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058「カノコ、最高の一日になる(前)」

 そして迎えた、三十一歳の誕生日。

 夕方のバースデーパーティーの前に、少しだけ時間を巻き戻し、お昼の話をしよう。


「なごみ。びいどろ、ぎやまん」 

「もっと早く知っていたら、休みを取ったんですけど。アキコさんも、何も言ってくれなかったもので」

「そういうものなんですよ、姉妹ってものは」


 前日の朝に私の誕生日を知ったお義兄さんから、一緒にランチしませんかと提案された。和のガラスをテーマにした展覧会が開かれている真っ只中で忙しいだろうし、昼休みの時間は貴重なブレイクタイムだろうに。こういう優しさに、きっとお姉ちゃんは惹かれたんだろうな。当人は、この時間も研究室に篭って、新薬開発に没頭してることだろうけど。

 

「あっ、ここの二階です」 


 博物館の西側にある出口から一本東の京町筋へ移動し、そこから立ち並ぶ石造りの堅牢な建物を眺めつつ北へ少し上がったところに、ヴィアマーレ神戸というホテルがある。今日は、二階にあるレストラン、居留地倶楽部でランチを楽しむ。


「どれをとっもいいの?」

「良いわよ。でも、食べられる量にしてね」


 ここではランチを注文すると、もれなくビュッフェが付いてくる。数種類のパン、スープ、サラダ、パスタなどが食べ放題で、コーヒーや紅茶、ハーブティーなどの飲み物も充実している。ただ、あくまでメインプレートの副菜という扱いなので、スイーツは無い。

 夕方にパーティーがあるので、あれもこれも食べたいという誘惑に負けそうになるのをグッと我慢し、気持ち控えめにセーブした。美味しそうに食べるトウマくんを見ていたら、別の意味でおなかいっぱいになった。

 

「最後に、僕とトウマから、ちょっとしたプレゼントがあるんです。――そうだよなっ、トウマ?」

「あっ、うん。ちょっと待ってね。……はい、カノコおねえさん」

「わぁー、ありがとう。これは?」

「カノコおねえさんの、にがおえ」

「上手に描けたね~。大事にするわ」


 きかんしゃトーマスがプリントされた小さなリュックから出てきたのは、自由帳の一ページいっぱいに描かれた私の似顔絵だった。紙の裏には「かのこおねえさんありがとう」と、たどたどしい筆使いで書かれている。ところどころ文字が鏡文字になってしまっているが、感謝の気持ちは十二分に伝わる。


「僕からは、こちらを。再就職のお祝いも兼ねて、中はカードケースになっています」

「わわっ、ポールスミスだ。いいんですか?」

「はい。もっと可愛らしいものが良いかと思ったのですが、アキコさん曰く、実用的な物の方が喜ぶとのことでしたので」

「ありがとうございます。さっそく、来月から使います」


 二人の心遣いに触れて、秋からの仕事へのモチベーションが格段にアップした。単純かもしれないけれど、こういう気配り一つが有るか無いかで、やる気が上がったり下がったりするものなのだ。

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