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第15話「最後のページにサンキュージョーと落書きしたのは誰だ! とこやさんの本は皆のものだぞ!②

「だから色々な方法で回避する方法を探った。しかし、ことごとく失敗した。そこで、最後の賭けとしてお前をこの世界に呼び寄せた。運よく髪がカットされれば、そのまま魔王城を脱出する算段だったのだ」

「おい、それじゃあ魔王城は」

「死ぬだろうな」


 なに他人事みたいに言ってるんだよ、コイツ。魔王城が死んだら皆の理性が失われるって言ってたじゃないか。ただ、僕が呼ばれた理由も少しはわかった。

 僕の思いとは関係なくオールドエイトは話を続けた。


「しかし、髪は切れない、残された一か月を異世界転移で消費した力を取り戻すために使用しなければならず、何の対抗策も講じることが出来なくなった」

「だからあれほど魔王は謙虚で、カットできなかった時に落胆したのか」


 そりゃ自分が死ぬって確定した瞬間だもんな。落胆するだろう。僕はそんな重大な場面に気軽な気持ちで髪を切ろうとしてたのか。


 無理やり連れてこられたとはいえ、ちゃんと理由を話してくれればもっと真剣に……いや。真剣に切ってもハサミは破壊されただろう。


「俺と魔王様は幼き頃から一緒に育ってきた。長き間、共に過ごした友人でもある魔王をみすみす死なせるなんて耐えられない……くそっ、どうしたら」


 とはいえ。魔王を魔王城から助けたら、魔王領内のモンスターは理性を失ってしまう。一人の犠牲で多くの民を救う、それもまた宿命なのかもしれない。結果として僕は魔王領を救ったことになったのだ。


 オールドエイトはしばらく俯いていた。なにもできない無力な自分を責めるかのように。とはいえ、僕だって何もしてやれない。


 ……でも。こんな時、理容師のおっちゃんなら、どうしていただろう。ふと考える。僕を理容師への道に誘ってくれたおっちゃん。


 民のためだ仕方がない、と納得させようとする心にひっかかりが残る。

 すると、オールドエイトが「あーっ!」と叫んだと思ったら、僕をまっすぐ見つめた。

「やっぱり諦められん! 俺は魔王様を城から逃がす! もちろんお前にも協力してもらうぞ!」

「はぁーーーー!? 魔王領内の民はどうするんだよ!」

「そんなの知ったことか! 幼馴染が死にかけているんだぞ! 助けるのが当たり前ではないか! 後の事なんて知ったことか! 大切な人を犠牲にしてまで、しがみ付きたい生活ではないわ!」

「……おまえ、意外に友達思いだな、魔族だけど」


 オールドエイトはメガネを外して、前髪をかき上げて上を向いて叫んだ。


「あー、もう民とかそんなの、めんどくせえんだよ!」

「お前、そのうち『ブクロ最高!』とか言い出さないよな」

「魔王城にキングなんて要らねえんだよ!」

「お前、とっとと魔王城に帰って焼きそばにマヨネーズかけて食べてろよ」


 すっかり脱線してしまった。

 とはいえ、オールドエイトは、さっきまでの僕のように吹っ切れたような表情をしていた。


「改めて言う。お前に魔王の髪を切って欲しい。魔王城との繋がりを絶って、魔王を、友を逃がしてほしい」


 僕の肩を両手で掴む。顔が近い。メガネは興奮しているせいか少し曇っていてちょっと面白い。だが、その奥の瞳はやけに澄んでいるように見えた。魔族だけど。


 僕はため息交じりに答える。


「無茶苦茶だな、お前。だけど青春だな、なんか。魔族だけど」


「実際、お前にだって関係するぞ。このまま魔王城へ魔王様が取り込まれてしまうと、お前は帰れなくなるぞ」

「なんで?」


「さっきは説明しなかったが、異世界に戻るためには正しい場所や時間の座標軸を知らなくてはならない。じゃないと、お前たちの世界に戻れても、数百年後の世界とか、アマゾンの奥地だったとか、そんな恐ろしい事故が起きる。先代の四天王ある竜宮さまの城に迷い込んだ異世界人の教訓は、お前の世界に残されているだろ」


「まさか、浦島太郎にそんな秘密が! 竜宮城って異世界だったの?」

「トップシークレットだ。内緒だぞ。つまりだ。お前が今まで通りの生活の続きを継続するには、元の世界へ戻るための正しい座標軸を知っている召喚した張本人、魔王様の力を借りるほかない」

「おおっ、なんか後付けっぽいが、もっともらしい話だ」


「魔王様を魔王城から逃がした後、逃げ延びた場所でお前を異世界に帰してやる。約束しよう。これは魔王様がお前と交わした約束でもある。そのためには俺も協力を惜しまない。どうだ? 協力してはもらえないだろうか?」


 オールドエイトの少し強張った表情は、僕にも真剣だと言うことが伝わった。



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