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第17話「~アルっていう子が欲しかったんだけど、なんか違う……①」

 魔王領内って一年中雲がかかってて、日差しなんぞ照らさない荒れ果てた地だと思ってた。だけど実際は人間たちが住んでいる世界と全然変わらない延長線上にある世界だった。これも魔王城の力なのかもしれないけど。


 僕が知っている木々とは少し形が違い、刺々しい感じだけど、葉は生い茂って風にそよぐと心地いい葉擦りの音を聞かせてくれる。日差しもぽかぽかしてて気持ちがいい。昼寝なんて最適だろう。


 ……って。


「いつまで寝てるんだお前は! おい、起きろオールドエイト!」

「むにゃむにゃ……血のつながらない妹が起こしに来てくれるまで眠るから」


 むにゃむにゃって言ってる時点でほぼ起きてるだろコイツ。

 ……だったらこっちも乗ってやるよ。いつもツッコミ入れてるだけの存在だと思うなよ。


「ねぇ、オールドエイトおにいちゃん。起きて~起きてよぉ~」

「気持ち悪っ! 気持ち悪っ!」

「そこは普通に返すんかい!」


 オールドエイトは起き上がると「ふっ」と言いながら僕を流し目を使って見つめた。


「そうか。俺はお前と朝チュンを迎えてしまったのだな……」

「いや昼寝だし。俺寝てないし。朝じゃねえし」

「シルバよ。いつも俺は起きるとき、義妹か幼馴染の女の子の出現を待つのだが、一向に現れん。なぜだと思う?」


「急に話を変えたな。ツッコミどころ満載だが、そもそも義妹か幼馴染の女の子がいるのか?」

「え? いないよ。何言ってんの。夢ばかり見るなよよ」

「お前、情緒不安定か。ころころ自分の立ち位置変えるなよ!」

「すまん。寝起きだからボケが定まらないんだ」

「いや、お前はいつも情緒不安定だったわ。ボケなかったら死ぬ病気にかかってるだろ」

 またしても無駄な会話をしてしまった。これからこんな旅がずっと続くと思うと、僕は一人前の理容師になる前に一人前のツッコミになりそうな気がする。


「オールドエイト、それよりも早く出発しよう」

「そうだった。確かに早くここを立ち去る必要があるしな」

「今まで寝てたやつが言うセリフじゃねえな」


「こっちも演技とかボケ考えるとか、頭フル回転で大変だったんだよ」

「いやボケはいらなくね?」

「とにかく、早く出立しないと追い付かれてしまう」


「なんだ? 魔王城の追っ手がいるのか?」

「いや。魔王城から出たかった理由は魔王城の妨害を恐れたのが一つ、そしてもう一つ理由が……」


 話続けようとしたオールドエイトを遮るように高い声が聞こえた。


「ははははっ。そんなところにいたのかオールドエイトよ」

「くそっ、追い付かれてしまったではないか!」


 僕たちがやってきた方向を見ると、一人の少女らしき姿があった。オールドエイトや魔王みたいにヴィジュアル系のような恰好をしているので、おそらく同じ魔族なのだろう。

 女の子は勇ましく小さな体のわりに大きな歩幅で僕たちに近づいた。


「オールドエイト、珍しく外に出たかと思えば、どこへいくつもりじゃ?」

「だれ? この子」


 なかなか偉そうだな。このロリっ娘は。

 オールドエイトは口を歪ませ、口惜しそうに説明してくれた。


「シルバ、このお方は魔王の姉上様、魔苦羅マクラさまだ」

「は? 聞き間違い? 姉上様? このロリっ娘が?」

「はぁ? ロリっ娘だぁ? 人間風情が、世界のチリにしてやろうか」


 やばいコイツ、もしかして体力派の魔族か?

 すると、ロリっ娘は僕を睨んでいたけど、途中で「ん?」と言わんばかりの表情を見せた。


「さっきはチリにしてやろうかと言ったが、チリはチリでも、チリ共和国みたいに長細くしてやろうかという意味じゃ。某芸人みたいにチリチリ天然パーマにしてやるという意味ではないぞ」


 は? なんなのこの子。賢いのかアホなのかよくわからん……いや、アホだな。そしてなぜ某芸人がわかる?


「口を慎め。シルバよ。これでもマクラはそれなりの魔法使いだ」

「オールドエイトよ。お前も何気なく呼び捨てにしておるぞ」

「えー、だって面倒くさいんだもん」

「慣れなしくなるスピードが速いのじゃ、お前は!」


 突然やってきて、いきなりオールドエイトの会話に馴染んでいる。やっぱり魔王城の住人だ。それは確実だった。ロリっ娘年上キャラなのかよ。どれだけ設定被せるんだよ。


 でも、初めて女の子出てきた! これ大切!



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