第11話「本気かどうかはそいつの目を見ればわかるなんてのは嘘だよね。僕は全然わからないよ?②」
「ちっ。マジになりやがって」
オールドエイトのつぶやくような声が聞こえる。僕の伸ばした腕を横から伸ばしたオールドエイトの手が押し出す。すると、僕の体は方向を変え、オールドエイトに傷を負わせることなく、横を通り過ぎてしまった。
僕はすぐに振り向き態勢を整える。オールドエイトはすでに僕の目の前に近づいていた。焦った僕の腕を掴む。僕は振りほどこうとするけど、なかなか振りほどけない。
「忘れたのか? 俺は……千里眼の持ち主……だ。お前の……次の動きなど……お見通しだ。って、お前、力強いな! 振りほどこうとするなよ!」
「振りほどくだろ! こっちはお前に殺そうとされているんだぞ」
「――はっ。そういう設定だった!」
「俺は簡単には殺されな……は? 『設定』?」
僕の腕から手を離したオールドエイトは、飛ぶように後退し、腰に手を当てて胸を張るように向かい合った。
「ふふふ。面白いではないか。生きることに固執した散髪屋だと?」
「おい。さっきの設定について説明しろよ。あと理容師って言え」
「面白い、実に面白い! 数式書きたいぐらいに実に面白い! 我が辞書にはない男のようだ。このまま殺すには惜しいな……利用価値があるかもしれない」
「お前、何の設定守ってるんだよ。大学教授なのか? 悪の幹部なのか?」
よく見るとオールドエイトは肩で息をしている。呼吸荒っ! 体力なさすぎだろ。まさか、状況が悪くなってきたから態度変えたんじゃないよな?
僕はだんだん馬鹿らしくなってきた。
「よし、お前の生きるという気持ちに免じで猶予をやろう」
「いや、いい。このままお前を殺して僕は生き残る」
するとオールドエイトは「は?」と言わんばかりに信じられないという表情を浮かべた。
「いやいや。猶予をやろうって言ってるじゃん。生きれるよ。少しだけど」
「いいって言ってるだろ。お前を殺して、僕は生き延びるんだって」
「ででで、でも、俺を殺したら、魔王様が怒って、もう元の世界に帰れないぞ」
「別の方法を探る。お前を殺してこの世界を旅して帰る方法を探る」
僕の言葉にオールドエイトは「はぁー」と大げさにため息をついた。
「だーかーらー、分かってねえなお前、異世界に戻せるのは魔王様しかいないの! 無理なの! わかる? アンダスタ~ンド?」
「異世界人のお前がどうして英語なんだよ。しつこいな。僕が、お前を、殺して、生き残る!」
「なんで! 約束が違うじゃん!」
「約束してねえわ!」
「河原で石投げながら約束したじゃん! 『うちら最強だよね~、ずっ友だよ』って」
「古っ! 言い回し古っ! なんなんだよお前は!」
しばらく無言で僕とオールドエイトは向かい合った。僕はだんだん馬鹿らしくなってきた。なんだかコイツをめっちゃ殴りたい。
僕が拳に力を込めようとしたとき、オールドエイトは「あっ」と言って、両手を音を立てて合わせた。
瞬間、オールドエイトは突如その場に寝転んだ。何やってんだコイツ。
あっけにとられる僕をしり目に大の字になった。
「お前、なかなかやるな」
「おい……」
「お前のパンチなかなかだったぞ」
「なに河原で喧嘩してたら疲れてきて二人大の字になって笑い合って仲良し、みたいなシチュエーション醸し出してるんだよ」
「なんか、喧嘩するのがバカバカしくなってきたな」
「いや、勝手にこの争いを終結させるなよ」
「お前の強さ、本物だな。わかったよ……あの娘、幸せにしろよ」
「いい話にしようとするな。お前が僕を殺そうとしたんだぞ!」
コイツ、本気でなかったことにしようとしてるな……
っていうか、あの娘って誰だよ!




