魔女の相談
遅くなりまして申し訳ありません(;´д`)
読んでいただけましたら幸いです……
何が起こるか分からないと不安であった『喚起』も、とりあえずは無事に終わったものの──胸中に落ちてきたある懸念を拭えないままにカンザキは、リンフと共にその場を離れ、岩場で待っているヴェルデたちと合流した。
「どうやら何事も無かったようだね」
正しく刻まれた二人分の足音とその気配で察したのか、ヴェルデが開口一番に安堵の言葉を漏らす。
「あぁ、拍子抜けするくらいあっさりだった」
胸中にあるものを誤魔化すように、カンザキはさらりとした口調で言った。
「ふふふ、懸念が杞憂で終わって良かったじゃ無いか」
そう言ってヴェルデはネーロの背中から腰を上げた。
「さて、『友達』も待ちくたびれているだろうし、元に戻さなくてはね──あぁ、彼らへのお礼はどうするかな?」
ヴェルデが話を向ける。
「……それなんだが──」
カンザキは答えながら、先程までいた場所に目を向けた。
「──土壌環境の向上でどうだろうか。酸素攪拌と土質柔化」
「うん、いいんじゃないかな」
ヴェルデが頷くのを見てからカンザキは──その場でヒールのトップリフトを打ちつけた。
カッ、という高めの摩擦音と同時に、『友達』が戻るその場所に大きな魔法陣が現れて、ばすんっ、という空気が抜けるような音を立ててそこだけ色を変えた。乾いた土の色──白茶色から、水気を少し含んだような土の色─朽葉色へと一瞬で変化した。
それからヴェルデが『友達』を元の位置へ戻し──カンザキたちは山小屋へと戻った。
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「──そういえば」
と、不意にカンザキは声を上げる。
山小屋に入ってソファに落ち着き、何気なく見た窓から見えた桟橋で、思い出した。
「師匠たちはここで何を話していたんだ?」
あの時の四人の間に漂っていた妙な雰囲気がカンザキの中で引っかかっていた。ヴァイスが突然と来ていたのも気になる。
「ん、あぁ……、……うーん……、……そうだなぁ、君には話しておいた方がいいかな──……いや、話を聞いてもらった上で、相談に乗って貰おう」
そんな前置きをして、籐椅子に座ったヴェルデは話し始めた。
「対立中の、とあるコロニーが二つあってね。その抗争がそろそろ戦争にまで発展しそうで気に掛けていたんだけど──その片方のコロニーに……カンザキ、君と同じ顔の子供がいたらしいんだ」
ヴェルデの話に、カンザキとリンフの二人が同時に反応する。
「フジノがリンフ君から聞いた話に君のクローンが出てきたけれど……もしかしたら」
「それが同一人物かも知れない、と」
カンザキはヴェルデの言葉を継ぐように言った。
ヴェルデは頷いて、話を続ける。
「その確率は高いと思う。ヴァイスによるとその子供は部隊の施設に居たようだからね。ある程度の格闘術……戦闘能力はあるようだし、加えて高い自己治癒能力を持つのだろう? 見かけた施設が施設だけにその子供はきっと──使われるんじゃないかと思ってね」
ヴェルデが話す内容は、カンザキにも容易に想像できた。
それと共に、胸くその悪さを覚えた。
あの白衣の男。
やはりというかなんというか。
その方面の奴だったか。
白衣の男の顔を思い出して、カンザキはふと湧き上がった不審さに目を細めた。
なんとなく──その白衣の男の行動が、中途半端に思えたからだ。
『文明遺跡』の森に侵入した理由。あの時は、魔女であるカンザキに会うことが目的で、カンザキのクローンである少女に戦闘スキルを習得させることと少女の潜在能力の観察、加えて、こちらの事を探りに来たものだと推測していたが、思い返せばその動向の一つ一つが中途半端であったように思う。
何がしたかったんだ、あの白衣野郎は。
明確に見えてこない答えにカンザキは僅かに苛ついた。
襲われた当時に考えていた──予想していたものはきっと正しい答えでは無いのだろう。
「そこで──だが」
ヴェルデの声に、ハッとカンザキは我に返った。
「その君のクローンがいるコロニー共々──そこと対抗しているコロニーも一緒にぶっ潰そうと思うのだけれど、協力してくれるかい?」
その普段とは違う荒い物言いに、カンザキはヴェルデがその争いに対してかなり怒っていることを察した。こと、争い事を好まない──というか嫌うヴェルデだ。いつも通りのんびり穏やかにいるようで──その内では争いを起こした二つのコロニーに怒気を滾らせているようだ。
そういえば、と、カンザキはちらりと二人──ネーロと共にお茶の支度をしているフジノとヴァイスを見た。
十歳前後だった当時の二人が喧嘩をしたとき──喧嘩両成敗で二人ともヴェルデが繰り出す制裁の拳骨をくらっていたことを思い出したのだ。
喧嘩両成敗。
どちらかが悪い──という事では無く、喧嘩をしたことそれ自体が悪いことと見なして罰を処す。
ヴェルデのその考え方は、喧嘩のみならず、争い事全てに適用されるらしい。
多分、クローンの件が無くとも、ヴェルデは争っているこの二つのコロニーに対して、そうするつもりだったのだろう。その際、もしかしたらカンザキに声を掛けるつもりであったのかも知れない。
カンザキとしても、この話の流れは都合が良かった。
先程浮上したあの白衣の男の不明瞭な目的を、直接、確認しに行くことができるからだ。
曖昧模糊とした行動の理由を、事理明白にしたい。
「……勿論だ」
カンザキは短くそう答えて、ヴェルデに視線を戻した。
「ふふ、助かるよ」
そうして話が落ち着いたところで、ティーセットを持ってきたネーロがテーブルの上にそれらを並べながら不意に口を開く。
「……少年はどうする」
低い声で呟くようにネーロは言う。
どうやらお茶の支度しながらも話を聞いていたようで、カンザキがコロニーへ出向いている間のリンフのことを気に掛けたものらしい。
「そうねぇ、『魔法』についての勉強はこれからだしぃ、どうするのぉ?」
続いて、ケーキスタンド(三段式)を持ってきたフジノが加わる。
「留守番でいいんじゃないですか? 一緒に行ったところで何も出来ませんし」
取り分け皿などが乗ったトレーをテーブルに置きながらヴァイスがしれっと入って提言する。
その言い方にリンフがムッとした反応を見せる。リンフを可愛がっているフジノがそれを見て仇討ちの如く肘打ちをヴァイスの脇腹にめり込ませ、ヴァイスは「おぐふぅ」と呻いて床に沈んだ。ネーロとリンフがそれを見て黙点する。
「うーん、そうだねぇ……」
目の見えないヴェルデは聞こえているのかいないのか、はたまたいつものじゃれ合いだと聞き流しているのか、そのまま話を続ける。
「リンフ君も一緒に行ってもらおうかな」
カンザキだけで無くその場にいる全員の目がヴェルデに集まる。
「主。正気か」
ヴェルデの発言にその精神を疑うネーロ。
「ふふ、お前が私のこと以外で口出しするのは珍しいね。まぁ、別に考え無しで言っているわけでは無いよ」
宥めるように言ってから、ヴェルデは発言の意を明らかにした。
「今のところ、まだ戦争へと戦況が変わるような兆しはない。とはいえ──どちらかのコロニーが戦況を一変させるようなことをすれば……それこそ、その少女を戦場に赴けようものなら、状況は一気に変わるだろう。まだはっきりとした情報は入ってないが、どうやら相手のコロニーも最終兵器らしきものを持っているようだしね。どちらが先に動くか分からないが……私としてはどちらかが動いたときが、制裁に入るタイミングだと思っている」
そこでヴェルデは一度、言葉を切った。
カンザキはそれを聞いて、なるほど、と思った。
「つまりはそれまでは──時間があるってことか」
確実として──確固としては言えないけれど。
有るには──在る時間。
だが。
果たして──一緒に連れて行けるような実力を身につけられるだろうか。
こればかりは時間と──リンフ次第である。
否。
カンザキ次第──でもある。
教えるのはカンザキなのだから。
「──リンフ」
そう呼びかけて、カンザキは真っ直ぐにその目を見た。
「家に戻ったらすぐに始めるぞ」
「はい」
リンフはカンザキから目を逸らすこと無く、強く頷いて応えた。
「んふふ、それじゃあ、話も落ち着いたことだし、お茶にしましょぉ!」
フジノが明朗な声でその場の雰囲気を変えて、紅茶をカップに注いでいく。次いでネーロも動き、ケーキスタンドからサンドイッチ、スコーンとビスケット、ケーキ、とそれぞれに取り分け始めた。床に沈んでいたヴァイスもようやく身を起こせるまで回復したらしい。
昼下がりのティータイムは、それらしい雰囲気で過ぎていった。
読んでいただきましてありがとうございます。




