねるオールエイト様だっ! 下賤の者よ、ひかえ、ひかえおろぉぉぉっ!」
力みすぎたのか、さっきまでよりかなり高い声になっている。しかも、言い終わった後、めちゃったドヤ顔してこっちを見ていた。なんだろう、一歩下がってひざまずけってことだろうか。
っていうか、さっきから二人とも四天王って言いかけて五天王に言い直してるよね? 五天王ってどんだけ使い古されたネタだよ。
すごく嬉しそうな顔をして四て……五天王が一人、オールドエイトが僕の顔を覗き込んだ。
「どうした? 怖かったか? ちびったか? 真の魔族に触れて動けないか? がはははははははっ! お前もロウ人形にしてやろうか!」
突っ込んでいいのか悪いのかわからん。なんで最後のセリフをコイツが知っているんだ。まぁ、態度だけならメガネの方が魔王らしいな。
――はっ。もしかして、僕を油断させるためにあえて部下のふりをしているコイツが魔王なんじゃね? それならしっくりくる。それにしてもコイツの言動がいちいちムカつく。なんか言い返したくなってきた。
「五天王ってなんだよ。中途半端な。もしかしてお前、弱すぎて無理やり四天王に入れてもらいたかっただけなんじゃね?」
「さ、さ、さささ、最弱じゃねえし! 五天王の中で最強だしぃ! そして五天王はちゃんとあるし! 仏教でいえば帝釈天王の位置だし! ちゃんと勉強しろ!」
「異世界の魔族が仏教語ってんじゃねえよ!」
はい、コイツ五天王最弱決定。魔王でもなさそうだわ。
魔王は顔に手を当てて何度か顔を振った後、ため息交じりに答えた。
「オールドエイト、もういい。お前はそんなキャラじゃないだろ。もっぱら頭脳労働がメインのくせに。声が上ずっているぞ。急に偉そうに振る舞うからだ」
「魔王様、大舞台に緊張して声量の出し方がわからずに声が飛んでしまう若手芸人みたいに言わないでください」
「実際、声が飛んでたではないか」
「はぁ? 飛ばしてねえし! あえて飛ばしたんだし! 魔王様には、喧嘩慣れしてないオタク同士が喧嘩の仕方がわからず、ただイキって口喧嘩するだけしかできない者の気持ちなんてわからんのですよ!」
メガネは鼻息荒く、ふんふん言っている。魔王は面倒くさそうにため息をついた。
「あー、もうわかった、わかった。……シルバ、すまぬな。オールドエイトは私の部下で、日常雑務の補佐をしてもらっているのだ」
「はぁ……」
メガネ、めんどくせ! 思わずため息をついてしまった。