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第14話「最後のページにサンキュージョーと落書きしたのは誰だ! とこやさんの本は皆のものだぞ!①」

 なんとも思わず魔王城にいたけど、あれ自体が生き物で、魔王の魔力を糧に生命維持しているとは驚きだった。


 僕の驚きとは関係なくオールドエイトは説明を加えていく。


「魔王様は魔王城になっていく。取り込まれていくんだ。だから魔王城は魔王の外出を許さない。魔王領内のモンスターたちの生活と引き換えに、魔王様を拘束しているのだ」


 信じがたい話だが、最強を誇る魔王が実は拘束された囚われの姫だったってことか。(少し違う気がするけど)魔王って職業もなかなか大変なのだな。


 しかし、それにしても疑問がある。魔王城の事情と、理容師になんの関係があるかということだ。


「実は通常ならば、先代の魔王が死を迎える時、自動的に魔王の体は魔王城に取り込まれる。強大な魔力を有した先代の残留魔力を元に数百年、魔王城は安定するはずだった。しかし、先代の魔王は不慮の死を遂げてな」


「まさか、勇者が魔王を殺して……」

「いや、違うけど」

「違うんかい!」

「餅をのどに詰まらせて、そのまま……」

「餅にのど! じゃなかった、のどに餅! 餅、怖っ! ってか、餅、最強の武器じゃね? 確かに僕も正月は気を付けて食べるもんなぁ」


 いや、それよりも餅が魔王城にあることに疑問を持てよ、僕!

 オールドエイトは眉間に指をあてて、顔を何度か振りながら話を続けた。


「餅を詰まらせた時に病院に運ばれたせいで、先代の魔王は城から出て行ってしまった。さらに運の悪いことに魔王城へ取り込まれることなくうっかり火葬されて……」

「不備っ! めっちゃ、うっかり!」


 ポンコツばかりの魔王軍! 本気で世界征服するつもりあるの? オールドエイトも僕の表情を見て、何を言いたかったのか悟ったようで、曖昧に笑みを浮かべた。

 まぁ、そんな表情するしかないよな!


「このままでは魔王城の魔力が枯渇し、魔王城が死ぬ。すると魔王領内のモンスターが理性を失い暴れだす。とても恐ろしい事態になってしまうんだ」

「いや、魔王軍とすればそれが正しくね?」


 するとオールドエイトは「信じられへん!」と言いたげに驚いた表情を見せた。


「はぁ!? お前たちの魔王観を押し付けんじゃねえよ! 我らはそんな野蛮人じゃねえ! 多様性って知らないのか! ポリティカル・コレクトネス知らないのか? PCだよ! PC!」

「異世界人がPC語ってんじゃねえよ!」


「良いものは取り入れるでいいんじゃね? 異世界のルールを取り入れるなって法律でもあるんですかー? あるとしたらいつ決まったの? はぁ? 何年何月何日? 地球が何回回った日?」

「めんどくせー、こいつ、めっちゃめんどくせえ!」


 なにこの無駄なやり取り。真剣に殺されるとか悩んでた自分が馬鹿みたいだった。とはいえ、オールドエイトからすれば真剣な話なのかもしれないが。


 オールドエイトも指でメガネを上げながら、咳ばらいをして場を整えようとした。


「すまん。つい、ボケたくなるんだ……話を戻そう。魔王城だって座して死を待つことはしない。死んでしまった魔王がいないなら、現在の魔王がいる。と魔王城は考えた」


 なんだと。僕はとても重要なことが気になった。深刻な表情を浮かべて僕はオールドエイトに話しかけた。


「おい」

「なんだ」

「魔王城が座して死を待ってなんだ。魔王城がどうやって座るんだよ」

「お前、いちいち細かいんだよ! 比喩だよ比喩! 俺にツッコませるな!」


 オールエイトはメガネを外して取り出したハンカチのような布でメガネを拭きだした。どうやら落ち着きたかったらしい。


「このままでは魔王様が若くして魔王城に取り込まれることになる。魔王様だって馬鹿じゃない。魔王城に抵抗して吸収されるのを抑えていたが、すでに魔王様は髪を床につけることで魔王城と一部同化させて、魔力を魔王城から強制的に吸い取られている。このままでは一カ月後には魔王様は生きて魔王城に取り込まれるだろう」


 あの穏やかだった魔王が魔王城に取り込まれる。穏やかなのは、すでに取り込まれることを悟って諦めていたのかもしれない。


「我らは悩んだ。五天王含めた幹部で何度も解決について話し合った。しかし、魔王城を維持させる方法を他には思いつかなかった」

「魔王を犠牲にして自分たちの保身を図るってことだな」


「なんと言ってくれても構わん。魔王軍は総勢百万の軍勢なのだ。百万の命と魔王一人の命だ。比べれば一目瞭然だろ」

「……まさか、中途半端な話し方をする生命体に異世界で変なミッション与えられたりしないよな?」

「『百万の命』に引っ張られすぎだろお前は!


 舌打ちしたオールドエイトは「俺だってそのタイトル思い出したわ」と言いながら、綺麗に拭いたメガネをつけた。いや、お前が思い出したらダメだろ。


「先代に代わりに現在の魔王が犠牲となって魔王領内の安定を図る。魔王城と我々との約束だったのだ。……とはいえ、我々も簡単には諦められない。魔王城にいながら、なんとか極秘で別の解決方法を模索しているのだ。魔王は、まだたった三百年しか生きてないんだぞ」

「三百年! いや、十分生きただろ」

「ふざけるな! 魔族の平均寿命は七百から八百歳だ!」


 平均寿命って。統計取ったのかよ。いかん。コイツのせいですっかり細かいことが気になる体質になっている。まぁ、歴代それぐらい生きたってことだろう。


「現魔王が死ぬには早すぎる。若くして魔王になったおかげで、楽しい日々をほとんど送ることなく、まだまともな恋すらしてないんだぞ! 寂しすぎるではないか」

「それは……ちょっとわかる。僕だって彼女いないし」

「だろうな。見ればわかる」

「納得するな!」


 コイツ、たまに冷静にツッコミを入れるなぁ。ムカつく。



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