第20話「最後に『なにか髪に付けますか?』と言われても、かたくなに『なにも付けなくて大丈夫です』と断ってしまう。そんな性格①」
旅をするメンバーが三人になったところで、いよいよ本格的な旅が始まることになった。
本当に魔王の髪をカットすることが出来るのだろうか。オールドエイトが言う心当たりがあるとは一体なんなのか。
僕がオールドエイトを見ると、それらの疑問に応えるように話し始めた。
「さてと。冒険に出る前にお前に知らせておくことがある。それはステータス画面についてだ。まずは目をつむって欲しい」
僕は言われたとおりに目をつむった。
すると目を閉じて真っ暗だった視界に文字と数字が浮かび上がってきた。
「なんじゃこりゃ!」
「お前は刑事でもなければ出血もしてないだろ。それはお前の現在の実力が表示されているステータス画面になる。この世界ではどうしてか自分の実力が数値化して見ることが出来るのだ」
「なにこの世界、実はゲームなの? 頭のネジが飛んでいるエンジニアが作ったオンラインゲームの世界なの? ホントに死ぬオンラインゲーム。できれば、嫁になるような剣速が速い女の子戦士を希望するんだが」
「お前は何を言っているんだ。そもそもお前は二刀流も使わないし、戦士でもないだろ。自分の職業欄を見ろ」
僕は脳裏に浮かんでいる文字を読んでみた。職業は『理容師』と表示されていた。よかった。『まおうのてさき』とか『ツッコミ芸人』じゃなくて本当に良かった。でも日本語なのはなぜだ?
「ちなみにお前に読めるよう文字は変わっているはずだ。そもそも今までだって普通に我らと話していたではないか。そこにまず気づけよ」
確かにそうだ。ただ、オールエイトから普通にツッコまれると腹が立つ。
「言語設定は分かった。結局この世界はゲームなの? 異世界なの? どっちなのさ。そしてステータス画面が数十年前の8ビット機みたいな表示画面なんだけど」
「それはお前の記憶から作られているから知らん。どうやらこの異世界を作った神とやらが作った仕様だから俺たちにもわからん」
でた。なんでも神様のせいにするやつ。最強になったのも特殊スキルがあるのも皆、神様のおかげ。都合よすぎるだろ。いや、待てよ。都合よすぎるってことは……
「嫌だぞ。この話のオチが、意識不明の僕が見ていた夢だなんて」
「お前の夢ならもう少し都合のいい展開になってもいいだろ。まともな女子が誰も出てきてないじゃないか」
「確かに……」
「おい! シルバ! 納得するな! 年上ロリが出てきた時点で十分に都合がいいじゃろ」
僕はマクラをじっと見る。「~じゃろ」言葉にロリっ娘。ツインテール釣り目。ぺったんこ。お約束に近い。
……だが! 僕の好みではない!
「お前、今、急に眼をカッと開いたな。どうせ私でエロい想像してたのじゃろ」
「いやしてない。してたらもっと薄目になる」
「うわ……キモいのう」
はっ。思ったより。ハッキリと言ってしまった。心の声ってスッと出てくるものだなぁ。
「うわっ、薄目。わかるわ~」
オールエイトが一人で納得している姿は無視しよう。
それにしても目をつむるとステータス画面かぁ。できれば、目の前にディスプレイのように表示してほしかったなぁ。そこで僕は、はたと思いつく。
「って、おい。オールドエイト。大変な事に気づいたぞ」
「なんだ?」
「始まって数行経つのに、オールドエイトが一切ボケてない!」
「いつも俺がボケると思うなよ。俺は裏回しもできるボケなのだ。ジンナイ的な役回りなのだ!」
「いや、ジンナイはツッコミだろ」
「いやいや、ジンナイはボケだろ」
これだけは絶対譲れねえ。ベテラン司会者がはしゃげるのも奴がツッコんでくれるからなのだ。浮気はしてても仕事はきっちりする男なのだ。
すると見かねたマクラがため息交じりに話を挟み込んだ。
「お前ら、どうでもいいから話を続けたらどうじゃ。そもそもジンナイって誰じゃ?」
するとオールドエイトが首を振りながらお手上げと言わんばかりに掌を上にした。
「マクラ。ジンナイは浮気で一世風靡した――」
「オールドエイト、お前は黙ってろ!」
話がまったく進んでない!




