第29話「初めていく店は注文システムがわからなくてドキドキする。風邪? それとも恋?②」
暴れながら燃えている魔獣を見つめる。ほんの少しの出来事だったが、戦闘があったんだな……なにがなんだか分からないうちに終わってしまった。
やがて動かなくなった魔獣を見て僕は心からホッとしていた。そんな僕とは違い、オールエイトが声を上げる。
「おい、マクラ! シルバより怒りの炎の度合いが軽くなってないか!」
確かに僕の時は憤怒で、オールドエイトの時は怒気だった。炎の度合いは怒りで表現しているのかなるほど。メモメモ。
オールドエイトの話を聞いて「ふん」と言うと、ひらひらのスカートを翻した。
「いや、お前はもっと苦しめばいいのにという気持ちが働いて、ついつい怒りが小さくなってしもうたのじゃ」
「ひどい! せめて『クリ●ンの分!』ぐらいあってくれよ!」
「せめてとはなんじゃ! クリ●ンは友達少ない主人公の親友ではないか! お前はギョーザ以下じゃ!」
「ギョーザは嫌だよ! 最後は戦闘にも参加させてもらえないんだぞ! 唯一の取柄が腹痛を起こす超能力と自爆だぞ!」
何を言い争っているんだコイツ等は。見かねた僕は二人の間に入る。
「ギョーザって。お前らせめてチャオ――」
「「ストーップ!」」
二人がタイミングよく僕を止めた。
「俺たちはわざとギョーザって言ってるんだよ。わかれよ。な? わかれよ」
「二回言われた……大事な事だから二回言われた……」
僕はこの件に関してはこれ以上触らないことにした。
こうしてマクラのお陰でモンスターを撃退することができた。損害といえば、オールドエイトが噛まれたことぐらいだった。自分が無傷だったことにホッとしたと同時に疑問が浮かんできた。
「なぁ。お前たち。モンスター倒して大丈夫だったの?」
噛まれた頭をさすりながらオールドエイトは答える。
「言っただろう。魔王城の影響外に出ると、弱いモンスターは理性を失うと。だから、俺たちにとってはもう手遅れなんだ」
たしかに聞いてはいたけど、いまいち自分のなかではピンときていなかった。仲間同士が争うなんて。
僕の不服そうな表情を読み取ったのかオールドエイトは話を続ける。
「お前たち風に言えば、ゾンビになったのと同じだ。お前たちだって、ゾンビになった人間をバンバン撃つじゃないか」
「いや、撃つけど。でも、ゾンビだし、こっちもやられるし。倒すことで永眠させるっていうか……仕方ない状きょ……」
そうか。こいつ等も同じ気持ちか。僕がそう思った時にマクラが肩に手を置いた。
「同じじゃ、奴らを葬ることが供養となるのじゃ」
一瞬の出来事だったが、マクラは躊躇なく倒した。今までもこんなことがあったのだろう。もう彼女の中では覚悟完了なのか。
オールエイトも手心が加わってモンスターを倒し損ねたのかもしれない……いや。アイツは弱かっただけか。
魔王城倒したら実は大変な事になるのではないだろうか……オールエイトは前に「気にするな」と言ったけど、頭の中には残っちゃうよな。
そう思うと二人の背中が少し大きく見えて、僕が守られている存在だと気が付いた。
二人は倒したモンスターを丁寧に埋葬していた。僕はそれを少し離れた場所から見つめていた。立ち入ってはいけない気がした。
埋葬が終わり、再び出発しようとしていた時、マクラが目をつむって再び目を開ける。すると声を上げて喜んだ。
「おお、今の戦闘でレベルが上がったようじゃ」
マクラにもレベルを見せてるのかよ。まぁ。目安にはなるけどさ。やっぱりオールドエイトは自慢げな顔してる。悔しいから褒めてやらないけど。
それと同時に疑問が湧いてきた。
「ちなみにモンスターと戦ったら経験値上がるの?」
「上がるよ」とオールドエイト。
「理容師も? 理容師もモンスターと戦って経験値もらうの? それっておかしくない? 理容師だったら散髪した数だけ経験値もらえるのでは?」
「お前は本当に細かいこと気にするんだな。だろうな。せいぜいモンスターどもを散髪してこいよ」
「しねえよ! ハサミもないしな!」
魔王のヘアカットに手持ちのハサミを全部壊してしまったことが悔やまれる……
するとオールドエイトは首を振りながら、お手上げのような手ぶりをした。
「そうだったな。今のお前はコートを忘れた変態みたいなものだな」
「いや、それ裸だから! 下がむき出しだから!」
マクラが僕のスカジャンの袖を引っ張った。下を向くとマクラが満面の笑顔で答えた。
「まぁ、粗末なものじゃからって自信なくすんじゃないぞ」
「下は出してないわ! 粗末でもないわ! ……自信はないけど」
――はっ。ついつい、弱気になってしまった。




