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隻眼隻腕の魔女と少年  作者: 麻酔
第一章
4/43

襲来の侵入者

 三ヶ月程が()ったある日。

 二人がお昼ご飯を食べていると。

「──ん」

 小さく不機嫌な声を(こぼ)して、カンザキは口に運ぼうとしていたスプーンを止めた。

 『文明遺跡の森』に(ほどこ)してある魔法──感知魔法が、侵入者の存在を(とら)えたからだ。

「五……いや、七……十……。…………全部で十三人か」

 森の中──蜘蛛の糸のように()(めぐ)らせてある感知魔法がその数を伝えてくる。

 ちょっと様子を見てみるか、とカンザキはスプーンを皿に戻してスープをぐるぐると()き回した。

 侵入者は入ってすぐに二手に分かれた。その一つは何かを探すように散開(さんかい)して森の中を進んでいく。

 もう一つはというと。

 こちらも散開したが──少し進んだところで、打ち合わせをしていたかのように再び集合した。

「あ?」

 怪訝(けげん)な顔をしてカンザキはスープを掻き混ぜていた動きを止める。

 再集合した方の侵入者は、まっすぐにこちらへ向かっていた。

「…………」

 カンザキはスプーンから手を離した。かちゃん、と硬質な音を立ててスプーンが皿の(ふち)にもたれる。

「カ……カンザキさん?」

 どうしたの? といった表情でリンフがカンザキを見る。

「ん……少し出てくる。お前は家から出るなよ」

 言って、カンザキは椅子から立ち上がる。

「え?」

 困惑するリンフを尻目にカンザキは椅子の背もたれに掛けていた羽織(はおり)を身に(まと)い、家を出た。

 侵入者は進入を止める気配がない。それどころか行進の速度を早めている。

 とりあえず出迎えてやるか、とカンザキはビルの前の開けた場所で待ち構えた。

 それから(ほど)なくして森から、武装した七人の男たちが姿を現した。

 各々(おのおの)(じゅう)火器(かき)を装備している。男たちはカンザキの姿を認めると一斉(いっせい)にその銃口(じゅうこう)をこちらに向けた。

「……話をしに来た、って訳じゃなさそうだな」

 銃口を向けられてもカンザキは動じない。余裕(よゆう)のある態度で男たちと対峙(たいじ)する。

「お前が『臙脂(えんじ)色の魔女』か」

 手前に立っている男が真っ直ぐにカンザキを見()えて言う。

「見りゃ分かんだろ」

 カンザキは挑発するように右腕を広げ上げた。

 瞬間。

 向けられていた銃口、そのすべてから一斉に火花が弾けた。

 単発音と連射音が()い交ぜになって辺りに響き渡る。

 遠くで鳥たちの羽ばたきが聞こえた。

 ──カンザキは。

「……っ、げっほ……っ、は……っ、はっ、は、……っ久し振りに……、喰らう、と、結構クる、な……」

 口から血を吐き零しながらもそう呟いたカンザキは──その身に弾という弾を受けながらもその攻撃と衝撃に耐え抜いてその場に立っていた。右手にはいつの間にかサバイバルナイフが握られている。頭だけはナイフの刀身で守ったのだ──その証拠にナイフの刀身はボロボロになっている。

「な……!」

 男たちに狼狽(ろうばい)の色が走る。

 それはそうだろう──一斉掃射(いっせいそうしゃ)のあとに立っている者を見たことがない男たちにとって、カンザキの姿はあり得ないものだったのだから。

「急に撃ってくるヤツがいるか──って、今目の前に居るか……さて、ごほっ……」

 カンザキは(のど)に残った血を吐き出しながらサバイバルナイフを投げ捨てる。そしてその空いた右手を左肩に掛け、羽織を(つか)むと思いっきり引いた。両肩から降ろされる羽織が空気に(なび)く。

 と。

 その波打つように(なび)く羽織は、カンザキの右手に吸い込まれるようにして(しわ)を寄せ収縮(しゅうしゅく)し、最後には形を変えた。

 臙脂(えんじ)色の──拳銃(ハンドガン)

 型は──SIG P229。

 それが、カンザキの手に握られた。

「……今度はアタシの番だよなァ」

 カンザキは男たちを見て、にィ、と口角を上げる。

 血に染まった歯がむき出しになり、その笑みはおぞましいものとして男たちの目に映る。

 じり、とカンザキが男たちとの距離を詰める。

 男たちに一瞬で緊張が走り、慌ただしく銃を構え直す。

 互いに互いが相手の動きを探り合い──(にら)み合う。

「カンザキさんっ!」

 突然、リンフの叫ぶ声が聞こえて、カンザキは驚きと共に弾かれるようにビル──家を振り返る。見開いた視界にリンフが扉から飛び出す姿を捉えるのと同時に耳で銃を構え直す音を捉え、カンザキは全力でリンフの前まで跳んだ。拳銃を握ったままの右腕でその頭を抱き込み、体幹(たいかん)で壁になる。

 いくつかの発砲音と同時に響く背中への衝撃。

 その一つがカンザキの肩に当たり、弾けたカンザキの血がリンフの頬に散った。

「あ……っ」

 リンフの口から言葉にならない声が漏れ、目を見開いてカンザキを見上げたまま固まる。

 カンザキは銃声が止むと間髪(かんぱつ)を入れず()(さま)男たちに臙脂(えんじ)色の銃口を向けた。

「『照準確定(ロック)』」

 カンザキが短く唱える。

 構えた拳銃、その銃口に手の平ほどの魔方陣が浮かび上がり、それは同時に三人の男たち──リンフに向けて発砲した者──の(ひたい)に同じものが浮かび上がる。

 カンザキが引き金を引く。

 銃口から魔法の弾が放たれ魔方陣に消える。

 次の瞬間には魔法の弾が三名の男の額を通過──透過(とおか)──していた。男の頭部を()り抜けた……()け抜けた魔法の弾は空中で霧散(むさん)する。

 撃たれた男三人は構えていた銃を落とし、その場に崩れるように倒れた。そして動かなくなる。

 頭に穴も空かず血も流さずに倒れた仲間を見て男たちは、恐怖と戸惑いの表情になった。

「──そいつら連れてさっさと帰れ。さもなくばてめぇら全員、その三人同様『植物状態』にしてやる」

 片方しかない眼で男たちを睨むカンザキ。

 魔女の──人ならざる者の──眼。

 気迫(きはく)──否──鬼迫(きはく)か。

 その(にら)みは片方しか無いにも拘わらず──男たちをすくみ上がらせるのに十分な鬼気(きき)を発していた。

 一拍後。

 男たちは倒れた仲間を抱え上げ──ることなく。

 各々(おのおの)己々(おのおの)命々(めいめい)に──(きびす)を返して逃げ始めた。

 逃走する足音が森に散って行き、消えていった。

「くそ野郎どもが……。ゴミ置いてくんじゃねぇよ……」

 低い声で吐き捨てるようにカンザキは言う。

「あ……か……っ、かんっ、ざき、さん……」

 震える声に目を落とすと、不安な色の目をしたリンフがカンザキを見上げていた。

 言いつけを守らず家から出てきたことを怒ろうと思ったが、声以上にその小さな身体が震えていたのでやめた。怒りは溜息(ためいき)と共に吐き出して捨ててしまう。

「……大丈夫か?」

 言って、カンザキはリンフの頭に手を置こうとしたが、己がまだ銃を握ったままなのに気付いて、銃を元の羽織に戻し、腕に掛けてから改めてリンフの頭に手を伸ばす。ぽん、と軽く手を置くと、リンフは急に涙をこぼし始めた。

「おっ、ちょっ、どうした!? どっか痛いのか? って、お前顔に血が」

 頬に触れよう手を伸ばすと、リンフはカンザキの手が触れるよりも早く──抱きついた。

 抱きつかれた勢いが傷に響いてカンザキは、うっ、と小さく呻く。

 抱きついてきた小さな身体はまだ震えていた。

「……なさい」

「ん?」

「ごめんなさい……っ、カンザキさんっ、ごめんなさい……っ」

 リンフが謝りながら泣きじゃくり始める。

 カンザキはその震える身体にそっと触れた。

「……怪我してねぇか」

 リンフは小さく頷く。

「……どこも痛くねぇか」

 リンフは小さく二回頷く。

「それならいい」

 カンザキはゆっくりとリンフの背中をとんとん、と叩いた。

「クロ」

 リンフの周りで所在なく飛んでいたクロが、呼ばれてぴぃと返事をする。

「あれの片付け頼む」

 (あご)で後方をしゃくって指示する。

 あれとはいわずもがな、魔法の弾によって脳神経を撃ち貫かれ『植物状態』になった男たちのことだ。

 ぴぴっ、と了解の意を示すとクロは男たちの方へ飛んでいった。

「……リンフ、とりあえず家ン中入ろうぜ」

 泣き虫が落ち着きつつあるリンフの身体の向きを変え──後方であれこれと処理しているクロを見せるわけにはいかない為──背中を押して先に家の中へ入らせる。リンフは涙をぬぐいながら押されるままに家に入った。カンザキも続けて入ったところで。

「お」

 視界が(かす)んで目眩(めまい)がした。

 身体の力が抜けて身体がふらつく。

 カンザキは膝をつく間もなく床に倒れ込んだ。視界に、リンフの驚いた表情が映る。

「あー……やっべぇ……」

 続けて眠気が襲ってくる。

 リンフがカンザキを呼んで叫ぶが聞こえるが、この眠気には抗えない。

 このまま寝ちまったら死んだと勘違いされるかもなぁ──などと思いながらカンザキは、抵抗しようにも抵抗できない強い眠り気に意識を沈めた。

 読んで下さいましてありがとうございます。

 次回の更新は6月3日(水)15:00になります。

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