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第19話「~アルっていう子が欲しかったんだけど、なんか違う……③」

 オールドエイトは唇を震わせながら、マクラに対峙する。


「マクラ、う、う、うるせえよ。今までは準備期間だったんだよ。これから俺はデカいことやるんだよ。成り上がるんだよ!」


 マクラは腕組みをして挑戦的な眼差しをオールドエイトに向けた。


「ほう……。今からロック始めるか? 借金背負うか? 自称をオールドエイトっていうか? 名前入りのタオルを販売するか?」

「ちげーよ。もっとビッグになってやるんだよ」

「完全無欠のロックンローラーって奴かのお?」

「馬鹿にするなよ、ツインテール姉ちゃん!」


 オールドエイトを身長差では負けているマクラが圧倒していた。魔王の最側近ぶっていたオールドエイトが魔王城のお荷物だって? さすがにオールドエイトが気の毒になる。


「……おい、二人とも。誰が反応できるんだよ。異世界人が大昔のツッパリロック語るんじゃねえよ」

「いや。長生きなもので……数十年って言われても、俺には半年前ぐらいに感じるんだよ」

「発言が完全に爺だな。それにビックになるって……できない奴の発言ベスト20には入りそうだな」


 ……と言ったものの。実はオールドエイトのことは笑えない。僕だって数年前までは不登校で引きこもりだったからだ。あの時の惨めさは今でも忘れない。


 言葉を失って歯ぎしりしているオールドエイトが、親と喧嘩するも正論を言われて黙ってしまう昔の自分と重なってくる。


 僕はオールドエイトの肩を掴んで引き戻し、代わりに説明した。


「マクラ、悪いが僕たちは今から魔王を魔王城から救う方法を探す旅に出るんだ。それにはオールドエイトの助けが必要だ。つまり、コイツは魔王様の任務を背負った立派な魔王軍幹部と言っていいんだよ」

「シルバ、お前……」


「今までのお前を僕は知らない。だからマクラの言う事は信じない。僕は、僕が見てきたお前を信じる。たとえニートであっても、これから僕たちは協力し合って魔王を救うんだろ?」

「シルバ、お前っていい奴だな!」


 とは言ったものの、僕が見てきたオールドエイトか……いつもふざけてて、人の話の腰をボキボキ折って、僕を殺そうとした。

 ――あれ?


「え? 僕の見てきたオールドエイトって?」

「お前が疑心暗鬼になるなよ!」


 いやいや、友達思いの良い奴だってことを見逃してた。


「ほほう。魔王を救うだと? つまり、魔王城を殺すってことじゃな?」


 マクラの瞳がギラりと光ったように見えた。口元もわずかに歪んだようにみえる。僕は少し気圧されながら答えた。


「結果的にそうなるかもな」

「ふむふむ。魔王領内の平和も怪しくなると……」


 コイツは迂闊に話過ぎたのかもしれない。もし、マクラが魔王城現状維持派だったら、確実に始末されてしまう。だって僕もオールドエイトも戦闘力ないもの!


 アゴに手を当てながら僕たちを値踏みするように見つめるマクラ。僕とオールドエイトは息をのんだ。


 冷たい風が僕たちとマクラの間を吹き抜けた。争いごとになれば少しでも逃げ出せるように僕はかかとを浮かせた。マクラは口を真一文字にして「ううぅぅ」と小さく唸った。

 僕たちの緊張が頂点に達した時、マクラは大きく口を開き、息を吸い込み声を上げた。


「私もいくのじゃー!」

「は?」

「面白そうではないか! こういうのを待っておったんじゃ。世界も破壊できないし、つまらんなぁ~と思っておったんじゃ!」


 簡単に世界を破壊されては困るけど、そんな軽い理由でいいの? 僕が不安になるほど、屈託のない笑顔でマクラが飛び跳ねている。


「いや、お前は魔王城や魔王軍の将来を――」

「そういうのめんどくさいのじゃ~! ブクロ最高~!」


 お前もそれ言うのか!

 しかし。助かったー。こいつ、アホで助かったー! 僕はほっとしてオールドエイトの顔をのぞいた。


 するとオールドエイトは目を細め、顎に手を当てて、マクラを見ながら僕に言った。


「えー、でもなぁ。どうする? シルバ、ど~うする?」

「てめぇ、空気読めや! 僕たち下手したら殺されてたかもしれないんだぞ!」


 僕の言葉にオールドエイトはキリっと表情を戻した。


「大丈夫だ。アイツはアホだから、そこまでは考えていない」


 キッパリ言ったな、コイツ。


「オールドエイトも十分アホだけどな。ニートだし」

「ににに、ニートではないわっ! だた、一日中のんびりと余生を楽しみながら隠居生活をしてるだけだ!」

「それは年取ってからしろ!」


 どうやらマクラは味方のようだ。動機はどうあれ、僕たちの戦力にはなる。だが、こんな簡単な動機だと、いつ「飽きた」とか言いかねないぞ。


 僕たちの煮え切らない態度に、飛び跳ねていたマクラがため息をついた。


「はぁ。お前たちはうるさいのう。私を入れることは損ではないじゃろ。大して戦闘力のないお前たちに比べ、私は普通の魔法使いだからのう」

「だから普通を誇るなよ」

「だまれ、下の下の非戦闘員。私を連れて行かねば魔王城に言うぞ?」

「ぐぬぬぬ……」


 僕が二の句を継げずにいると、オールドエイトがメガネを上げながら話しかける。


「ねぇ、シルバ、どうする? いれる? アタシは別に構わないんだけどぉ~」

「だからお前は黙ってろよ!」


 こうして行きがかり上、魔王の姉であるマクラも旅を共にすることになった。




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