隻眼隻腕の魔女
読んで頂けるだけでもありがたいです。
──西暦が壊れるほどの時が経った未来。
……否。
正しくは……西暦が壊されてしまった後の世界。
人が誕生してこのかた、積み上げてきたものが罪に詰まって崩れた地球は、その残った骸を飲み込むように──包み込むように──緑と水と、『透明な何か』で覆われていた。
かつては人が動き回っていたビルや建物は倒れて砕けて大地に散らばり草木が絡まり、かつては人が歩き回っていたアスファルトは捲れ上がり形を残さず裂き破れて苔に覆われ、かつては人が乗り飛び回っていた鉄の飛行物は折れて割れてバラされて晒されるように水に沈んでいる。
世界は──地球は──かつての在りし日の姿になっていた。
緑の地球。
水の星。
青い球体。
人がそう表現していた姿に、名実と共に具現していた。
そんな地球の、かつては日本列島と称されていた場所に一人の『魔女』がいる。
臙脂色のワイシャツに臙脂色のスーツジャケットに臙脂色のハイヒール。
肩まである黒い髪は己で切っているのか所々毛先が跳ねて遊びに遊んでいる。
ただでさえ目を引く格好であるのだが、更に目を引く特徴がある。
隻眼隻腕。
片目片腕。
左目の上から縦に走る傷痕。
左腕の中身が無い、長い袖。
『魔女』の名は──カンザキ。
スーツの上からゆったりと、その細い両肩に臙脂色の羽織を掛けたそのスタイルは『魔女』の中でも異色の存在だった。
読んで下さいましてありがとうございます。