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隻眼隻腕の魔女と少年  作者: 麻酔
第三章
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少年の胸中

不安でいっぱいですが……楽しんで頂けましたら幸いです……うぅ。

 ──理由はこれだけじゃあ、無い。


 そのカンザキの言葉に、リンフは明るくしかけた表情を怪訝(けげん)(くも)らせた。

「他にも……何かあるのか?」

 残念だが、と顔で語るカンザキにリンフは憮然(ぶぜん)とした視線を送る。カンザキはそれを真っ直ぐに右眼で受け止めて頷いた。

「……寿命」

 少しの間を置いて、カンザキが口にしたその言葉はリンフの耳にやけにハッキリと聞こえた。

「寿命が……どうなるか分からないんだ」

 カンザキは、リンフから眼を()らさずに言った。

 どうなるか分からない。

 そんな物言いに、リンフは(いぶか)しみを覚えた。が、それを口にする前にカンザキが話を続けた。

「……研究データが残ってたんだ……研究機関の支部にな。その中に、“『喚起』後の生存率”という項目があった」

 それによると、『喚起』によって『魔力』を発現させた者の中には、その消耗量の大小に関わらず、死亡するケースがあったようだ。その理由もまちまちで、急に心臓が止まったり、全身の血管が破けたり、身体に無数の裂傷(れっしょう)が走ったり……とそれぞれ様々と違ったらしいが、それが老若男女、持病や既往歴(きおうれき)のない者にも現れ──死亡に至ったらしい。

「『喚起』によって『魔力』を発現させたからと言って、フジノやヴァイスのように長く生きるとは限らない。あの二人は……言葉はあれだが、そういった面でも成功例だったんだろう」

 言ってカンザキは卓上に置いた腕に、ぐ、と力を込め、その先にある右手を固く握りしめた。

「……お前の、これからの人生を奪ってしまうかも知れない。そんな事をアタシはしたくない。これ以上、お前の人生を変えたくない。──リンフ」


 『喚起』は(あきら)めろ。


 口だけで無く、重ねてカンザキは眼でもそう云ってきた。

 リンフはそんなカンザキを見て、(かたく)なに(いな)と言われたことに納得した。

 ──この人は。

 ──本当に俺のことを大事に思ってくれているんだ。

 リンフはそう、染み入るように感じた。

 以前、リンフがフジノと共にコロニーへ行き、そこで望まざる縁が合った故に騒ぎを起こしてしまった時にも同じ事を思ったことがあるが、あの時よりも深いその優しさを感じた。

 不意に、最初に出会ったときのことを思い出した。

 コロニーには戻りたくなくて不躾にも頼み込んでカンザキの家に置いてもらった。それが始まりだったけれど、カンザキはそれだけじゃなくてリンフが身の回りのことを一人前に出来るように色んな事を教えてくれた。それから時間が経つにつれ、薬の作り方や扱い方、更には武術までも教えてくれた。それはリンフがコロニーに戻ることを考えていたからということだったけれど、しかしそれらは、無病息災に生きていく上で自身で身を守れるようにと思ってのことだったのでは、と今になってリンフは気付いた。

「……カンザキさんは……俺のことばかり考えているんだな」

 リンフは真っ直ぐカンザキを見てそう言った。

 聞いたカンザキが照れ隠しの為か、顔を逸らす。

「それも、さっきヴェルデさんに怒られたこと、忘れるくらい」

 リンフが言うと、カンザキは「あ」と小さく声を零した。

「カンザキさんにも都合が……理由があるように、俺にも理由がある。『魔力』を……『魔法』を使えるようになりたい理由が」

「…………」

 カンザキが黙って居住まいを正した。

 リンフは続ける。

「この間……白衣の男たちが来たとき、俺は悔しかった」

 カンザキは、戦っている間ですらリンフの事を気にしていた。リンフに何かあれば、すぐに守れるようにと。そして実際にリンフは大事に至る前に、カンザキに守られた。

「カンザキさんの助けになろうと思っていた……が、それどころか、自分の事も守り切れなかった」

 相手がただ者じゃなかったとはいえ、自分の身を守ることすら出来なかった。

 悔しかった。

 だから。

「だから、自分の事もカンザキさんの事も守れるように『魔力』が使えるようになりたい。たとえ、寿命が短くなったとしても」

 リンフはカンザキから目を逸らさずに言った。リンフとは反対にカンザキは顔を伏せた。その様子は、何か葛藤(かっとう)しているようだった。

「カンザキさんは……寿命が短くなることを気にしてるが、フジノさんたちみたいに寿命が延びることもあるんだろ?」

「そう、だが……確信は無い」

「確信が無いのはどっちもじゃないか?」

 カンザキがゆるやかに顔を上げる。その表情は何故か怒っているように見えたが、リンフは構わず続けた。

「俺は寿命が短くなろうが長くなろうがどっちでもいい。カンザキさんの傍に居られて、カンザキさんを守れるなら」

 リンフが見つめながら言うと、カンザキはその表情から力を抜いた。

「お前……自分がいくつなのか分かってるか?」

「あと四、五年で成人する」

「未成年が命の覚悟、決めんなよ」

「後悔したくないから決めた覚悟だ」

「アタシが後悔するっつーの」

「それは俺が絶対にさせない」

「どこから来るんだその自信は」

「させない、と俺が決めたから」

「………………」

「………………」

 お互いに見合って沈黙した。

 そうして暫く見合っていたのだが、カンザキが溜息をつくことで沈黙は破れた。

「……師匠に、『魔法』の教え方、習わねぇとな……」

 言って、カンザキが立ち上がる。

 リンフはハッとして立ち上がったカンザキを見上げる。


「やるからには責任、持たねぇと、だろ」

無事(?)楽しんで頂けましたでしょうか……?


ツッコミどころを見つけましたら遠慮なくつっこんでください。

覚悟はしてます。

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― 新着の感想 ―
[一言] カンザキさんもリンフ君もかっこよすぎて目眩が……! カンザキさん、優しすぎる……ッ! ふたりとも、幸せになれッッ!!! 私は、とても楽しんで読ませていただいております(*´ω`*)
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