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隻眼隻腕の魔女と少年  作者: 麻酔
第四章
33/44

少年の焦燥

お、遅くなりました……(;´д`)

楽しんでいただければ幸いです……

 家に着いたらすぐに始めるぞ──とカンザキは言っていたものの、その為(魔法の勉強)に必要なもの(書物や道具)を引っ張り出している内に日が暮れてしまい──結局、その日の内に始めることは出来なかった。

 一日でも早く魔法を使えるようになりたいリンフにとって、その日の夜はもどかしい気持ちでの就寝となった。

 そうして翌日。

 朝のルーチンを全て終えてからではあったが、ようやくと教えてもらえることになり、リンフは心が沸き立つのを抑えきれぬままその時間を迎えた。

 ……のではあるが。

 リンフはここから更に焦らされることになるのだった。

 というのも。

 カンザキは手始めに、と、座学の準備を始めたのである。

 リンフはリビングのテーブルに広げられた分野の違う七冊の書物を見て、不満に眉根を寄せた。そうしてその中に、昨日引っ張り出してきた古いそれらとは違う、明らかに年代の新しい書物を見つけて更に眉間の皺を深くする。その書物は以前、カンザキが「年齢相応の必修科目はやっとかねーとな」と言って読ませてくれた科学の本だった。

「カンザキさん……」

 リンフはテンションの下がった声と共に視線で、カンザキにこれはどういうことなのかと説明を求める。カンザキはそんなリンフの視線を受けて苦笑し、「あー、まぁ、そうなるよな」と言って、リンフの対面に座った。カンザキもこの本をリンフに読ませたことを覚えていたらしい。

「これから『魔法』を教えるにあたって、前に教えたことをもう一度教えることになる部分が出てくる。特に最初は基本的な知識からやっていくから、既に知っていることや分かっていることが続く。……でもな、基礎基本が大事なんだ。これから『魔法』を使う上でも──使っていく上でも必要だしな。それに──」

 声のトーンをやや落としてカンザキは続ける。

「基礎基本をしっかり頭と身体にたたき込んでおけば──……、予期せぬ事態やその身に危険が及んだとしてもその場で考えて臨機応変に対応が出来るはずだ」

 そう言ったカンザキの表情は複雑なものだった。

 カンザキのその顔を見てリンフは、この今の状況がカンザキにとって不本意であることを察した。

 リンフは己がカンザキに大事にされていること、その自負を持っている。

 カンザキとしての本心はリンフを連れて行きたくは無いのだろう。身に危険が及ぶ──戦うことになるのは必至であるその現場に、自ずから手を引いて連れて行くようなものなのだから──

 と、そこに考え至ってリンフは自分の言葉に違和感を覚える。

 違う。

 連れて行かれるんじゃない。

 連れて行ってもらうのでもない。

 俺は。

 俺は──カンザキさんについていくんだ──自分の意志で。

 そう思い直してぐっ、と拳に力を入れた。

 目の前にあるのは、その為に必要な勉強。

 先程の下らない考えを持っていた自分を殴りつけたかった。

「どうした?」

 リンフの様子が変わったことに気付いてカンザキが声を掛ける。

「……ごめんなさい」

 リンフが謝ると、カンザキは宥めるように右手をその頭へぽんと優しく乗せた。その手つきはまるでリンフの胸中を察しているかのような、とても柔らかいものだった。

「さて、始めるとするか。最初は……これだな」

 右手をリンフの頭から離すと、カンザキは机上に広げられた書物の中から『四大元素』と書かれた古い一冊だけ掴み取ってリンフの前に置き、その他を手早く(まと)めて小脇に寄せた。それからリンフの前に置いた書物を開き、最初の(ページ)を開いて見せる。そこには『序章』と大文字で書かれており、その下に一文だけ記されていた。


 ──地球には自然の『魔力』が満ち(あふ)れている。それらを感じ、その存在を受け入れてから魔法は始まる──


「ここにある一文の通り、地球には『魔力』が満ちている。『火』『水』『風』『土』……他にもいくつかあるが、それは追々やっていくとして──まずは、基本的なこの四つの存在を知ることからだな」

 言いながら、カンザキは慣れた手つきで頁をめくる。その頁には『火の章』とあった。

 その冒頭をカンザキは読み上げる。

「《自然における『火』の魔力は火山より発される。火口より放出された『火』の魔力は、溶岩やガスと共にその勢いのまま空中へ霧散し、希薄であれど地球上にいる我々の傍に常に存在している──》」



 ──一ヶ月後。

 座学が四大元素の基礎の終盤まで進んだところで、カンザキの指導は実習に入った。

 それは実践的に四大元素の魔力に触れるもので、その存在を身体と自身の『魔力』で感じ、覚えることから始まった。そうしてリンフが四大元素のそれぞれの魔力を捉え始めた頃。ものは試し、と実際に魔力を使ってみることになった。

 そうして本日。

 月明かりの下、夜闇の中にリンフとカンザキは居た。

「……さて、やってみるか」

 星空が天を飾る暗闇の中でカンザキが言う。

「手の平を上に向けて」

 リンフは深呼吸して緊張を解しながら、手の平を星空に向けて己の前に出した。

「『火』の魔力を意識しろ。その存在を感じてゆっくりと魔力をその存在に同調させるんだ」

 リンフは星明かりに浮かぶカンザキに頷いて見せてから、言われたことに集中した。

 手の平で、そこにある自然の『火』の魔力、その存在を探る。

 しばらくして──一つ、二つ、三つ……と、小さくて微かなその気配を、ぽつぽつとリンフは捉え始める。そうして感じ取った『火』の魔力に合わせるように、ゆっくりと己の魔力を同調させていく。

 魔力が火に変わるようにイメージしながら。


 ぽっ

 

 手の平の上で小さく熱と光が弾けて、火が現れた。

 小指の先くらいの、ちっちゃい火が。

「…………」

 リンフはイメージしていたものよりもちっちゃいその火に、言葉を失う。そんなリンフとは反対に、カンザキはその火に顔を近づけてをまじまじと見てから「んー」と唸った。

「もしかしたらお前、火とは相性が弱いのかもな」

 顎に指を遣りながらカンザキが言う。

「相性?」

 掌の上の火はそのままに、リンフは小首を傾げてカンザキを見る。

「んー、何つぅーのかな、こう、『魔力』の性質……気質? に合う合わないがあるっつーか……『魔力』を同調させるのに向き不向きがあるんだよな。そんで、お前の場合、お前の『魔力』と火の魔力はその相性が弱い。まぁ、全く使えないってワケでもなさそうだからまだいい方か」

 そういって火から顔を離した。

「こうなると他の属性との相性が気になるな……ふむ。今日のところはもう切り上げて、続きは明日にするか」

「えっ」

 リンフは予定外のことに驚いて声を上げる。

「は、早すぎだろ、まだ始めたばかりじゃねぇか」

 リンフは続けようとして食い下がる。

 そんなリンフを見たカンザキは、「アタシの口の悪さが移ってんな」と言ってリンフの肩に手を置いた。

「続けたいのはアタシも同じなんだが、今日は無理だ。火を見るために夜の時間を選んだが、この暗さじゃ他のものは見えねぇだろうからな」

 言われてリンフは「あ」と気付いて小さく声を漏らす。

 月明かりがあるとはいえ、朝や昼に比べたら『水』や『風』や『土』は見えにくい。

「んじゃ、家に戻るか。空いた時間で座学を少し進めるのもありだな」

 そういってカンザキが家に向かって歩き出す。リンフもその後ろに続いた。

 前を歩くカンザキの、その足下に月明かりによって出来た影を見つける。

 ──影。

 そういえば、とリンフは思い出す。

 喚起を行ったとき。

 あの時、カンザキは相性がいいとか何とか言ってはいなかったか。

「カンザキさん」

 リンフはカンザキを呼び止める。ん? と足を止めてカンザキが半身だけ振り返る。

「俺の魔力って、影と相性がいいんだよな?」

 確認するようにそう訊くと、数秒の間があって「あぁ、そうみたいだな」と淡泊な返事があった。その反応に少し怪訝に思いながらもリンフは言う。

「なら、それからやっても──」

 いいんじゃないか、という続きの言葉は、やけに鋭く聞こえた、ざりっ、という足音で遮られた。

 カンザキがそれ以降の言葉を黙殺するように前に向き直ったのだ。

 こちらに向けられた背中に、少しだけ圧を感じる。

「──お前にゃまだ早ぇよ」

 低い声でそう言って、カンザキは再び歩き出した。

 どうしたのだろうか。

 リンフは態度の変わったカンザキに焦る。

 怒らせてしまっただろうか。

 でも、なんで?

 焦りと疑問が綯い交ぜになってリンフの胸中に渦巻く。

 しかし、家に入ると、カンザキはいつもどおりだった。先程感じた圧は消えていて、紅茶とお菓子で少し休憩を取ったあと、座学の準備をし始めた。

 リンフもそれ以上は──気まずさもあって──己と影に関することには触れずに始まった座学を受けた。

 だが、リンフの中では新たな焦りが出てきていた。

 魔力には相性があって、その合う合わないで極論、魔法が使える使えないが左右される。

 ということは、だ。

 今日は『火』との相性が弱いことが分かったが、残りの三つはどうだろうか。この、四大元素の残り三つとも相性が弱い或いは合わない可能性だってある。

 だったら。

 相性が合うと分かっているものを使えるようになった方が早いのではないだろうか。

 そうだ。

 そもそも、有る時間が限られているのだ。

 限られているどころか無くなる可能性もある。

 今、この時にも二つの対立しているコロニーに動きが出るかも知れない。

 そうなればカンザキも動かなければならなくなる。けれども、現状このまま一緒に行ったところで足手まといだ。それこそ、ヴァイスが言うように何も出来ないだろう。

 どころか、そもそも。

 魔法どころか魔力も使えない今のリンフを、最悪死ぬかも知れない場所にカンザキが伴わせようとする筈が無い。

 このままでは、カンザキ一人だけで行くと言うだろう。

 リンフを安全なところに置いて。

「…………」

 じりじりと煽られる焦燥感。

 時間が無いことはカンザキも分かっているはずなのに。

 どうして手っ取り早い方法を選ばないのか。

 カンザキの声を聞きながらリンフは、膨らむ焦れったさを持て余すこととなった。

楽しんでいただけましたでしょうか……?


気になるところがあれば御一報くださいませ……

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― 新着の感想 ―
[一言] 焦りながらも、カンザキさんの指導のもとちゃんと基礎の座学をみっちり学ぶリンフ君、偉いですね! 努力が実を結ぶといいですねぇ!
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