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第25話「『次の方どうぞ』と言われた時の『次、俺だよな?』という不安感がたまらない②」

 僕たちのやりとりを見ていたマクラがしびれを切らせたように足踏みをした。


「お前たち、掛け合いの主導権争いはどうでもいいんじゃ。早く、着替えようぞ」

「そうだった。シルバ、紹介しよう」

 

 オールドエイトは六本腕の悪魔を指さした。


「目の前にいるこのいかにも『カーッカカカッ』と笑いそうな腕六本男はヒラタ・ゲンナイという名前だ。ヒラタと読んでやってくれ」


 一瞬で眉間に皺が入った六本腕男。


「いや、俺としてゲンナイで読んでほしい」

「なんでだよ。お前、ヒラタだろ」

「やめろ。その名で呼ぶの」

「はぁ? ヒラタだろ、お前!」


「やめろ。お前はどこまで敵に回せば気が済むんだ。愛のないイジリは批判の元だぞ。おい、そこのお前もなんとか言ってくれ」


 指さされた僕は当然のように答えた。


「え? 僕? でも、ヒラタだろ、お前」

「お前まで言うか!」


 とは言うものの、若い僕には「お前、ヒラタだろ」という言葉になぜ敏感なのかはわからなかった。わからないことにした。覆面レスラーでもないんだからヒラタでいいだろ。


 この後、ゲンナイの機嫌を取るのに苦労したのは言うまでもない。


 自己紹介も終わり、僕たちは店内を回った。ゲンナイの店は武器や防具を中心に人間界に潜り込むための服などが売られていた。すべてゲンナイが作ったものであるという。


 名前から察するにもしかして異世界人なのか。でも腕が六本あるしなぁ。僕が不思議そうにゲンナイを見ていると、彼は答えてくれた。


「俺の祖父が異世界人なんだよ。だから少しは異世界人の血が残っているんだ」

「異世界人って他にもいるってこと?」

「直近じゃもういないんじゃないかな? 人間族と魔族が大きな戦争をしていた時は、何人か召喚されたらしいよ。だから遠縁の血は残っているけど、もう現地の人間や魔族と混ざってしまっていて、区別はほとんどない」

「そっか」


 じゃあ、僕じゃなくても勇者の武器を扱える奴がいるんじゃね?

 するとオールドエイトがすかさず声をかける。


「お前、今、代わりに勇者の装備を盗んでくれよ。とか言いかけただろ」

「べ、べ、別にそんなんじゃないんだからね!」


 オールドエイトは試着室に入っている。ボックスのような空間にカーテンが付いている。まごうことなき試着室だ。なんだこの人間世界みたいなの。これも昔いた異世界人が作ったのかもしれない。


 しばらくして、試着室のカーテンが開くと、オールドエイトが姿を現した。


「どうだ? なかなかだろ?」


 試着室から出てきたオールドエイトは、黒のスーツ上下に白のYシャツ、黒の細いネクタイを締めていた。なんで背広なんだよ。


 っていうか黒。前を開いていたので、ネクタイの先がズボンに入っているのがわかった。僕の視線に気づいたオールドエイトは嬉しそうに言った。


「おっ。気づいたか? そうだ。笑いのカリスマを意識してみました」

「お前はどこを目指しているんだよ」

「笑いの頂点?」

「なんで僕に聞き返しているんだよ!」


 その内、オールドエイトが筋トレに目覚めるかもしれないな。その前に丸坊主にするかもしれない。


 いや、だから、なんで、お前が、笑いのカリスマを、知ってるんだよ!


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