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第22話「最後に『なにか髪に付けますか?』と言われても、かたくなに『なにも付けなくて大丈夫です』と断ってしまう。そんな性格③」

 いつの間にか、少し離れた木陰でマクラが座り込んで居眠りをしていた。おい、マジかよ。さっきまでのやり取りの中、寝られるっていうのか? マイペース過ぎるだろ。


「さて。ステータスの説明もしたし、早速旅に出るわけだが。ここでお前たちに目的地の説明をする」

「おおっ。目的地ってあったのか!」

「心当たりがあると言っただろ」


 それが聞きたかった。マクラも目をこすりながらこちらに歩み寄ってきた。どうやら真剣な話が始まると悟ったらしい。


 オールエイトはメガネを指で上げると、慎重に話始めた。


「まず、前提を話す。この世界には勇者と呼ばれる選ばれし血筋をもった人間族がいる」

「なんだ。ちゃんとゲームしてるじゃないか」

「勇者というのはお前たちの世界での言葉で言っただけだ。こちらの世界ではムチュムチュというんだ」

「マジで!?」

「マジだ」


 すると、マクラが再び木陰に向かって歩き出した。それを見た僕はすぐに理解した。


「嘘ついたな!」

「ちっ。街に行った時に恥をかかせようと思ったのに。本当はヤシーユと言う」


 今度はマクラが木陰から戻ってきた。どうやら本当の事らしい。


「ヤシーユって勇者を反対に言っただけじゃないか」

「お前の世界にだって日本語で道路が英語でロードなんだろ。偶然の一致だ。だから仮に異世界の人間なのにお前たちの世界の諺を使ったりするのも偶然だ」

「怖っ! 偶然の一致、怖っ!」


 僕が怖がっていると、マクラが間に入ってくる。


「お前たちが話しているとまったく話が続かんわ。私が少しだけ説明してやる。この世界には人間族と魔族と少数民族が住んでおる」

「世界樹って本当にあったんだ」


「ああ。それがあるお陰で人間どもは生活できて、我ら魔族は徐々に押し込められておる。大雑把に言えば、世界樹を糧にして世界を広げる人間族、魔王城を中心に暮らしておる魔族、そして辺境などに住んでおる少数民族だな。最大派閥である人間族と魔族は何度も大きな大戦を繰り返してきた。魔族はその度に何度も滅亡の危機にさらされた。だがそこで堪えられたのは、魔王がいたからじゃ。魔王の特別な力が、人間族の武器を通さなかったのじゃ」


 なるほど。僕のハサミが壊れたのもその力が働いたってことだ。


「そこでじゃ。世界樹の奴がヤシーユを生み出した。魔王に通用する力を有した人間族の突然変異のことじゃ。さすがの世界樹もヤシーユを増やすことはできなかったらしい。今でもヤシーユの力を有しているのは一世代に一人だけじゃ。しかし、その存在のお陰で、我ら魔族が本格的な危機に陥ったのじゃ。先の大戦など、魔王が一度討たれた」


「魔王倒されたの? でも、魔王城は存続してるよ?」

「息子がいたからのう。なんとか魔王城ごと移動して難を逃れたのだ。それが先代の魔王じゃ。つまりは……我が父だな」


 まさかその後、餅を喉に詰まらせて死ぬとは思わなかっただろうなぁ。


「なるほど。つまり、その突然変異人間の子孫が今のヤシーユってわけだ」

「なぁ、シルバよ。面倒なので、もう勇者って呼んでよいか? ヤシーユは昔の言い方で、今は皆、普通に勇者と呼んでおる」

「まぎらわしい! ヤシーユのくだりいらなかったじゃん!」


「いや。それはきっとオールエイトが自慢したかったのだろう」

「自慢?」

「この世界で勇者と言う言葉を広めたのはオールドエイトだからのう」

「はぁー!?」


 マクラの言葉を聞いたオールドエイトは鼻の下をこすりながら、ちょっと口を尖らせながら言った。


「千里眼で覗いたお前らの世界で頂いちゃいました♪」

「お前、引きこもってなにやってんだよ!」

「ひひひひ、ひきこもってないわい! ちょっと部屋に長居しただけじゃい!」


 異世界に来たばかりだからか、やっぱり勇者という言葉にピンときていない自分がいた。自分が勇者とか言われて恥ずかしくないのだろうかとか、考えてしまう。会うことはないだろうけど、会ったら聞いてみてもいいだろう。


「勇者がこれからの鍵になるんだ」


 オールドエイトが底意地の悪そうな笑みを浮かべて僕を見た。嫌な予感がする。無茶言う時の顔だ!


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