第23話「最後に『なにか付けますか?』と言われても、かたくなに『なにも付けなくて大丈夫です』と断ってしまう。そんな性格④」
マクラの話がひと段落したところ、オールドエイトがメガネを上げ下げしながら入り込んできた。
「前提の話が終わったところで俺のターン! 我々の目下の目標はなんだ? 魔王様の髪を切ることだろ? だけど、普通のハサミじゃ切ることができない。魔王を斬る力が必要。つまり……」
「勇者の……」
「そう。勇者は魔王様を傷つけることができる。では、どうやって勇者は魔王を傷つけることができるのか? 奴らは素手ではなにもできん。世界樹から作られた勇者専用の武器が魔王様を傷つけることができ、使いこなせるのは勇者のみ……だとこの世界ではされている」
さすがの鈍感な僕でも気が付いてしまった。さっき勇者に会うことはないと思ったけど、どうやらそれは覆りそうだ。
オールドエイトは、いたずら心満載のようなニヤつきで僕に近づいた。
「もうわかるな。勇者の装備をかっぱらうんだよ」
「いや、無理ー!」
「お前がヒロシになってどうするんだ! だけど、そのツッコミ、嫌いじゃないぜ!」
魔王に召喚され、ヘアカットさせられたと思ったら、次は勇者の装備を盗むだって? 僕はとことん王道から外れている。勇者の敵になろうとしてるんだからな。
「でもさ。勇者の装備を手に入れても、使いこなせるのは勇者だけなんだろ? だったら装備を手に入れても意味ないじゃん」
「だから、さっきも言っただろ。『この世界では』装備できるのは勇者のみだと」
「まさか……」
「この世界の住人ではないお前なら装備できる。勇者の装備を仕事道具に加工すれば、魔王の髪を切ることも可能だろう。魔王様は勇者に討たれることなく、魔王城からも解放される。そしてお前も元の世界に帰ることが出来る。一石二鳥、いや三鳥ではないか」
腕を組んで勝ち誇ったような顔をするオールドエイト。それを見て腹立つ気持ちと同時に視界が開けたような気持になった。目標ができるということは、どれだけ困難でも道が見えるということと同義。それだけで少し気持ちが楽になった。勇者から盗むんだけど。
「お前、もしかして僕を召喚した段階からこの計画があったんじゃあ……」
「さぁ? どうだろうな」
「まったく、抜け目ない男じゃのう」
「わっはははは。もっと、もっと、俺を褒めろ! 褒めろよ! 俺は千里眼の持ち主。見通せぬ世界などないわ!」
「僕が襲った時、焦ったくせに」
するとオールドエイトが動きを止めた。どうやら心にグサりと刺さったらしい。
「とにかくだ。勇者の装備はこの世界に四つある。一つは勇者のマント。もう一つは勇者の鎧。そして破邪の聖水。最後に勇者の剣だ」
「え? 勇者はまだ何も手に入れてないの?」
「ああ。俺の情報では手に入れておらん。まだまだ勇者は未熟だからな。だからこそ我らが手に入れるチャンスでもあるのだ」
「それじゃあ、手っ取り早く勇者の剣から……」
「いや、一番近い勇者のマントを取りに行く」
「えー。要らないじゃん。マント」
「魔力を抑える効果があるマントだ。魔王様のカットクロスにすれば、ちょうどいいではないか」
「おおっ。それはいいかも」
勇者のマントをカットクロスに使う……やだ~、興味ある~。
「私は面白そうならどこでもいいぞ。魔法使いの見せどころじゃ」
「勇者のマントが隠されているのは、クレバの洞窟と呼ばれる場所だ。洞窟近くの街までまずは向かう」
「なんか、ファンタジー冒険っぽくなってきた!」
こうして僕たちは勇者たちの装備をかっぱらうべく、次の目的地へ向かうこととなった。




