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隻眼隻腕の魔女と少年  作者: 麻酔
第一章
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凶報の訪れ

楽しんで頂けましたら幸いです。

 カンザキはまず、ケガをしたときの応急処置といくつかの──人間でも扱える薬草のことを教えた。

「……飲み込み早ぇなぁ」

 乳鉢(にゅうばち)で薬草をすりつぶす作業をしているリンフの、その手付きを見ながらカンザキはそう呟いた。

 薬草の種類はともかく、それを調合するときの手順や動作から妙に手際の良さが(うかが)える。

「本当ですか? 料理を作ってるみたいでなんだか変な感じなんですけど」

「料理……あー、なるほどな」

 リンフが()らした心持ちに、カンザキは納得した。

 料理が得意なリンフは、どうやら食材や調理器具を扱うように、薬草と調合道具を扱っているようだ。

 カンザキはその応用力に感心しながら、リンフの作業を見守った。

「ん。だいぶ馴染(なじ)んだようだな。次はコレをワセリンに混ぜたら完成だ」

 言って、カンザキは用意しておいたワセリンの容器を手元に寄せようとして、それが軽いことに気付く。

「クロ」

 中身を確認するため容器の(ふた)を開けようとクロを呼ぶ。クロに、容器を持ってもらって蓋を開けるのだ。

 が。

 視線を感じてそちらを見ると、何故かリンフが不満そうな顔でこちらを見ていた。

「カンザキさん。おれ、それ開けます」

 そういって、リンフが乳鉢を置いて空けた手を伸ばしてくる。

 カンザキは心中で、しまった、と焦った。

 時々、こうしてカンザキが自分で……というかクロに頼って何かしようとすると、リンフが不機嫌にむくれるのだ。

「……頼む」

 カンザキはクロに渡そうとしていた容器をリンフに渡した。リンフはそれを受け取りながら少し(さび)しそうな顔になり、小声で、もっとおれを頼って下さい……、と言った。

 それを聞いてカンザキは驚いて表情が一瞬固まったが、その台詞(せりふ)でこれまでの不機嫌になった理由が分かり、顔が(ゆる)んだ。

「……なに笑ってるんですか」

「いや、なんでもねぇよ」

 手を振ってカンザキは誤魔化した。

「中身、どれくらいだ?」

「えっと」

 リンフが容器の蓋を開ける。

 二人で容器の中を見ると。

「……目測二十グラムくらいか」

「足りますか?」

「今回は足りるが、次の調合の分が無ぇな」

 んー、とカンザキは軽く(うな)る。

 今、作っている薬はカンザキの腹と背中の傷に塗るための薬だ。傷口とその周りに一日二回塗布(とふ)するため、割と消費する。作り置きしても良いが、鮮度が落ちるのと衛生面の関係で少量ずつの調合にしていた。

「あぁ、でもそろそろアイツが来る頃か」

 思い出してカンザキは呟く。

 月に一度、食材や日用品などの買い出しを頼んでいる魔女がいるのだ。

 その魔女がそろそろ来る頃なのである。

「まぁ、間に合わなければ湿布(シップ)にすればいいか」

 カンザキはそういって、リンフに調合の続きを促した。

 そうしてリンフがワセリンと薬草を練り混ぜるのを見ていると、知っている来訪者を感知した。

「お、マジか。噂をすればなんとやら、だな」

 言って、カンザキは窓から外を見た。

 すると、森から見慣れた人影が出てくるところだった。

「リンフ、悪いが、ちょっと待ってろ」

 そう言い置いてカンザキは部屋を出た。

 それから一旦、自室へ行って来訪者へ渡す物を取ってから家を出た。

 人影は森の(きわ)に立ち、カンザキが来るのを待っていた。

「よう、悪い、待たせたな」

「んふふ、大丈夫よぉ」

 駆け寄ると、人影──知り合いの魔女・フジノはにっこりと笑ってそう言った。

「んじゃ、これ先に渡すわ」

 言って、カンザキは自室から持ってきた物を渡した。

「ありがとう。それじゃこれ、今回の分ねぇ」

 フジノは言って、手に持っていたバスケットをカンザキに渡す。

「あぁ、ありがとう。いつも助かる」

 受け取ってカンザキは礼を言う。

「やぁねぇ、お互い様じゃなぁい」

「ふは、それもそうか」

 二人は笑い合う。

「……あら? あれって、お弟子ちゃんかしらぁ?」

 フジノの視線がカンザキの背後に向けられたので、半身だけで振り返ると、リンフがこちらに走ってくるところだった。

「待ってろって言ったんだけどな」

 小さい溜息と共にカンザキが小言を落とす。

 リンフはカンザキの側まで来ると、その空っぽの左袖を(つか)んだ。

 その顔には不安の色がある。

 それを見てカンザキは再び溜息をついた。

「お弟子ちゃん、こんにちわぁ」

 フジノが少し(かが)んでリンフに挨拶(あいさつ)をする。

 リンフは緊張した面持ちになり、カンザキの後ろへ隠れた。

「……おい、リンフ。挨拶くらいしねぇか」

 カンザキが(たしな)めると、リンフはおずおずと顔だけ出して「こんにちわ」と小さな声で言った。

「すまんな、フジノ。気を悪くしないでくれ」

「うふふ、気にしないわよぉ、むしろお弟子ちゃんの顔を見られただけでもラッキーだわぁ」

 嬉しそうに笑って、リンフを見つめるフジノ。

「それにしても珍しいわねぇ、お弟子ちゃんが外に出てくるなんてぇ。なんだかカンザキにひっつき虫じゃなぁい」

「ん、まぁ、ちょっと……な」

 言葉を(にご)してカンザキはリンフを見た。

 あの日──カンザキが撃たれて倒れた日──から、倒れてた(寝てた)日を含めて一週間が経ち、カンザキの傷も()えつつあるのだが──しかしそれ以来。

 リンフはカンザキから離れなくなったのだ──それも異常な程に。

 カンザキの姿が一瞬でも見えなくなると家中を探し回り始めるのだ。

 (きわ)めつけは夜。一緒に寝たいと言い出したので、ここ連日は一緒に寝ている。

「ちょっとって何よぉ、気になるじゃなぁい」

「いや、話すほどのことじゃねぇから」

「バカねぇ、そう言われると余計に気になるじゃ無いのよぉ」

 食い下がるフジノに、カンザキは少し躊躇(ためら)った後、先日の事を話した。

 フジノは話を聞き終えると、……それってアンタじゃなきゃ死んでる話ねぇ、とやや斜め方向の反応をしてから、お弟子ちゃんがこうなった理由は分かったわぁ、と納得したように言った。

「でも、その話を聞いた後じゃちょっとお弟子ちゃんの前で言いにくくなるわねぇ」

 悩ましく(まゆ)をハの字にしてフジノが呟くように言う。

「なんだ、そっちも何かあったのか?」

「何か、どころじゃないわよぉ」

 フジノは(ほお)に手を当てて溜息をついて、リンフを見た。

 そこにある意図を読み取り、カンザキはクロを呼んだ。

「クロ。ちょっと帽子(ぼうし)になってくれるか」

 カンザキが言うと、クロは蝙蝠(こうもり)から帽子へと姿形を変えてカンザキの手に落ちた。それを流れるような動作でリンフに(かぶ)せる。

「わっ」

 カンザキは耳まで隠れるように──耳を(ふさ)ぐように深く被せた。

「ちょ、カンザキさん!?」

「悪いがしばらくそうしてろ」

 脱ごうとしてクロ(帽子)を引っ張るリンフだが、クロはぴったりとひっついて離れない。

「クロちゃんは便利ねぇ」

「まぁな。で、話、聞かせてくれるか」

 フジノに向き直るとカンザキは話を(うなが)した。

「……とてもよくない情報なんだけどぉ」

 そう前置きしてフジノは話し始めた。

 頼まれた買い物をするために今日、とあるコロニーに行ったらそこでこんな話が噂されていたというのだ。

 ──『魔女狩り』が行われたんだって。

 そう、コロニーの住人が立ち話をしているのをフジノは耳で拾ったのだという。

「この時代で時代遅れにも程があるだろ。何年前の言葉使ってんだ」

「ちょっとカンザキぃ、私の話ちゃんと聞いてたのぉ?」

 カンザキが少しズレた反応をするとフジノは頬を膨らませてカンザキを軽く睨んだ。

「あぁ、悪い悪い、ちゃんと聞いてたさ。……となると、アタシを襲ってきた奴らは『魔女狩り』だった可能性があるな」

 話を戻すようにカンザキが言うと、フジノは頷いた。

「今度の集会でこのことを話そうと思うんだけどぉ、どぉお?」

「そうだな、その方がいいだろうな。よろしく頼む」

「頼むって……カンザキは来ないのぉ?」

「あぁ。リンフがいるからしばらくは行けねぇわ」

 カンザキはリンフの頭からクロ(帽子)を外しながら答える。

「……ヴァイスのやつが気落ちするのが目に見えるわぁ」

 楽しそうに、んふふふふ、と笑ってフジノは呟く。

「? なんだって?」

「うふふ、なんでもなぁい」

 首を(かし)げるカンザキにフジノは笑って誤魔化した。

「カンザキさんっ、何するんですか!」

 クロから解放されたリンフがカンザキに叫ぶ。

 そんなリンフを適当にあしらいながらカンザキは、帰るというフジノを見送った。

読んで下さいましてありがとうございます。


次回更新は6月17日(水)15:00になります。

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