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隻眼隻腕の魔女と少年  作者: 麻酔
第一章
6/43

《幕間・少年と魔女》

タイトル通り《幕間》です。

リンフ側の視点(思点?)になります。


読み飛ばしても構わない部分です←

 とりあえずこれ食べろ、と言って渡された、(かご)に入ったパンを見て、リンフのお腹が思い出したかのように盛大にぐうぅ、と鳴った。

「……やっぱり腹減ってるよな」

 苦笑いと共にカンザキがそう言った。

「倒れる前に食べてくれ」

 少し困ったような顔でカンザキが言うので、リンフは受け取ったパンを持ってキッチンのテーブルについた。カンザキが見えるようにして椅子に座る。リンフがキッチンからカンザキを見ると、カンザキと目が合った。カンザキは安心したように少し微笑んでから、ソファーとローテーブルの間に座った。カンザキの姿がソファーで隠れて見えなくなる。

 リンフはぎくりとしてカンザキの姿を求めて駆け寄ると、ぱちん、と指を鳴らす音がした。ソファーを背に座ったカンザキが魔法で何か──小さな容器──を出したところだった。カンザキはそれをローテーブルに置くとリンフに気付いてこちらを見た。

「ん、どうした?」

「それ……薬ですか?」

「あぁ。まぁ、一応、塗っとこうと思ってな」

「お、おれっ、背中の方ぬります!」

 リンフはカンザキの傍まで迫り、ひざまづいた。

 その勢いに気圧されてか、カンザキがやや身を引いた。

「いや、お前は食べるのが先だ」

 宥めるようにカンザキはリンフの肩に手を置いた。

 だが、リンフは首を振って否の意を示した。

「おれに、させてください……っ」

 リンフは膝の上で拳を握った。

 カンザキは黙って数秒リンフを見た後、ふと表情を(ゆる)めた。

「それじゃあ、頼む」

 言って、カンザキは塗り薬の入った容器をリンフに渡すと、身体の向きを変えてリンフに背中を向けた。それから、着ている浴衣をはだけて傷口を(あらわ)にした。

「う……」

 リンフはその傷口を見て、容器を開けようとしていた手を止める。

 まだうっすらと血の(にじ)(えぐ)れた傷口に、リンフは顔を(ゆが)めた。

「……無理しなくていいぞ」

 カンザキがリンフの事を気遣ってそんな言葉をかける。

 その言葉を聞いてリンフは意を決して、カンザキに返事をしないまま、塗り薬の容器を開けた。

「わぁ……っ」

 容器の中身──塗り薬を見て、リンフは感嘆の声を上げた。

 塗り薬はまるで宝石のように──エメラルドグリーンに透けて光の粒を内包していた。

「キレイな薬……」

「ははっ、そりゃありがとさん」

 笑って、カンザキが言う。

「え?」

「ん? いや、それアタシが作ったもんだから」

 魔女が薬を作れるのは当然だろ──とカンザキは更に笑った。

「驚くのもいいけど、早速塗ってくれないか?」

 苦笑するカンザキに促されてリンフは我に返り、指先で薬をすくい取った。

「べたべた塗って構わないからな」

 カンザキがそう言うのでリンフは、傷口に指先が強く触れないようにそぅっと、傷口を擦らないよう気をつけながらゆっくり薬を塗りつけていく。そうして傷を見ているうちに見慣れてきて、リンフの頭に一つの疑問が浮かんだ。

 家の扉の隙間からカンザキの姿を探そうとして外の様子を窺うと、カンザキが一斉掃射(いっせいそうしゃ)を受ける瞬間を見てしまった。驚いてリンフが飛び出すと、カンザキは一瞬でリンフの所まで来た。だいぶ距離があったはずなのに、それを一気に詰めた。あんなことが出来るなら、あの一斉掃射でも避けることが出来たんじゃないか──と。

 大怪我をせずに済んだのでは無いかとリンフは思った。

 なのに何故。

「なんで……避けなかったんですか?」

 三つ目の傷口に指をかけたところで、リンフは疑問をカンザキに投げた。カンザキは質問の意図を察したようで、

「唐突だな。なんでって、まぁ……面倒臭かったから」

 と、けろりと軽くカンザキは答えた。

「は?」

 意外な理由にリンフは薬を塗る手を止める。

「め、面倒臭い……から?」

 驚きすぎて鸚鵡(おうむ)返しになる。

「ん。避けて逃げて走り回るとな、木に当たったりビルに当たったりして大変なんだぜ? 跳弾っていってどこに弾が行くか分からなくなるときもあるしな」

 だから面倒臭いんだよ避けると──とカンザキは言った。

「で、でもこんな大怪我するよりは……」

 リンフが言うと、カンザキは小さく肩を揺らして笑う。

「こんなの大怪我じゃねぇよ。ほっときゃ治るし、これが被害少なくて楽なんだよ」

 カンザキの言った言葉に、リンフは己の顔から表情が消えるのが分かった。

 何を言っているのだろうこの人は。

 被害が少ない?

 自分自身はこんな大怪我を負っているのに?

 一体、何が楽だというのだ。

「……いたい」

 リンフの口から言葉が溢れた。

 カンザキが振り返る。

「なんだお前、やっぱりケガして──」

「ちがう」

 リンフはカンザキに言葉と共に首を横に振って否定する。

「ちがう。おれがいたいのはここです」

 甚平(じんべい)の重ね目を、薬がついているのも構わずギュッと握る。

「おれ……カンザキさんがケガするの、みたくないです……っ」

 言いながら、リンフは胸の奥に痛みを覚えて顔を歪める。

 じわり、と涙が滲み始めて視界が(かす)んだ。

 泣いてばかりの己が恥ずかしくて悔しい。

「なんだか泣かせてばかりいるな、アタシは」

 自嘲(じちょう)するようにカンザキが呟いた。

 そして、涙で霞むリンフの目の前に立てた小指を差し出した。

「約束をしようか。──これからは、怪我をしないようにする」

 そう言ったカンザキは、いつもの飄々(ひょうひょう)とした顔ではなかった。

 リンフは黙って頷いた後、カンザキの小指に己の小指を絡ませた。




 リンフは薬を塗り終えたあと、カンザキに言われて空腹をパンで満たした。

 そのあとで、二人はお互いの髪をタオルで拭いて乾かし合った。

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