魔女の胸中
た、楽しんで頂けましたら幸いです……(;´д`)
──話し終えたカンザキは、その一つだけ残った右眼を一度閉じて、ふぅ、と小さく息を吐いてからゆっくりと再び瞼を開けた。
「……アタシは怖いんだ。『喚起』をして、『魔力』が使えるようになったお前が……万が一、何かの拍子に『魔力』を暴走させたら──……と考えると、な」
視線は卓上に落としたままで、カンザキは続ける。
「そんな万が一でも起こりうることを、その可能性をゼロにしたい。だから、アタシはお前に『喚起』をしないと決めたんだ」
言いながら、カンザキが顔を上げると、リンフは少し考えるような表情をしていた。
「どうした」
怪訝に思ってカンザキが声を掛けると、リンフはカンザキを見た。
「…………ちょっと、引っかかるところがあって」
「なんだ」
促すと、リンフは数秒の間を置いてから口を開いた。
「その、カンザキさんと一緒に居ると『魔力』が目覚めるってあったけど……俺がなんともないのはなんでなんだ?」
「あぁ、それは、当時のアタシはまだ自分の『魔力』をコントロール出来てなかったが、今は師匠のお陰でコントロール……『魔力』を抑えてるから、アタシの『魔力』に引っ張られることがないんだ」
『魔力』を解放したあと気絶したままでいた所を、ヴェルデに助けられた。奇跡的に生き残っていたフジノとヴァイスの二人と共に。その後、事の詳細を知ったヴェルデは三人に『魔力』の使い方を教えたのだ。そして、この『魔力』の使い方を知ることで、『喚起』もコントロール出来るようになったのではとカンザキは考えている。実際、カンザキも驚いているが、リンフが『魔力』を発現させていないことから、これは確かだろう。
「でも、このブレスレットは? カンザキさん、『魔法』でこれ作ったよな」
「そんなモンで発現するなら渡してない」
確かにブレスレットには『魔力』が付与されているし、それをリンフは肌身離さず着けている。だが、そういうものでは発現しないことは実証済だ。フジノに時々依頼されて作る薬──それを使っている人間が『魔力』を発現させたことは一度も無い。おそらく、カンザキから切り離されるとそれらにはそういう作用は無くなるのだろう。
「カンザキさんは」
そう、声を一つ置いて、リンフは続ける。
「俺が暴走するかも知れない可能性が嫌で『喚起』をしたくないっていうけど──フジノさんやあのしろ……ヴァイス、さんが暴走した事ってあるのか?」
急に別方向の質問してくるリンフに、カンザキは首を傾げながらもそれに答える。
「いや、無い。だが……これからは分からない」
今までが無いからといって、これからも無いとは限らないのだ。
「カンザキさん」
再びリンフがカンザキを呼ぶ。
「なんだ」
「もしかしたら……だけど」
「ん?」
「もしかしたら……『魔力』の使い方をちゃんと知っていれば──暴走はしないんじゃないのか?」
そのリンフの推測に、カンザキは即座に首を横に振る。
「いや、そんな簡単な話じゃあない。これはアタシが証人になってしまうんだが──『魔力』は感情一つで暴走する。あの時──白衣の男たちが来たときも、言葉一つでアタシは暴走しかけた。なら、使い方が分かっていても訓練していても、暴走するときは暴走するってことだ」
カンザキは白衣の男たちが来た時を思い出して眉根を寄せた。
あの白衣の男が口にした『魔女研究』という単語に思い起こされた記憶が呼び覚ました当時の感情。あの時、リンフが傍に居なければ──リンフを『魔力』で殺してしまうという恐怖が無ければ──カンザキはあふれるものを抑えることが出来なかっただろう。
リンフはその時のことに気付いていたのか、視線を落として少し表情を強ばらせていた。
それから暫く沈黙が続いたが、その間にリンフの表情は徐々に何かを考えるようなものになり、終いにはそこから何かに行き着いたのかハッとして顔を上げ、カンザキを見た。
「今のカンザキさんなら出来るかも……?」
リンフが口にした言葉が不可解で、カンザキは片眉を上げる。
「なにがだよ」
「暴走の抑制」
「何をどう考えたらそうなる」
「いま聞いた話を、総括的に」
「……説明してくれるか」
リンフの思考回路が分からなくて、カンザキは説明を求めた。
「今のカンザキさんは『魔力』をコントロール出来るんだろ? 数百年前とは違って、ちゃんとコントロール出来てるから、俺はずっと傍に居ても『魔力』に目覚めることがなかったし、カンザキさんも暴走しかけたけど抑えられた」
「いや、アタシが暴走しかけたときはお前が居たから抑えられたんであって、お前が居なかったらどうなってたか分からんぞ?」
「それでも、だ。それでも、抑えることが出来たのは確かだろ? 数百年前の話で『喚起』の行程が、カンザキさんの『魔力』に影響されて……引き出されて発現するってことだったけど……その『魔力』をコントロール出来る今なら、引き出すことも引き出さないことも出来る訳で、極端に考えると──押し入れることも……抑えて制することも出来るんじゃないのか?」
リンフが口にした考えに、カンザキは固まった。
確かに。
確かに──今と昔とでは違う。
数百年前、研究機関では『魔力』の発現にのみ力を入れていたのか、引き出すことをコントロールせず、発現させるだけ発現させる、といった状況だった。
もし、現状、それ自体をコントロール出来るのなら──抑制することも可能なのかもしれない。
そこでカンザキは一気に思考を巡らせる。
そもそも。
何故、己の『魔力』は人の『魔力』を引き出すことが出来るのか。
引き出す。
引っ張る。
引き寄せる。
引きずりだす。
もし。
これらの表現が当たっているのなら。
カンザキの『魔力』は、他人の『魔力』への影響を及ぼすことが出来る──つまり。
干渉することが出来るということになる。
これらを踏まえると。
リンフが言うように、暴走する『魔力』へ干渉して抑えて制することも出来るかも知れないわけだ。
「……僥倖」
言って、カンザキは脱力するように卓へ顔を伏せ、髪に指を埋めた。
これでカンザキの胸中にある懸念の一つは消えたことになる。
「カンザキさん?」
怪訝そうにリンフが声を掛ける。
カンザキは髪の中の指を滑らせながら顔を上げる。
「お前のその推測、有り得るかも知れんな」
「それじゃ……」
「いや」
期待に顔を明るくするリンフに、カンザキは卓上から体を起こしながら、残念そうに首を横に振った。
「まだ、話はある。理由は──これだけじゃあ、無い」
読んでくださってありがとうございました。
今回はちょっと文章がおかしかったかもしれません……
違和感などありましたら御一報ください……(;´д`)




